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バブル崩壊としてのサブプライム問題(山崎元のマルチスコープ)
2007年11月15日 山崎 元(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)
サブプライムローン問題が、第2ステージに入ってきた。
7月の問題顕在化に始まる第1ステージでは、金融機関にどれほどの損失があるか見えない状態で、金融システムに対する懸念が高まり、世界的な「下げ」を呼んだ。
現在の第2ステージでは、サブプライムによる損失の全貌がほぼ姿を現しつつある。この後にあるのは、サブプライム以外への波及に対する懸念である。実体経済に対する影響が、徐々に表れてくるだろうし、今後はクリスマスに向けた消費動向などが注目されることになりそうだ。株式市場も、今後の懸念材料を織り込みにかかり、不穏な下げを見せている。
第1ステージから第2ステージへの移行期に、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げが2度あった。1回目の利下げの反応がよかったために、FRBがなんとかしてくれるという過剰な楽観があったように思う。米国株が再び高値を更新しに行くという余計な反応まであったが、事態としては、日本のバブル崩壊が辿ったような状況に似た面が出てきた。
実際の損失額は1兆ドルとも
7月時点で、バーナンキFRB議長は、サブプライム関連の損失は1000億ドル程度で、影響は限定的と発表した。だが9月には国際通貨基金(IMF)から損失は2000億ドルに膨らむ可能性があるとの試算が公表され、バーナンキ議長も11月に入り、損失は1500億ドル程度の可能性があると修正している。
金融機関全体の損失額は、計算の仕方によっては、実は1兆ドルにも及ぶとも言われている。たとえばメリルリンチのサブプライム資産に対する損失の償却の大きさを見ても、もともと格付けの高かった部分に対しても相当な損失を見込んでいる。それに、現在、サブプライムローンの証券化商品にはまともな値が付かない状況のようだ。そういったものを広く当てはめていくと、1兆ドルという数字もあながち大げさではないかもしれない。
サブプライムローン全体の残高は1.3兆ドルと言われている。一説には、米国の大手金融機関の中には、傘下のヘッジファンドと取引してロスを先送りしているという話や、所有するサブプライム資産に十分な評価を与えていないとの話もあり、損失の全体像は現時点でははっきりしない。ただ、大手金融機関で円にして数千億円から1兆円くらいといった損失の規模に対する感じは分かってきた。金融機関相互のバランスシート不信に基づく信用不安の懸念は後退するのではないだろうか。但し、サブプライム層以外への融資態度の厳格化や不動産価格下落の影響が出るのはむしろこれからだろう。
バーナンキ議長をはじめとして政策当局者たちは、あえて問題をサブプライムに限定するような説明をしてきたが、実体経済への影響は出つつある。先日の日経金融新聞に興味深い記事が出ていた。
FRBの最近の調査で、7月と10月現在での米銀の融資姿勢の変化に関するアンケート結果なのだが、サブプライムローンでは「かなり厳格化」「やや厳格化」を合わせると5割を超えている。プライムローンについても4割を超え、さらに大企業向けの融資でも18%強が「厳格化」しているというのだ。
米銀の融資姿勢は急激に冷え込んでおり、厳格化の傾向は当面止まらないだろう。加えて、不動産価格の下落傾向ははっきりしており、これによって消費にどれほどの影響が出てくるのかを、これから織り込んでいくという段階だろう。年末商戦の状況をめぐって、実体経済に対する影響が話題に上ってくるはずだ。
サブプライムはバブルの条件を満たした
サブプライム問題は、ある意味ではバブル崩壊である。価値のないものに高い値段をつけ、高いリターンを期待して買い、それが崩壊した。維持できない価格が流通したという意味では、まさにバブルであった。
日本のバブル崩壊では、たとえば不動産価格下落の場合、銀行のバランスシートを痛めることによって、さらに信用収縮を生んだ。下落が下落を生むというスパイラルである。
こうした段階を、第3ステージとすると、現段階ではサブプライム問題がその段階に入るのかどうかは、まだ判断できない。
ただ、第2ステージをこなすのに時間は必要だし、来年前半くらいまでは落ち着かない状態が続くだろう。金融政策としては利下げしかないし、ドル・円相場もついに110円を割るレートが登場しており、こちらを通じた日本の投資家への影響も考えておく必要がある。輸出企業を中心に、株価への影響もあるだろうし、数が多いFX会社がいくらか淘汰されることもありうる。問題の消化までには、しばらく時間がかかりそうだ。
さて、「バブル」というものの成立条件が3つある。第1の条件は「金融緩和」である。信用拡大がたやすく行なわれるような金融緩和状態がバブル発生には必要となる。ただ、金融の緩和だけではバブルは起こらない。
