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12月11日のFOMCでFRBは公定歩合、FFレートをそれぞれ0.25%引き下げることを決定し、FFレートは4.25%に引き下げられた。FFレートは6月の5.25%から1%ポイント低下した。
FOMC後に発表された声明では、(1)米国経済成長が減速している、(2)金融市場の緊張がここ数週間高まった、(3)物価安定と持続的経済成長の促進のため必要に応じて措置を講じる、ことが示されると同時に、インフレリスクについて、(4)高水準のエネルギー・商品価格が、他の諸要因とともにインフレに対して上向き圧力を加える可能性がある、と表現された。
前回利下げが決定された10月31日の声明に「インフレへの上向きリスクが成長への下向きリスクとほぼ均衡すると判断している」と盛り込まれ、インフレリスクが存在するために追加利下げの可能性が後退したと見なされた。
今回声明は、金融市場の緊張と景気減速を強調しており、FRBの懸念が経済の下方リスクにシフトしたことが明らかになった。利下げの票決は9対1だったが、反対票は0.5%幅での利下げを求めるものだった。追加利下げの可能性を強く示唆する声明になった。
0.5%幅の利下げではなく0.25%幅の利下げになったのは、12月7日発表の11月雇用統計で、非農業部門の雇用者が9.4万人増と事前予想を上回り、時間当たり賃金上昇率が前月比0.5%上昇と高い伸びを示し、FRBがインフレ心理の悪化を警戒したためと考えられる。
米国株式市場は利下げ幅が小さかったことに失望し、12月11日、NYダウは前日比294ドル急落した。翌日の12月12日、米国、欧州など5つの主要銀行は、各国の短期金融市場に大量の資金を供給する緊急声明を発表した。サブプライムローン問題が拡大し、年末資金調達への不安感増大に対応して、異例の措置が取られた。
12月12日のNY株式市場では、寄り付き直後にNYダウが前日比271ドル上昇したが、米国大手銀行のサブプライム関連損失計上が発表され、NYダウは前日比41ドル高で引けた。
金融市場の動揺に対してFRBの幹部は最近、「柔軟な」政策対応の重要性をたびたび強調している。FRBが金融緩和をさらに進展させる意思を有していることの表明と受け止められるが、金融市場のインフレ心理が再び強まる気配を示しており、FRBの対応は一段と困難な状況に追い込まれつつある。
12月13日発表の米国11月卸売物価指数は、季節調整後前月比+3.2%、前年比+7.2%の上昇、食品・エネルギーを除く指数は季節調整後前月比+0.4%、前年比+2.0%の上昇を示した。前月比3.2%の上昇は1973年8月以来、34年3ヵ月ぶりの高いものである。
12月14日発表の米国11月消費者物価指数は、季節調整後前月比+0.8%、前年比+4.3%の上昇、食品・エネルギーを除く指数は季節調整後前月比+0.3%、前年比+2.3%の上昇を示した。前月比0.8%の上昇は06年6月以来、1年5ヵ月ぶりの高いものである。
コア指数の上昇率が消費者物価指数、卸売物価指数ともに0.2%上昇を超えたことで、FRBは金融市場のインフレ懸念にも配慮せざるをえなくなった。インフレ心理が強まるなかで利下げを進めれば、ドルそのものに対する信認が低下して、資本の海外逃避を招いてしまうからだ。ドルからの資本逃避が生じれば、ドル安、NY株安、NY債券安の、いわゆる「ドル暴落」図式が表面化する懸念が生じる。FRBは慎重にならざるをえない。
NYダウは本年7月19日に14,000ドルの史上最高値を記録した。8月に入り、サブプライムローン問題に関連した巨額損失などが明らかになって、NYダウは8月16日に12,845ドルに下落した。
FRBは8月17日、9月18日に利下げを決定した。株価は大幅に反発し、NYダウは10月9日に14,164ドルの史上最高値を記録した。しかし、その後にサブプライムローン問題の影響深刻化が懸念され、10月31日の追加利下げにもかかわらず、NYダウは11月26日に12,743ドルに下落した。
その後、シティグループの資本増強策が発表され、FRBから「柔軟な」金融政策の方針が示されて、NYダウは12月10日に13,727ドルまで反発した。しかし、12月11日の利下げ幅が0.25%ポイントにとどまったことから株価は反落し、NYダウは12月14日に13,339ドルに達している。
