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ネット配信、テレビ変える 民放、CM収入減に及び腰
2008年01月27日14時08分
地平線まで続く、オーストラリアの荒野。1億4000万年前にできたクレーターを空からカメラがとらえた。尾根の起伏が豊かな陰影をつくっている。NHK特集「宇宙 未知への大紀行」のハイビジョン映像だ。
01年地上波で放送された番組だが、今はインターネット経由でテレビ画面に届く。ネットテレビ会社「アクトビラ」の動画提供サービスだ。
動画ネット接続機能のあるテレビで好きな時間に見ることができる。「宇宙」全9話の第1話は無料、ほかは1話(50分)315円で、3日間に何度でも見られる。リモコンのチャンネルでクレジットカード番号を入力するなどして支払う。
アクトビラが、このビデオ・オン・デマンド(VOD)形式の有料ネット配信を始めたのは07年11月。松下電器産業、ソニーなどメーカー5社で作った会社だ。5社のテレビ販売の国内シェアは8割。日ごろは激しく競合するメーカーが、「放送」に独占されるテレビ画面を「通信」に開放するために組んだ。
「今年はネットテレビ元年」。アクトビラ幹部は、そう語る。対応するテレビは昨夏売り出したばかり。現在は約20万台だが、地デジに完全に移行する11年には数千万台にする目標を掲げる。
電波からテレビへ、ネットからパソコンへ――。動画の流れは、そう決まっていた。ネットとテレビがつながることで、垣根は崩れ、新しい流れが生まれつつある。
テレビの画面はパソコンの画面より大きく、リモコンはキーボードよりも操作しやすい。これまでパソコンと縁が薄かった人たちがネットに触れる機会は広がっている。
光回線でシェア7割を握る通信最大手NTTグループも3月をめどに次世代通信網(NGN)を使い、ネット、映像、電話などを一緒に提供する新サービスに乗り出す。
地上デジタル放送も配信。NTTは光回線契約を10年に2000万件と見込んでおり、目標はこのうち2割、400万件への映像配信と鼻息は荒い。
◇
「ネットテレビ」では、米欧が先を行く。
イタリアの新興通信会社ファストウェブは01年にネットテレビの提供を開始。仏イリアッド、米ベライゾンなども続々参入した。いずれも電話・ネット・多チャンネルテレビの「トリプルプレー」が売り。三つ合わせて月1万円強で、別々に契約するより割安だ。最近は、携帯電話を含む「クワドルプルプレー」(四重奏)もある。
機器メーカーの取り組みも積極的だ。米アップルは今月、これまでパソコン経由でネット接続していたテレビ用端末「アップルTV」(記憶容量40ギガバイトで229ドル)を直接ネットにつなぎ、大手映画会社7社と組んだ映画配信を始めると発表した。テレビ画面で同社の配信サービス「iTunes」や動画提供サイト「ユーチューブ」の映像が楽しめる。
実は日本でも同じ装置を売っているが、見られる番組が大きく異なる。
最大の差は、高い視聴率をたたき出す番組が配信されていないことだ。
米国ではFOXテレビ「24」、ABCテレビ「LOST」などの人気ドラマであっても、早ければ放映翌日にiTunesで有料配信される。
テレビ局自身も、自前のウェブサイトで、人気ドラマを広告つきで無料配信する。しかし、日本のキー局がネット配信するのは現在、「本業に当たり障りのない番組」(関係者)に限られる。
TBSテレビは自社サイトの配信番組を民放キー局では唯一、アクトビラでも流している。だが、ドラマは海外のものとBS(衛星放送)で流したものが中心。地上波の人気ドラマはない。
他の民放キー局もそれぞれ配信サイトを持っているが、テレビ東京がアニメ配信に力を入れているのが目立つ程度だ。
人気番組が流通しないまま、メーカーと通信会社がネットテレビの接続技術や配信装置に力を入れる――。そんな状況をキー局戦略担当者は「車が通らない高速道路を建設している」と皮肉る。
◇
なぜ民放各局は、ネット配信に及び腰なのか。
各局が真っ先に挙げる理由は「著作権処理が難しい」という点だ。放送ではなく、インターネットで送信するには新たな権利処理が必要になる。
しかし、「最近の作品はネットへの送信権をあらかじめ設定している例が多い」(民放キー局)といい、ネット配信への備え自体は進んでいる。
結局、民放各局の本音は「本来の番組の視聴率低下でCM収入が減るのが怖い」(メーカー関係者)だ。全民放でCM収入は年に約2兆円。ネット系企業などに流れるのを警戒しているという。
日本時間8日の米ラスベガス。松下電器産業がユーチューブと提携してネット接続しやすいテレビを米国で売り出すと発表すると、会場にいた民放キー局の役員は声を出して驚いた。「テレビ番組の違法投稿が多いユーチューブをテレビで映すとは。不愉快だった」
松下は日本での発売計画はないという。しかし、現地で配った資料は「日本で展開することも可能だ」としている。
「共存共栄」できたメーカーと民放各局の足並みは乱れ始めている。
民放でも系列局を持たない独立系の東京MXテレビは、自らユーチューブで番組を配信する。
大きな起爆剤となりそうなのが、NHKが今年12月から配信する「アーカイブス・オンデマンド」だ。大河ドラマなどに加え、放送から10日以内の連続テレビ小説や料理番組、ニュースもネット経由で有料で提供する。見逃しても、好きな時に番組を見られる「見逃し視聴」サービスだ。
NHKはCM収入に頼らない分、有料配信への抵抗が少ない。ネット配信を進めたいメーカーは「番組を送る形が抜本的に変わる契機だ」。
テレビのネット接続で、テレビ局が蓄えた映像が流れるのが当たり前になる。放送界に詳しい中村伊知哉・慶大教授は言う。「民放が2年後ぐらいに来ると考えている世界が、もう来ている」
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