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「経済コラムマガジン07/11/5(503号)
・米国のサブプライム問題
・ヒスパニック移民の社会
米国でのサブプライムローン問題(以下サブプライム問題に略)が世界中に波紋を及ぼしている。たしかにサブプライム問題は各方面でこれまで随分取上げられており、聞き飽きたと感じる人も多いと思われる。しかしこれに関しては、なかなかトータルに納得するような適切な解説に出会わない。この問題を巡る背景を考えると、実に奥深い数々の事柄が関わっていると筆者は理解しているが、そこまで言及したものが少ないのである。
単に米国でのサブプライム問題だけに着目するなら、これは米国の一部の人々の信用問題であり、これによって引き起された米国の一部の金融の信用不安問題に矮小化される。しかし筆者は、サブプライム問題の根源はもっと広くて深いものと理解している。分りやすく病気に例えるなら、今世界経済が慢性的な成人病(例えば糖尿病みたいなもの)に罹っており、サブプライム問題はそれが原因で発生した一つの症状と筆者は捉える。
今週号はまずサブプライム問題そのものについて述べる。サブプライム問題を「所得が低い層」への融資(主に住宅融資)の焦げ付き問題とよく表現されているが、筆者は「信用力が低い層」への融資の不良化問題と表現した方が適切と思う。日経新聞は一貫してこの表現を採っている。
サブプライム問題に関して米国の信用力が低く、所得が低い層とは、具体的にはヒスパニック(系)移民の人々を指す。米国は、中米(主にメキシコ)からの移民(合法、非合法)で溢れ、この人々が米国の一大勢力になっている。ヒスパニック移民は、人の嫌がる職に就き、所得得て、活発な消費活動(ウォールマートのお得意様)を行っている。
米国経済の中で、彼等は供給側(生産に従事し所得を得る)であると同時に、需要側(得た所得を消費に回している)である。米国の経済成長率は高いが、このヒスパニック移民の活発な生産・消費活動の寄与が大きい。また米国の人口増加率が先進国の中で大きいのも、ヒスパニック移民の出生率が大きいことが影響している。
一口に米国の社会と言っても、従来の米国社会とは別にヒスパニック移民の社会があると考えて良い。しかもこのヒスパニック移民社会の存在が年々大きくなっている。ところで今日、世界の新興国の経済発展が目覚ましい。米国のヒスパニック移民社会もこれに似ている。彼等は米国で職を得て、活発な消費活動を行っている。
つまり米国経済は、ヒスパニック移民社会という新興国を抱えているようなものである。米国は先進国の中で比較的高い経済成長率を続けてきた。しかし中身を見ると、ヒスパニック移民社会と言う「内なる新興国」の経済成長率が高かっただけである。構造改革派がよく言う「米国は、供給サイドの生産性をアップして経済成長を続けている」は「大嘘」である。
たしかに米国のように移民を活発に受け入れれば、その国の経済成長率が大きくなる可能性が高いという説は正しいようだ。しかしそこまでして経済成長率を高めることには筆者ははっきり反対である(それ以外の方法があるはずである)。欧州でもスペインが移民を積極的に受け入れ、高い経済成長率を達成している。ところがこれにも色々と問題が生じ、スペイン政府は見直しを迫られている。
・前提条件の崩壊
時が経ち米国のヒスパニック移民は、経済的基盤を米国内に持つようになり、とうとう住宅を購入し始めた。ここ数年の米国の住宅ブームはこのヒスパニック移民の活発な住宅購入が支えていた(ただ米国の住宅ブームには、ヒスパニック移民だけでなく、台湾の人々や中国人も関わっていたという意見があることを補足しておく)。米国経済の高い成長はこれに大きく依存していた面が強い。
しかし考えなくてはいけないのは、所得が低いヒスパニック移民の人々が簡単に住宅を購入できるはずがないということである。ところがこれが出来たのである。それを可能にしたのが問題になっているサブプライムローンという高金利貸付けである。
サブプライムローンは、最初の数年の返済金利を低くし、借りやすくしている。日本にもこれに似た住宅融資制度があった(たしか「ゆとり返済住宅ローン」とかいうもの)。しかしこの借入制度は数年すると返済金利が急上昇する。つまり住宅購入後数年して、所得が低いままのヒスパニック移民の人々が、通常なら返済不能に陥る仕組になっている。
