★阿修羅♪ > 国家破産53 > 288.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
http://www.nichigo.com.au/column/shiten/2007/0705/index.html
日本経済新聞社シドニー支局:高佐 知宏
中国鉄鋼各社、豪州資源権益確保の動きを活発化
問われる日本の対豪州戦略眼
オーストラリアの資源に対する中国の動きが激しくなっている。これまでの中小鉄鋼メーカーに加え、上海宝鋼集団など大手も相次ぎ西豪州の鉄鉱石権益に触手を伸ばし、原子力発電の燃料であるウランでも活発に権益確保を進めている。中国の動きは1970年代、高度成長期の日本に重なる。遅れてきた成長大国、中国に先んじること30有余年。これからもその立場を守り抜けるのか。豪州に対する日本の戦略眼が問われている。
3月。西豪州の鉄鉱石鉱山を巡り中国鉄鋼大手による権益確保が相次いだ。宝鋼集団が豪資源開発大手フォーテスキュー・メタルズ・グループと早ければ2008年3月から10年間に最大年間2,000万トンの鉄鉱石を長期購入する契約を結び、鉱山開発にも共同で取り組むことを決めた。
首鋼集団も豪資源開発企業オーストララジアン・リソーシズに約5,600万豪ドル(約56億円)を投じて株式3割を取得。21億ドル(約2,500億円)を融資して南バルモラル地区での鉱山開発を支援する。2010年に生産が始まれば、年産1,000万トンの鉄鉱石を全量、引き取る。中堅の徳竜グループも豪企業からケープ・ランバート地区で事業化調査中の鉱山権益70%を2億5,000万豪ドルで買収した。
06年7月には首鋼が5,250万豪ドルで鉄鉱石権益を持つ豪企業を買収し、07年後半から年間500万トンの生産開始を目指し開発を進めている。鞍山鋼鉄も06年4月に豪ジンダルビー・メタルズと折半出資で約10億豪ドルを投じ鉱山開発に着手した
これら中国鉄鋼各社を突き動かしているのは、止まるところを知らない鉄鋼需要の急増だ。96年に1億トンを超え日本を上回った中国の粗鋼生産量は、2002年からは5年連続で前年比2割超の伸びとなり2006年には4億2,000万トンと、この10年で4倍に膨れ上がった。豪農業資源経済局(ABARE)によれば2011年には5億1,800万トンと日本の5倍弱にまで伸びるという。
中国では「国内での鉄鉱石開発も急いでいる」(謝企華・前中国鋼鉄工業協会会長)というものの、需要増に追いつかない。これが世界の鉄鉱石輸出市場を約8割を押さえているブラジルのリオドセ、豪英BHPビリトン、英豪リオ・ティントの資源大手3社の交渉姿勢に反映し、鉄鉱石価格が2005年度から前年度比71.5%、19%、9.5%と3年連続で大幅に上昇する要因となった。
見え隠れする中国鉄鋼業界の弱み
西豪州での中国勢の動きには、独自権益を押さえることで、これら3社との価格交渉を有利に運びたいとの思惑がある。インドが鉄鉱石の輸出税を導入する構想を明らかにしたことに対し、中国の鉱物輸入業者が当面、インドからの輸入を控えることで合意したことも豪州に目を向かせる一因になっている。日本の鉄鉱石需要に占める豪州産の割合が6割超なのに対し、中国は4割程度でブラジルなどからも調達しており、コスト面からも近距離にある豪州からの調達を増やしたい考えだ。
だが、100年を超える鉱山開発の歴史を持つ豪州では、鉄鉱石や石炭の有望な鉱山権益はBHPやリオ・ティントなど資源大手が取得しており、鉄道や港湾など付帯設備も整備ずみ。新鉱山の開発よりも既存鉱山の増強の方がコストや期間で優位に立つ。2004年に武漢鋼鉄、馬鞍山鋼鉄、江蘇沙鋼集団、唐山鋼鉄の4社がBHPと三井、伊藤忠が持つ鉱山権益の一部を取得し25年間に年間1,200万トンの供給を受ける長期契約を結んだ。これが中国鉄鋼業界が豪州の資源大手2社が押さえる優良鉱山権益に参画できた唯一の事例だ。
