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----新小児科医のつぶやき から転載-----------------------------------
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071202
2007-12-02
IT業界侮辱と女性蔑視
岩崎慶市(株)産業経済新聞社論説副委員長の問題の記事ですが、全文は昨日のエントリーに引用しましたので御参照ください。この記事を努力して冷静に批評すれば、ある状況（今回は医療問題）に対する分析と意見提示です。医師にすれば相当偏った見解と感じざるを得ませんが、この日本は自由に意見を述べられる国です。もちろん見解の相違に対し反論や異論を唱える自由もあり、現実に行なわれています。記事中の語句の使い方に違和感を強く感じますが、意見を主張すると言う範疇で許容範囲と出来ると考えます。
ただし次の一節は非常に問題を含んだ表現かと感じます。
若い女性が選ぶ結婚相手の人気職業で、ＩＴ（情報技術）成り金と肩を並べるのもうなずける。
文中の枝葉末節に対しての批判は品の良いものではないかもしれませんが、枝葉末節であっても度が過ぎれば問題となります。記事の主張は「医者は儲けすぎ」であり、この一節は儲け過ぎの程度の比喩として用いられています。表現法として比喩を持ちいる事は何の問題もありませんし、馴染みの薄いテーマの解説には非常に有用な事がしばしばあります。上手に比喩を使う事は文章を書く上で欠かすことのできないテクニックです。
全体を読めばわかるように、ここでの比喩の使われ方は、「医師は儲けすぎている。まるで○○のように。」です。記事全体が強い医師儲けすぎ批判である事は誰でもわかりますから、医師が儲けぶりは○○と同じぐらい問題だの表現としてよいかと思います。つまりここの比喩に用いられる○○は、この記事が強く批判している医師と同等の批判を受けている事になります。その○○にあたるのが「ＩＴ（情報技術）成り金」です。非常に簡潔な表現であり、他に誤解の余地が生じようが無いほどです。
ここでの問題点はIT関係者を医師と同等の批判の対象にしただけではなく、IT関係者を「成り金」としている事です。「成り金」の表現は誰もが非常に侮蔑的に感じる言葉です。「成り金」だと面と向かって新聞に名指しされて喜ぶ人種はいないかと思います。IT業界も内実は大変なところで、デスマーチなる言葉が業界用語として定着し、「IT土方」なる言葉も広く流通しているところです。成長産業かどうかはIT関係者は様々な考え方があるようですが、新技術の開発により一躍巨万の富を築く事が可能なところであるのは確かでしょう。
巨万の富を築ける可能性はありますが、一方で技術革新の速度は日進月歩どころではないところでもあります。そういう激烈な競争を勝ち抜いた者が成功者として名を馳せるところです。どこの業界でもそうですが、成功者として名を馳せるためには尋常でない努力を重ね、その上に稀なる才能と幸運に恵まれたものがスポット浴びる世界です。IT業界は進歩が早いだけに一時の成功を勝ち得ても、それだけで終わらず、常に努力を重ねる事が必要とされる厳しいところであるともいえます。
そういう成功者も含めてIT関係者を「成り金」とはどういう神経で言葉を選んでいるのか頗る疑問です。この短い文章ではITの成功者はすべて「成り金」であると受け取れます。つまり産経新聞はIT業界の成功者はすべて「成り金」であると全国に発信している事になります。それも論説副委員長が直筆でです。IT業界は産経新聞にそこまで侮辱されて当然の業界と言うのでしょうか。
もう一つの問題箇所は、女性の結婚相手の選択です。だいたい結婚相手に女性がどんな男性を選ぼうが完全な「自己責任」です。男性も右に同じです。産経新聞に結婚相手の選び方を批判する権利があるかどうかがまず大きな疑問です。女性が結婚相手を選ぶ条件の一つに男性の経済力を考えても何の問題もありません。逆に経済力の無い男性を選んでも完全に自己責任です。
ここで女性がIT業界の成功者を配偶者に選んだとしても、その理由が「成り金」だけだからと言うのでしょうか。これは女性に対する信じられない侮辱です。経済力も魅力の一つであったかもしれませんが、男性の人間としての魅力に惹かれても何の不思議もありません。成功者はどんな業界であっても魅力的な人物が少なくなく、異性だけではなく同性も大きな魅力を感じることが多々あります。そういう魅力に惹かれて結婚する事は罪なのでしょうか。
