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「経済コラムマガジン07/10/8(499号)
・不況下の物価上昇
・交易条件の悪化
政府の景気判断と国民の実感との乖離の原因の一つとして、政府が景気判断に名目GDPではなく、実質GDPを使っていることを先々週号で指摘した。今日のように輸入品の価格が上昇し、それを販売価格に転嫁できない経済状況下では、実質GDPだけを強調することは実態を惑わす。もし政府がこのことを承知で景気判断を行っているとしたなら、これは大きな問題である。
輸入はGDP計算上の控除項目である。その輸入を大きな輸入デフレータで割り返して実質値を算出すれば、GDP計算上の輸入品の価格上昇分は消えてしまうのである。これを筆者は、政府の景気判断のトリックと称している。実際に輸入品の高騰によって、購買力が日本から海外に確実に移転しているのである。
ここで改めて4〜6月のGDPの成長率の表を示す。
4〜6月GDP増減率(単位: %)
項 目 実 質 名 目 デフレータ
個人消費 0.4 0.5 0.1
住宅投資 ▲3.5 ▲2.8 0.7
設備投資 1.2 1.4 0.2
政府消費 0.3 0.4 0.1
公共投資 ▲2.1 ▲1.5 0.6
輸 出 0.9 2.8 1.9
輸 入 0.8 4.5 3.6
GDP 0.1 0.2 0.1
前にもお話したように、他の需要項目に比べ輸入のデフレータが突出して大きい。ところで輸出品の価格と輸入品の価格の比を交易条件と呼ぶ。日本の場合、輸入品の価格上昇に輸出品の価格上昇が追い付いていない。このような状況を「交易条件の悪化」と言う。
日本は原材料を海外から輸入し、それを製品に加工して海外に輸出している。ところが輸入する原材料の価格が上昇したが、それを輸出品の価格に転嫁できない状態が続いている。つまり日本の交易条件は悪化を続けているのである。しかし大企業、特に輸出企業の企業利益は伸びている。これは「輸出企業が輸入原材料の価格上昇分を上回る合理化を行っているから」と解釈する他はない。
合理化されたのは人件費と下請業者である。労働分配率は低下を続けている。また下請の中小企業は選別発注で納入価格が下落を続けている。
一方、国内の経済を見ても同じことが進行している。個人消費のデフレータはわずか0.1%である。しかもこの数値はつい最近までずっとマイナスであった。つまり企業は合理化によって製品価格や消費者価格をずっと抑えてきたのである。
輸入原材料の価格がどんどん上がっているのに、それを出荷価格に転嫁できない状態が続いてきた。逆に言えばこのような経済状態が続いてきたからこそ、日本の企業は輸出競争力を維持してこられたと考える。名目GDPと各需要項目のデフレータに着目することによって、このような病んだ日本経済の真の姿が見てとれる。
・日本型スタグフレーション
ここ数年、「小泉構造改革で経済は良くなった」とボケたことが言われてきた。しかし「地方や中間・低所得者層の経済状態はむしろ悪くなっている」という反論が当然ある。これに対して構造改革派は「大企業の経営状態が良くなったから、そのうちこの成果が末端まで行き渡る」とか、「今、大企業という機首が上がったところだから、そのうち飛行機全体が離陸する」と釈明してきた。
しかし現実は、大企業が地方、労働者、中小・零細企業を踏み台にして頭を上げただけである。よく日本経済を飛行機に例えるのがこれは間違いであり、日本経済はクレーンである。今日、単にクレーンのブーム(大企業)が上がっただけである。しかし未来永劫クレーンが離陸するはずがない。
この日本経済に異変が起りつつある。合理化がほぼ限界に達したと見られるのである。たしかにこれまでは日本経済にも合理化の余地があった。しかしこれも「もうこれ以上は」という段階に来ているようだ。どうも次は消費者物価の上昇の波が迫っている。特に先月頃からこの傾向が顕著になっている。
たしかに4〜6月のGDP統計を見ても、個人消費だけでなく、各需要項目のデフレータがプラスになっている。筆者は、これを輸入原材料の価格上昇の影響がとうとう日本の物価に反映してきたものと認識している。今後の消費者物価の動向が注目される。
末端の価格が上昇すると言っても、労働者の賃金が上昇するわけではない。輸入原材料の価格上昇による仕入原価の値上がりの一部を出荷価格に転嫁しようというものである。せいぜい労働分配率の下落にストップがかかる程度であろう。
政府や日経新聞は、日本の経済成長率は欧米より若干低い程度と説明してきた。しかしこれは実質GDPの成長率の話である。欧米と日本では景況が全く違うのである。ちなみに米国では賃金が対前年比で4%以上上昇している。日本政府などは実質経済成長率を使うことで、この実態を誤魔化しているのである。
日本では賃金が全く上がらないのに、物価だけが上昇する世の中が来ようとしている。これは明らかに経済政策の重大ミスである。さらに政府は、景気が良くなったと判断し、定率減税の廃止などの増税を行っているのである。
しかし家計の可処分所得は2000年度の298兆円から2005年度の283兆円へ15兆円も減っている。この状況で消費者物価が上昇しようとしているのである。これからは実質成長率の方も低下するのだ。筆者はこれを「日本型スタグフレーション」と呼ぼうと思う。これに対して日本国民がどのような反応を示すか興味がある。
自民党の政治家は、官僚から実質経済成長率の数字を使って「日本経済は戦後最長の景気拡大を続けている」と吹込まれている。何と自民党は、この官僚達の言葉に乗って「経済成長を実感に」というキャッチコピーを参議院選で使っていた。景気が悪く感じるのも「気のせいだ」という言うのである。筆者は「ばかじゃなかろうか」と思っていた。
国民の実感の方が正しいのである。自民党も方向転換に向かおうとしているが、党内の人材も枯渇しており既に手遅れである。今後、自民党は混乱した政策を次々と打出してくると思われる。しかし「2011年のプライマリーバランスの回復」という世紀の大悪方針を完全放棄しない限り、まともな経済政策は行えない。
来週は日本の経済政策の諸悪の根源である「プライマリーバランスの回復」という方針を取上げる。 」
http://www.adpweb.com/eco/eco499.html