NYダウが下落を続け、終値で12,743ドルを下回ると、チャート上は「三尊天井型」の株価ピークアウトが示されることになる。チャート上の問題ではあるが、米国株価の下落基調への転換がより強く警戒されることになる。インフレ懸念の浮上により、FRBの利下げに制約が生じるなかで、危機回避に向けてどのような政策対応が示されるか、十分な考察が必要である。
日本経済の先行きに黄信号が灯り始めた。10月の鉱工業生産指数は季節調整後指数が112.2と史上最高値を記録し、企業の2007年度設備投資計画も2006年度並みの高い伸びを示している。
しかし、12月3日発表の2007年7-9月期の法人企業統計では、企業の経常利益と設備投資の減少が示された。また、GDP統計においては2007年度も名目成長率が実質成長率を下回る「名実逆転」が持続する見通しである。
12月10日発表の景気ウォッチャー調査では、現状判断指数が38.8と景況感の分岐点とされる50を大幅に下回った。11月30日発表の10月の住宅着工件数も年率85.1万戸と前年比35.0%の減少を記録した。12月11日発表の11月の消費動向調査では、消費者態度指数が39.8と2003年12月以来、約4年ぶりの低水準を記録した。
12月14日発表の日銀短観2007年12月調査では、大企業の業況判断DIが製造業で9月調査のプラス23からプラス19に、非製造業でプラス20からプラス16に低下した。先行き3月見通しは製造業、非製造業ともにプラス15となり、業況悪化が持続する見通しが示された。
中小企業の業況判断は、製造業で9月調査の+1から+2へと小幅改善、非製造業で-10から-12へ小幅悪化が示された。中小企業の業況は低迷が続いてきたが、先行きも改善が見込めないことが明らかになった。
今週、国内では19日(水)、20日(木)に日銀の政策決定会合が開かれる。利上げの可能性は完全に消失しているが、これまで利上げを主張してきた水野委員が提案を撤回するかが注目される。米国では18日(火)に11月住宅着工件数、着工許可件数、21日(金)に11月米個人所得・消費支出・PCE価格指数が発表される。
FRB関係者の発言機会としては、19日(水)にラッカー・リッチモンド連銀総裁の講演が予定されている。FRBの追加利下げがインフレ懸念で制約を受けることに対する懸念が強まっており、21日(金)のPCE価格指数が注目される。
国内政治では、臨時国会の会期が来年1月15日まで31日間再延長されることが決まった。新給油法(新テロ特措法)案を衆議院の3分の2以上の多数で再可決し、成立させるために延長が決められた。
野党は参議院で法案を否決する見通しだ。政府、与党は衆議院での圧倒的多数を活用して再可決する方針を固めたが、民意を軽視した判断と言わざるをえない。もっとも直近の民意は本年7月の参議院選挙結果に表れている。参議院選挙では与党が大敗している。衆議院の議席数は2005年9月の郵政民営化選挙の結果生まれたもので、現政権の政策方針を反映したものでない。
野党が福田首相の問責決議を可決することは正当であり、問責決議が可決されたなら、福田政権は総辞職ないし解散総選挙を決定するべきだ。「21世紀臨調」は衆議院での再議決を肯定する見解を提示したが、こうした第三者機関が政治権力に傾斜していることが問題である。
私は「21世紀臨調」の前身である「政治臨調」の政治部会の主査を務めていたが、小泉政権に対する批判的意見を述べ続けたために解任された。本来、中立、公正の立場から見識を表明すべきこうした機関までが、政治権力によってコントロールされているところに日本政治の本質的な危機が表れている。
福田政権は野党の問責決議を無視して、衆議院の解散総選挙を来年夏のサミット後まで先延ばししようとしているが、民意を無視した政権運営がまかり通るとは考えられない。安倍晋三前首相は参議院選挙で示された民意を無視して首相を続投しようとした。憲法では認められた選択ではあったが、民意を無視した方針は挫折した。
日本政治はこれまでの官僚主権・対米隷属国家から脱却できるかどうかの天王山を目前に控えている。民主党は総選挙を通じる政権交代の王道から外れることなく、次期総選挙での必勝の戦術を固めなければならない。福田首相の問責決議が可決されれば、早晩、解散総選挙に突入せざるをえなくなると考えておくべきだ。野党勝利による政権交代を実現させることが、日本の「真の改革」につながることを再認識しなければならない。
2007年12月17日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