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「経済コラムマガジン08/1/14(510号)
08年今年の景気
・昨年の予想の検証
年頭にあたり今年の日本経済の動向を取上げる。これについては日本中が非観的である。年末から株価も連日安値を更新している。しかし本誌は日本経済がずっと低調なことを指摘しており、その実態が明らかになって来ているに過ぎないと筆者は思っている。
昨年の参議院選挙で自民党は「景気回復を実感に」という空疎なスローガンを掲げ大敗を喫した。「自分達の政策が正しかったから経済は回復した」という主張が有権者から猛反発を受けたのである。政府公表の景気動向を真に受けていたマスコミも目を醒し、その後論調が変わってきた。最近は一転してマスコミが総悲観となっている。
まず昨年の年初に行った景気予想07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」http://www.adpweb.com/eco/eco464.html の検証から始める。概ね予想通りの結果となっている。と言うより日本経済の実態は、6、7年の間ずっと底を這っており、ほとんど変わっていない。つまり前年と同水準の経済状況がずっと続いている。だいたい名目GDPはほとんど変わっていないのである。つまり前年と同じと言っておれば、予想は大きく外れることはない。
しかし昨年の予想を細かく見れば、いくつか異なる結果が出ている。一番外れたのは住宅投資である。06年度は住宅投資が好調であり、新設住宅着工件数は128.5万戸を記録し、07年度もこの好調さがある程度続くものと予想した(ただし住宅の販売もいずれ頭打ちになるものと断ったが)。しかし建築基準法の改正の影響が大きく、7月から住宅着工件数が激減している(年末にかけ少し回復しているが)。このままでは07年度は100万戸を少し越えるレベルまで減りそうである。ほぼ20万戸ほど予想より減少することになる。
住宅投資を除けば、他の需要項目はほぼ予想通りの結果であった。例えば貿易・サービス収支は、年度ベースで9兆円程度の黒字である。これはここ数年の数字とほとんど変わらない(01年度の3.8兆円を除けば毎年7兆円から9兆円の黒字)。したがって住宅投資の減少分だけGDPの伸びは予想より小さくなる。
20万戸の住宅着工件数減の影響の大きさが問題である。住宅建築の経済的波及効果は大きく、家具などの新規購入を含めれば、一戸当たり3,000万円と言われている。住宅購入資金の一部が他の消費に回るとしても、これによってGDPのほぼ1%強の需要が減ることになる(政府は0.6%のGDPの押し下げと言っている)。また07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」の中で「もし一段の冷え込みがあるとしたなら5月頃と見ている」と予想したが、これより若干の遅れで経済が落込んだ可能性が高い。
また上記で昨年の為替動向の予想も行った。結論は「今年は為替が大きく変動する可能性はある。しかし中国の人民元が米ドルにまとわりついているため、急激な米ドル安・円高とは簡単にはならない。」であった。たしかに為替は円高の方向に振れたが、それほど極端な円高にはなっていない。
為替変動があれば円高と予想しており、方向としては予想通りであった。しかし円高のきっかけが米国のサブプライムローン問題とまでは考えてはいなかった。ただ円高になる条件は揃っており、いつ円高になっても不思議はないとは思っていた。
ついでに今後の為替の動向について述べる。基本的に昨年の予想と変わっていない。為替変動があるとしたなら円高である。ただし今年はユーロに対しても円高になる可能性が強い。今後、米国だけでなく欧州も金利の引下げが行われると思われ、これも円高要因となる。ただし中国の人民元の切上げのスピードは緩慢であり、この影響で円高も限定的と見ている。
・今年の景気予想
次は今年の景気予想である。しかし例年と同じように、前年の実績が繰返されると言っても大きくは外れないと見ている。とにかく日本経済はずっと名目GDPがゼロ成長という異常な事態に陥っている。ただ今年はこれまでよりさらに悪くなると考えている。
まず需要項目別では増える可能性があるものがない。消費は名目の可処分所得が増えないのだから、増えることはない。むしろ株などの資産の価格下落による逆資産効果によって消費が減ることも考えられる。また輸入物価の上昇が国内に波及して来ているので、実質消費はマイナスという事態が十分考えられる。
政府消費は若干増えるが、公共投資は減るので、財政の経済に与える影響はほぼ中立と見ている。また世界経済の動向によっては輸出企業の設備投資が抑制される可能性がある。少なくとも内需関連企業の設備投資が増えることは考えにくい。したがって設備投資は良くて前年と同程度と考えられる。
住宅投資は、昨年7月からの激減の反動で若干増えることは有り得る。しかし増えても年間110万戸程度が限界である。住宅建設は、05年度、06年度、そして07年の6月までは比較的好調に推移してきた。しかし自動車などの大型消費が減っているのに、住宅建設だけが増え続けるということは考えられない。元々筆者は、建築基準法の改正問題がなくとも、いずれは住宅投資が頭打ちになる見ていた。つまり建築基準法改正問題の反動があったとしても大きく住宅着工件数が増えることはないと考える。むしろ消費と同様に、逆資産効果の悪影響が有り得ると見ている。
前述したようにずっと貿易・サービス収支は、毎年7〜9兆円の黒字で推移している。しかし今年の見通しは難しい。まず素直に米国向けの輸出は減少すると見ている。一方、新興国や欧州への輸出の伸びが考えられるが、これがはっきり言える状況にない。新興国経済や欧州も米国への輸出に頼っている面が強い。その米国の経済の落込みがはっきりしており、このことが新興国などの経済に影響しない訳がない。
世間には米国経済が落込んでも新興国の経済は大丈夫という論調が見受けられるが、筆者はこれは間違いと考える。いずれ米国経済の低迷が新興国や欧州の経済にも波及するものと見ている。実際、既に米国の貿易赤字は小さくなっており、いずれ米国以外の国の経済にもかなりの影響があるものと考える。ただ米国経済の落込みがどこまでのものか見極めが難しい。これらを考慮すると日本の貿易・サービス収支の黒字がある程度小さくなることは避けられないと予想する。
ここまで述べて来たように、今年の日本経済の前途は暗い。住宅投資を除き、需要項目の中ではっきりと需要拡大が見込めるものがない。また最後に取上げた貿易・サービス収支の動向を読むことは難しい。サブプライム問題に端を発する米国経済の落込みの程度が分らないからである。米政府と米国連邦準備制度理事会(FRB)はこれに対して対策を考えているが、その程度とその効果が現時点では不明である。
サブプライムローン問題は一つのバブルの崩壊によって起った。しかし筆者は、サブプライムローン関連の住宅市場だけがバブルだったとは考えない。背景には世界的な金余りがあり、これによって各方面でバブルが発生していた。筆者は原油などの商品市場、M&A市場、そして新興国の株式市場にもバブルが発生していると見ている。さらにサブプライムではない住宅融資も危ないと見る。
サブプライムローンという一つのバブルの崩壊がこれらに影響しないか筆者はずっと注目している。当然、米政府と米国連邦準備制度理事会(FRB)の対応とその効果に関心がある。もし他の市場のバブルが崩壊するとなれば大変なことになる。
例年なら、日本国内の経済状況を見ておれば、景気の予想が可能であったが、今年はちょっと違う。米国経済や商品市場の動向が日本経済に大きく影響を与えると考える。これも日本経済が、実態経済も金融もグローバル化しているからであろう。
来週は今後の経済の動向を読む場合のポイントを取上げることにする。」
http://www.adpweb.com/eco/eco510.html