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「経済コラムマガジン08/1/21(511号)
・サブプライム問題の本質
・バブル崩壊のトラウマ
ずっとサブプライム問題は比較的安易に捉えられて来た。当初、日本だけでなく、不思議なことに当の米国でもその傾向が強かった。日本のこの雰囲気が変わって来たのは昨年の暮れ(筆者の感想では11月)頃からと筆者は感じている。一方、米国の株式がようやく本格的に下落を始めたのは年末・年始頃からである。
米国発のサブプライム問題なのに、日本の株価の方が株価の下落の方がずっと大きい。しかしこれについては色々言われているが、ほとんどトンチンカンなものが多い(「日本経済の改革が遅れているから」などは典型)。筆者は、日本市場がバブル崩壊を経験したことが、日本市場がサブプライム問題により敏感に反応したことの大きな要因と考える(もちろん外資が資金繰りに困って日本株の利益確定売りを急いだことや、日本政府の経済無策などの側面もあるが)。と言うのは日本人を除き、現役でバブル崩壊を経験したことがある市場参加者が世界にはいないのである。
米国の金融機関の中で唯一サブプライム問題を逆手に巨額の利益を得た(サブプライムローン関連証券をカラ売りしていた)のがゴールドマン・サックスである。ゴールドマン・サックスは86年に住友銀行から1,000億円近い出資を受入れて(5%、3,900万株、経営に口出し無し)おり、ずっと住友銀行との関係が深かった(後に三井住友銀行は不良債権処理でゴールドマン・サックスに逆に1,503億円の優先株を引受けてもらっている)。したがってゴールドマン・サックスは、日本におけるバブルの生成から崩壊を間接的に体験していたと言える。そしてこれが今回生かされたと筆者は思っている。
また日本の金融機関のサブプライムローン関連の直接的な損失が意外に小さい。これについては日本の金融機関が、海外に投資するほどの余裕はなかったとか、内向きなったからという解説がなされている。しかし筆者は、日本の金融マンがバブルっぽいものを避けたがる気持が強かったからと解釈している。日本の金融機関はバブル崩壊のトラウマを引きずっているのである。
もっともサブプライム問題が話題になり始めた昨年の夏頃は、日本の多くのエコノミストもポイントがずれたいた。彼等は「サブプライムローン問題は、低所得者向けの融資の焦げ付きである。しかし米国の住宅融資は証券化され、この証券は他に売却されている。したがって米国の銀行は、日本の銀行のようにバブル崩壊によって巨額な不良債権を抱えることはない。つまり米国銀行発の金融不安は起らない。」と間抜けなことを言っていたのである。ちなみにテレビで同様の発言をしていたのが、小泉政権でずっと経済閣僚を歴任していた竹中平蔵氏である。
サブプライム問題の本質がちょっと誤解されていると筆者はずっと感じている。信用力がない低所得の人々に杜撰な住宅融資が行われて来ており、これが焦げ付いたのがサブプライム問題と解説されている。たしかにこれは事実であるが、これは問題の一面に過ぎない。もしこれが全てなら、今日発生している不良債権の処理が終わればサブプライム問題は解決することになる。
筆者は、サブプライム問題の本質は金余りを背景にした資産バブルの崩壊の開始と見ている。今のところ具体的には住宅価格の下落である。米国の住宅価格は、06年6月をピークに下落を始めた。当初は下落のスピードは緩慢であり、地域によっては逆に値上がりを続ける所もあった(日本のバブル崩壊の場合、東京の土地バブルが崩壊し始めた後に、関西の土地バブルがピークに達したのと似ている)。筆者は、サブプライム問題の解決は、この住宅価格が安定するまで無理と考えている。
・株式市場の変質
米住宅価格指数の考案者ロバート・シラーエール大学教授は「主要10都市の住宅価格は昨年10月まで15ヶ月連続で下落し、値下がり率が7%に達した。だが、過去の経験から住宅の本格調整はさらに長引く可能性は大きい。」と述べている。筆者は、この発言でさえまだ控え目と感じている。筆者は、住宅価格の下落率が今後むしろ大きくなるのではないかと見ている。
この一つの根拠は、米の金融機関のサブプライムローン関連の損失が7〜9月より、10〜12月の方がかなり大きくなっているからである。これは住宅価格のさらなる下落による評価損の増加があるからと理解している。サブプライムローンの総額は1兆5,000億ドルで、特に問題になるのが1兆ドルと言われている。以前、全米のサブプライムローン関連の損失は1,000億ドルと言われていた。しかし先日バーナンキFRB議長が問題債権1兆ドルの半分が不良化していると示唆したように、たった3ヶ月でこの数字が5,000億ドルに激増しているのである。
問題はサブプライム問題が他に波及することである。住宅価格の下落は今後も続く。この影響がサブプライムではない住宅融資にも及ぶと考えるのが自然である。住宅価格の下落がこのまま続けば、プライムレートの借入で住宅を購入した人々も窮地に陥る。特に値上がりによる転売益を狙った投資目的の住宅購入が次には問題になる。
つまりさらなる住宅価格の下落によって、信用力がない低所得の人々だけの問題であった信用問題が、プライムレートで借入ができる一般層や富裕層にも広がることになる。そしてサブプライムではない住宅融資の金額の方が、サブプライムローンと比べようがないほど大きいのである。もしプライムレートでの借入まで不良化するような事態に到ったら、未曾有の経済的混乱となろう。
一戸の住宅が売りに出されると、周りの全部の住宅の価格が下がる。このようなことが全米で起っているのである(今のところ北東部と西部の住宅価格の下落が大きいが、いずれ南西部にもバブル崩壊は及ぶと見る)。先日「住宅価格が下がれば、そのうちその住宅を買う者が出てくるからサブプライム問題はたいした問題ではない」と言っているエコノミストがいた。やはりばかな構造改革派である。バブルの崩壊はそんなものではない。
年が明けてから米国の株式相場の動きが変わってきた。良い材料に反応しなくなったのである。17日のバーナンキFRB議長の利下げを示唆する議会証言を受けても、逆にダウは307ドルも下がった。利下げについて具体的な話がなかったからと言う。
ブッシュ大統領は、今月28日に予定していた景気対策の骨格の表明を18日に前倒しした。10兆円という事前の予想を上回る15兆円の対策を発表した。筆者はこれは十分サプライズがあるとニューヨーク市場の動きを注目していた。実際、日本の株式市場においては、大統領の景気対策の発表が前倒しになると言う話が流れ、400円以上下げていた18日の日経ダウがプラスに転じた。
ところが大統領の景気対策の発表があった頃からニューヨークダウが一直線に下がった。プラス182ドルから終値は60ドルのマイナスになった。理由は「景気対策の具体性がない」「減税だけで、財政支出がない」と言ったものである。しかし筆者には、良い材料が出てダウが上がると、投資家がそれを良い逃げ場とすかさず持ち株を処分しているように見えた。
筆者は、欧米の投資家が生まれて始めてバブル崩壊の局面に接し、困惑しているような気がする。ようやく今年に入って市場参加者も、バブル崩壊というものを現実に認識してきたのではないかと思っている。筆者は30日に予定されているFOMCの利下げ後の市場の動きを注目している。
来週はサブプライム問題に端を発した市場の混乱の行方を予想したい。」
http://adpweb.com/eco/eco511.html