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原油ドル建て表示の時代は終わる?  【田中宇の国際ニュース解説】
http://www.asyura2.com/07/hasan53/msg/612.html
投稿者 愚民党 日時 2007 年 11 月 21 日 12:02:19: ogcGl0q1DMbpk
 

田中宇の国際ニュース解説 2007年11月20日 http://tanakanews.com/

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★原油ドル建て表示の時代は終わる?
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 サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、
バーレーンという「湾岸諸国会議」(GCC)を構成する6つのペルシャ湾岸
産油国は、合計で世界の石油の22%を産出している。だがその一方で6カ国
は、軍事的に弱く、安全保障をアメリカに頼らざるを得ない。6カ国は、アメ
リカに守ってもらう代わりに、通貨をドルに連動(ペッグ)させ、石油を売っ
て貯めた巨額の資産をドル建てにしてアメリカで運用し、金融面でアメリカを
支えてきた。(クウェートは今年5月にドルペッグをやめた)

 最近のドル安で、通貨をドルペッグしている湾岸諸国ではインフレがひどく
なっている。湾岸ではユーロ圏からの輸入が多く、インフレに拍車がかかって
いる。アメリカは不況に突入しそうで利下げを繰り返しているが、湾岸諸国で
は景気が過熱しており、本来は利上げが必要だ。だが、通貨をドルにペッグし
ている以上、アメリカが利下げしたら湾岸5カ国も利下げしないと、5カ国の
通貨が過剰に買われ、ペッグが外れてしまう。

 しかし、インフレのことを考えると、連動利下げは無理だ。9月以降、湾岸
5カ国は、アメリカの利下げに連動できず、IMFに叱責されている。すでに
クウェートは今年5月、インフレに耐えられなくなってドルペッグをやめた。
http://www.fnarena.com/index2.cfm?type=dsp_newsitem&n=E92D539F-17A4-1130-F5904C1416839340

 湾岸諸国のドルペッグは大きな矛盾を抱えている。しかし、すぐ近くのイラ
クでは戦争が続き、戦争はイランやレバノンといった他の周辺国にも飛び火し
そうな勢いで、アメリカ離れを意味するドルペッグ停止に踏み切ることは、安
全保障上、得策でない。そのため湾岸諸国は、矛盾を抱えつつも、ドルペッグ
を今後も維持し、ドル安が進んだら通貨切り上げで対応するだろうというのが
欧米マスコミの見方だった。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=ajymGmbnhYnA

 しかし、11月17−18日にサウジアラビアの首都リヤドに世界の産油諸
国が集まって開かれたOPEC(石油輸出国機構)のサミット会議を機に、湾
岸諸国のドルペッグの将来展望が急転換しそうな流れが、にわかに始まっている。

▼湾岸共通通貨で石油価格を表示する

 OPECのサミットでは、世界を揺るがす議論が展開された。最近のドル崩
壊を背景に、反米的なイランとベネズエラの代表が「ドルは紙くずに近づいて
いるのだから、原油価格をドル建てで表示するのはもう止めて、代わりに(ド
ルやユーロ、円、ポンドなど)各種通貨を混合した通貨バスケットで原油価格
を表示するよう、制度を変えるべきだ」と主張した。イランとベネズエラは
「問題なのは原油価格が高騰ではなく、ドルの下落だ。アメリカが引き起こし
たドル安こそが問題だと、今回のOPECの共同声明で明確に表明すべきだ」
とも主張した。
http://www.abcnews.go.com/print?id=3883287

 これに対し、親米で慎重派のサウジアラビアは「われわれが共同声明の中で、
ドル安について議論したと認めただけで、ドル相場が崩壊し、良くない結果を
生む」と反論し、ドル安懸念を共同声明に盛り込むことを阻止した。とはいえ
サウジは、原油価格の中心をドル建てから通貨バスケット建てに移行する案に
ついて、12月5日にアブダビで開かれる予定の次回のOPECサミット会議
までに蔵相会議を開き、詳しく検討することに同意した。
http://www.reuters.com/article/ousiv/idUSL1828894320071118

 原油価格をドル建てではなく「通貨バスケット建て」で表示するというのは、
具体的にどのようなことなのか。詳しい説明はなされていない。しかし、12月
5日の次回OPECサミットの前日、12月3−4日に、湾岸諸国(GCC)
6カ国のサミットが開かれ、そこで6カ国が採ってきたドルペッグ制の見直し
が行われるということと関連して考えると、OPECとGCCで何が構想され
ているのか見えてくる。

 12月3−4日のGCCサミットでは、ドルペッグを維持して対ドル為替の
切り上げだけを行うか、もしくはクウェートが今年5月に行ったようにドルペ
ッグをやめて、代わりにドルやユーロ、円、ポンドなど各種通貨を混合した通
貨バスケットに対するペッグに切り替えるかという選択肢について検討し、決
定する。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aAgPeUTXul9Q

