3月22日土曜日の朝、大阪の読売テレビ(関東では日本テレビ)の番組『ウエークアップ!ぷらす』に、「解禁か?禁止か?混合診療の是非を問う!!」と「メタボ健診スタート」のコーナーゲストという立場で出演させていただきました。
混合診療の是非に関する討論相手は、この番組のレギュラーゲストのお一人である東洋大学経済学部教授で内閣府の構造改革特別区推進本部評価委員会委員の白石真澄さんでした。白石先生は、混合診療導入に賛成の立場。私はもちろん反対の立場で、「先進国最低の低医療費政策にもかかわらず、国民窓口負担は世界一の日本ですから、今以上の患者負担増は反対です。効果と安全性が認められた治療は、早急に保険で認めるべき」と主張しました。
今回の番組では、はじめに賛成派として免疫療法を希望する患者さんが取り上げられました。続いて、反対派として医師会や厚労省、国内で販売されていない薬を自費で国外から輸入せざるを得ない患者さんを紹介していました。コーナーを締めくくるレギュラーゲストとして、厚労省出身で元宮城県知事の浅野史郎さんが、「効果と安全性が認められる新薬などは早急に保険で認めるべき」とコメントをされたのを大変うれしく感じました。
続いて、メタボ健診の話題になりました。まず私は「メタボを予防する効果を明確に示したエビデンスはないはずです。莫大な予算をつぎ込んだメタボ健診よりも、タバコ1箱を1000円に値上げする方が、よほど国民の病気を減らす効果がある、というのが医療現場の実感です」と意見を述べました。この私の意見に、スタジオ内の多くのスタッフが大きくうなずいていました。
さて、かなり昔のことなので、残念ながら出典は不明なのですが、以下のような興味深い話を聞いたことがあります。
以前、米国で「発癌性あり」とされた人工甘味料のサッカリンが、日本で使用禁止となりました。しかし、当の米国では使用禁止としなかったそうです。なぜなら、寿命短縮リスクを計算すると、コーヒー1杯に入れるサッカリンは3秒、砂糖は3分であり、サッカリン使用禁止によって起こる砂糖消費増大が肥満や心筋梗塞増加をもたらすことが懸念されたからだそうです。ちなみにタバコ1本の寿命短縮リスクは12分。
日本がサッカリン使用禁止とした背景には、米国と異なり肥満や心筋梗塞がそれほど問題になっていないこともあったと思います。それに、日本人は「発癌性がある」「身体に毒」な物は大嫌いですから、仕方ないのかもしれません。しかし、こういった反応は、サッカリンにとどまりません。BSEやダイオキシン、そして最近では中国産冷凍ギョウザが原因と疑われる健康被害など、メディアが大々的に取り上げたことでも明らかです。
しかし、日本人が嫌うBSEやダイオキシンは、どの程度リスクがあるのでしょうか。そして、そのリスクに対する対策にかかる費用は妥当なのでしょうか。『週刊東洋経済』2007年3月24日号の特集「不都合なたばこの真実 がんの嘘」に掲載されていた「日本人の人口10万人当たりの生涯リスク」の表には、「死者ほぼゼロのBSEに国は年132億円の予算を使うのに、死者が圧倒的なタバコはほとんど野放しだ」というキャプションが書かれています。
日本人の人口10万人当たりの生涯リスク 出典:『週刊東洋経済』2007年3月24日号 私は30年近く外科医として患者さんを診てきましたが、喫煙者は癌の罹患リスクが高いことは当然ながら、喫煙者では術後合併症の肺炎が多発すること、胃・十二指腸潰瘍穿孔による緊急手術患者さんの多くが喫煙者であることなど、喫煙のリスクを肌で感じています。当然、喫煙者の方が医療費がかかります。
国全体の死者を減らし、病気を予防する目的でお金を使うのであれば、まずは生涯リスクが圧倒的に高く死者が多い喫煙対策にお金を投入した方が合理的であるのは明らかです。なのに、この喫煙を放置したまま、40〜74歳の国民5600万人を対象とした大規模なメタボ健診を開始するのが日本なのです。こういった状況を鑑みて、私は「日本人は合理的に物事を判断することが苦手なのではないか」と感じています。
ドミノ倒しのように全国で医療が崩壊しつつある日本。団塊世代の高齢化で、近い将来、大量の医療難民が発生すると予想される日本。医師不足や低医療費を抜本的に見直さないまま、救急医療を再構築しようともがく日本――どうやら日本人は、目の前の現実やデータを直視して合理的に判断を下すことが苦手な国民のようです。先の大戦では、敵国の軍事力や作戦の情報収集・分析も不十分なままに、「戦艦大和があるから勝てる」や「神風が吹く」という精神論で、罪もない国民に惨めな思いをさせた日本。21世紀に入っても戦前と同じ過ちを繰り返しているように見えるのは私だけでしょうか。
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