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2007/11/22(木)08:08
11月初めには100ドルに迫りながらもその後は小康状態が続いていた原油価格が再び反発に転じています。日本時間21日にはNYMEXの時間外で行われる電子取引市場で中心限月が99ドルを突破する場面が見られました。この原油価格の反発の一因として考えられるのがOPECのドル離れの可能性です。
去る17日〜18日にかけて、OPECはリヤドで総会を開催しました。これまでOPEC総会が開催された時に最も注目されていたのはOPECが原油生産に対してどのような姿勢を見せるのか、ということでした。特に今回の総会は90ドル以上という原油価格の高騰に加え、北半球が石油の需要期を迎えているため、OPECの生産動向に対する関心も高かったように思われます。
しかしながら、3回目の首脳会議となった今回の総会でOPECは、生産体制については“安定した供給に努める”と言及するにとどめる一方で、ドル安への対応策についての話し合いを進めました。今回話し合われたのは、“通貨バスケット制度”を採用することでドルの比重を低下させる案で、ドル建てでの取引から完全に離れるわけではありません。しかしながら、以前から浮上していたOPECのドル離れの動きが現実になるのではないか、との観測が現実味を帯びてきたの認識を強めておりその動向が注目されているのです。
OPECのドル離れ観測がこれまで何度も浮上していたのは、原油価格の上昇によりGCC(湾岸協力会議)加盟国が石油輸出によって得るドル建ての外貨は増加する一方であるものの、これらの国々にとって主な輸入相手は欧州諸国であるため、ドルがユーロに対して下落すればこれらGCC諸国にとって欧州から輸入を行う際に得た収入が目減りすることが主な根拠となっています。
OPECが発表している年次報告であるOPEC Statistical Bulletinによると、2006年度のOPEC諸国の石油輸出収入は6,494億5,700万ドル(推定)。そのうちGCCに加盟しているサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールの石油輸出収入だけを見ても、GCC加盟国6カ国の2006年度GDP(IMF発表)が約7,178億ドルであるのに対し、3,424億8,900万ドルに達しています。外貨獲得の大半を石油輸出に依然としているこれら産油国の間でドル安に対する反発が強まることは想像に難くありません。
なお、世界最大の石油輸出国であるサウジアラビアを例として挙げると、SAMA(サウジアラビア通貨庁)の報告では2006年時点における外貨準備のうち259億7,100万ドルだった同国の外貨保有高は今年9月時点では300億ドルを突破していることが明らかにされています。
一方、ドルの通貨価値の下落がもたらしているのは石油輸出収入の実質的な下落だけではありません。ドル建ての原油価格が上昇するにつれ、産油国内の金余り現象が加速し、国内でインフレが進行しているのです。
前述のサウジアラビア通貨庁の発表によると、今年8月時点の消費者物価指数は(1999年=100)、総合で106.3となっています。2006年末時点では101.8だったため8ヶ月で4.5%上昇したことになります。ただ、そのうち衣料品、家具、通信費、教育費はこの数年に渡り100を割り込む状況が続いていることを考慮すると、食料品、エネルギー、医療、その他の分野でのインフレが急激に進行していることが窺われるのです。
このように国内でインフレが進行している場合、通常ならば金利を引き上げることで物価上昇の沈静化を図ります。しかしながら、自国の通貨とドルとの価値を連動させたペッグ制を採用しているサウジアラビアを初めとする湾岸諸国にとって、通貨の均等な価値を維持するためには米国に合わせて金利を変動させる必要があるのです。国内経済を優先すれば利上げが必要ですがドルとの関係を重視するならば利下げが必要、というジレンマが生じていることもこれら産油国のドル離れを促す可能性があると思われます。
なお、通貨バスケット制度が採用されれば石油取引において必要とされるドルの規模も恒常的に低下することになります。一次産品としては世界最大の取引規模を誇る石油市場におけるドルの必要性の低下はドルの先行きに対する懸念を深めています。ドルの通貨としての価値に対する懸念が産油国のドル離れの動きを促し、これが金融市場でドルに対する信認の揺らぎを強めた結果、更にドル安が進行する。そして、これを受けてドル建てでの原油価格が上昇する、というスパイラルを描いているのが現状と考えられます。