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「経済コラムマガジン07/9/24(497号)
・GDP統計の読み方
・生活実感との違い
先々週号で示した4〜6月のGDP統計をもとに、日本の実態について筆者の見方を説明する。ただ4〜6月のGDPについては、9月10日に改定値が公表され、前に本誌で紹介した速報値が修正された。GDPの成長率は0.1%からマイナス0.3%への下方修正である。
ちなみに改定値が速報値より悪くなったのは、法人企業統計の設備投資が大きく減少したためである(プラスの1.2%からマイナスの1.2%に下方修正)。これは改定値で法人企業統計の調査対象の中小企業が入替えられたためという解説である。たしかにちょっと大きな修正となったが、筆者のここからの説明では速報値の数字を使っても支障はないと思われるので(どういう訳か日経新聞は改定値公表では名目GDPの成長率を掲載しないから)、先々週号の数字をそのまま使うことにする。
4〜6月GDP増減率(単位: %)
項 目 実 質 名 目 デフレータ
個人消費 0.4 0.5 0.1
住宅投資 ▲3.5 ▲2.8 0.7
設備投資 1.2 1.4 0.2
政府消費 0.3 0.4 0.1
公共投資 ▲2.1 ▲1.5 0.6
輸 出 0.9 2.8 1.9
輸 入 0.8 4.5 3.6
GDP 0.1 0.2 0.1
まずこのGDP統計の数字から分ることを簡単に述べる。政府は、日本経済は依然回復基調は崩れていないとしている。しかし設備投資も改定値でマイナスと言うことになれば、住宅投資、公共投資を含めた投資項目は全てマイナスとなる。やはり輸出頼みの日本経済という姿がGDP統計を通して見えてくる。
直近のサブプライム問題を別にして、世界は空前の好景気である。新興国の経済が高度成長期に入り、各国に恩恵が及んでおり、欧米の経済も好調であった。その世界的好景気の中にあって、ほとんど経済が成長していないのが唯一日本だけである。
日本の名目のGDPは10年前とほとんど変わっていない。世界的好景気を受け、わずかに輸出関連企業とそれに附随する設備投資関連企業が潤っただけである。しかし名目のGDPが伸びない中で外需が好調だったということは、内需の不振がそれだけ深刻だったことの裏返しである。
名目GDPがほとんど伸びていないのに、シンクタンクの調査では高額所得者の数はかなり増えている。一つの理由は大企業の配当金と役員クラスの収入が増えていることである。大企業の役員の報酬が、オプション導入や業績連動給与制の採用によって飛躍的に増えている。たしかに企業の利益は、輸出の伸長とリストラで増えている。もっとも中には役員の業績連動給を増やすため、日興コーディアルのように粉飾まがいの会計操作によって経営業績を良く見せている企業もあると筆者は見ている。
名目GDPがほとんど変わっていないのだから、高額所得者の数と所得が増えているということは、一方でそれだけ貧乏人が増え、さらに貧乏人の所得が減っていることを意味する。それを反映してか、売れる車もレクサスと軽自動車と両極端になっている。
日本のGDP統計を見ていると、経済が成長しない状態で、所得格差だけが大きくなったことが分る。明らかに日本政府の経済政策が間違えていたのである(経済政策を間違えたというより、何もしてこなかったと言った方が正確。さらに定率減税の廃止や保険料の値上げなどによって中間層以下の可処分所得は確実に減少している)。普通の国ならクーデタが起っていても不思議はない状況である。しかし日本国民は、ずっと官僚と日経新聞に経済数字を使って景気は良くなったと言いくるめられて来たのである。ところが国民も「これはおかしい。生活実感と違う。」と気付き始めた。クーデタは起こさなかったが、参議院選挙で自民党を大敗に追込んだのである。
・簡単なトリック
日本経済は回復基調にあるという政府の見解と、国民の実感との間にズレがある。筆者が、このズレを説明するためにGDP統計の中で特に注目しているのが大きな輸入のデフレータである。各需要項目のデフレータの中で輸入のデフレータが突出して大きい。
これは石油、鉄鉱石、非鉄金属、穀物など輸入原材料の価格が高くなっているからである。たしかにこの一つの原因は世界的な好景気、特に新興国の経済発展による一次産品の需要増がある。またOPECだけでなく、世界的な大手資源会社のカルテル化による価格つり上げもある。しかし筆者は世界的な金余りによる投機マネーの増加を特に指摘したい。
世界的な商品相場の上昇が始まったのは5、6年ほど前であり、本誌も02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」でこのことを取上げた。この時には商品相場の上昇から、後の米国のイラク攻撃の可能性を探った。
ところでここ2,3年の一次産品の価格上昇が一段と大きくなっている。これはやはり商品相場の投機的要素が強まっているからと筆者は解釈している。投機マネーの増加については、9.11同時多発テロ後の世界的な金融緩和に加え、日本の為替介入資金や円キャリー取引の増加とも関連している。これについては数週間後に取上げたい。
名目GDPは上段の各需要項目の合計であり、これを計算式で示せば次の通りになる。名目GDP=個人消費+住宅投資+設備投資+政府消費+公共投資+輸 出−輸 入。ここで注目すべきは輸入が名目GDP計算上で控除項目になっていることである。
したがって輸入品の価格が上昇し、輸入金額が大きくなれば名目GDPはそれだけ小さくなる。輸入品が高くなれば、それだけ金が余計出て行くのだから、これは国民の実感に一致する。しかしこれをデフレータ(価格上昇率)で割引いた実質値に置き換えると、輸入品の価格上昇の影響がみごとに消えてしまうのである。
ところが政府・与党、そして日経新聞は、景気判断を一貫して名目ではなく実質で行っている。日経新聞は改定値の公表の際も実質だけで名目GDPを掲載しない。名目GDPを取上げれば、日本経済が良くないことがバレるからである。
日本の高学歴者(自分は賢いと勘違いしている学校秀才)ほど、「実質」という言葉に踊らされ「実質」が正しく、「名目」は実態を表さない仮の姿と思い込んでいる。日本の官僚もそこついて実質GDPや実質GDPの成長率しか強調しない。名目値を問題にすればこれまでの経済政策が完全に失敗だったことが明らかになるからである。日本国民はこんな簡単なトリックにずっと騙されてきたのである。
輸出はわずか10年あまりの間にGDP比率がなんと8%台から15%に激大している。貿易黒字がそれほど増えていないのだから輸入のGDP比率も輸出を若干下回る水準で推移している。つまり輸出・輸入金額の名目GDPに対する比率はものすごく大きくなっているのである。特に価格上昇によって名目の輸入金額はひときわ大きくなっている。このように日本経済全体に対する輸出と輸入の影響が飛躍的に大きくなっているのである。
ところでこれだけ輸入品の価格が上昇しているのに、GDPのデフレータはほとんどゼロ(速報値で0.1%、改定値ではなんとマイナス0.2%)である。これは輸入原材料費の高騰を日本国内のどこかで吸収しているからである。もっと正確に言えば、輸入原材料費の値上げの皺寄せを被っている人々がいるということである。ところが自民党の政治家達は官僚にあやつられ「景気は回復している」と選挙で言っていた。だから皺寄せを被っている人々からしっぺ返しを受けたのである。
今週号の続きは再来週号になる。来週はやはり自民党の総裁選を取上げることになろう」
http://adpweb.com/eco/eco497.html