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http://www.nikkeibp.co.jp/news/flash/552312.html
経済アナリスト 森永 卓郎氏
2007年11月19日
11月12日、東京株式市場で日経平均株価が一時1万5000円を割った。今回の株価急落の原因は何かといえば、それは円高にあると言って間違いない。円レートの推移のグラフを引っくり返すと、ほぼ日経平均株価の推移に重なるというほど、両者は連携して動いている。
今回の円高は、ある程度進んだところでいったん収束と思われるが、今後も円高の動きは波状的に押し寄せてくることだろう。なぜなら、これは単なる円高ではなくてドル安に起因しているからだ。
最近までの1ドル115円というレートは、10年前とほぼ変わっていない。ところが、その間、日米での物価上昇率には年3%ほどの格差があり、おおざっぱに言ってこれが10年続いた。つまり、3割ほど円が過小評価されていると言っていい。その格差を元に戻そうとするために、今年に入って何度かの円高ドル安現象が起きたのだと考えられる。
ちょうど地震の起きる原因が、プレートのひずみを元に戻そうとする力にあるのと同じように、円とドルの為替レートが本来のところに戻ろうとする圧力は常にかかっていたのである。今回もまた大地震にはなりそうにもないものの、ちょっとしたきっかけが、1ドルが90円を割り込むようなドル暴落という大地震を引き起こす可能性があることは、頭に入れておいたほうがいいだろう。
そうした可能性を考えてみると、今回とくに深刻に思えるのは、米国経済全体に対する信任が揺らいできたことだ。
既に盛んに報道されているのでご存じのことと思うが、サブプライムローンとは低所得者層向けの住宅ローンのことで、審査が甘い代わりに利息が高い。最初の2年は安く抑えられているが、3年後には10〜18%というサラ金並みの利率になってしまうのだ。
その仕組みを使って、日本でいえば年収200万円台の人たちに、プール付きの豪華な家を買わせてしまったのである。支払い能力を考えれば、常識ではありえないことである。
それでも、住宅価格が上がっているうちはよかった。担保価値が上がったことで新たな借金をしてもいいし、信用力が高まることで低利のローンへの借り換えもできる。しかし、住宅価格低下でそうした逃げ道がなくなり、次々に差し押さえになってしまったのだ。
シティグループでは7〜9月期に65億ドルの評価損を計上したが、サブプライムローンを組み込んだ債務担保証券(CDO)のその後の急激な値下がりで、10〜12月期には、さらに80億〜110億ドルの損失を計上する見通しだという。
つまり、サブプライムローン問題は終わった問題ではなく、今後さらにひどくなる問題なのである。しかも一時的な資金繰りの問題ではなく、返済能力のない低所得者に融資をしていた構造的問題なのだから、短期的に解決することは期待できない。そこに金利引き上げが半年は続くことも加わって、当分の間、事態がよくなることはないだろう。
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は、今年7月の時点で「サブプライムローン問題での損失は、最大限で1000億ドル」と述べていたが、11月8日の議会証言で「1500億ドルの損失になる」と、わずか4カ月で5割増しとなってしまった。このあたりは、不良債権問題で日本の政府関係者が答弁していたのとそっくりである。
サブプライムローンを組み込んだ債務担保証券の発行総額は100兆円から110兆円というから、最終的に何十兆円という単位の損失が出てくる可能性はあるだろう。
それにしても、ムーディーズやスタンダード&プアーズといった格付け機関は何をしていたのか。彼らは、日本国債をシングルAの評価にしておきながら、サブプライムローンを組み込んだ債務担保証券の一部に対してトリプルAと評価していたのである。いったい彼らはどこに目をつけていたのだろうか。
今後、米国の住宅価格はますます下落していくことは間違いない。10年で価格が2倍になったバブル状態に比べて、まだ昨年秋のピーク時から1割ほどしか下落していないからだ。そして不動産価格が下がったら、銀行が中堅所得者向けに融資したプライムローンにも、大きな損失が発生することになるだろう。
じつは、日本の住宅ローンと違って米国の住宅ローンは「ノンリコースローン」という形態をとっている。日本では震災で家がつぶれようが、不動産価格が暴落しようが、借金は借金である。家がなくなっても借りた金を返し続けなければならない。しかし、米国の場合は、簡単に言うと家を返せば借金は帳消しになるという仕組みだ。
