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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070927/136151/
Michael Mandel (BusinessWeek誌、主席エコノミスト)
米国時間2007年9月17日更新 「Greenspan's Memoir Looks Forward」
米連邦準備理事会(FRB)前議長アラン・グリーンスパン氏の回顧録『The Age of Turbulence(波乱の時代)』は、その講演にもまして素晴らしい。計算された思慮深い言葉で綴られながらも、ドキッとさせるような記述がちりばめられている。
世間を驚かせたのは、自身も古くからの共和党員であるグリーンスパン氏が、当の共和党を批判したことだ。批判の矛先はジョージ・W・ブッシュ大統領の経済政策と、2006年まで議会の過半数を占めていた共和党議員に向けられている。「イラク戦争は主に石油が目的だった」と躊躇なく書いていることも衝撃的だ。
だが、本書の真価は後半の経済分析と予測の部分にある。81歳のグリーンスパン氏は現代を代表するエコノミストである。そのグリーンスパン氏が予測する経済の行く末は、政治的な話題は抜きにしても一読の価値がある。
前半はグリーンスパン氏の自伝だ。ニューヨーク市で過ごした少年時代から、世界で最も影響力のある中央銀行の長という名誉ある地位に就くまでを語っている。
私生活のエピソードで一番面白いのは、当時米NBCニュースのホワイトハウス担当記者だったアンドレア・ミッチェル氏(現夫人)との初デートの話だ。「レストランで、(反トラスト法の)独占的行為についての議論で盛り上がった。それについて僕が書いた論文があるから読みに来ないか、と自宅に誘った」とグリーンスパン氏は振り返る。なんて高尚なロマンスなのだろうか!
ニクソン、ブッシュ親子を痛烈に批判
本書を読めば、グリーンスパン氏が長年にわたっていかに共和党組織と強い関わりを持ってきたかがよく分かる。共和党との密な関係の始まりは1967年、リチャード・ニクソン元大統領の大統領選の頃だ。同じ共和党のロナルド・レーガン元大統領を「保守主義について明確な見解を持っている」と称賛するのもうなずける。
意外なのは、ビル・クリントン前大統領のことを「民主党員だというのに、伝統的な増税路線のリベラル派とは違う」と高く評価していることだ。「理論よりも事実を重視する」と最大級の賛辞を送っている。
対照的に、3人の共和党大統領に対しては辛口だ。ニクソン元大統領については人格の暗部を嫌って、スタッフとして働くことを拒んだ。ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領については、金利について「きちんとした考え」を持っていなかったと批判している。
ジョージ・W・ブッシュ大統領の経済政策に対しても失望をあらわにしている。「(ブッシュ大統領は)経済政策についての徹底的な議論や長期的な影響の検討にほとんど価値を見いだしていなかった。残念なことに、“財政赤字は問題ではない”というのが共和党の口癖になってしまった」。
グリーンスパン氏が最も痛烈に批判するのは、膨大な財政赤字を招いた共和党議員だ。「共和党議員は血迷った。権力を得るために基本原則を捨てたのだ。そして結果的に両方とも失ってしまった。負けは必然だったのだ」。
複雑すぎるグローバル経済に、経済学は歯が立たない
あまり知られていないことだが、グリーンスパン氏は学問としての経済学にあまり期待していない。「計量経済学は洗練されているが、有効な政策を生み出す力はない。グローバル化が進んだ今、世界経済はあまりにも複雑すぎる」というのである。
実際、本書には経済学者の話は全くと言っていいほど登場しない。かろうじて、グリーンスパン氏の後任者であるプリンストン大学のエコノミスト、ベン・バーナンキFRB議長の名前が、写真の説明に1度出てくるだけだ。
グリーンスパン氏は、自身が犯した間違いについてはあまり言及していない。あえて挙げているのは、2001年にブッシュ大統領の減税案を条件付きで支持した議会証言が一人歩きしてしまったことだ。「政治的な意図はなかったが、政局を見誤ったため都合よく利用されてしまった」と悔やんでいる。
サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)については、問題が拡大する可能性があるとしている。しかし、「住宅所有者を増やすというメリットは大きく、リスクを取るだけの価値がある」というスタンスに立つ。「所有権の保護は市場経済にとって非常に重要な問題だが、ある程度の数にまとまらないと政治的な力にならない」と書いている。
ただし、9月16日に放映されたテレビインタビューでは、サブプライムローン問題の深刻さについてはFRB議長任期の終盤まで十分理解していなかったことを認めた。
労働力移動が鈍る時がグローバル経済の危機
後半では、今後の米国経済と世界経済についての見解を示している。テーマは「立ちはだかるロシア」(16章)、コーポレートガバナンス(企業統治)、金融規制、教育改革の必要性など。予測モデルや計量経済学を駆使しているわけではない。グリーンスパン氏自身が積み上げてきた経験や知識に加え、長期的な視点と人間の本質を見抜く洞察力で論を展開している。「民主的社会と市場経済のメカニズムには歴史的な連続性がある」という考え方に基づいている。
グリーンスパン氏の関心の中心には「グローバル化」と「金融市場」があり、「ハイテク」は脇役に過ぎない。1990年代の「ニューエコノミー」の立役者と見られることが多いグリーンスパン氏としてはやや意外だが、実際、本人がこの言葉を使うことはほとんどなかった。
中国などから数十億の労働者がグローバルな市場経済の隅々まで浸透していく労働力移動のプロセスについては、かなり熱心に分析を加えている。これは途上国の労働者にとってメリットがあるだけでなく、先進国のインフレや金利上昇を抑える効果もあるからだ。
グリーンスパン氏にとって、米国の貿易赤字はあまり大きな問題ではないようだ。というよりも、もっと深刻な危機が迫っているというのである。それは、今はまだ語られていないが、いつか必ずやって来る“グローバル化の減速”である。
「世界経済の転換点こそが、政策決定者の真の正念場である。それがやって来るのは、労働力の移動が完了する時ではない。そのペースが減速に転じた瞬間に異変は顕在化する」
低金利は永遠には続かない
まず、インフレが起こる。金利は上昇する。最大の要因は、社会保障やメディアケア(高齢者向け医療保険)を維持するために多額の借金をしなければならなくなることだ。
「2030年までに、10年物米国債利回りは少なくとも8%に上昇している」
それは、現在の約2倍の高水準だ。現在の低金利時代は永遠には続かない。グリーンスパン氏から投資家へのメッセージである。
多くの人が、どぎつい共和党批判を期待して本書を手にするだろう。だが、よくある政府高官の回顧録とは違う。グリーンスパン氏の造詣に満ちた本書は、読者を深い思索へと導くに違いない。
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