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似て非なるギャンブルと投資 = 経済羅針盤
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投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 12 月 05 日 21:23:56: mY9T/8MdR98ug
 

http://markets.nikkei.co.jp/column/rashin/article.aspx?site=MARKET&genre=q4&id=MMMAq4000003122007

 11月26日、年末恒例のジャンボ宝くじの発売が開始され、全国で最も当たりくじが出ると評判の高い売り場では売り出し前から約1000人が並ぶほどの人気となった。しかも同じ売り場でもかつて何度も1等を出したといわれる特定の窓口だけに購入者が殺到したとのことである。このような光景は、私のように投資運用業に身を置く者からみると実に不思議である。宝くじはギャンブルの一種だが、こういったギャンブルと投資は似て非なるものである。

 今年の年末ジャンボ宝くじは1等前後賞あわせて3億円と大型となっている。しかし総販売金額2220億円に対し配当総額が1050億円であるから配当率は47%強と実に期待投資回収額は半分以下である。しかも300本近くあるという1億円以上の宝くじが当たる確率は3000万枚に1枚でしかない。

ギャンブルの配当率

 こういったギャンブルで100賭けたときの期待配当値を表にまとめた。どれも胴元の取り分があるから、100以上の配当は望めない。宝くじは47で他と比較しても割りが合わないが、配当が100に近いからといって何度も繰り返せば同じことだ。ルーレットを例に取ろう。ここでは0、00、1〜36まで全部で38通りの目が出るアメリカンスタイルを想定している。親の取り分となる目は0と00の2通りで、胴元の収入は38分の2、つまり100に対して5.26だ。ギャンブラーの取り分は38分の36で同94.7、1回の賭けにとどまっていれば元手100のうち95は手元に残る。しかし、2分ごとに盤を回すテーブルで1時間粘るとどうか。2回目は0.947×0.947=0.897。元手は89.7になる。これを30回繰り返す(38分の36を30乗する)と0.198、元手は最初の5分の1弱に目減りする計算だ。

100賭けた時のギャンブルの期待配当値
  宝くじ   47
  公営競技   75
  ルーレット   95
  スロットマシーン   96
  パチンコ   97
  ブラックジャック   96〜102

ツキの正体

 ギャンブルでは、時折、自分にはツキがあると主張する人を見かける。そもそもツキとはなんなのであろうか?典型的なのは予想が難しい事象を連続して当てた場合などよくツキがあるというのだろう。私は以前このコラムで、ミスリーディングな証券勧誘方法例として以下のような方法を紹介したことがある。

 『見込み客1万6000人のリストを作りすべての人にある銘柄、たとえばソニー株とすれば、翌週ソニー株が上がるか下がるかを予測するはがきを出す。1万6000人のうち8000人のはがきにはソニー株が上がると書き、残りの8000人のはがきにはソニー株が下がると書く。その次の週には、株価動向が当たった方の顧客にだけ同様のはがきを、4000人には上がると予測したはがきを出し、残りの4000人には下がると予測したはがきを出す。これを5回繰り返すと500人の見込み客は5週にわたって毎週株価動向を当てることが出来たはがきをもらうことになる。そしてその段階でコールドコール(突然見知らぬ人に電話すること)をして顧客勧誘を行う。』

 これは証券会社の勧誘戦略としての話であるが、これを1万6千人が参加する丁半ばくちだとしたら500人は5回連続であてるのでツキがあるということになる。しかし実際はこの例でわかるように確率的には十分起こりえることなのであり、全体に焦点を当てるか一部に焦点を当てるのかの差なのである。つまりツキの正体とは統計的に起こりえる事象のひとつであると結論づけることができる。

ギャンブルの必勝法と大数の法則

 一方で自分には必勝法があるという人もいるかもしれない。ギャンブルの必勝法としてよく知られているのがマーティンデイル法、俗に言う倍追い法である。これはたとえばコインの裏表を賭けるギャンブルで最初に100円を表に賭けて負けたら次に200円を賭けるという風に勝つまで掛け金を倍掛けするものである。勝った時点で常に100円の儲けとなる。仮に3回目までに勝つ確率は100%から3回連続で負ける確率を引いた確率であるので、100%−(1/2)^3=87.5%の確率(編集部注:^3は3乗を示す)で勝てることになる。仮に7回までの勝つ確率は99%になり回数を重ねることに勝つ確率は限りなく100%に近くなる。しかし一方で掛け金は倍々増となり7回目の掛け金は6400円、それに負けた場合の累計損失は1万2700円となる。つまりこのゲームは回数を増すことにより勝つ確率のスピードが増す一方で損失額も飛躍的に増え結果的に100円しか勝たないゲームに終わるのである。問題は勝つ確率のスピードは増すが決してゼロにはならないこと、そして資金量は無尽蔵ではないことである。カジノではこういった賭け方をするお客を絶好のカモとみているらしい。この例に限らずどの必勝法も統計的には意味をもたない。

投資へのインプリケーション

 以上のようにギャンブルが全体として勝つことができないゲームであると言い切れるのは第一に期待値がマイナスであること、第二に大数の法則により、その結果は期待値に一致するためである。大数の法則とは『個々の事象の予想は無理でも十分に多くの試行がなされるなら全体の分布はかなり正確に予測される』という数学の定理である。

 一方で、これを読み替えれば期待値がプラスになるようなギャンブルにて十分に大きな試行がなされれば、かなりの確率でプラスの収益が期待できることになる。これはまさに投資そのものである。株式投資で考えてみよう。株式投資では、短期の投資は必ずしもプラスにならないが長期投資の収益率はプラスになる確率が高いといえる。なぜなら第一に期待値そのものがプラスであるからである。これは考えてみればあたりまえなのだが営利団体である企業は儲かるビジネスを選択的に行いその結果企業を存続されるような努力を続けるのでその企業の所有権である株式の価値の期待値はプラスとなるはずである。第二に日々の株価はランダムウォークであるといわれる(つまり日々で独立である)が長期投資は日々の独立した賭けを何度も繰り返すことと同じであり、長期投資により十分大きな試行が繰り返されるのと同じ効果となる。

 冒頭、ギャンブルと投資は似て非なるものと述べたが実はメカニズムは全く同じであるが、期待値がプラスかマイナスかが異なるのである。たださらに重要な違いは、その目的なのではないだろうか。投資はあくまでも元本を増やすことを目的とするのに対し、ギャンブルは一種の娯楽である。そういう意味では期待値がマイナスだからといってもギャンブルにもそれなりの意義はあるのだろう。しかし投資においてはギャンブルのような期待値がプラスとならないような投資は避けたいものである。

(ピムコジャパン社長・高野真氏 寄稿)


 

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