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【ユーロ独歩高の真相】ドル余りの影響に大人の対応---(日経NB-online)
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投稿者 梵天 日時 2007 年 12 月 05 日 18:53:51: 5Wg35UoGiwUNk
 

出展 http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20071203/142167/?P=1&ST=sp_fp

【ユーロ独歩高の真相】ドル余りの影響に大人の対応---(日経NB-online)
2007年12月5日 水曜日 本多 秀俊

 「ユーロはドルに対してどこまで上昇するのですか」

 これは為替ストラテジストとして昨今、よく聞かれる質問だ。この夏の米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題を端緒とするクレジット危機が広がる以前から、個人的には「年内に1ユーロ=1.40ドル、来年3月までには1.43ドルもある」と見込んでいた。しかし、クレジット危機の余波で予想以上に急速にドル安が進行、既にユーロ・ドルレートは1ユーロ1.50ドルに迫る水準にまで上昇してしまった。

 最近では、同じ質問に対して、「中国の人民元の動向次第でしょう」と答えるようにしている。どういうことか。答えは単純で、既にユーロ圏の経済は、対ドルでの競争力を問題にしていないということだ。


○拡大するユーロ圏の対中貿易赤字

 今現在、ユーロ圏の首脳たちが最も気にかけているのは、対人民元でのユーロ水準ではなかろうか。下のグラフは人民元の対ドル、対ユーロ相場の推移を示したものだ。年初来、人民元は対ドルで約5.5%上昇しているが、対ユーロでは6.0%超下落している。ユーロ高・人民元安などを反映し、今年8月末までのユーロ圏の対中貿易赤字額は、前年比25%拡大し700億ユーロにも達している。

 それでもユーロ・人民元相場は、まだ2004年末の高値である1ユーロ=11.3人民元水準を越えてはいない。11月末にユーロ圏首脳が次々に中国を訪れ、中国側から「為替水準の極端な変動を回避し、不均衡な状況から均整の取れた調整に貢献する」との約束を取りつけた。

 この約束はユーロ・人民元の史上最高値更新を回避するための強い意思表示と、取れるのではないか。市場の一部では「中国の外貨準備がドルからユーロに移転することを、少なくとも当面は減速させる」との言質と解釈していた。


○ドル安は歴史の必然

 話をユーロ高ドル安に戻すと、そもそも現在のドル安の伏線として、1997年のロシア危機とそれに伴うLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)危機から世界経済が立ち直る過程で、米国を中心に発展したIT(情報技術)ブームと「強いドル政策」がもたらしたドル経済への資金集中は、決定的に重要だった。

 1990年代末から2000年初頭にかけ、世界経済は、米国の消費を唯一最大の成長エンジンとして拡大してきたと言って過言ではないだろう。その結果、積み上がった米国の経常赤字を、不均衡と呼ぼうが、過剰流動性と呼ぼうが、その実態が世界中にばらまかれたドルであることは疑いようもない。

 そうして積み上がったドル資産が、「ドル余り」ゆえに急激な値崩れを招くのは、世界中の誰一人望むことではないだろう。そうした事態を回避するために、さらなるドル資産の膨張(=米経常赤字の拡大)を食い止めるのは世界経済の最優先課題であり、緩やかなドル安誘導による「米購買力の抑制」と「米製品の競争力向上」はその最も有効な手段と言える。

いわば現在進行中のドル安は、本質的には「ドル余り」という需給を的確に反映した値動きではあっても、ドル大暴落に対する危機意識が促した、抑制の効いた自国通貨高への誘導ととらえることができる。より大きな混乱を回避するための小さな犠牲を進んで払う、極めて理性的で「大人の」判断が誘導したドル安と言うことができよう。


○「大人の」ユーロ圏

 現在まで進行してきた「大人の」ドル安の中でも、大人の中の大人の対応をしてきたのは、取りも直さずユーロ圏だろう。ユーロ圏がドル安の裏返しとしてユーロ高を飲み込んできた背景には、経済の安定的な成長と政策金利の上昇基調といった要因のほかにも、大量に出回るドルに代わって、莫大な資金を市場に取り込めるだけの「規模のメリット」とでも言うべき巨大な流動性があった。

 しかし、さすがにユーロ圏にも、「不均衡是正のためのドル安負担を、なんで我々が一手に背負わなければならないのか」との不満は渦巻いている。不均衡の是正のために生まれた、「ユーロの独歩高」という新たな不公平を解消する方法は単純に2つあろう。1つはユーロの対ドルでの上昇を抑制、反転させることであり、もう1つは他の通貨がユーロと歩調を合わせて対ドルで上昇することだ。

 一部の急進派を除くユーロ圏首脳が選んだのは後者の道だったようだ。中国に対する人民元高誘導も、裏はともかく、表舞台では時機をとらえてやんわりと要請されているように見える。最近、中東諸国経由でロンドンを訪れたとある日本人エコノミストが、非常に興味深い土産話を運んでくれた。「一部の中東産油国に対して、IMF(国際通貨基金)だけでなくECB(欧州中央銀行)も、各国の経済統計整備を指導、援助している」というのだ。


○均整の取れた世界経済発展のために

 通貨バスケット制の導入と運用には、実効為替レートを算出するための貿易統計の分析や、実質為替レートを算出するための物価統計の分析など、高度なマクロ経済統計の整備が不可欠である。しかし、湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国の中でも、今すぐ通貨バスケット制を導入できるだけの自国の統計が整備されているのは、既にバスケット通貨制を採用しているクウェート1カ国だけだというのだ。

 欧州中銀にすれば、これ以上ドル安の負担をユーロ圏1極で背負い込まされるのはたまらない、産油国にもドル安の負担を分け合ってもらいたい、ということだろう。そのためには、通貨バスケット制導入に向けた体制整備にも助力を惜しまず、一刻も早く通貨制度の柔軟性を高めてもらおうというわけだ。こうしたユーロ圏通貨当局の姿勢は、いたずらに相手国の通貨制度の硬直性を非難したり、その経済統計の未整備を嘆いたりすることと比べて、やはり、「大人の」態度と言えるのではなかろうか。

 21世紀の金融商品、金融システムは経済活動における「国境」の意味を著しく低いものに変えたように感じる。そうして密接に結びつき、複雑に絡み合った、新しい時代の金融世界にあっては、自国の利益だけをなりふり構わず守りに走るような行為が世界経済の均衡を崩し、巡り巡って自らに思いがけないしわ寄せを呼び込みかねない。今後は、自国の利益を最大限保護するためにも、均整の取れた世界経済の発展という「大人の」視点を持つことが不可欠となるのだろう。

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