そこで第2の条件として「リスクの誤認」が挙げられる。本来ならば存在するリスクを、無いものだと思ってしまう仕掛けが、どこかで働くことによってバブルが本格化する条件が整う。
日本のバブルについていえば、80年代後半に、「特金(特定金銭信託)」「ファントラ(ファンドトラスト)」という信託商品が流行した。いわゆる「財テク」として1社で1兆円以上運用していた会社も何社かあった。1兆円以上の株式での運用を、なぜリスクを気にせずやれたかというと、信託銀行や証券会社が「にぎり」と呼ばれる利回り保証をしてくれていたからだった。たとえば信託銀行が長期プライムで貸し付け、運用利回りについて長期プライム+0.1%といった形で「にぎり」をする。金を預けている側の会社とすると、銀行が利回り保証をしてくれるのでリスクは無いと認識して、どんどん借りては運用に回していく。
また、ブラックマンデーの後には、特金の損失表面化を防ぐために、いわゆる低価法の停止が行なわれた。特定金銭信託の保有株を原価で評価できるようにし、値下がり時にも表面化しない会計方法にしたのである。リスクを取りやすくし、損を出さずに済むので株価は回復する、という理屈で、当時の宮澤喜一大蔵大臣が行なった措置だ。確かに当面の株価は持ち直したが、その後のバブルの拡大につながった愚策だった。
貸した金よりも高い金で「にぎる」、などということが続くわけがない。だが、どうせ銀行がリスクを取ってくれるのだからと安心させ、融資と運用をどんどん増やして個人的に実績を挙げた銀行員や、これを利用しようとした顧客企業側の財務マンもいたはずだ。リスクの誤認を知っていてこれを自分のために悪用する「ワル」がいる。それが、バブル成立の第3の条件だ。
巨額の報酬とバブル拡大の関係性
13日の産経新聞第一面に「米経営者焼け太り」という記事が載っていた。サブプライムでの巨額損失の責任を取る形で辞任した、メリルリンチのオニール前会長兼CEOと、シティグループのプリンス前会長兼CEOが、それぞれ177億円と46億円の退職金を手にしたという。筆者は、この記事を見て、サブプライム問題とバブルの関係に気がついた。
オニール氏やプリンス氏が、サブプライムの持つリスクに関して、果たしてどの程度意識的だったかは定かではない。だが、いずれにしても、報酬を受け取る仕組みを契約し、一旦稼いだ分の報酬は丸取りできる。こういう人間たちにはブレーキはかからない仕組みになっているわけで、その象徴がオニール、プリンス両氏の巨額の退職金だ。
今回、リスクの誤認を準備したのは、サブプライムを証券化したCDO(債務担保証券)の複雑なスキームである。この複雑さは念が入っていて、今も、投資銀行ですら価値を確定できないような代物である。ここに、格付けの商売が欲しい格付け会社という共犯者も居て、実際には相当のリスクが存在するものを「AAA」といったラベルの下にリスクを隠して転売する仕組みが出来たことで、金融機関は住宅ローンを低所得者にも拡大することに成功したし、金融機関は一時的に高利利回りを享受した。
サブプライムローンは、問題が発生するとすれば将来発生する類のものである。リスクを複雑にして、迷彩を施すことでリスクを先送りできる仕組みを作り、皆でそこに群がって、初期のリターンを取ったことで、急拡大が可能になった。
エンロンでもサブプライムでもうまく逃げ切ったワルはいる
どの程度意図的かは別として、その仕組みを利用したワルがいて、バブルが広がる。仮にも専門家なのだから、リスクがあること、好調子がいつまでも続きようがないことは、関係者達には分かっていたはずである。しかし、1年を好調に切り抜けると巨額のボーナスが手に入るという条件の下ではブレーキが掛からなかった。
これはエンロンの事件などでも同様で、途中でうまく売り抜けた人間はいる。サブプライムにおいても、一度は儲けて巨額の金を取っている人間が大勢いるわけで、逃げ切った者もいれば逃げ切れなかった者もいるということだ。
新しい金融テクニックは、どうしても過大評価されがちで、こういったワルがこれを利用するチャンスを提供しがちだ。たとえば住宅価格が上がり続けたときに、永遠にはこの状態が続かないとはわかっていても、アメリカであれば移民が多いからとか、日本であればジャパン・アズ・ナンバーワンといった、あとで考えてみればお笑い草とも思える神話が登場することによって、冷静な判断が先送りされる。ある種の神話を伴いながら、バブルは現れては消えていくのである。
ところで、つらつら考えてみると、そんな落し穴を見つけて他人に知らせるよりも、それに気づいたら素早く利用して儲ける側に回ったほうが、経済的に見ると得であるという考え方もできそうだ。個人個人がどう考えどう振る舞うかはなかなか難しい問題だ。
個人的には、そのようなものを利用してまで儲けたくないと思うが、こうしたバブルの構造には、ある意味では金融ビジネスの本質が詰まっている。
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