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http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20071029/138631/?P=1&ST=sp_fp
10月19日に米ワシントンで開催されたG7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)は、様々な問題提起をしながら、結局、その対処法に関しては何ひとつ具体的な方針を示せないまま、「予想通りの期待外れ」という結果に終わった。「G7の限界」が言われて久しいが、世界経済の直面する様々な問題が先進国の手に負えなくなってしまったのは、なぜなのだろうか。 筆者なりの答えを導くために、世界経済の「病根」の在りかを探り、それに対する1つの処方箋を提示してみた。
なぜか。 それは、現在の世界経済が抱える諸問題の多くが、米経常赤字の無秩序な拡大に根ざしており、米経常赤字は、既に米国一国の問題をはるかに超えて、世界経済の均衡を脅かす存在になってしまっているからだ。
下の図は、四半期ごとの米経常赤字と、1991年来の同赤字を単純に積み上げたものをそれぞれ、米GDP(国内総生産)との対比で表したものだ。一時はGDPの7%近くにまで膨張した経常赤字が、近年は若干の落ち着きを見せているものの、累積で積み上がった赤字は今年第2四半期までにGDPの160%にまで達してしまっている。
この夏、市場を震撼させた米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)ですら、まがりなりにも「住宅」という担保がその背後にあったが、経常赤字には何の担保があろう。いわば米国は「信用」だけを頼りに、その国の「年収」であるGDPの1.6倍にも当たる借金を積み上げてしまったのだ。
米国の「借金」は、そっくりそのまま、米国以外の国々の「売掛金」として世界経済の活況を支えてきた。つまり、米国に身の丈に合わない消費継続を可能にしたのも、何のことはない産油国やアジア各国を代表とする輸出国が、米国に付与した「信用」に過ぎない。いわば、諸外国は、米国に貸し付けた金で自国産品を購入させていただけのことで、これが「不均衡」の正体だ。
こうして考えれば、「過剰流動性」がどこから生み出されてきたかも分かる。政府ファンドの膨張にしても、米国の借金なしには起こり得なかった現象だ。原油価格高騰の背景にある中国など新興国の強い需要も、米国の旺盛な消費抜きでどうして起こり得ただろうか。クレジット市場の急激な拡大と崩壊も、ここまで金余りの状況が生まれ、資産運用に対するモラルハザードの低下があったからこそ起きた現象と言えるのではなかろうか。
この構図は、米経常赤字を病根とした「対外不均衡」や「過剰流動性」の問題が、既に、米国一国の手を離れ、世界経済共通の問題となっている現状と共通する。「米国に貸した金は取りっぱぐれることはない」という神話を、もはや誰も信じないとしても、これだけ借金が肥大化してしまった今、下手に騒ぎ立てて手元に積み上がった米国への貸し金の価値を吹き飛ばしてしまうリスクを、誰も冒せなくなってしまっているからだ。
このような状況が、世界経済の脅威であることは疑いようもない。今般のクレジット危機のようなトラブルが引き金となって恐慌的なドル売りや米資産売りが起きるリスクは常に存在するし、米国の借金がGDPの160%である現状が仮に均衡を保てたとしても、それが200%、300%へと際限なく拡大していけるとは到底考えられないからだ。米経常赤字の抑制が不可避ならば、その調整はできるだけ早い段階から、徐々に進めていくのがよい。
筆者は長年、米経常赤字の抑制には「ドル安が不可欠」と考えてきた。経常赤字の最大の要因である貿易赤字は、ドル安によって、米製品の競争力が高まることによる輸出増、米購買力が衰えることによる輸入減の両面から縮小に向かうはずだからだ。こうした古典的な為替調整論に一定の真実があることを疑う必要はないが、既述したように米経常赤字を「世界経済の病根」と捉えた時に、ドル安のもたらすもう1つの大切な効果に思い至ることができる。
簡単なことだ。例えば、米国と日本の2カ国しかない世界経済を考えてみる。分かりやすく米国のGDPを10兆ドル、日本のGDPを500兆円としよう。為替が1ドル=100円なら、世界のGDPは10兆ドル+(500兆÷100)ドル=15兆ドルである。米国の借金が6兆ドルあれば、世界の「不均衡」は6兆ドル÷15兆ドル=世界のGDPの40%に上る。だが、他の条件を一切変えずに、為替が1ドル=50円までドル安になれば、世界のGDPは一瞬にして20兆ドルまで膨らみ、「不均衡」は、世界のGDPの30%にまで圧縮される。
このようにして、過去の借金を世界のGDPとの対比で圧縮するには、もう1つ方法がある。GDPの飛躍的な上昇だ。上記例で言えば、米国の名目成長率がプラス20%、日本のそれがプラス60%とでもしよう。為替が1ドル=100円のままでも、世界のGDPは12兆ドル+8兆ドル=20兆ドルにまで拡大。並行して「不均衡」も拡大している可能性は十分に考えられるが、少なくとも過去の借金である6兆ドルは、40%から30%まで圧縮されることになる。
あくまでも机上の空論だが、こうした方法論には、既に様々な障害が伴う。日本が米国に貸していたつもりの600兆円が(全額ドル建てとして)、一瞬にして300兆円に半減してしまうのは、相手も見ないで金を貸した日本にも責任があるから、まあ仕方ないとしても、1ドル=50円の円高では、ドル価に換算した製品価格が高くて、これ以上米国に物を売れなくなってしまう。
また、名目60%の成長を達成したとして、果たして、実質成長率は何%になるというのだろう。言い方を変えれば、インフレによって名目成長率だけを押し上げたとしても、それは新たな問題を生み出しただけで、健全な経済成長ではないということだ。
100歩譲って、対外競争力を損なわずに、向こう5年間で自国通貨が対ドルで100%上昇したり、急激なインフレを招かずに、向こう5年間で名目60%成長を達成したりできる国が、G7をはじめとする現在の先進国にあるだろうか。
到底あるとは思えない。では、世界経済は、「不均衡」といった火種をいつまでも抱えたまま、だましだまし進んでいくしかないのだろうか?