女性の配偶者選択能力を「成り金」で転ぶ連中と書くのは、女性蔑視の考えが濃厚に論説副委員長にあると見なされても当然ではないかと思われます。女性の考えなんてそんな物だとの思想です。さらに深刻なのは既に配偶者になられている方への直接的な侮辱が行なわれています。IT業界のある程度の成功者と結婚した配偶者（今回は女性を指します）は「成り金」に目が眩んで結婚したと産経は全国に発信しています。
この簡潔な一節はIT業界を侮辱し、女性蔑視の思想があると解釈させるのに十分な表現力があると考えます。
もう一度念を押しておきますが、論説副委員長が筆を取り、産経新聞に麗々しく掲載されているのです。産経に限らず大新聞社は「社会の木鐸」「社会の公器」であると常々自負し公言しています。三流のゴシップ紙とは一線どころでないものを画していたかと思います。さらに記事は事件の速報を伝えるのに混乱した状態で大急ぎで書かれたものでないのは明らかです。ある程度十分な時間の下、推敲を重ねた上で掲載されたものです。
ちなみに論説委員とは大辞林によると
報道機関で、その社の立場を明らかにする論説を担当する人。
つまり岩崎慶市(株)産業経済新聞社論説副委員長は産経新聞社の立場を明らかにして論説を書いたわけであり、この場合の論説は社説ないしそれに近い存在のものを指します。
産経新聞社に対し
* 貴社はIT業界の成功者を「成り金」と侮辱して当然と考えているか。
* 貴社は女性が配偶者としてIT関係者（とくに成功者）を選んだ時、選択理由を「成り金」であるからとの女性蔑視発言を容認するか。
この2点についての納得がいく説明を要求します。
コメント
InoueInoue 2007/12/02 12:03 お怒りはごもっともですが、もう、新聞に過大な期待をするのはやめませんか？
私は幼いころから（小学校低学年）新聞を読んでいました。
最初はえらい大人が書いている立派な文書だと思っていました。しかし、複数の新聞の同じ事件記事を読み比べているうちに、あまりにも内容が違うことで「報道姿勢」というものを知り、また、記事によってはハンコで押したように同じ文章が書いてあることで、官製報道というものの実態を知り、そのうちに完全な捏造記事を朝日新聞が写真入りで一面に出してしまう（珊瑚事件）ことに衝撃を受けました。
また、現在では、経済問題に強いとされている日経新聞がどれだけデタラメな経済報道をしてきたかも知るようになりました。「日経新聞は信用できるか」
論説委員が、少々下品なことを書いたからといって、エントリにするのは時間の無駄、もっと有意義なことに人生を使おうじゃありませんか。
renren 2007/12/02 12:52 ご指摘の通り、IT技術者に（成功して大金持ちになった人も）成金という言葉はあまり似合わないですね。どちらかというと、IT関連株で大儲けした人の方がぴったり来る様な。医者も、IT技術者に例えられるのはありですが、成金と同列扱いは心外ですね（楽して儲けて羽振りがよい人をイメージすると、医者とは対極にある気が…）。
Med_LawMed_Law 2007/12/02 13:11
IT業界全体、医療業界全体より、テレビ業界の方が完全に勝ち組であることは明白です
昔は、女優がテレビプロデュサーと結婚するのは単なる職場結婚かと思ってましたが、実は経済的裏づけも十二分にあり、また下請けを搾取するシステムもできているので、上層部は遊興費も潤沢であり、フリンジベネフィットの塊です。
大手新聞社も同じ構図であり、正規社員は残業代が当然のように付け放題であり、最終的な年棒は、悲惨な労働環境の医療職よりよっぽど魅力的です。
情報発信元は、世代を経るにしたがって大手マスゴミから個人発信、ネット発信に分散し、一部の情報独占ができなくなっており、マスゴミ長者の焦りを誘っています
今のマスゴミ経営陣、上層部には、ネット発信へのアレルギーに近い恐怖心があるのでしょう。
それにしても、本来、自分たちの健康を支えてくれる人たちを尊敬し、大事にしないと自分たちに跳ね返ってくるはずだというのに、このマスゴミはじめとする当事者意識のなさはなんなのだろうと思う
まあ、マスゴミ、モンスター大衆の希望通り医療が崩壊していくのは当面避けようがないのだけれど、もはや私は涅槃の境地です。
ただし、マスゴミ、モンスター大衆と心中する気は全くありませぬ
YosyanYosyan 2007/12/02 13:54 Inoue様
