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「経済コラムマガジン07/12/17(509号)
・サブプライム問題の根源
・常軌を逸した為替介入
米国のサブプライム問題や原油などの一次産品の高騰の背景には「金余り」がある。そしてその「金余り」を引き起した張本人が日本政府と筆者は考えている。一年で50兆円、特に03年度の末にかけては短期間のうちに35兆円という大量の為替介入を行った(その米ドルで米国国債を大量に買った)。また日銀にゼロ金利という異常な金利政策を長期間やむなく強いたのも、日本政府の経済政策の過ちが原因である。このため日本から米国始め海外に資金がどんどん流れ続けた。
まずこの常軌を逸した為替介入に関してはいくつか不思議なことがある。それを説明するため先週号の表を再び使う。
米国での「金余り」現象(暦年ベース、CRB先物とNY原油は年平均)
FF金利,10年国債,CRB先物,NY原油,外貨準備高,為替レート
96年, 5.25, ー, 247.94, 22.03, 2,194, 112.85
97年, 5.50, ー, 241.90, 20.61, 2,236, 122.70
98年, 4.75, 4.65, 212.92, 14.40, 2,225, 128.02
99年, 5.50, 6.43, 194.78, 19.30, 3,055, 111.56
00年, 6.50, 5.10, 220.15, 30.25, 3,615, 110.45
01年, 1.75, 5.02, 205.97, 25.95, 4,015, 124.86
02年, 1.25, 3.81, 211.22, 26.15, 4,952, 121.94
03年, 1.00, 4.25, 241.88, 30.89, 8,286, 119.15
04年, 2.25, 4.22, 275.33, 41.47, 8,377, 107.49
05年, 4.25, 4.38, 310.12, 56.70, 8,520, 113.26
06年, 5.25, 4.70, 328.85, 66.25, 9,090, 116.89
07年6月, 5.25, 5.02, 314.32, 67.53, 9,136, 122.62
07年9月, 4.75, 4.59, 323.89, 79.63, 9,456, 115.02
直 近, 4.50, 4.47, 354.29, 98.18, 9,545, 111.21
まず02年が121.94円、03年が119.15と日本政府が大量に為替介入を行った時の為替水準が、決して円高ではなかったという事実を指摘する。むしろ為替介入の終了後の04年の方が少し円高に振れている。つまり何のための為替介入だったのかわけが分らないのである。
二つ目の不思議なことは、政府・日銀の大量為替介入に対して、米国政府が沈黙を守ったことである。以前にも日本は円高に際して何回となく為替介入を行ったが、金額はせいぜい10兆円くらいなものである。しかしよほどの円高でもない限り、為替介入に対して米国政府は良い顔をしなかった。つまり日本は米国政府の顔色を窺いながら為替介入を行って来たのが実情である。
米国の高官が黙認した理由をいくつか挙げることができる。日本が大量の為替介入を行った時期が、米国が金融緩和から金融引締めに政策転換する微妙な頃であったことがまず挙げられる。米国内には「金融引締めに転換すべき」という意見に対して、一方に「もっと金融緩和を続けるべき」という声も当然あったと推測される。つまり金融に関して米国内の意見がまだ統一されていない時期の、どさくさまぎれの為替介入だったと言える。
もちろんブッシュ大統領と小泉首相の仲というものを無視する訳には行かない。特に米国はイラク攻撃を前にして、同盟国日本に非難めいたことは言いたくなかったと考えられる。また日本の大量為替介入が終了すると同時に米国のイラク攻撃が始まったことが注目される。これに関して、日本が為替介入という形をとって米国にイラク戦争の戦費を送ったという意見がある。しかし筆者はこれは考え過ぎと思う。戦費にしては金額が大き過ぎる。
・「プライマリーバランスの回復」の呪縛