その時は単純に「人民元の切り上げを促しているのだろう」のようにしか聞かなかったが、今思えば、少なくともあの時以来、世界の首脳の脳裏には、「新興国の経済拡大による米赤字の軽量化」という発想があったのではないか。
どういうことか。 つまり、上述の自国通貨高や名目高成長を受け入れながらも、対外競争力を失わず、急激なインフレも回避できる経済が実在する、すなわちそれが新興国経済ということだ。そのためには、経済成長に必要な投資資金が潤滑に世界を飛び回り、なおかつ、それだけの資金を吸収(=通貨供給量の増加)しても、それに見合うだけの高い生産性の伸びをもたらせるだけの成長率の伸びしろが必要になる。歴史上、今現在ほど、投資世界の国境が意識されず、国をまたいだマネーの行き来が活発な時期はなかっただろう。
また、新興国には、津波のように押し寄せる投資資金を、クレジット商品のような単なる利殖につぎ込むよりも、生産性の改善に活用させられるだけの生産性改善余力がある。インフレが、物・サービスに対するマネーの供給過多から起きるマネーの減価であるならば、マネーの供給増に見合うだけの物・サービスを新たに生み出すことができれば、マネーの価値は変わらないというわけだ。
わずかな違いかもしれないが、向こう5年、10年と、米経済が世界全体の経済に占める割合を落としていけば、米経常赤字の問題は、世界経済の内包する不均衡という意味で、その分だけ軽減されていくことになるはずだ。そして、米経済を世界の片隅へと追いやるべく、新興国経済の躍進は、通貨高と高成長という2つのチャンネルを通して、既に、着実に進んでいる。下の図は、世界各国の株式市場に上場された株価時価総額の推移を示したものだ。世界経済に占める、新興国経済の位置づけが、近年著しく上昇している様子を読み取ることができよう。
考えてみれば、世界の人口のわずか11%を占めるに過ぎないG7諸国が、世界の富(=GDP)の58%超を占めている現実(2006年)が、世界の不均衡の最たるものと言える。既にその調整はG7の手を離れて始まっている。通貨高と高成長とで、世界のGDPに占める新興国の比率が6割へと逆転した時、米経済の占める割合は世界全体の15%を割り込んでいることだろう。仮にその時点で、米国が、自国GDPの200%にまで借金漬けになっていたとしても、世界経済全体で見れば、米国の借金は30%に満たず、今よりも大幅に軽減していることになる。
そんな将来像を描きたいわけではないが、急激なインフレや、特定国・経済地域の著しい競争力喪失といったショックを回避しながら、世界的不均衡の暴走を回避していくには、どう転んでも新興国の成長に頼らざるを得ないであろう。勿論、それと並行し、ドル安によって米国の借金が身の丈にあった規模にまで縮小していくのだとしたら、世界経済にとって、心安らかなことに違いない。
本多 秀俊(ほんだ・ひでとし)
みずほコーポレート銀行欧州資金室フォレックスグループ為替ストラテジスト
1964年静岡県浜松市生まれ。1989年東京大学教育学部卒業。1989年、ミッドランド銀行(現HSBC銀行)東京支店入行。1992年フランス・インドスエズ銀行(現カリヨン銀行)東京支店入行。1996年同行ロンドン支店配属。2000年、日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)ロンドン支店入行。為替スポットディーラー、通貨オプションディーラー、セールスディーラーなど一貫して為替市場に従事、2003年から現職。
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コメント:米国が現在進めている「世界の多極化」に沿った主張だと思う。