このようなサブプライムローンは普通有り得ない融資制度である。ところが不思議なことに、どんどんサブプライムローンの残高は増え続けてきたのである。そしてこの謎を解く鍵が住宅価格の継続的な値上がりである。米国の中古住宅の市場は非常に大きい(年間800万件くらい取引され、新築件数の4倍もある)。しかも住宅が中古になっても値段は下がらない。下がらないどころかここ数年、毎年、大きく上昇してきたのである。都市部の住宅価格が土地の値段でほとんど決まり、上物の評価が完成後急速に下がる日本とは事情が大きく異なる。
米国の住宅金融会社が信用力が低いヒスパニック移民の人々に住宅融資を実行できたのも、担保となる住宅の価格がどんどん上昇してきたからである。返済金利が上昇するまでの数年の間に買った住宅が値上がりするので、仮にローンが返済できなくなっても購入した住宅を手放せば良いだけである(売却すればかなりの売却益を手にすることができた)。
このようにサブプライムローンは住宅価格の上昇を前提にした融資制度である。しかしこの前提条件が崩れれば、今回のような問題が発生することは目に見えていた。そしてこの前提条件を崩したのが米国金融当局の継続的な金利の引上げである。
米国連邦準備制度理事会(FRB)は、9.11同時テロによって米国経済が危機的状況に陥ったため短期金利を下げ続けてきた。しかし原油価格の高騰や物価の上昇などの低金利の弊害が見られるようになり、一転して短期金利を引上げの方向に持って行った。ところが短期金利が上がったのに長期金利は全く上昇しなかった。これもあってか金利の引上げ効果がなかなか現れないため、政策金利の引上げをずっと続けることになった。
しかし継続した金利の引上げによって、さすがに昨年あたりから住宅価格の上昇は頭打ちになった。ところによっては逆に住宅価格が値下がりに転じた。そしてこの住宅価格の動きがサブプライムローン制度の前提条件を崩し、今日のサブプライム問題を引き起すことになったのである。また長期金利が上昇しなかったことが住宅価格の高騰を長引かせ、このサブプライム問題を大きくしたと筆者は考える。
このように見てくると、米国のサブプライム問題が、日本のバブル経済崩壊に非常に似ていることが分る。日本の場合は土地を担保にした融資であったが、米国の場合は住宅である。両者とも担保に取っている物件の価格下落によって、バプルが崩壊し始め問題が表面化した。また金融当局の引締め政策の効果がなかなか現われず、問題が大きくなったのも両者の共通点である。」
http://adpweb.com/eco/eco503.html
「経済コラムマガジン07/11/12(504号)
・「金余り」の徒花
・経済成長の仕組
今週は先週号の補足から始める。ヒスパニック系移民の人々が、低所得でありながら住宅融資を受けられたのは、サブプライムローンという融資制度が作られたからである。本来、信用力が低いヒスパニック移民が住宅融資を受けるには、かなりの高金利を覚悟する必要があった。
しかしこれでは住宅融資はほとんど実行されないことになる。そこで融資実行後(返済開始後)の数年間、ローンの返済額を少なくした融資制度が作られた。これがサブプライムローンであり、これによってヒスパニック移民への住宅融資は爆発的に増えた。
ここから本題にちょっとそれた話をする。米国では収入が少なく、当然、貯蓄額も小さいヒスパニック系移民が、フローの貯蓄額を大きく上回る借金(サブプライムローン)をして住宅投資(広義の消費といって良い)を行っていた。つまり彼等は貯蓄を上回る投資を行っていた。
さて大まかに日本の経済は、政府、民間企業(非金融法人企業)、家計(法人成りしていない個人事業主も含まれる)の部門(主体)に分けられる(国民経済統計上は、部門としてこれらに金融機関と対家計民間非営利団体が付け加えられる)。まず部門別に見れば、貯蓄が黒字の部門と赤字の部門がある。普通の国では家計の貯蓄が黒字で、政府と法人企業が赤字である。つまり家計の黒字を借りて、財政支出や民間投資が行われるのが通常である。この金融を仲介しているのが金融機関という主体である。
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」(
http://adpweb.com/eco/eco302.html ) 他で説明したように、マクロ経済において事後的に貯蓄と投資は一致する。投資が増えれば、所得が増え、増えた投資を賄うまで貯蓄は増える。違った表現をすれば、貯蓄性向が一定という条件で(裏返せば消費性向が一定)、投資金額に見合う貯蓄額が実現するレベルまで一国の所得が増える。逆に投資が減る場合は、小さくなった投資に見合う貯蓄が実現するまで所得は減る(いわゆる縮小均衡)。今日の日本経済では、これに近いことが起っている。