 GCCは従来、6カ国がドルペッグを維持したまま、2010年には通貨統
合するという構想を持っていた。もし12月3−4日のGCCサミットで、
GCC6カ国の通貨をドルペッグから通貨バスケットへのペッグに変えること
が決まった場合、GCCは通貨バスケットに対するペッグを維持して2010年
に通貨統合するという構想に切り替えることになりそうだ。そして、12月5日
のOPECサミットでは、今後の原油価格は、通貨バスケットにペッグして
いるGCCの共通通貨建てで表示する新制度について検討することになる。

 これまで原油の国際価格は、ドル建て一本だった。そこにOPECが「GCC
共通通貨建て」の価格を導入することは、ドルが戦後60年間持っていた国際
決済通貨としての地位を失うことを意味する。この地位喪失は、世界各国が
ドルを備蓄通貨として保有してきた従来の習慣を縮小させ、各国は米国債を買
ったりドル建てで対米投資したりする額を減らすことになり、ドル下落に拍車
をかけ、アメリカの金融相場は下落し、米国債は買い手が減って金利が上がる。

▼切り上げかバスケット化か

 このようなアメリカの大損害を考えると、GCC諸国のドルペッグ停止をア
メリカが容認するはずがなく、OPECが原油価格のドル建て表示を止めるこ
とにもアメリカから圧力がかかって実現せず、イランやベネズエラの反米的な
指導者たちによる犬の遠吠えに終わる、とも考えられる。

 しかし一方で、湾岸諸国はドルペッグをもう維持できなくなっていることも
事実である。アメリカの連銀は12月11日の次回会合(FOMC)で追加利
下げをする可能性があるが、アメリカで追加利下げが実施されても、湾岸諸国
はインフレがひどいので追随する利下げを実施できない。ますます、ペッグの
維持は難しくなる。

 アラブ首長国連邦の中央銀行総裁は、日韓などを訪問中の先週末、ドルペッ
グを通貨バスケットへのペッグに切り替えることを検討していることを明らか
にした。米大手証券会社メリルリンチは、アラブ首長国連邦とカタールは半年
以内にドルペッグをやめるか、ペッグを維持しても通貨を切り上げるだろうと
予測している。サウジアラビアの通貨リヤルの先物相場の動向からは、市場参
加者が、サウジも切り上げかドルペッグ離脱のどちらかを行うと考えているこ
とがうかがえる。
http://biz.thestar.com.my/news/story.asp?file=/2007/11/20/business/19520706&sec=business

 米経済雑誌フォーブスは、一度だけ集団で通貨の対ドル切り上げをやっては
どうかと湾岸諸国に勧めている。12月3−4日のGCCサミットでは、ドル
ペッグを通貨バスケットペッグに切り替えるのではなく、ドルペッグを維持し
て集団切り上げを行うことが選択されるかもしれない。
http://www.albawaba.com/en/countries/UAE/219078

 しかし、アメリカの金融危機は日に日に悪化し、連銀は金融機関を救うため
ドルを大増刷しており、世界的なインフレは今後もっとひどくなりそうだ。ド
ル相場の下落が続くことはほぼ確実だ。湾岸諸国が通貨の対ドル切り上げをや
っても、その効果は短期間しか持たない。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=ajymGmbnhYnA

 今後半年ぐらいの間に、湾岸通貨は通貨バスケットへのペッグに切り替わり、
OPECは湾岸通貨建て(最初はサウジ・リヤル、いずれは湾岸統合通貨)で
の原油価格の表示を開始するという、イランがOPEC会議で主張した展開が
あり得る。ドルが下落する中で、OPECが湾岸通貨建ての原油価格の表示を
開始することは、悪循環的にドル下落に拍車をかけ、ドルが原油価格の中心的
な値付けである状態を終わらせる。

 これは、従来の常識からすると「あり得ない」話である、しかし、私がふだ
ん接している米英のマスコミや分析者の記事を総合すると、今後2−3カ月ぐ
らいの間に、アメリカの経済と金融、ドルの状態は、急速に悪化していくだろ
うと強く感じる。状況が好転する兆しは全くない。湾岸諸国がドル離れを希望
するのは当然である。
http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=10134118

▼ドル離れを黙認するアメリカ

 常識的に考えると、アメリカはGCCやOPECのドル離れを許さないと思
われるが、現実の展開を見ると、実はアメリカは産油国のドル離れを容認して
いる。アメリカの影響下にある国際機関であるIMFやG7が昨年春、世界的
な不均衡(アメリカの巨額な経常赤字)を解消するため、湾岸産油国と東アジ
ア(中国と日本)に、各地域の地域通貨を作ってドル離れを進めるよう求めた
からである。
http://tanakanews.com/g0502IMF.htm

 以前の記事( http://tanakanews.com/071106dollar.htm )に書いたが、ア
メリカは自国通貨が唯一の国際決済通貨だったことで、世界経済の成長を維持
するため、米国民に無理に消費させたり、財政赤字を増やしたりといった負担
を強いられてきた。その負担はもう限界なので、ユーロのほか、新たに富を蓄
積している湾岸産油国と中国(と日本)に、地域的な基軸通貨を新設してほし
いと、アメリカは求めている。

