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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071119/140997/
Ben Steverman (BusinessWeek誌、投資欄記者)
米国時間2007年11月8日更新 「The Upshot of the Dollar's Fall」
11月7日、米ドルが史上最安値まで下落したきっかけは中国要人の非公式発言だった。
だが、外国為替市場はそう単純な世界ではない。物事は常に額面どおりとは限らない。ドルが紙くずのように売り叩かれることは、米国の誇りと威信を傷つけるようにも思える。だが、米国の消費者、労働者、企業にとっては歓迎すべき面もある。
以下に、今回のドル安と向き合うための重要ポイントを挙げる。
(1)ドルにとって11月7日は正真正銘の歴史的な節目
ここ数年、ドルはユーロに対して、史上最安値記録を塗り替え続けてきた。とはいえユーロは1999年に導入された“新顔”であり、それほど驚くことはない。
だが、「11月7日は、ドルにとって正真正銘の歴史的な節目だ」と米ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのマーク・チャンドラー主席為替ストラテジストは指摘する。「1995年春に、旧ドイツマルクに対してつけた史上最安値(1ユーロ=1.455〜1.457ドルに相当)を割り込んだからだ」。
同日、ドルは1ユーロ=1.473ドルの最安値をつけた後、やや押し戻し、0.57%安の1.4641ドルで取引を終えている。
(2)非公式な発言は傾聴の価値なし
ドルの急落のきっかけとなったのは、中国中央銀行の高官らの発言だった。「中国は外貨準備1兆4000億ドルのうち、ドル建ての保有高をほかの通貨建てに分散していくだろう」との発言が報じられたのだ。
チャンドラー氏は反論する。「こういった高官の発言を深刻に受け止めるべきでない。彼らの権限などたかがしれている。ミルウォーキー市長がイラクでの紛争についてコメントするようなものだ」。
中国をはじめとするアジア諸国の中央銀行が外貨準備を分散保有しつつあるというのは、既に大方の見方だった。だが、中央銀行が必ずしもドルを売っているとは限らない。ユーロを買い増すことによっても分散は可能だからだ。
「(発言の)捉え方の問題だ」とチャンドラー氏は言う。中国高官の発言は、「市場参加者に対して、彼らがやりたいことをやる口実を与えた」にすぎない。
「政治的な意図も幾分感じられる」と、米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の欧州エコノミスト、ジャン・ミッシェル・シス氏は指摘する。中国は米国の人民元切り上げ要求を先延ばしにしている(S&Pはビジネスウィーク同様、ザ・マグロウヒル・カンパニーズの事業部門である)。
問題となった先の発言と同じ場で、別の中国高官から「ドルは世界通貨としての地位を失いつつある」という発言もあったと報じられている。しかしこの意見を裏づける証拠は少ないとチャンドラー氏は言う。ドルの価値が下がろうと、原油や小麦といったコモディティーの取引通貨が全世界で米ドルであることに変わりはない。米国債も安全な資金の逃避先として、世界中の投資家から人気を集めている。実際、11月7日に米国債は値上がりした。
(3)ではなぜドルは下落したのか?
経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を見てみよう。資金はより大きな見返りを求め、国境を越えて移動する。したがって、好景気が期待される市場の通貨は高くなり、景気の後退が懸念される市場の通貨は安くなるのだ。
こうした景気の強弱は、債券の利回りや金利に反映される。米ファースト・アメリカン・ファンズの首席エコノミスト、キース・ヘンブレ氏は次のように説明する。
「現在、債券市場は、米連邦準備理事会(FRB)が今後数カ月中にさらに利下げを行うと睨んでいるようだ。つまり、市場も米国景気が相当減速すると予想している。投資家がドルを売り、もっと大きな見返りが得られるほかの通貨に乗り換えるのは当然だ」
(4)ドルの下落は続くのか?
この問いに答えるのは難しいが、「市場は多くの悪材料を織り込み済みだ」とヘンブレ氏は言う。つまり、米国経済に対する債券市場の期待度は既に相当低いため、これ以上の下落は考えにくいということだ。
チャンドラー氏は「年内はドルの下落が続き、反発は翌年になる」としている。
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのアンドリュー・バーナード国際経済学部教授は、短期的に通貨がどう動くかを予想するのは非常に難しいと念を押したうえで、「米国経済が再び好転し始めるまで」ドルの回復はないと見る。
(5)ドル安は一部に打撃を与えるものの、米国経済にはプラスになる面も
米国人海外旅行者にとって、ドル安は迷惑な話だ。米国を顧客とする外国の輸出企業にとっても同じことだ。
しかし一方で、「ドル安は米国経済成長の刺激剤となり得る」とヘンブレ氏は言う。例えば、米国の輸出製品は他国市場での競争力を増す。輸出が急増すれば貿易赤字は縮小し、経済成長の“足かせ”がなくなる。ドイツ銀行(DB)のエコノミスト、カール・リカドンナ氏はそう分析する。
ドル安は雇用にもプラスに働く。多国籍企業は、比較的賃金の安い米国の労働者を雇うだろう。投資家が割安な米国で“掘り出し物”を物色する機会も増える。
(6)大きなリスク要因はインフレとエネルギーコスト
ドルが下がれば、当然ながら輸入品は高価になり、物価を押し上げる。今のところ、専門家の多くはドル安がインフレを誘発する予兆はないと言う。「無論、少しはインフレ圧力となっている。だが、米国経済はあまりに巨大で、競争が激しいため、大半の企業は値上げできない」とバーナード教授は言う。
とはいえ、ドル安で痛手を受ける分野が1つある。コモディティー価格だ。原油価格は1バレル100ドル目前にまで高騰している。米国経済の成長を妨げる可能性大だ。かたや欧州はそれほど打撃を受けないだろう。価値が高まっているユーロで決済するからだ。
物価が上昇すれば、FRBは特別な課題を突きつけられる。インフレ懸念が出てくれば、利下げによって経済成長を促す政策が取りにくくなる。
(7)各国政府は事態が深刻化しない限り介入しない
各国中央銀行は、意外なほどドル安を冷静に捉えているようだ。ドルが暴落しない限り、各国金融当局者の(外国為替)市場介入はないというのが大方の関係者の見方だ。中央銀行は暴落が起こればすぐに介入に踏み切るだろうが、そうでなければ静観の構えと見られている。
(8)周期はいずれ巡り来る
目下のところ、FRBは金利を低めに誘導しており、米国経済は減速しそうだ。来年にはこうした利下げが報われ、景気が持ち直すとの予想が大勢を占めている。一方、欧州などの中央銀行は、自国経済を活性化するため、利下げに動く可能性がある。
このシナリオでは、ドルは上昇を、ユーロは下落を始める。S&Pのエコノミスト、シス氏は、「来年中頃には、1ユーロ=1.52〜1.53ドルまで下落。これが底となり、2009年の初めには1.45〜1.40ドルまで戻す」と予想する。
いかなる状況でも、ドルが大きく反発することはしばらくなさそうだ。米国人は「米国の輸出が好調を維持できるのは、ドル安のおかげ」と念じながら、傷ついた自尊心を癒やさなければならないだろう。
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