ということは、住宅価格が本格的に下落して、プライムローン利用者が片っ端から家を売りに出されたらどうなるか。これは大変なことになる。
いま、サブプライムローンで売りに出された家を、オークションで半額ほどの値段で買い集めている人が多いという。安いと思って投資目的で買っているのだろうが、その行く先はどうなるのか。日本のバブル崩壊時にも似たようなことがあった。
そして、もっと恐いのが米国の信用が低下して投資資金が逃げ出すことだ。
これまで、米国が経常収支で100兆円もの赤字を出しながら、順調に成長を続けてきたのも、赤字を穴埋めするだけの投資資金が日本や中国から入ってきたからである。もし、それが引き上げられると、とたんに資金繰りがつかなくなってしまう。ちょうど、1997年のアジア金融危機におけるタイや韓国と同じ状況だ。
では、そんな可能性はあるのか。さきほども書いたように、格付け機関は一部の債務担保証券に対してトリプルAの評価を下していたが、その証券が3割も下落したのである。これには怒って当然、これをきっかけにして投資資金を引き上げる動きが加速されていくと思われる。
現状では幸か不幸か、多額の投資をしている日本の高齢者がまだ動いていないが、この資金が引き上げに入ったらドルは暴落するだろう。もしそうなると、米国経済は輸入なしでは維持できない体制なので、ひどいインフレになって経済はガタガタになる。すると、米国に輸出している日本のメーカーも多大な影響を受けることは間違いない。
米国経済の危機は、けっして対岸の火事ではないのだ。
景気動向指数には一致指数と先行指数があり、先行指数には景気動向を占うものとして注目されているのはご存じの方も多いだろう。この指数には、景気に敏感に反応する指標として、新規求人数や東証の株価指数などを採用しており、それぞれの数字を3カ月前と比較して、拡大を示している指数がどれだけあるか、その割合を表したものだ。
内閣府が11月6日に発表した9月の速報値によれば、その数字はなんとゼロ%だった。先行指標に選ばれている12の指標のうち、速報段階で明らかになった10の指標のすべてが悪化していたのである。
速報段階の先行指数がゼロになったのは、バブル崩壊直後の1991年10月以来、16年ぶりのことだ。当時と同じ現象がマーケットで起きているのである。しかも、突発的に起きた話ではなく、原油価格や穀物の高騰で弱っているところに、こうした数字が出てきた。
ところが、日銀や政府の認識はあきれるほど超楽観的である。
日銀の福井俊彦総裁は記者会見で、展望リポートに記された「今年度よりも来年度の経済成長が加速するとみている」という標準シナリオを変えるつもりはないと明言。「日銀政策委員会のなかで、この経済状況を踏まえて、景気見通しを下方修正した政策委員はただの一人もいない」と自信たっぷりに述べた。もう絶句するしかない。
一方、大田弘子経済財政政策担当大臣は、2007年7−9月期のGDPが年率換算2.6%になったことを受けて、「これで、景気が拡大基調にあるという政府の景気認識は正しいと証明された」と語っている。
この人も何を言っているのか。マーケットでは、4−6月期が大幅に落ち込んだために、7−9月期がその反動で上がったというのが共通した認識だ。10−12月期はまた落ちるというのがほとんどの人の見方である。
なかでも、一番の大きなリスクは福井総裁である。レームダックに陥った福井総裁が、いきなり利上げを強行する可能性もなくはない。そんなことになったら、日本経済はとんでもないことになり、年度内に平均株価1万3000円台もありうる。
もっとも、救いなのは福井総裁の任期が3月までだということだ。その後にまともな総裁が就任して金融緩和してくれれば、日本経済が致命傷を負うことはない。日本の経済は本質的には傷んでいるわけではないからだ。少なくとも、年収200万円台の人間がプール付きの家をローンで買うというインチキな経済体制にはなっていない。
そして、いまこそが国内投資のチャンスだとわたしは思っている。現在、国債の流通利回りと東証の配当利回りが逆転している。もし1万3000円台に突入すれば、株を買う絶好のチャンスである。
またサブプライムローンの下落から来る連想によって、不動産投信のJリート(J-REIT)が劇的に落ちて、利回りも3%台になっているのも狙い目だ。資産を運用したい人には千載一遇のチャンスかもしれない。