つまり一国において、貯蓄を使って投資(設備投資、公共投資、住宅投資など)をしてくれる主体があって始めて、その国の経済は成長するのである。まさにこれを米国に当てはめれば、ヒスパニック系移民がこれを実行していたのである。彼等は、自分達の貯蓄額(住宅ローンの返済額も貯蓄にカウントされる)をはるかに超える大きな借金をして住宅投資を行っていた。今日までこれが米国経済の成長を支えていたと言って良い。
ところが日本では、本来貯蓄の赤字主体になるべく法人企業が、投資を抑えむしろ借金を返済しているのである。家計も住宅投資を減少させている。金融機関は、資金のやり場に困り、公債を買っていた。ところが政府までもが財政再建運動で財政を絞ろうとしている。まさに日本経済は縮小均衡パターンに入っている。
今日の日本経済がかろうじてマイナス成長(数年前までマイナス成長という異常な状態)を免れているのは、輸出の増加による。つまり今の日本経済は完全に外需依存になっている。ところがサブプライム問題発生によって、米国の経済成長率はかなり低くなると予想される。したがって今後は日本からの米国への直接輸出だけでなく、中国や韓国などのアジア諸外国を経由した間接輸出(日本がこれらの国々に部品を輸出し、この完成品が米国に輸出される)も減少すると思われる(徴候は既に現われている)。まさに日本経済は正念場である。
・「金余り」こそが問題の根源
前段の話を金融(資金の循環)の面から見てみる。米国ではヒスパニック移民へのサブプライムローンが激増した。ただ資金需要が増えたのはこれだけではない。M&A資金や投機資金の需要も増えた。しかし米国は貯蓄率が小さいため、とても国内ではこれらの資金需要を賄い切れない。ところがその米国に大量の資金が流れてきていたのである。
欧州や産油国だけでなく、中国や台湾といったアジア勢、そしてもちろん日本からも大量の資金が米国に流入した。米国の経済成長率が高いという理由で、米国に資金が集まったのである。日本からは、巨額な為替介入資金やキャリー取引資金、そして金融機関や個人の外貨(米ドル)建て資産の購入資金という形で、資金が米国に大量流出した。
ずっと大きな経常収支の赤字を続けている米国に、逆に世界から資金が集まった。米国はまさに「金余り」状態になった。そしてサブプライムローンこそがこの「金余り」の「徒花(あだばな)」であった。本誌の先週号で『サブプライム問題の根源はもっと広くて深いものと理解している。分りやすく病気に例えるなら、今世界経済が慢性的な成人病(例えば糖尿病みたいなもの)に罹っており、サブプライム問題はそれが原因で発生した一つの症状と筆者は捉える。』と述べた。そしてこの慢性的な成人病こそがこの空前の「金余り」のことである。
米国の金融当局、つまりFRBもこの「金余り」に気付いていた。したがってクリーンスパン時代の最後は、政策金利の引上げの連続であった。しかしワールドコムやエンロンの破綻などが念頭にあり、急激な金利引上げは米国経済にとって危険と感じられたと筆者は理解している。既に米国の年金や個人資産の大半は、株式などの証券市場で運用されており急速な利上げはこの根本を直撃する。したがって米国金融当局の金融引締めはどうしても緩慢なものになった。
しかし皮肉にも緩慢な利上げは、「金余り」を縮小するどころか、利上げ過程の前半は「金余り」を助長した面がある。米国の利上げによって、むしろ資金が米国に向かったのである。経済成長率が高いだけでなく、金利が高いとなれば、資金が米国に集まるのも無理はない。
短期金利は当局の利上げで高くなったが、長期金利は外国からの資金流入で逆に低く推移していた。この結果、米国では長短金利の逆転という異常な現象がずっと続いているのである(2回の政策金利の引下げでも未だにこの逆転現象は解消していない)。また米ドルも対ユーロでは弱くなっていたが、円に対してはずっと高い水準で推移していた。
サブプライムローンは「金余り」の徒花であるが、逆にサブプライムローンがこの「金余り」を生むのに一役をかっていた。サブプライムローンによって住宅ブームが起り、これが米国の見掛の経済成長率を押上げた。この高成長を見て、さらに世界から資金が米国に集まった面が強い。しかしこれはヒスパニック移民社会と言う「内なる新興国」に発生したバブルであった。
来週はサブプライム問題と金融政策についてもう一歩突っ込んだ話をする。」
http://adpweb.com/eco/eco504.html