根強い需要に支えられ価格が高水準で推移する現状では、BHPとリオ・ティントが権益譲渡に応じる可能性は低く、中国勢が取得できた権益は事業化調査や開発段階の鉱山がほとんど。当面の生産量は限られ、調達元の多様化という効果を生むには至っていない。鉱山開発には鉄道や港湾など付帯設備の整備も含め1,000億円規模の資金が必要で、「量、質ともに見劣りがする」(業界関係者)鉱山への取り組みには中国鉄鋼業界の弱みが見え隠れする。
日本の盤石体制は安心か
これに対し、日本の鉄鋼業界は豪州で資源開発が本格化した1970年代から参画しており、調達には盤石の体制を築いている。豪州は鉄鉱石の輸出市場で4割のシェアを握る最大の輸出国。2004年度(04年7月―05年6月)に9,960万トンと前年度の1.5倍に急増した中国に抜かれるまで、日本が最大の輸出先だった。
豪州での鉄鉱石鉱山の開発は新日本製鉄、日本鋼管(現JFEスチール)、川崎製鉄(同)、住友金属工業、神戸製鋼所の高炉大手5社と長期契約を結んだことが契機となった。BHPなど豪州側は、日本の高炉各社との契約を担保に鉱山開発の資金を調達。日本側も同様に高炉など設備建設資金の融資を受けた。資源価格低迷期には日本企業が積極的に鉱山権益を取得してきた。
こうした経緯から、日本は豪州の優良鉱山での地歩を固めており、ここにきて活発になっている中国による権益取得の動きに「買い負けているわけではない」(業界関係者)。むしろこれを商機と捕らえ、豪側とともに積極策を打ち出している。
BHPは伊藤忠商事、三井物産とともに約29億5,000万豪ドルを投じ、西豪州の四鉱山の生産能力を2010年までに年産1億5,500万トンへ約20%増強する。リオ・ティントも三井物産や新日本製鉄、住友金属工業とともに約8億6,000万ドルを投じて港湾の積み出し能力を2008年までに年間8,000万トンへ約40%引き上げる。新日鉄や住金は豪東部の石炭積み出し港でも能力増強にも取り組んでいる。
三菱商事は原料炭を含め商社最大の石炭権益を持っており、三井物産と伊藤忠はBHPが持つ西豪州の鉄鉱石権益の一部を取得済みだ。新日鉄はじめ鉄鋼各社も合弁参加や長期契約を通じて必要量を賄うに十分な権益を押さえている。
一方、ウランでも中国企業が活発に豪州で権益確保に動いている。いずれも中小の資源探査会社への出資を通じた動きだが、将来の電力需要の急増を見越した動きであることは間違いない。鉄鋼を電力という国家運営の2大要素の原料・燃料供給を豪州に依存しようとする中国が今後、さまざまな分野で豪州への働きかけを強めてくるのは間違いないだろう。
豪州は日本に対して常日ごろから繰り返し「アジア太平洋地域での最良の友人」と語りかけてくれる。例え今年後半の総選挙で労働党が政権に返り咲いても「日本の重要性にはなんら変わりはない」(マックレランド影の外相)。だが、こうした豪州に中国は熱い視線を寄せる。過去は過去、未来の相手はここにいると訴えながら。
4月23日から2日間、キャンベラで第1回の日豪経済連携協定(EPA)交渉が行われた。交渉の焦点がコメ、牛肉、小麦といった農業分野にあることは周知の事実だ。将来の繁栄のためには何を犠牲にするのか。日豪EPA交渉に対する戦略は、資源・エネルギーや食料の安定供給といった観点に止まらず、中国やインドの台頭で相対的な存在感を失いつつある日本の未来を担う子供たちに、何をもたらし得るのか、指導者たちの覚悟が問われている。