>論説委員が、少々下品なことを書いたからといって、エントリにするのは時間の無駄
誠にその通りなんですが、この世の中「沈黙は金」でないのが辛いところと考えています。批判がないのは容認ととられる事さえしばしばありますから、面倒でもある程度は反論しておく必要もあるんじゃないかと考えています。賽の河原の石積みのように感じないでもないですがね。
>もっと有意義なことに人生を使おうじゃありませんか
これも嬉しい言葉で、医療崩壊ネタを毎日、眉間に皺を寄せながら書き綴るよりも、もっと他の事を書きたいと常々考えています。その方が精神衛生上よろしいですし、書いていても気が弾みます。時々、なんで毎日苦しい思いをしながら、こんな暗い情報発信をしなければならないかと疑問を持つときがあります。でも、ま、それでも乗りかかった船ですから、行けるところまでは付き合おうと考えています。
僻地医僻地医 2007/12/02 13:55 ＞お怒りはごもっともですが、もう、新聞に過大な期待をするのはやめませんか？
もちろんそうなのですが、医療関係以外の一般の方でまだまだ新聞報道を鵜呑みにしてしまう方もおられると思うので、医療者の立場から「これは違うぞ！」という啓蒙活動をしていくことは必要なのではないでしょうか。
BugsyBugsy 2007/12/02 14:16
女性が 勢いがあって素晴らしい才能が結集する業界に熱いまなざしを向けるのは世の東西を問わず 至極当然です。女性を馬鹿にしてはなりませんよ。結婚に関してはきわめて冷静 現実的に考えてます。一時的にお金があふれているからではなくて きちんと相手の将来性 知性、社会的地位を見据えて結婚相手を選んでいます。事実田舎でも都内でも一時的な土地成金になったとしても嫁は殺到してないです。
たとえば最近若い女性がもてはやすレストランのシェフがいますが、料理がうまいだけではなく知性にあふれ才気煥発とくれば 女性がもてはやすのは当然です。なるほど もてて当然だと感心はしましたが 嫉妬はしませんよ、大人ですからね。
＞診療報酬が引き下げられても開業医の利益は増えており、年収は勤務医の１．８倍だ。
あのねえ この年収の根拠がさっぱりわかりませんが 仮に従業員たる勤務医の年収のたったの1.8倍しかオーナー社長たる個人開業医の収入がないのに儲け過ぎと考えていること自体が問題です。通常は1.8倍しかないのかと暗然とします。
あんたの新聞社の記者と社長が1.8倍しか収入差がないとすれば 相当そこの会社はおかしなことになってると思うのでしょうか。それとももっと収入は平等にせよと考えるのでしょうか？
居酒屋で若い女性をこきおろしたり 医者をただただ金を儲けてるといった観点のみでご大層な議論をされている困ったオヤジ集団がどこにでもいますが、周りの顰蹙をかっています。その居酒屋論議を吟味せぬまま新聞の紙面で論説されているようです。
こんな事やってるようじゃあ 世の女性から嫌われるし若い新聞記者に嫁は来ないです。有為な青年が次々と門戸を叩かなくなった職業の将来は暗いですな。
YosyanYosyan 2007/12/02 15:06 Bugsy様
新聞も難しい時期になりつつあるんじゃないですか。これはかつて新聞、ラジオだけの時代にテレビが登場したぐらいの試練と考えています。テレビと新聞は棲み分けが可能で、結果としてテレビを新聞が飲み込んだような形態になりましたが、ネットはどう対処したら判断に迷っているように思います。
ネットとも棲み分け可能なのか、それともテレビ登場で映画が衰退したような状態になるのか。現時点の対応はかつて映画がテレビ台頭に対して行なった行動に似ているように思います。ネット意見を貶めて排斥しようと言う路線です。成功すれば安泰ですが、そうは問屋が卸すかどうかは疑問です。
共存の道はいくらでもあるかとは思います。新聞にとってネットとの共存は、情報収集力において可能のはずですが、一方で情報の価値決定力がかなり失われます。世論を誘導する力といえば良いでしょうか。今までその分野で魔王のような力を揮っていましたから、それを完全に死守しようとすればするほど軋轢が今後強くなると考えています。
良い方向、例えば中途半端な取材と知識で書き飛ばしたら、その道の専門家から詳細な批評が来る時代は確実に到来していますから、それを糧に切磋琢磨するのならまだ建設的なんですが、そう簡単にはいかないでしょうね。
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