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http://www.nikkei-bookdirect.com/science/topics/bn0711_2.html#1
自分の未来をのぞいてみたい──誰でも夢見ることだろう。でも,本当に未来が見られるとしたら,あなたは見るだろうか。そして,のぞき見た未来が気に入らなかった場合,その未来を変えるべくどれだけ努力できるか?
ヒトゲノムの解読と遺伝子マッピングに20年近くが費やされたいま,健康管理のために個人の遺伝情報を当人に提供できる時代が間もなくやってくると米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の研究者たちは考えている。そこで同研究所は,一般人がそうした情報を受け止める“心の準備”ができているのかどうか,大規模な調査に乗り出した。
「マルチプレックス・イニシアチブ」と呼ぶ1年間にわたる調査研究で,最終的には数千人が被験者として加わる予定だ。各被験者は主要疾患のリスクを高める遺伝子変異の有無を調べる検査を受ければ,その結果を記したカードをもらえる。調査では主に,どのくらいの人がカードを受け取るか,検査結果にどう反応するかを探る。また,医療関係者が遺伝的リスク情報を患者にどう伝えるのがよいのか,ヒントも得たいという。
主な疾患関連遺伝子を検査
ヒトゲノム研究所ゲノム技術部の上級研究員ブロディ(Lawrence Brody)は5月にワシントンでこの計画を発表した際,「一般の人々が遺伝子検査を理解しているかどうか,検査を有意義と考えるかどうか,どんな意見を持っているかを知りたい」と説明した。
デトロイト地区の会員制健康医療団体(HMO)であるヘンリー・フォード・ヘルス・システムの会員から参加者を募る。自分の遺伝子型を知らされたことによって,健康維持プログラムに積極的に参加するなどの行動変化が生じるかどうかを追跡調査する予定だ。
25歳から40歳までの1万人にのぼる参加候補者に,2型糖尿病や冠動脈疾患,骨粗鬆症,肺がん,直腸がん,黒色腫などの主要疾患と関係する約15種類の遺伝子を「検査してあげます」という案内状を数回に分けて送る。ヒトゲノム研究所の社会・行動研究部長マクブライド(Colleen M. McBride)によると,6月中旬までに約70人(最初の案内状に対して返信を寄せた人の20%に相当)が検査を承諾した。「ほぼ予想通りだ。疾病予防という意味では健康な若者層に参加してもらうのが最善だろうが,彼らに今回の調査について関心を持ってもらうのは難しい」。来年にかけて1000人に検査を受けてもらうのが目標。
あなたなら検査結果をどう受け止める?
「ヒトゲノム研究所による調査は非常に意義があると思う」というのは,カリフォルニア州のカイザーパーマネントで同種の調査を率いるシェーファー(Catherine Schaeffer)だ。カイザーパーマネントは米国最大の会員制健康医療団体で,シェーファーは350万人の会員から参加者を募ってDNA試料などを収集し,病気のリスクや予防に関与する新しい遺伝子変異を見つけようとしている。
難しいのは,複雑な病気の場合には遺伝子の影響は小さいことを参加候補者にきちんと理解してもらうこと,そして予防・治療法をどのように勧めるのがよいかという点だ。発症リスクを高める遺伝子変異がいろいろ知られているが,大半は「小さな影響を及ぼすだけ」とシェーファーはいう。「複雑な遺伝子情報に人々がどう反応するのか,それを知るのは極めて重要だ」。ヒトゲノム研究所の調査も,「ゲノム情報を本人に知らせる準備は整っているのか」というマクブライドの疑問が1つのきっかけになった。
予防に生かす道筋を探る
これまでの遺伝子検査は,ハンチントン病や嚢胞性線維症など単一の遺伝子が関係する病気にほぼ限られていた。遺伝子型と発病に明確な関係が認められる疾患だ。だが糖尿病などは対照的に,さまざまな局面や発病後の段階で何千何百もの遺伝子が関係している可能性があるし,食生活などの生活環境もそれら遺伝子と相互作用しているかもしれない。だから,ある遺伝子変異と糖尿病発症リスクの間に統計的に明らかな関連があっても,それは全体像にはほど遠い。
「良くも悪くも,私たちは多くの人々に遺伝学が非常に重要で決定論的だと思わせてきた」とブロディはいう。「しかしいま,それを少し控えなくてはいけない」。
マルチプレックス・イニシアチブで遺伝子検査の対象としている病気はすべて予防可能なので,参加者は結果をもとに予防のための行動をとるかどうかを自分で決められる。ヒトゲノム研究所の所長コリンズ(Francis Collins)は,将来のリスクを測る尺度として現在使われているのは一般に高血圧や脊髄変性などすでに表れた症状だと指摘する。しかし「遺伝子検査なら発症前に時間をさかのぼり,墓に片足を突っ込む前に予防策を講じられる可能性がある」という。
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