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9月7日に発表された8月米国雇用統計で、非農業部門の雇用者が前月に比べて4000人減少した。雇用者の減少は2003年8月以来、4年ぶりである。信用力の低い個人向け住宅ローンであるサブプライムローンの焦げ付き問題が米国経済全体に影を落とし始めたとの認識が広がっている。同日NYダウは250ドル下落して13,113ドルに達した。週明けの東京市場はNY市場に連動し、日経平均株価は358円下落して15,764円に達した。
8月31日付の本コラムに、9月中旬まで株式市場の波乱に警戒を要すると記述したが、7、8月の株式市場の調整局面の陰の極の終盤に差しかかっていると判断する。NYダウは8月16日に12,845ドルまで下落した。7月19日終値の史上最高値14,000ドルから1155ドル、8.3%の下落である。一方、日経平均株価は8月17日に前日比874円下落し、15,273円で引けた。7月9日終値18,261円からひと月で2988円、16.4%下落した。
2006年央の株価調整は、NYダウが5月10日11,642ドルから6月13日の10,706ドルへ936ドル、8.0%下落、日経平均株価は4月7日17,563円から6月13日14,218円へ3345円、19.0%下落だった。私は今回の株価下落の値幅調整は完了しつつあると考えている。ただ、株価の本格回復には一定の時間を要する。日柄整理が必要だ。
米国では住宅価格が下落に転じ、住宅ローンの焦げ付きが問題化している。住宅価格が上昇している時期に、与信行動におけるリスク管理が甘くなったつけが表面化している。日本のバブル経済下での与信行動の膨張を思い起こせば、基本構造はすぐに理解できる。
しかし、私は米国経済、株式市場の調整はバブル崩壊期の日本ほど深刻にはならないと考えている。詳細は『金利為替株価特報』を参照いただきたいが、米国政策当局の問題対応能力の高さがその最大の根拠である。9月7日の雇用統計で経済の減速を示す数値が発表されることは十分に予想できた。その場合、景気後退を懸念して株価が下落することも容易に想定できた。
だが、そうなればFRBは当然、対応策を発動することになる。FRBはすでに8月17日、公定歩合を6.25%から5.75%へ50ベーシスポイント引き下げた。臨時のFOMC(連邦公開市場委員会)を開催しての決定だったが、FRBの機動力を鮮明に示す行動だった。
9月18日に次回定例FOMCが開催される。FRBはFFレートを5.25%から4.75%へと引き下げる可能性が高い。問題は消費者を中心にした経済主体の心理がどのように変化するかだ。米国の不動産価格の方向が上昇から下落に転じることの影響を軽視すべきではない。米国経済における住宅のウェイトは日本よりもはるかに大きい。住宅と自動車販売、個人消費は不可分に結びついている。住宅市場の調整本格化に伴って米国経済がはっきりと減速することは避けられないと考える。
しかし、株式市場は中期の経済の方向と株価の絶対水準を考察する。米国株価に際立った割高感は生じていない。20倍弱のPERは現在の米国長期金利水準から見て妥当な水準であると判定できる。FRBが経済情勢を総合的に判断して、利下げ政策を適切に発動するなら、米国経済のリセッション入りを回避することは可能であると考える。
リスクは原油価格に存在する。原油価格についてはWTI先物価格が再び1バレル=78ドル台に上昇している。原油価格の騰勢が持続すると、FRBの利下げ政策の大きな障害になる。景気減速が明確になるのに、インフレ圧力が高まって金利引下げを実行できなければ、米国経済はスタグフレーション(景気後退とインフレーションの組み合わせ)という、株式市場の天敵に覆われてしまう。
米国住宅価格下落の程度、住宅市場の調整が住宅投資、個人消費を通じてどこまで米国経済にマイナスの影響を及ぼすのかを慎重に見極めてゆかなければならない。リスクは確かに存在する。しかし、FRBの追加政策発動の余地は大きく、ブッシュ政権および米国議会もサブプライムローン問題に対して迅速な行動を示しており、本格的な経済の調整は回避される可能性が高いと考える。
