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昨年の診療報酬改定で、発症から一定期間を経過したリハビリテーションを打ち切るという制度変更が行われた。これに対して、現実にリハビリ治療を受けていた多くの患者は反対の声を上げ、多数の署名が厚労省にたたきつけられた。この問題は国会でも取り上げられ、厚労省は一定の譲歩をしたかに見えた。マスコミでもこの問題がとりあげられることは少なくなり、私などは従前のようにリハビリ治療が続けられるようになったと思い込んでいた。
今回、多田富雄氏の『わたしのリハビリ闘争』(青土社)を読み、リハビリを巡る状況が全く改善していないことを知って愕然とした。全く迂闊なことであった。厚労省は何の反省もしていなかった。相変わらずリハビリ医療破壊に邁進しているのである。
著者の多田富雄氏は「サプレッサーT細胞」の発見で知られる著名な免疫学者である。『免疫の意味論』という著作を読まれた方も多いのではないだろうか。ここに取り上げる『わたしのリハビリ闘争』は重度障害者となった多田氏による厚労省との闘いの記録である。
多田氏は2001年に脳梗塞を発症し、重度の「右半身麻痺」、「言語障害」、「嚥下障害」の後遺症が残り、4年間にわたってリハビリテーションを続けられてきた。
ところが昨年3月末、担当の医師より突然、「診療報酬改定により、4月より発症後180日を上限としてリハビリを実施できなくなった」と宣告された。リハビリによってかろうじて残存機能を維持することができていた多田氏はリハビリを継続できなくなったことを知った。
多田氏は直ちに4月8日付「朝日新聞」の「私の視点」に「診療報酬改定・リハビリ中止は死の宣告」という投稿を行った。この投稿で「リハビリを続けたおかげで何とか左手だけでパソコンを打つことができ、文筆生活を送っている」、「リハビリを拒否されたらすぐに廃人になる」、「構音障害に対する言語療法は180日より遥かに長い訓練が必要である」、と訴えた。
この投書は国民的共感を呼び「リハビリ打ち切り反対」の署名運動に発展した。40日余りの間に44万人を越える署名が集まり6月30日に厚労省に届けられた。
しかし、厚労省は無視を決め込んだ。その間に治療が打ち切られた事例が新聞で報道され、国会質問でも何度も取り上げられた。
やっと11月7日になって、「朝日新聞」に「患者切捨て批判は誤解」と題する厚労省医療課長個人名での反論投稿がされた。この投稿では、「制限日数を超えた患者は全国6000ヶ所の通所リハビリ施設へ移行できる」と述べられている。
直ちに多田氏は再反論を「朝日新聞」に投稿したが、朝日新聞は「同一人物が何度も登場するのは好ましくない」という理由で掲載しなかった。
この投稿で多田氏が行った主な反論は次の諸点である。
1.全国6000ヶ所とはデイケア施設の数であり、その中でリハビリを実施しているのはわずかな数に過ぎない。
2.そこで行われているリハビリも簡単な体操程度のものに過ぎずレベルが格段に低い。
3.厚労省は「回復期に重点的に手厚いリハビリを施す」とメリットだけを強調するが、一方では慢性期・維持期の患者の切捨てである。
4.厚労省は「高齢者リハビリ研究会」の専門家の「効果の明らかでないリハビリが長期間にわたって行われている」という意見を論拠としてきた。ところがこの研究会の議事録にはこのような指摘は一度もない。
全国保険医療団体連合会が9月から11月までの2ヶ月間にわたる562の医療機関に対する調査を行い、17000人余りがリハビリ医療を打ち切られている状況が明らかになった。この数字からリハビリを打ち切られた全患者数を推計すると20万人を超える。もはや厚労省は白紙撤回するほかない状況となった。
ところが厚労省は12月25日になって、社会保険事務局長宛の通達を出した。内容は、
1.リハビリを一律に打ち切ることは不適当である。
2.利用者を医療保険から介護サービスに円滑に移行させるように取り計らえ。
というものであった。一律打ち切りの制度変更を行った張本人の厚労省が、何ら受け皿にはなりえない介護保険に移行するように丸投げするものである。
このように多田氏のような患者の闘いにもかかわらず厚労省はリハビリ切捨ての政策を変更していない。多くの「リハビリ難民」が生み出されている状況が現在も続いている。
この本にはなぜ厚労省がこうした政策を打ち出してきたかの分析もなされている。ぜひ多くの方が一読されることをお勧めする。
最後に、自らのリハビリが打ち切られたあと亡くなった社会学者の鶴見和子氏の最後の短歌を2首、本書から孫引きする。(シジミ)
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政人(まつりごとびと)いざ事問わん老人(おいびと)われ生きぬく道のありやなしやと
ねたきりの予兆なるかなベッドよりおきあがることのできずなりたり