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http://www.uekusa-tri.co.jp/column/index.html
私は、10月24日付本コラムで、「10−12月期については、内外の株式市場に対して警戒感を強める必要が高まったと判断する」と記述した。理由として、(1)米国住宅市場調整の米国経済全体への影響が10−12月期に強く表れる可能性が高いこと、(2)原油価格高騰によってインフレ懸念が残存し、FRBによる金利引下げ政策が制約を受けること、(3)中国株式市場における株価調整が近い将来に予想されること、をあげた。詳細を『金利為替株価特報2007年10月22日号=053号』に記述した。
日経平均株価は10月末には17,000円水準にあったが、11月入り後に急落し、11月21日には14,837円まで下落した。10月11日終値の17,458円から2,621円、15.0%の下落となった。本年7月から8月にかけても株価が急落した。7月9日の18,261円から、8月17日の15,273円まで2,988円、16.4%の下落だった。今回の下落幅、下落率は7-8月の下落局面に接近している。
米国のサブプライムローン問題の余波が世界の金融市場を動揺させている。金融機関に巨額損失が生まれ、株価が下落し、実体経済活動にも影響が及ぶことが懸念されている。原油価格の高騰が続き、FRBの利下げが今後制約を受けることも懸念要因だ。
アジアでは、2007年後半にかけて、中国やインドで急激に株価が上昇した。しかし、中国ではインフレ率が上昇し、景気に過熱感が強まり、また、不動産価格にもバブル的状況が強まりつつある。アジア市場の調整が米国市場の調整と重なることも警戒されている。
11月20日、10月30、31日のFOMCの議事録が公表された。FRBは8、9、10月と利下げを機動的に実行してきた。8月17日に公定歩合を0.5%ポイント引き下げ、9月18日にFFレートを0.5%ポイント、10月31日にはFFレートをさらに0.25%ポイント引き下げた。FFレートは5.25%から4.5%まで低下した。
FRBはこれまで年2回公表してきた経済と物価の見通しを、年4回公表することとし、今回から見通しの対象期間を従来の2年から3年に拡大した。 今回の見通しでは、2008年のGDP成長率(2008年第4四半期GDPの対前年比伸び率)が本年6月段階の2.5−2.75%から1.8−2.5%に下方修正された。2009年成長率は2.3−2.7%とされた。PCEコア価格指数上昇率は、2007年が1.8−1.9%、2008年が1.7−1.9%、2009年が1.6−1.9%とされた。
物価安定に対する自信が示された一方で、2008年の経済成長率が大幅に下方修正された。10月31日のFOMC後の声明では、「物価上昇と景気減速のリスクはほぼ同等になった」と表現されたが、FRBの警戒感が物価から景気に、やや傾いていることが推察される。 議事録は「多くのメンバーは利下げ決定が「きわどい」ものだったと認識している」と伝えた。利下げは全会一致ではなく、9対1の多数決だった。原油価格高騰、ドル安進行が利下げの制約要因になっていると考えられる。 次回FOMCは12月11日に開催される。追加利下げが決定されるかが当面の市場の関心事になる。金利先物市場では、11月20日以降、0.25%の追加利下げが織り込まれている。
金融市場は弱気心理に包まれているが、わずかひと月前に、米国株価は史上最高値を更新したばかりである。株価が急落すると、市場が楽観論に包まれていた事実まで忘れて悲観一色に染められるが、市場心理とはそれほど移ろいやすいものである。基幹をなす経済の動向を洞察しなければならない。 サブプライムローン問題に伴う金融機関の損失は巨額だが、情報開示が極めて迅速であることは特筆に値する。問題を隠蔽せず、積極的に損失処理を完了させることは、悪材料を出し尽くすうえでプラスである。現状で、問題の最終的な帰着点を安易に楽観視することはできないが、過度に悲観視することにも慎重であるべきと考える。
米国消費市場はクリスマス商戦に突入する。個人消費の減速の程度が重要である。11月20日に発表された10月米国住宅着工件数は122.9万戸だった。8ヵ月ぶりに増加したが、住宅着工許可件数は117.8万戸と、1993年7月以来の低水準になった。前年同月比では住宅着工が-16.4%、着工許可が-24.5%を記録した。住宅着工許可件数は住宅投資の先行指標であり、住宅投資の先行き減少が警戒される。