9月5日にFRBは地区連銀経済報告書(ベージュブック)を発表した。サブプライムローン問題を発端とする金融不安が住宅市場を一段と冷え込ませていることを示したが、米国経済全体への影響は現段階では限定的であり、景気の緩やかな拡大は持続していることが示された。
また、ECB(欧州中央銀行)は9月6日の定例理事会で政策金利の据え置きを決定した。トリシェ総裁は「物価上昇のリスクは残っている」と発言してインフレを警戒する姿勢を崩してはいないが、米国のサブプライムローン問題に端を発するグローバルな金融市場の混乱に配慮する政策スタンスを示した。
日本では9月18、19日に金融政策決定会合が開かれるが、金融市場の不安定性が残存し、為替市場では対ドルでの円高傾向が強まっており、3度目の金利引上げは見送られる可能性が高い。日本では消費者物価が現状でも前年比マイナスを示しており、経済活動にも黄信号が灯っていることから、当面、金利引上げは見送られることになる可能性が高い。
日本経済の基本環境が景気減速、円高、長期金利低下に転換しつつあることに留意すべきである。日本企業の株価には著しく割安なものが大幅に増加している。長期金利が当面、低位で推移するなら、利回りから判断して株価は上昇しておかしくない。内需、好業績、低PERの優良企業に対する投資は好機を迎えていると判断する。
当面の日程であるが、米国では14日(金)に8月小売売上高、8月鉱工業生産指数、9月ミシガン大消費者信頼感指数、18日(火)に8月卸売物価指数、19日(水)に8月消費者物価指数、8月住宅着工、住宅着工許可件数が発表される。18日(火)にはFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、声明が発表される。小売売上高、FOMCが注目される。
国内では、12日(水)に8月工作機械受注が発表され、18日(火)、19日(水)に日銀の政策決定会合が開催され、19日(水)に福井日銀総裁が会見する。9月10日(月)に発表された2007年4-6月期の日本のGDP成長率が年率-1.2%のマイナス成長になった。マイナス成長は3四半期ぶりである。また、同日発表の8月景気ウォッチャー調査では現状判断指数が44.1と5か月連続で低下し、6ヵ月連続で50を下回った。経済の先行きに黄信号が灯っている。ただし、11日(火)に発表された7月機械受注は前月比17.0%増と事前予想を大幅に上回った。設備投資の基調は依然として強いことが示唆された。
米国経済のリセッション懸念、サブプライムローン問題に関連する信用不安懸念、原油価格の高騰、日本経済の後退懸念などの懸念材料が存在しており、これらのすべての問題に十分な注視が必要であるが、私は市場の不安心理が徐々に後退してゆく可能性が高いと判断している。
為替市場では引き続き円高・ドル安の反応が生じやすい状況が持続すると考える。欧州では政策金利が引き続き引き上げられる方向にあり、ユーロは上昇しやすいと考える。債券価格(長期金利)と株価はトレードオフの関係にある。株価下落局面で長期金利が低下し、株価上昇局面で長期金利が強含むと考える。
9月10日に臨時国会が召集された。安倍改造内閣は総理の座に留まりたい安倍晋三首相と次期首相を狙う麻生太郎自民党幹事長の私的な利害の一致によって組成された内閣である。経済政策運営では、小泉政権以来の「市場原理主義」を否定する思潮が新内閣内で広がり始めているが、安倍首相は十分な説明を示していない。与謝野馨官房長官は経済政策運営での基本理念を「市場原理主義=弱者切り捨て」から、「弱者への配慮」に転換する意向を示しているが、一方で天下り問題については官僚利権温存をより鮮明に示す可能性が高い。
小泉・安倍政権の本質に関しては拙著『知られざる真実−勾留地にて−』(イプシロン出版企画)に詳述しているので、是非ご一読願う。
2007年9月11日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