★阿修羅♪ > 医療崩壊1 > 281.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/iryou2007s/200709/504081.html
医局崩壊、勤務医の不足、労働環境の悪化――。様々な問題を抱える日本の医療制度と医学教育。特に、ここ数年でフリーランス医師が急増している麻酔科は、日本の医療現場が抱えている問題を浮き彫りにしている。
そこで東京女子医大麻酔科主任教授の尾崎眞氏、元神戸大学麻酔科助手で今春までオーストラリアのメルボルン小児病院に勤務していた増田裕一郎氏、そして当サイトでブログ執筆中の東京女子医大麻酔科の公平順子氏に、麻酔科の視点で、現在の医療制度や医学教育の問題点について本音で語っていただいた。その内容を5回に分けて連載する。
(2007年8月17日東京都内にて収録。まとめ:佐原 加奈子=日経メディカル オンライン)
増田 私は2007年3月まで計4年間、オーストラリアに臨床留学していました。同国では、一つの医療機関に常勤医として勤務していれば、十分な収入や生活が保障されるのに、日本ではそうじゃないというのが問題だと思います。
尾崎 私も米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で働いた経験がありますが、UCSFでは医師はアルバイトなんかしていない。日本だと、どこの大学でも、教授であっても、週1回あるいは週2回、外の病院でアルバイトしないと、年齢にふさわしい収入が得られないんです。これは関東だけでなく、関西でもそうですよね?
公平 そうだと思います。
尾崎 日本では、勤務医はアルバイトで生活していると言ってもいい。戦前は知らないけど、戦後はずっとそうです。週に1回か2回、アルバイトに行くことで、なんとか世界的水準になっている。いや、それでも世界的水準にはならないな。米国でグループ・プラクティスで開業すれば、30代前半で年収30万ドル、それも週に3日か4日働くだけ。米国の大学は、チェアマン(主任教授)が給料についても裁量権を持っていて、給料の交渉をしなければいけないけど、アシスタントプロフェッサーぐらいで15万ドル以上。だから、アルバイトする必要はないんだよね。
米国では、保険会社との契約で麻酔料のフィーが決まっていて、担当した麻酔科医に支払われる仕組み。例えば大学であっても、レジデントを使って麻酔件数をこなせば、それだけ収入が増える出来高制になっている。
増田 そうそう、出来高だから、同じ職場にいながらにしてアルバイトしているようなものじゃないですか。それはうらやましいですね。
尾崎 日本は出来高ではないから、朝から夜中までどれだけやったとしても何も変わらず、“使われ損”になって、これが不満の原因になる。
医者の給料は4〜5年目から定年まで変わらない
――ちなみに、尾崎先生もまだアルバイトされているのですか?
尾崎 してますよ。週1回。
公平 本当にびっくりするんですけど、麻酔科のアルバイト代って、麻酔科歴2年であろうが20年であろうが、ほとんど変わらないんです。これも問題ですよね。医者の給料もアルバイト代を加味すると、実は4〜5年目から定年までそれほど変わらない。病院によりますけど。
尾崎 そうそう、日本はね。でも日本ぐらいでしょう。
増田 オーストラリアでは、医師は何を目指すかといえば、多くがスペシャリストを目指します。スペシャリストになれば、いい生活と責任を与えられて、プライベートも医者としても充実して生活できるからです。みんな収入のことを口に出さなかったので、はっきり金額までは分かりませんが、オーストラリアでコンサルタント(専門医)になると、テニスコートのある家に住んだり、ビーチハウスを買ったりすると聞きます。都市部の地価は日本と同じぐらい高いので、それなりの収入があるのだと思います。
それに対して日本では、スペシャリストを目指すと、厳しい生活が待っている。仕事はきつい、収入は少ない――。スペシャリストが育つ土壌が圧倒的に揃っていませんね。
公平 日本も、年数や経験症例数に応じて評価されるのであれば、不公平感が薄れると思います。あの人は資格を持っているからとか、当直や呼び出しに応じているからなどということが評価されれば、完全に納得して働けるのですが。現段階では麻酔の上手下手や経験年数、当直の頻度などに収入が比例していませんから。
実際、大学病院で毎日長時間労働しても年収1000万円も稼げないのに、例えば私の年代で、子持ちで常勤をあきらめた人が、民間病院で週5日のアルバイトをすれば確実に年収2000万円以上稼げるというのは、ちょっと変な話だと思います。
増田 えぇ〜、2000万円以上ですか。関東はすごいですね。関西はそこまでは…。
超過勤務が前提の給与保障はおかしい
増田 実は僕は、オーストラリアから帰ってきて、ある県立病院に就職しようと考えていたのですが、踏みとどまりました。提示された月給は80万〜90万円なのですが、それには超過勤務手当ても含まれていたんです。
交渉の余地があるかと思って、労働条件を院長先生とお話しした際、院長先生は僕たちの給与などを把握されておられませんでした。医者のトップであるべき人が、僕の年齢で働いたらどれぐらいの給料になるのか、把握されていなかったんです。で、事務の方が、僕と同じ45歳ぐらいの先生の明細を持ってきた。すると基本給(額面)が45万円で、それに同額近い超過勤務料が付いて、合計で90万円ぐらいだったんです。医者の給料が超過勤務を前提に考えられているというのが、悲しいですね。
オーストラリアでは、仕事を見付けたら、給料や勤務時間や休日などの労働条件の交渉が可能ですが、日本では、病院と給料の交渉をするってことは、まずあり得ないですよね。特に公立病院では。
今、公立病院で働いている医師を守らなければ
増田 医療の質を下げないためには、公立病院を守り抜かないといけない。そのためには、少なくとも、今、公立病院で働いている医師を守らなければ。彼らが辞めてやめてしまったら、機能しなくなる。それに、今まで医療者側が発信してこなかったから、一般の人は病院で起こっていることとか、医者の給与体系とか、知り得ない。世界的に見れば、医師がストライキして労働環境を変えていった国もありますよね。
尾崎 日本の医者って、ストできないんだっけ?
増田 公立病院の医者は基本労働三権がないと理解しています。ベースの賃金を上げることもできないし、行動も交渉も認められていない。結局は、“お慈悲”のような形で、医者が足りなくなったら給料が上がるというのを待つだけ。しかも、上がるのは基本給ではなくて、超過勤務料なんです。だから労働組合がなく行動できない分、余計にその職場を辞めざるを得ない。自分の環境を変えたいと思っても、変えられないから。
勤務医に一番欠けているのは、自分たちで押していく力だと思う。僕自身は、したいことをあきらめて、黙って辞めていくよりも、したいことができるように変えていきたいと思う。