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「経済コラムマガジン07/9/10(495号)
・経済数字の実感との乖離
・官僚組織の経済数値
官僚組織が作る経済数字が、実態とかけ離れていることが考えられる。例えば実際の経済が悪いのに、官僚の作成した数値では景気が良いというケースである。ところが与党の政治家がそれを鵜呑みにして政策を実行していると考えられる。それがあってか、先の参議院選挙で与党の候補者は盛んに「経済は良くなった」と叫んでいた。
ずっと人々は政府の公表する経済数値を半信半疑で受取っている。たしかに政府が公表する経済数字を見れば、ここ数年景気はちょっと良くなっている。人々は「経済状態が良くないのは自分だけか」と思い込んできた。しかし一部の人々を除き、大半の人々は経済状態は良くなっていないか、もしくは逆に悪くなっているのではないかと徐々に感じ始めた。
今回の選挙で与党は大敗したが、この原因は決して閣僚の問題発言や年金問題・政治資金問題だけではない。筆者は政府や政治家に対する不信感こそが真の敗因と考える。人々には十分な知識と情報がなく、政権が公表する経済数字を間違っているとは言えない。しかしどうしても自分達の実感と公表される経済数字の間には大きな開きがある。人々はどうも「政府・与党に騙されているのではないか」と気付き始めたのである。小泉政権下では言葉巧みに騙されていただけである。この不信感が根底にあったからこそ、年金問題や政治資金問題が大きくなり、人々の反与党という投票行動に繋がったと筆者は理解している。
官僚組織の仕事で大きな比重を占めるのが、各種の数字の算出であり、その多くが経済が関する数字である。もしこれらの数字が本当の経済実態を示すのなら問題はない。ところがかなりの数字が経済実態と乖離しているのである。
筆者は、官僚が作成する経済数字が嘘と言っているのではない。これらの数字の中には、昔は実態をある程度反映していたが、経済構造や社会情勢の変化によって実態を表さなくなったものがあると言いたいのである。本来なら、世の中の移り変わりに応じて、統計数字の作成方法の改定や新しい指標を作る必要があるのに、日本の官僚組織はそれを行おうとしないし、政治家もそれを求めない。まるで本当のことを人々に知らせたくないみたいである。
完全失業率がかなり低下している。これだけ失業率が下がれば、雇用する側も人を確保するため、雇用条件をどんどん良くしたり、正社員を増やそうとするはずである。つまり一見すれば、まるで世の中の景気が良くなって雇用問題は解決したような印象を受ける。
また需給ギャップがほとんどなくなっている。驚くことに最近は、需給ギャップがプラス、つまり需要が供給を上回っているのである。しかし需給ギャップを文字取り解釈すれば、こんなことは有り得ない現象である(供給力を上回った生産がなされたということになる)。本来、需給ギャップがなくなるような経済水準では、「景気が良い」をはるかに通り越し、超過熱状態になっているはずである。企業は我れ先勝ちに投資を行い、中国をはるかに超える経済成長が実現しているような数字である。
・名目と実質
政府の統計では日本の経済成長率は他の先進国並み(いくぶん低い水準)となっている。しかし中国などの新興国ほどではないが、欧米諸国は実際に景気が良い。サブプライム問題による市場の動揺がなければ利上げを検討するほどのレベルである。ところが日本の経済成長率はその欧米とほぼ同水準というのだからおかしな話である。
経済成長率には、名目とそれから物価水準を差引いた実質がある。今日経済成長率と言えば実質経済成長率のことである。名目と実質と言えば、何か名目は見た目の表面的な数値であり、実態を正しく表すのが実質と、人々は認識し勝ちである。たしかに世界的な経済成長率を比較する場合は実質経済成長率を使うのが一般的である。ここに落とし穴があると筆者は考える。
物価上昇を伴いながら経済が成長しているなら、名目成長率から物価上昇率を差引いた実質経済成長率を重視することに意味がある。しかし他国と異なり、日本の経済だけが長いデフレを続けている。日本のようなデフレ経済の国では、実質よりむしろ名目を重視すべきと筆者は考える。
名目の所得で人々は収入を実感し消費額を決める。また物価が上がることが消費や投資の誘因になる。人々が物の値段が上がる前に金を物に変えようとするからである。つまり実質成長率の数字が同じでも、物価が上がらない日本と継続して物価が上昇している他の先進国では、景気の実感がまるで違うのである。
さらに物価上昇率の計算にヘドニック法というものが採用されている。これは品質の向上を物価上昇率に反映させるものである。例えばパソコンの値段が以前と同じでも、性能が向上している場合は、実質的にパソコンの値段が下がったものと物価上昇率の算出に反映させる。しかしヘドニック法採用製品を消費しない人々には(ヘドニック法が適用されている製品は限られている)、このようなことは関係がないのである。
ここで名目と実質の経済成長率の実例を示して、筆者の提起する問題点を明らかにしたい。次の表は先月公表された今年4〜6月のGDPの成長率である。なお各需要項目のデフレータは筆者が算出した(名目から実質を差引いた数値)。
4〜6月GDP増減率(単位: %) 項 目 実 質 名 目 デフレータ
個人消費 0.4 0.5 0.1
住宅投資 ▲3.5 ▲2.8 0.7
設備投資 1.2 1.4 0.2
政府消費 0.3 0.4 0.1
公共投資 ▲2.1 ▲1.5 0.6
輸 出 0.9 2.8 1.9
輸 入 0.8 4.5 3.6
GDP 0.1 0.2 0.1
実質値を見る限りでは、こんなものかという印象である。しかし筆者は輸入のデフレータが大きいことに着目する。この辺が人々の不況感を強めている大きな要因となっていると考えるのである。
来週は今週で示した大きな輸入のデフレータの影響をもっと詳しく述べたい。
米国のサブプライムローン問題に端を発した市場の動揺が続いている。市場が落着くまでにはもう少し時間がかかりそうだ。欧米企業の7〜9月の決算が出る来月には、サブプライムローン問題の影響の見極めができると考える。 」
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