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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2007101702056933.html
【コラム】
筆洗
2007年10月17日
作家の井上ひさしさんは揮毫(きごう)を頼まれると、「むずかしいことをやさしく/やさしいことをふかく/ふかいことをゆかいに/ゆかいなことをまじめに書くこと」とよく記す。この極意は日々の実践の集大成になる。特に大事なのは最初の二行だという▼世の中の動き、人の心は複雑で難しい。まずは分かりやすく伝える。次の段階で本質に迫り、深く考えていく。メディアの使命でもあるが、実践することは簡単ではない。自戒を込めて書くと、「やさしく」を単純化、娯楽化と解する傾向がある▼時代が要求しているともいえる。昨日の朝刊・政治特集面では、キャラクターの調査研究などをしている会社の相原博之社長が「アニメ的な世界にどっぷりつかって育った若者たちは、複雑な現実より単純化したキャラにリアリティーや親近感を感じている」と指摘していた▼若者だけではない。小泉純一郎元首相のワンフレーズに、多くの人が拍手喝采(かっさい)したことは記憶に新しい。小泉改革に反対する政治家は「抵抗勢力」というキャラと化した▼参院選で自民党が惨敗するまで、改革の陰に光が当たらなかった一因である。大相撲の横綱朝青龍関やボクシングの亀田一家の騒動も、キャラのせいで組織の体質など、問題の本質が見えにくくなっている。メディアの責任は重い▼新聞週間が始まっている。井上さんは、新聞はもっと知恵を伝えるべきだという。「ふかく」と同様の意味だろう。世の中が一方的に、熱狂的に動くとき、待ったをかけるための極意であると、心に刻んでいる。
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