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http://it.nikkei.co.jp/internet/column/mediabiz.aspx?n=MMIT12000021012008
NHKの職員3人がインサイダー取引により不当な利益を上げた疑いで、証券取引等監視委員会の調査を受けたことが17日、明らかになった。マスコミ各社は当然、異口同音に「報道に携わる者が業務上知り得た情報により違法行為を行うことは論外」というトーンの批判を展開した。一連のNHK問題を見てきた筆者としては、今回の事件を通してNHKにおけるコンプライアンス意識の欠落という本質が、あらためて表面化したと受け止めている。それだけに、25日に就任する福地茂雄新会長への期待は大きい。
■なぜ事件を予防できなかったのか
今回の事件では、事件の予防、事件への執行部の対応という2つの側面で問題があったのではないだろうか。まず、こうした事件の予防という点を考えてみよう。
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報道局記者らのインサイダー取引疑惑に関する記者会見で頭を下げるNHKの橋本元一会長=17日
報道関係者や官僚など特別な立場にある人が、業務上知り得た情報により株式取引を行ってはいけないことは、ある意味常識である。ただ、人間は弱い動物であり、自己判断に任せておいて誘惑に絶対に負けないとは言い切れない。そこで多くの組織は、程度の差こそあれ、内部規定で株式取引を制限している。
しかし、報道によるとNHKは事件発覚後に、「取材で得た情報を個人の利益のために利用しない」「勤務中に株取引を行うことは許されない」などの内容の通達を出したとされている。額面通りに受け止めると、NHKはこれまでそうした規定を定めていなかったことになるが、もし本当ならば論外である。
これまでの数年間、橋本元一会長体制のNHKでは様々な不祥事が立て続けに起きた。止めどもなく不祥事が起き続けたのは、現在のNHK執行部が包括的なコンプライアンス対応を行わず、何かが起きる度に個別の対応しか行っていなかった証左ではないだろうか。
■執行部の対応は適切だったか
次に、個人的にはこちらの方が重要な問題と思うが、今回の事件への執行部の対応は適切であったのだろうか。疑問に感じることがいくつかある。
第1に、記者会見でNHK幹部は「証券監視委の調査が入った時点(16日)で事実を知った」と発言したようであるが、本当にそうなのだろうか。様々なところから寄せられる情報からは、数名の幹部はもっと前の時点から本件を知っており、色々と動いていたのではないかと思われる節もある。逆に、多くのメディア関係者が16日の早い時点で既に証券監視委の調査という事実を知っていたことを考えると、もしこの発言が事実ならば、NHK幹部は外部の記者と同じタイミングでしか情報を得られなかったことになり、組織を運営する者としては失格と言わざるを得ない。
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インサイダー取引疑惑について増田総務相(左)に報告するNHKの橋本会長=18日夜、総務省〔共同〕
ついでに言えば、なぜ証券監視委の調査が入ってすぐに記者会見を行わなかったのだろうか。会見まで1日以上も時間がかかっている。うがった見方をすれば、ほかのメディアの多くの記者が騒ぎ出したので会見を行ったようにも見えるが、もしそうだとしたらコンプライアンス意識の欠如も甚だしい。
第2に、内部調査のやり方も甘いのではないか。NHK理事などによる調査委員会が設置されたとのことだが、もし理事らが、証券監視委の調査が入る当日まで事実を把握できなかった程度の能力ならば、しっかりした調査ができるとは思えない。逆に、もし彼らが、証券監視委が調査に入るもっと前の時点から事実を把握していたなら(要は会見で嘘を言ったのなら)、そういう人たちが真面目に調査するとは思えない。
すなわち、いずれにしても、内部の理事を中心に構成される調査委員会では本当の実態が明らかにされるとは思えない。本来は、外部の専門家による第三者委員会の設置などの厳しい対応が必要ではないだろうか。
実際、情報に接することができた5000人のみならず、職員全員に対して調査を行うということだが、内部から聞いた話によると、管理職が部下に対して5問程度の単純な聞き取り調査をしただけのようである。「あなたは不正な株取引をしましたか?」と聞かれて、素直に肯定する人が一体いるものだろうか。ちゃんと調査をしたというアリバイ作りを行っているだけにしか見えない。
今回の事件は、公共放送のみならず報道に対する国民の信頼を失墜させたという点で、これまでの様々なNHKの不祥事の中でも最悪のものである。それにも関わらず、執行部の対応からは、そうした危機意識が感じられないどころか、責任逃れとその場しのぎに終始しているような印象しか受けないのである。監督する立場にある執行部の責任問題についても議論が始まったようだが、こういった状況では自浄作用が働くかどうか不透明だ。事件そのもの以上に、その点に大きな危機感を感じざるを得ない。
■NHK新会長への期待
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NHKの次期会長に決まり記者会見する福地茂雄氏=2007年12月25日
その意味で、今週25日に新会長に就任する福地氏に期待すべき部分は大きい。数年に渡り様々な不祥事が続発したにも関わらず、NHK内部ではコンプライアンス体制が何ら確立されていなかったのである。新会長が果たすべき使命は多岐に渡るが、コンプライアンスの確立と国民の信頼の回復にまず注力してほしい。
インサイダー取引のような愚かなことを行う職員はNHKのごく一部である。自分が知る限り、現場の若手の多くは日々真面目に頑張っており、今回の事件そのものを怒るのみならず、それに対する執行部の対応にも失望しているのである。
ちなみに、アサヒビール相談役である福地氏が新会長に就任することについて批判的なメディアも散見されるが、鮮度の高い飲料を世界中のユーザーに届けるとともに、ユーザーの信頼を維持するという飲料会社の仕事には、正確で質の高い情報を国民に届けるというメディアの仕事に共通する部分が多いのではないだろうか。かつ、続発した食品偽装事件からも明らかなように、コンプライアンスに人一倍気を使わないといけない業界の出身というのは、コンプライアンス・クライシスに直面するNHKにはうってつけの人材ではないだろうか。
だからこそ最後に一つ強調したい。NHKの全職員は、新会長に全面的に協力すべきである。メディアの世界は行政と同じでどうも村意識が強く、外部の人材を排除したがる傾向があるが、内部生え抜きの人材ではNHKを良くできなかったのである。外部の経験と知見が必要なのである。新会長に協力できないようなら、国民が払う受信料から給料をもらう資格はないのではないか。
-筆者紹介-
岸 博幸(きし ひろゆき)
慶応大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授、エイベックス取締役
略歴
1962年、東京都生まれ。一橋大学経済卒、コロンビア大学ビジネススクール卒
業(MBA)。86年、通商産業省(現・経済産業省)入省。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)、資源エネルギー庁、内閣官房IT担当室などを経て、当時の竹中平蔵大臣の秘書官に就任。同大臣の側近として、不良債権処理、郵政民営化など構造改革の立案・実行に携わる。98〜00年に坂本龍一氏らとともに設立したメディアアーティスト協会(MAA)の事務局長を兼職するなど、ボランティアで音楽、アニメ等のコンテンツビジネスのプロデュースに関与。2004年から慶応大学助教授を兼任。06年、小泉内閣の終焉とともに経産省を退職し、慶応大学助教授(デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構)に就任。07年から現職。
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