11月16日発表の10月の米国鉱工業生産指数は季節調整後で前月比0.5%減少した。また、11月19日発表の全米企業エコノミスト協会による米国経済見通しでは、10-12月期の実質GDP成長率が9月時点見通しの2.5%から1.5%に下方修正された。米国経済の減速の程度が問題だが、見通しは米国経済成長率が2008年1-3月期以降に持ち直して、追加利下げなしに景気後退が回避されると予測している。
NYダウは10月9日に史上最高値14,164ドルを記録した。その後、9月住宅着工件数の急減、米国大手金融機関の巨額損失表面化などを受けて反落し、11月21日に12,799ドルまで下落した。10月9日終値の14,164ドルと比較して1,365ドル低いが、下落率は9.6%だ。2006年10月にNYダウが史上最高値を更新するまでの高値は11,722ドルであった。この水準を依然として1,077ドルも上回っている。 市場のリズムから判断して、いったん株価が反発する可能性も念頭に入れておくべきだろう。クリスマス消費、住宅投資、住宅価格、FRBの政策対応、金融機関の損失状況、原油価格などを慎重に見極めることが必要だ。
欧州では、10月のユーロ圏13ヵ国のインフレ率が2.6%となり、ECB(欧州中央銀行)の政策目標である「2%未満」を2ヵ月連続で上回った。しかし、ECB理事会は11月8日、政策金利を5ヵ月連続で4.0%に据え置いた。米国のサブプライムローン問題に端を発する金融市場の動揺に配慮したものと考えられる。 ECBのトリシェ総裁は、原油、商品、食品価格の上昇がインフレリスクをもたらしており、中央銀行はインフレ期待の抑制と物価安定の実現に焦点をあてるべきだと指摘しているが、米国のサブプライムローン問題に対する警戒感が強まり、EUの経済成長率見通しが下方修正されているため、ECBは短期金利を現行水準にしばらく据え置く可能性が高い。
今週、国内では26日(月)に経済財政諮問会議が開催され、公共投資改革と2008年度予算編成の基本方針(原案)が示される。28日(水)に10月小売売上、29日(木)に10月鉱工業生産速報、30(金)に11月東京、10月全国消費者物価指数、10月家計調査、10月失業率、10月有効求人倍率、10月住宅着工件数、10月大手建設受注が発表される。
海外では、26日(月)にトリシェECB総裁がインド、ムンバイで講演、27日(火)に米国9月S&Pケース・シラー米住宅価格指数、11月米消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)が発表され、プロッサー・フィラデルフィア連銀総裁、エバンズ・シカゴ連銀総裁が講演する。28日(水)には、米国10月耐久財受注、10月米中古住宅販売、米地区連銀経済報告(ベージュブック)が発表され、フィッシャー・ダラス連銀総裁の講演が予定されている。29日(木)には米国第3四半期GDP改定値、米国10月新築1戸建て住宅販売、30日(金)に2007年第3四半期ユーロ圏GDP改定値、11月ユーロ圏消費者物価指数、米国10月個人所得・消費支出、11月米シカゴ地区購買部協会景気指数、米国10月建設支出が発表され、ブロッサー・フィラデルフィア連銀総裁挨拶、プール・セントルイス連銀総裁講演が予定されている。
国内政局では、給油新法案に対して民主党をはじめとする野党が反対の意思を表明しており、福田首相が国会の会期を延長し、衆議院の3分の2の多数を活用して法律成立を強行するかに焦点が絞られつつある。直近国政選挙による民意は参議院の議席に示されており、野党が多数を確保している。衆議院の議席は2005年9月の郵政民営化選挙によって定まったもので、参議院の議決を覆して給油新法を成立させる正当性の根拠は極めて希薄である。福田政権が衆議院の多数を活用して給油新法の成立を強行するなら、野党は福田首相の問責決議を可決することになるだろう。国民の意思を尊重するなら、野党は問責決議を可決する責務を負っているとも言える。
その場合、解散総選挙となる可能性が極めて高い。2月に総選挙が実施される可能性が高くなる。「日本国民の日本国民による日本国民のための政府」を樹立する最後のチャンスが到来する。日本の真の構造改革は政権交代を通じてしか実現し得ない。自民党政治は官僚支配の構造と表裏一体をなしている。官僚支配の日本の統治構造を根本から変革するためには、政権交代が不可欠なのだ。財務省による日銀支配を排除するうえで、次期日銀総裁人事で財務省からの天下りを断ち切ることも極めて重要だ。
民主党は野党共闘を強固にすると同時に、次期総選挙に向けて全身全霊の闘いに突入すべきである。米国に支配され、米国に隷属する現在の政治を根本から修正する最大のチャンスを確実に生かさなければならない。決戦の時が刻々と近づいている。
2007年11月26日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