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この25年で,ビタミンD研究は大きく変わった。その効用が骨の形成だけにとどまらないことがわかってきたのだ。ビタミンDが強力な抗がん作用をもつこと,また,免疫応答の重要な調節因子として働いていることを示す証拠が数多く見つかっている。
同時に,ビタミンDがその優れた効果を最大限に発揮できるのは,血中に相当量が存在する場合であることもわかってきた。そして,たいていの人の血中濃度はそれよりも低い。ビタミンDの不足と疾患を関連づけた疫学データもあり,多くの人が陥っているビタミンD欠乏症が深刻な病気につながっている可能性を示している。
活性型ビタミンDによる調節を受ける遺伝子は少なくとも1000種類はあると考えられており,体内カルシウムの調節に関与する遺伝子はその代表格だ。いうまでもなく,カルシウムの流れはビタミンDのよく知られた機能である骨形成にきわめて重要だ。しかしこの20年で,免疫反応に重要な役割を果たすさまざまな遺伝子など,ビタミンDの影響を受ける遺伝子群が他にもたくさん見つかっている。
1980年代以降,ビタミンDにがんを予防する効果があることを示す証拠が数多く見つかっている。多くの疫学研究でも,日光を浴びる時間が長いほど,一部のがんの発生率が明らかに低くなっていくことがわかってきた。
実験動物や培養細胞を使って,こうした関連性を裏づけるとともに発がんを抑えるメカニズムの解明が行われている。例えば頭頚部がんのモデルマウスに,活性型ビタミンDの1,25Dによく似た合成化合物のEB1089を投与すると,腫瘍の増殖が80%も抑えられた。同様の結果が乳がんや前立腺がんの動物モデルでも得られている。
2004年にマギル大学の私たちの研究室は,ビタミンDの抗がん作用を調べていたところ,偶然に1,25Dが中心的な役割を果たすまったく異なる生理学的防御作用を発見した。さまざまな細菌やウイルス,真菌に対する“天然の抗生物質”を作る2つの遺伝子のスイッチをビタミンDがオンにしていたのだ。実験では,免疫細胞にビタミンDを加えると,結核菌をはじめとするさまざまな細菌に対する防御作用が生じた。これは注目に値する。つまり結核に日光浴療法がなぜ効果があるのか,その長年にわたる謎が初めて解けたのだ。
ビタミンDが,骨形成以外にも多様な役割を演じていることが明らかとなってきたことで,多くの病気の発生状況に説明がつくようになった。ビタミンD濃度の低さが,がんや自己免疫疾患,さらにはインフルエンザなどの感染症と強く相関することや,疾患発生率に季節変動があることなどだ。一般に,これまで確認されたビタミンDを必要とする数多くの生理反応は,血中濃度がある値以上になって初めて働き始める。この濃度は,さまざまな集団での典型的な濃度よりも高い。つまり,温帯の人々のビタミンD濃度は,健康な生活を送るための濃度にはるかに及ばないのだ。特に冬季が問題だ。
著者
Luz E. Tavera-Mendoza/John H. White
2人はマギル大学のホワイトの研究室で,ヒト細胞におけるビタミンDの作用を分子レベルで研究している。共同研究者とともに,ビタミンDががんの予防に貢献していることを明らかにし,ビタミンDが侵入微生物に対する免疫反応に関与する特定の遺伝子群を調節していることを発見した。タベラ=メンドーサは現在,ハーバード大学医学部のポスドク研究員として,ビタミンDと乳がんの関係について研究を行っている。ビタミンDが健康に有益な作用をもつことを自分たちの研究で確認してからは,太陽光が弱くて適量のビタミンDが皮膚で合成されない季節にサプリメントを使用している。「ビタミンDの冬」の数カ月間にホワイトは4000IUの,タベラ=メンドーサは1000IUのD3を毎日とっている。
原題名
Cell Defenses and the Sunshine Vitamin(SCIENTIFIC AMERICAN November 2007)
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