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「経済コラムマガジン07/11/19(505号)
・金融当局の敗北
・バブルの輪
本誌は07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」( http://adpweb.com/eco/eco505.html )の最後で「米国のサブプライムローン問題に端を発した市場の動揺が続いている。市場が落着くまでにはもう少し時間がかかりそうだ。欧米企業の7〜9月の決算が出る来月には、サブプライムローン問題の影響の見極めができると考える。」と述べた。
今日、主要国の金融機関の7〜9月の決算がほぼ出た。そしてサブプライム問題関連の損失は、事前の予想を上回っているだけでなく、この問題の波紋が想像以上に大きい。とうとうメリルリンチのように、大きな損出を出した責任を取ってCEO(最高経営責任者)が交代したところも出てきた。
サブプライム問題の「鍵」は、この問題がどこまで波及するかである。たしかにサブプライム問題そのものの影響はある程度分かって来たと筆者は思う。しかし先週号まで述べたように、サブプライム問題の背景には「金余り」がある。サブプライム問題は、この「金余り」の一つの徒花であるが、徒花がこれに限っているとはとうてい思えない。
日本のバブル経済では、土地だけでなく、株やゴルフ会員券などが高騰、バブル崩壊と共にこれらの価格も暴落した。一種のバブルの輪である。これと同様に米国を中心に「金余り」を背景とした別のバブルが発生していたと考えられる。サブプライムローンほどの杜撰さがないため、今のところそれほど表面化していないに過ぎないと筆者は考えている。
例えばバブルっぽいものの一つがM&A市場である。大型の企業買収案件に投資ファンドが巨額な資金を簡単に出してきた。ミタルという歴史も技術力もない会社が、度重なる合併で瞬く間に世界一の製鉄会社になった。これもミタルが投資ファンドから買収資金を容易に調達できたからである。日本の老舗大手製鉄会社の方が、ミタルの買収攻勢に恐れおののいているほどである。
欠陥エレベータで有名になったシンドラー社も、合併に次ぐ合併で巨大になった企業の一つである。しかしサブプライム問題の発生によって、M&A資金の調達が非常に難しくなり、大型のM&Aはほとんどゼロになった。今後、M&Aだけで巨大化した大企業が、思い通りには収益を上げられないケースや、最悪破綻する事例が出てくると筆者は見ている。そうなればM&A市場のバブル崩壊という事態にも繋がりかねない。
筆者は新興国の証券市場の隆盛もバブルと見ている。先進国に比べ新興国の経済成長率は大きい。たしかに経済成長の高い国に資金は集まりやすい。さらに欧米の機関投資家は今後も新興国市場への投資を増やす意向である。
しかし新興国の株価も既に高水準に達していると見られる。だいたい新興国の市場の規模は小さい。その小さな市場に米国を始め、各国から資金が大量に流入しているのである。中国の証券市場は海外からの資金流入を制限している。しかし中国の株価は連日高値を更新してきた。とうとう上海市場の時価総額が東京市場を上回るほどに膨れ上がっている。
・商品市場のバブル化
前段でサブプライムローン以外の「金余り」によるバブルの徴候を取上げた。サブプライム市場は崩壊したが、その他のものがどうなるかは今後の問題である。しかしこれらについても暗い影が忍び寄っていると筆者は感じている。その一つは米国の貿易赤字が縮小していることである。これもサブプライム問題の発生に伴う米ドルの下落が影響している。
これまで米国が大きな貿易赤字を続けることによって、世界の経済が成立っていた面がある。しかしさらに米ドル安が進み、米国の国内産業が競争力を持てば話は変わってくる。例えば米国への輸出に頼る中国経済にも当然影響はある。ただでさえサブプライム問題で米国の住宅建築は減少しており、中国の米国への最大の輸出品である家具(最大の輸出品はテレビなどの電化製品ではない)の輸出に打撃が有ると見られる。
米国の金融当局(FRB)はインフレを警戒するということでずっと利上げを続けてきた。しかしこれはサブプライムローン関連のバブルの崩壊を目指していたとは考えられない。住宅価格が異常に上昇していたので、せいぜいこの上昇率を穏やかなものにするくらいは考えていたかもしれない。
サブプライムローン市場が崩壊し、続けて債券市場が暴落することまでは想定していなかったと思われる。サブプライム問題が表面化した後、前FRB議長のグリーンスパン氏は「ヒスパニック移民の人々が始めて住宅を購入できるということは、決して悪いことではない・・・」と述べている。つまり連続した政策金利の引上げは、決してサブプライムローン関連のバブルを潰すことが目的ではなかったと見て取れる。
筆者は、金融当局(FRB)の利上げのターゲットは商品市場と考えている。原油を始め、一次産品の価格の高騰が激しい。いずれこの影響が国内物価にも跳ね返って来るものと思われる。これらの価格は市場で決まるが、この市場に大量の投機マネーが流入している。
例えば原油価格は異常な水準で推移している。以前は、いつもうまく行っていたわけではないが、OPECがカルテルで価格を制御しようとしていた。しかし今日の原油価格は、完全にニュヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の先物価格に連動している。OPECはこのWTIの先物価格を追認しているに過ぎない。
サブプライム問題が大きくなり、これが金融市場に波及し株価などが動揺し、ついにFRBは9月に政策金利を0.5%引下げた。これによって株価は一時的に持直した。しかしこれでサブプライム問題が解決したわけではない。ところが一方で利下げをきっかけに原油価格が反騰し始めた。WTIはバーレル100ドルに接近している。
今日、米国の金融当局(FRB)が抑えたかった商品市況は上がり、逆にサブプライム問題の解決の方はメドが立っていない。金融のグローバル化の前では、金融当局の敗北と言える。また10月のG7でも有効な政策を打出せない状態である。
来週は、商品市場のバブルの状況を検証してみる。」
http://adpweb.com/eco/eco505.html