 湾岸産油国も日中も、負担増がいやなので、アメリカの求めに応じていない
が、今回のドルペッグ危機を機に、湾岸諸国がドル離れし、通貨バスケットと
いう形で独自の共通通貨を作る動きを見せていることは、アメリカにとって好
ましいことである。米政府は表向き「強いドルが望ましい」と言いつつ、その
一方で「ドルの動きは市場に任せる」と言って、ドル崩壊を黙認している。

 こうしたアメリカの態度は、私から見るとまさに「隠れ多極主義」であるが、
常識的に考えると、アメリカがドル崩壊を黙認するのは理解しにくい。湾岸諸
国の盟主であるサウジアラビアは、どう対処すべきか迷っているに違いない。
サウジ王室は、一方では911事件で濡れ衣を着せられて敵視された教訓から、
反米的な言動を慎み、米政界ににらまれないようにする戦略を採っている。

 だが同時に、昨年来のドル弱体化の局面では、アメリカ(G7やIMF)か
ら「ドル離れ」を勧められている。ドル下落の中で、ドル離れが必要になって
いるが、ドル離れの勧めは「わな」かもしれず、ドル離れを実施したら、アメ
リカからどんな制裁を受けるかわからないという懸念もある。

 こうしたジレンマを回避するため、サウジアラビアは今回のOPEC会議で、
イランとベネズエラという反米連合に、あえて言いたい放題に言わせ、反米連
合がドル離れを提唱することを黙認した。

▼「技術的な手違い」で世界に報じさせる

 OPECのサミット会議は非公開なので、会議の中でイランやベネズエラが
いくら反米的なことを言っても、そのままでは世界のマスコミに報じられない。
だが、11月17日にサウジの首都リヤドで開かれたOPEC会議では「技術
的な手違い」によって、議場の画像と音声が30分間にわたり、インターコン
チネンタルホテルのマスコミの控え室のモニターに実況中継されてしまうとい
うハプニングが起きた。

 手違いの実況中継があった30分間はちょうど、イランとベネズエラの石油
担当相が、OPECの原油価格設定をドル建てから通貨バスケット建てに切り
替えるべきだと提案し「この会議の終了時の共同声明に、問題はドル安だと盛
り込むべきだ」と主張し、それに対してサウジの外相が「会議でドルの問題が
論じられたと記者団に言っただけで、ドルは崩壊してしまうので、共同声明に
入れるのはダメだ」と反論するという、今回の会議の議論の中で最も世界を揺
るがす部分だった。

 ちょうど記者控え室にいたロイターなどの記者は、モニターに映っているの
が非公開のはずのサミット会議の熱い議論であると知って驚き、議論の内容が
「ドルの崩壊懸念」であることにさらに驚きつつ、必死にメモを取り、ロイタ
ーは記事として速報した。30分後、速報が世界を駆けめぐっていることを
OPEC事務局が知り、警備員を記者控え室に急派してモニターの線を引っこ
抜いた。
http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,2212899,00.html

 この一件は「手違いによる事故」とされて終わったが、私はむしろ、産油国
がドル安を懸念していることを意図的に世界に流すため、OPEC会議主催者
のサウジアラビアが作った仕掛けだったのではないかと疑っている。OPEC
がドル安を懸念していることを世界に知らせ、それを受けて米政府がどう反応
するかを見極め、ドルペッグを外すかどうかの判断材料にしたのではないか。
ドル安を懸念する声は「正式表明」ではなく「手違い」で漏れた話なので、
サウジはアメリカから敵視されにくい。

 もしアメリカが、ドルペッグを外すことを黙認する姿勢を見せるなら、その
後のサウジは、イランとベネズエラに引っ張られるかたちで「やむなく」ドル
ペッグを外し、原油価格の表示もドル建てから変えていく、というシナリオが
予測される。日本のことわざに「牛に引かれて善光寺参り」というのがあるが、
サウジの戦略はそれと同じで「イランに引かれてドル離れ」である。ことわざ
と少し違う点は、サウジはイランに引っ張られるふりをして、実は意識的にド
ル離れを画策していることだ。

(広辞苑によると「牛に引かれて善光寺参り」は、長野の善光寺の近くの不信
強欲の老婆が、さらしておいた布を隣家の牛が角にかけて走ったのを追い、知
らぬうちに善光寺に駆け込んで霊場であることを知り、後生を願うに至ったと
いう伝説。ほかのことに誘われて偶然よい方に導かれること)

 私が見るところ「牛に引かれて善光寺」を演じる戦略は、実はアメリカのチ
ェイニー副大統領やネオコンが元祖である。「イランやロシアを反米の方向に
努力させ、アメリカは悪を演じつづけ、その結果として世界を多極化する」と
いう「隠れ多極化戦略」である。多くの人は「アメリカが自滅したがるはずが
ない」と思っているので、私の逆説的な分析はほとんど理解されていないが、
親米だったサウジがドル離れを起こすことは、チェイニーらの多極化戦略が成
功しつつあることを示している。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/071120oildollar.htm


★音声訳
http://studio-m.or.tv/index.html



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