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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070915/135071/
Moira Herbst (BusinessWeek.comニューヨーク支局記者)
米国時間2007年8月28日更新、「A Critical Shortage of Nurses」
●「米労働市場の今を探る」シリーズの第2回(参考記事:「労働力不足の虚実」)。
米国は深刻な看護師不足に直面している。既に、必要な数に対して推定で8.5%の欠員が生じている。2020年までに8000万人のベビーブーム世代が引退し、看護を必要とする人が増加するのに伴い、この欠員率が3倍に膨れ上がるという予測もある。看護師不足は10年前から続いている。ここ50年間にこんなことはなかった。病院経営者や看護師団体は、看護師不足が深刻な状態にあると訴えている。
では、なぜ看護師の賃金は上がらないのだろうか。正看護師の賃金の上昇率は2006年から2007年にかけてわずか1.34%で、これはインフレ率よりもかなり低い。病院のコスト削減や保険会社の保険金支払方針など様々な要素が複雑に影響しているのだが、見落とされがちな要因が1つある。毎年米国に大量にやってくる外国人看護師だ。ここ数年、米国で雇用される正看護師の3分の1近くは外国人なのだ。
これに対しては、短期的な応急策であり、長期的には大きな問題を招くという批判の声が上がっている。外国人看護師が流れ込んでくることで、病院は安い賃金で欠員を補充できる。しかし、その結果、看護師の賃金が抑制され、看護師になりたいという米国人はますます減ってしまう。
バンダービルト大学看護学部のピーター・ビールハウス教授(専門は米国の看護労働力)は、「看護師の賃金をもっと上げるべきだ。賃金が上がれば、看護師は前途有望な職業だとの認識が社会に広まる。将来の看護を支える労働力を確保するためには不可欠な要素だ」と主張する。
グローバル化が米国人の仕事を奪う
米国の看護師市場は、グローバル化が労働市場にどのような影響を与えるのかを示す好例である。技術革新と労働力移動の活発化により、労働市場には地域どころか国の境界すらない。「需要と供給」のメカニズムは以前ほどうまく機能しなくなった。普通なら、市場における供給不足は価格の上昇によって調整されるが、別の市場から供給が補われるので価格調整機能が働かないのだ。
こうした労働力不足は、医療、建設、農業、ハイテクといった様々な分野で起こり得る。労働市場問題で最も激しい論争が起きているのはハイテク産業だ。米国のハイテク企業が外国からプログラマーやエンジニアを多く受け入れていることに対して、米国人労働者は自分たちの賃金が抑制されるのではないかと不満を募らせている。
一方、マイクロソフト(MSFT)、IBM(IBM)、グーグル(GOOG)、オラクル(ORCL)、モトローラ(MOT)といったハイテク企業は、外国からの技能労働者を期間の長短を問わず、もっと受け入れるべきだと主張している。
しかし、コンピューター科学者やソフトウエア開発者たちは、このままではハイテク分野を究めてやろうという米国人が減り、長期的に米国の競争力を低下させることになると警鐘を鳴らしている(BusinessWeek.comの記事を参照:2007年2月8日「Work Visas May Work Against the U.S.」、2007年3月27日「Immigration Reform: Americans First?」)。
看護師の平均年収は5万8000ドル足らず
看護師の場合、問題は賃金だけではない。過酷な労働条件や慢性的な人手不足のため、資格を持っていても看護師として働こうという気にならないのだ(BusinessWeekチャンネルの記事を参照:2007年9月4日「労働力不足の虚実」。
正看護師になるためには高度な訓練を要するが、その平均年収は5万8000ドルにも満たない。米国人労働者全体の平均年収は3万6300ドルである。米国の看護師資格を持っている人たちが“割に合わない”と感じているのは明らかだ。現在50万人の正看護師の有資格者が看護の仕事に就いていない。現場で働いている正看護師250万人のなんと5分の1にもおよび、不足分の2倍以上に当たる。
病院側は、米国の看護師不足は非常に深刻であり、カネだけの問題ではないと主張する。ロサンゼルスの移民法弁護士、カール・シャスターマン氏が契約している100の病院では、それぞれ100人程度の看護師が欠員となっている。米国では看護師養成機関も足りず、養成課程に入るために2〜3年待たなくてはならない。看護師の“輸入”は病院の死活問題なのだ。
「米国内でもっと多くの看護師を養成し、賃金を上げたとしても、外国から看護師を受け入れなければ米国の医療は成り立たない。外国人看護師が米国人から仕事を奪っているなんて言ってる場合ではない」(シャスターマン氏)
ただし、賃上げが看護師の増員につながったこともある。1990年代後半に問題となった看護師不足に対処するため、2001年に多くの病院が賃上げを実施した。その結果、2001年から2003年の間に看護師が18万6500人も増加した。賃金と人手確保は直結するという主張を裏づけるものだ。米女性政策研究所が2006年に発表した論文「賃金引き上げによる看護師不足の解消」では、「看護師の賃金引き上げは、既に資格を持っている者とこれから看護師になろうという者を病院に呼び込むために最も効果的だ」と結論づけている。
忙しすぎて罪悪感に震える現場看護師
看護師団体も賃上げが必要としているが、米国の看護労働力を持続的に維持するためには労働条件を根本的に改善すべきだと主張している。今後、看護師不足はますます深刻化する一方なのである。米保健福祉省によると、2020年までに看護師の不足率は現在の8.5%から29%、人数にして81万人強に急増する見込みだ。
「報酬が高ければ人は集まるだろう。だが、職場に定着するかどうかは別問題だ」と、米国最大の看護師組合である全米看護師組合のシェリル・ジョンソン代表(正看護師でもある)は言う。
「看護師なら誰でも十分な人手を確保することが一番大切だと思っている。1人当たりの仕事量があまりにも膨大で、患者の呼吸を確認したり、水を飲ませたり、床ずれしないように体の向きを変えたりといった基本的なことさえできないことがある。罪悪感に押しつぶされそうになる看護師もいる」(ジョンソン氏)
賃金引き上げ、労働条件の改善、外国人看護師の受け入れ――。どのようにバランスを取るにせよ、看護師不足を長期的に解消するには様々な問題を解決しなければならない。
「看護師は結束して状況を改善しようとしているが、すぐに何もかもがよくなるわけではない。当然、我々と利害が対立する人たちもいる。現状維持を求めるロビー活動も行われているのだ」
11万5000人の正看護師を代表する全米看護師組合の広報担当、スザンヌ・マーチン氏の表情は厳しい。
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