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今日の日本には嘘つきと詐欺師が跋扈している。ライブドアの強制捜査によって、この会社の本業が詐欺ということがはっきりしてきた。堀江前社長は強制捜査を察知して、既に昨年12月に自ら所有しているライブドア株の一部600万株を市場で売っていたという報道まである。たしかにライブドアのまやかしは大きな問題である。しかしライブドアの場合、被害を受けた者は限定される。
そして日本には桁違いに重大な嘘がはびこっている。なんと政治家や政府関係者、マスコミがこれらの大嘘を広めているのである。例えば「小さな政府が正しい」「規制緩和で景気が良くなる」「日本は潜在成長率を高める必要がある」「公共事業は悪だ」「年金保険料の納付は義務で、未納者によって年金が崩壊」「小子化で労働力が不足し、経済成長には移民が必要」などの嘘である。しかし一番重大で悪質なのが「日本の財政が危機的」という大嘘である。
「小さな政府うんぬん」などの嘘が簡単に世間で信用されるのも、突き詰めれば「日本の財政が危機」という脅しが効いている。今日問題になっている行政改革や増税路線も、やはり「日本の財政の破綻」を避けることが目的と説明されている(現実にこのような政策で財政が良くなるか疑問であるが)。しかし本誌はこれまで、「財政危機」という話自体が真っ赤な「嘘」ということを様々な角度から説明してきた。
「巨額の国の借金は、子々孫々への負担の先送り」と盛んに言われている。しかし子々孫々は借金を引継ぐだけでなく、借金で造った道路や橋などの公共物といった資産も引継ぐ。さらに子々孫々は国債などの借金を引継ぐ一方、国債などの金融資産も引継ぐのである。つまり次の世代は負債だけでなく、資産も同時に引継ぐのである。
本誌03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」、03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」で、経済の循環で政府の借金が大きいことの裏側に、日本の過剰貯蓄があることを指摘した。つまり過剰貯蓄がある限り、国の借金が増え続ける仕組になっている。このことを三面等価、つまり生産と分配(所得)そして支出(需要)が等しくなることで説明した。過剰貯蓄があれば、生産物の余剰が発生し、これを誰かが消費しなければ、マクロ経済はバランスせず縮小均衡に陥る。
マクロ経済理論に反して過剰貯蓄がある時に政府支出を削れば、不況になる。またこの不況を避けるなら輸出を増やさざる得ない。しかし輸出が増えれば、一時的に不況は緩和されるが、いずれ円高になり最後には円高不況となる。そして日本の過剰貯蓄の大きな原因が、土地の売却代金の大半が消費されず貯蓄されることと、巨額の社会保障基金積立金(ほとんどが公的年金の積立金)であることを指摘してきた。
さらに国債の発行に替えて、政府貨幣(紙幣)の発行を提案した。政府貨幣発行なら国の借金にならない。また同じ国債の発行でも市中で消化するのではなく、この国債を日銀が購入することを提案した(既に国債の発行額の15%は日銀が保有している)。
日銀が国債を購入すれば、国は日銀に国債の利息を払うが、この利息は最終的に国庫納付金として国に戻ってくる。また国・政府が親会社とすれば、日銀は子会社である。連結決算すれば、子会社(日銀)が持つ親会社(国・政府)に対する債権(保有国債)と親会社(国・政府)の子会社(日銀)に対する債務(発行国債)は相殺される。つまり国債の日銀保有分は政府にとって実質的に借金にならない。このような政府貨幣発行や日銀による国債の購入といったセイニア−リッジ政策も有力な政策である。
また本誌は、そもそも実質的な政府の債務、つまり純債務のGDP比率が、先進諸国と遜色がないことを何度も指摘してきた。ところで齋藤進三極経済研究所代表の中央公論16年11月号に掲載された論文「預金封鎖シナリオの虚実」は、同様の主旨で日本の財政状態を解説している。そこで一昨年の暮、我々は齋藤進三極経済研究所代表を招き研究会を開催した。その様子は04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」で報告した。またこの研究会で、我々事務局は、第一勧銀総合研究所理事の山家悠紀夫(やんべゆきお)氏の『「日本の財政赤字は危機的」は大ウソ』という9年ほど前に月刊文芸春秋に掲載された論文のコピーを出席者に配布した。この論文の主旨も同じである。ちなみに山家氏は、現在、「暮らしと経済研究室」を主宰し、最近、岩波書店の「世界」3月号に「実感なき景気回復」という論文を発表されている。