筆者は、もちろんこの大量の為替介入は日本側の都合と考えている。もっと正確に言えば、小泉政権を支えるためと理解している。小泉政権は、「財政出動をしなくとも景気は良くなる」という作り話を実現するためにあらゆる事をやった。常軌を逸した為替介入はその一つである。
為替介入は財務省が行う。財務官僚が、財政再建路線を鮮明にしている小泉政権を助けるために自主的にこれを行ったという推理がある。一方、小泉政権の側から財務省に大きな圧力をかけて、大量の為替介入を行わせたという説も考えられる。特に当時の財務大臣は塩川氏であり、氏の選挙地盤は東大阪市であった。中小企業が集まるこの地域は、当時、中国への生産拠点移転の脅威にさらされていた。少しの円高でも阻止したいところであった。
しかし筆者は、この為替介入の一番の理由は、03年に行われる自民党総裁選のためと考えている。小泉政権は経済に無策であった。財政は決して言われているほど緊縮型ではないが中途半端なものであった。国内の金融機関の不良債権問題や同時テロによる米国経済の停滞を受け、日本国内の経済は低迷を続けていた。小泉再選が危ぶまれていた時期である。
小泉政権は、財政出動する代わりに、大量の為替介入を行い(購買力を海外に移転し日本の外需依存経済を助ける)、さらに日銀にゼロ金利政策を継続させた。特に日銀の当座預金残高を35兆円も積上げるような超金融緩和政策を採らせた。ところがこの資金は、日本国内ではほとんど使われることがなく、結果的にはどんどん米国など海外に流れたのである。
筆者は、景気が低迷している時に日銀が金融緩和を行うのは当然と考える。しかしそれには政府の財政政策が伴うことが条件である。財政を緊縮型にしているのに、金融だけを緩和するというのは辻褄が合わない。特に小泉政権時代は金融が超緩和であった。ところが日銀というところは奇妙なところであり、小渕政権の時には政府が積極財政を展開しているのに、金融引締めに走ろうとして政府とぶつかったことがある。
財政が緊縮型にしているのに、金融だけを超緩和にすれば、どこかに矛盾が現われる。20年前のバブル経済の時には土地投機に資金が大量に流れた。意外と思われるかもしれないが、バブル経済時には表面的に一般会計は赤字であったが、政府部門全体では大きな黒字を計上していた(年金などの特別会計が大幅に黒字)。ところが円高不況を克服するため、過度に金融緩和に頼ったからバブルが発生したのである。
今回は長くゼロ金利政策を続け、大量の為替介入を行ったが、日本国内ではバブルはほとんど発生しなかった(都心の一部にミニバブルは発生したが)。その代わり大量の資金が米国に流れ、サブプライムローンなどのバブルを生んだものと考えられる。
緊縮財政を維持しながら、金融を超緩和にするといった奇妙な経済政策の根底には、財政再建達成という目標がある。この場合の財政再建は「プライマリーバランスの回復」という形で捉えられている。しかし筆者はこの「プライマリーバランスの回復」という呪縛に捕われている限り、日本経済は地獄を見ると考えている(既に見ているとも言える)。
ところで筆者は財政赤字問題を決して無視していない。むしろプライマリーバランスを重視する人々は、財政を「静態的」に見ており、これこそが問題と考えている。一方、筆者は財政を「動態的」に見るべきと言いたい。財政を「動態的」に見れば、名目GDPに対する政府の純債務額の比率が問題になる。したがって一時的に財政赤字を増やしても、名目GDPがそれ以上の比率で増えれば問題はないと筆者は考える。むしろ財政に関しては、このような見方が世界の標準である。
サブプライム問題発生などによって、グリーンスパン前FRB議長を責める声が大きくなっている。それに対して、最近、グリーンスパン氏は「米金融当局が出来ることには限度があった。金融のグローバル化の進展が当局の政策を阻害していた。」と弁明している。筆者もグリーンスパン氏の意見に賛成である。
FF金利の推移を見る限り、米国連邦準備制度理事会(FRB)はやれることはやっているのである。異常なのは長期金利の動きの方である。日本や中国、そして産油国から大量の資金が流れて来ては、グリーンスパン氏の指摘のようにまともな金融政策の結果は得られない。とりわけ先頭を切って米国に資金を流出させた日本の責任は重いと筆者は考える(関係者にはその自覚はないかもしれないが)。
新年は1月14日号からです。それでは皆様良いお年を! 」