OECDが各国の財政債務残高を比較する場合の基準は、債務残高から外貨準備金や社会保障基金(大半が公的年金の積立金)などの政府の金融資産額を差引いたところの純債務残高を用いる。政府の債務のGDP比率を比較する場合にも、債務はこの純債務額である。日本の場合特に債務残高ではなく純債務額を使うべきと言うのは、日本の外貨準備金や社会保障基金は他の先進各国に比べ突出して大きいからである。つまり日本政府の債務残高は一見大きく見えるが、金融資産を差引いた純債務は決して大きくない。
さらに最近、菊池英博文京学院大学教授が『増税が日本を破壊する』(ダイヤモンド社)という本を書かれ、この反響が大きい。この菊池教授も我々と同様の算出方法を使って、日本の純債務が決して大きくないことを長年主張してこられ、この新刊も同様の説明が柱になっている。ところが日本の嘘つきども(御用学者である財政学者など)は、国際比較にグロスの債務残高を用い、意識的にネットの債務残高である純債務を使わない。
作戦変更
前段で述べたように、筆者は「財政が危機だ」「財政が破綻する」という話は、作り話でありデマであるとずっと断言してきた。たしかに財政に対して正しい認識が徐々に広まっている。しかし日本は大衆社会である。大衆社会の人々はこれらのデマに簡単に踊らされている。
日本の大衆はナイーブと言おうか脅しにとても弱い。「ノストラダムスの大予言」といった荒唐無稽なアホ話を信じたのは、世界広しと言えども日本人だけであった。もっとも「ノストラダムスの大予言」の場合、1999年7月の期日もってデマということがはっきりしたのであり救いがあった。ところが「財政が危機だ」「財政が破綻する」の方は、騙す方も巧妙なのか一向にバレる様子がない。
先日、「WILL」発行者の花田氏(文芸春秋を退社後、マルコポーロという雑誌を創刊、昨年WILLを創刊)が、テレビ番組で「色々と言われているが、小泉首相の政策は支持する。日本の財政が危機的なのだから、小泉政権の政策は正しい。」と発言していた。筆者は驚き愕然とした。日本の知識人と言われている人々も、このように浅はかな大衆レベルなのである。
初めて公に財政危機が叫ばれたのは、鈴木善幸政権の1982年「財政危機宣言」である。それから日本の大衆は、24年間もずっと財政が危機と騙され続けている。ところが日本の金利水準は世界最低であり、100%そのようなことはない。当時、鈴木首相は大型間接税(消費税)導入を目論む財政当局に乗せられていたのである。ちなみに今日の日本の純債務の水準は他の先進国並と述べたが、以前はもっと健全であった。他の先進国並まで悪化したのは、橋本内閣による財政再建政策が開始された以降である。
筆者達は、これまで色々な角度から「財政が危機だ」「財政が破綻する」という話は嘘だと説明してきた。しかし残念ながら日本のような大衆社会ではこれらの説明がうまく浸透しない。むしろ一般大衆は、「借金時計」とか「国の借金はサラ金の借金と同じ」「国の借金を一万円札で重ねると富士山の何倍になる」という脅し装置や脅し文句に簡単に騙される。
大衆は扇動に弱いのである。しかしこの大衆が選挙権を持ち政治家を選んでいる。たしかに大衆に何を言ってもしょうがないからと突き放すのは簡単であるが、それでは物事が進まない。やはり誰にでも解る方法で説得を試みるべきであろう。筆者は、これまでの作戦が少し間違っていたのではないかと反省している。財政というものはあまりにも複雑であり、説明が非常に難しいテーマである。インテリと思われる人々も、こと財政に関しては、ほぼ大衆レベルの認識しかない。その財政問題を真正面から取扱ったことが間違いであったと最近考える。
そこで筆者は作戦を変えることにした。今日「財政が危機だ」と主張している人々は、考えが浅いか嘘つきである。そして彼等の嘘は財政に関してだけでないところがポイントである。
前段で取上げた「小さな政府が正しい」以下の嘘も同時についているのである。「財政が危機だ」という嘘を覆すのは困難を要するが、その他の嘘を嘘であると証明することは比較的容易と考える。題して外堀作戦である。そこで今後、本誌はシリーズで、これらの嘘を順番に暴いて行くつもりである。これらが嘘ということになれば、彼等が「嘘つき」ということになる。これによって「財政が危機だ」と言っている人々が根っからの嘘つきだと証明されれば、「財政危機」という話も嘘ということが理解されるという次第である。
以上経済コラムマガジン06/2/20(425号)より抜粋