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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070818/132453/
Matthew Goldstein (BusinessWeek誌、ヘッジファンド・金融担当編集者)
David Henry (BusinessWeek誌、シニアライター)
Aaron Pressman (ボストン支局)
米国時間2007年8月2日更新 「The Pain Moves Beyond Subprime」
金融市場に蔓延する“流行病”は、年初以来、米国株式市場から2000億ドル以上を奪い去ってしまった。この病はいったいどこまで広がるのか──。投資家の不安はそこにある。
7月31日、株式相場は1週間前に描き始めていた下降線を再びたどり始めた。大量の売りによる株価急落のきっかけとなったのは、またもや金融機関が発表した悪いニュースだ。発表したのは、米住宅金融大手のアメリカン・ホーム・モーゲージ・インベストメントである。ニューヨーク州メルビルを拠点とする同社は信用履歴が良好な顧客を中心に融資をしているが、深刻な資金不足に直面し、破産に追い込まれる恐れもあるという(注:8月6日に米連邦破産法11条の適用を申請した)。この発表を受け、同社の株価は88%急落した。
多くの投資家が注目するフィラデルフィアKBW銀行株指数(24の最大手銀行株から組成)は、今年既に10%も下落している。主因はサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)市場の崩壊だ。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが公表するS&P500種株価指数は、金融株の占める割合が2割と最も大きいためダメージが広がった。金融株を除外すると年初から7月までの指数上昇率は5.6%だが、金融株を含めた全体では2.6%にとどまっている。
金融サービス会社は既に厳しい状況にあるが、今後数カ月でさらに深刻さを増し、株式市場全体に重くのしかかっていきそうな気配だ。
投資銀行の信用評価は“カジノ”並み
サブプライム問題は住宅ローン以外の業界にも広がつつあり、既に少なくとも5つのヘッジファンドが破綻した。目下の懸念は、企業融資とジャンク債市場の不振が深刻化し、レバレッジド・バイアウト(LBO、相手先資産を担保にした借り入れによる買収)向けの資金調達が危うくなることだ。それが、LBOを大きな収益源とする投資銀行を脅かしている。
さらに、既に進行中の買収案件に対して投資銀行が結んだローンコミットメントが3000億ドルにも上り、今後、多くの投資銀行を窮地に陥れることになるのではないかという懸念も高まっている。見通しは悲観的で、デリバティブトレーダーは主要投資銀行の債券がジャンク債並みに暴落すると踏んでいるほどだ。
米ゴールドマン・サックス・グループ(GS)や米リーマン・ブラザーズ(LEH)に対する信用評価は、カジノ運営会社である米シーザーズ・エンターテインメントと大差ないとまで見られている。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MCO)のクレジット戦略グループのアナリストの弁である。
おそらく、最大手の投資銀行やブローカーの状況はそこまで悲惨ではない。ムーディーズとS&P(S&Pはザ・マグロウヒル・カンパニーズの事業部門)は、ほとんどの金融機関の信用格付けを変えていない。ムーディーズの上級副社長ピーター・ナービー氏は、投資銀行はリスク管理に長けており、持ちこたえるだけの豊富な資源を持つと言う。「リスク管理で大事なのは、決定的な痛手や大きな打撃を避けることだ。つまり、手元流動性を高くしておくことだ」。
とはいえ、ウォール街に暗雲が立ちこめていることに変わりはない。成立間近だった買収案件のうち20件あまりに対する資金供給が滞っている。独ダイムラー・クライスラー(DCX)の北米クライスラー部門や米ゼネラル・モーターズ(GM)の子会社アリソン・トランスミッションの買収計画は既に延期が決定されている。
犠牲者はまだまだ増える
大手機関投資家が夏の休暇から戻る9月には金融市場は改善するだろうとウォール街は期待をかける。だが、何の裏づけもないたわ言だ。
「投資銀行や(投資ファンドの)出資者たちはこう言う。レイバーデイ(9月の第1月曜日)を過ぎる頃には万事うまくいく。少し時間をおいて頭を冷やせば、また元に戻るってね。しかし、そんな言葉を信じるわけにはいかない」と、高利回り債専門の調査会社フリッドソン・ビジョンのマーティン・フリッドソンCEO(最高経営責任者)は言う。市場が抱えている新たな問題を考えれば当然だ。
債券投資家が買いに慎重なままならば、銀行はローンやジャンク債の利率を上げて売り出さざるを得ない。利幅の縮小分は自らかぶることになる。それだけでも損失は60億ドルにも上ると、ドイツ銀行(DB)のアナリスト、マイケル・メイヨ氏は見積もっている。
進行中の買収案件のうちいくつかはご破算になる可能性が非常に高い。アナリストたちはそう見ている。しかも、投資銀行は別の問題にも直面することになる。M&A(企業の合併・買収)のコンサルティング報酬は取引が成立しなければ回収できないのだ。米M&A調査会社ディーロジックによれば、今年上半期、プライベートエクイティ投資会社は投資銀行への報酬として過去最高の96億ドルを支払った。昨年同期と比較して35%も増加している。ウォール街の金融会社は、そうした収益の一部を失うことになりそうなのだ。
「今年の下半期、ウォール街には業績への逆風が吹き荒れることになる」と、米サンフォード・C・バーンスタインのアナリスト、ブラッド・ヒンツ氏は言う。
信用市場の混乱は続き、国内外を問わず新たなヘッジファンドが犠牲になりそうだ。
6月に、米ベアー・スターンズ(BSC)傘下の大手ヘッジファンドが2つ破綻。7月下旬には、3つ目のファンドが解約停止を発表した。また、ジェームズ・パロッタ氏が運用する資産規模110億ドルのラプター・グローバル・ファンドが単月で9%の損失を出したことが明らかになった。オーストラリアのマッコーリー銀行が運営する2つのヘッジファンドにいたっては今年既に25%の損失を出している。米ヘッジファンドのソーウッド・キャピタル・マネジメントも“タオル”を投げた。米国債と社債の利回り格差を読み誤り、ここ数カ月で運用資産30億ドルのほぼ半分を失ったのだ。
株式市場は状況の深刻さに気づいていない
最悪の事態は、ジャンク債市場での混乱が通常の社債市場にまで波及し、全面的な信用危機を引き起こすことだ。それは経済全体の脅威なのだが、事態はそのシナリオ通りに動き始めているのかもしれない。
ディーロジックによれば、投資適格社債の発行額は7月に前月比で72%、前年比で34%と大幅に減少した。そして、信用力の低い個人に高利で貸す「サブプライムローン」と投機的格付け企業に高利で貸す「レバレッジドローン」における混乱は、信用縮小がさらに進む前触れだという見方もある。
米有力投資顧問会社ブリッジウォーター・アソシエイツの共同CIO(最高投資責任者)、グレッグ・ジャンセン氏は、7月31日付の顧客向け情報にこう記している。「過度なカネ余り状態が長期にわたって続いたことで、金融市場を極めて脆弱にしてしまった。サブプライムとレバレッジドは、それが形になって表れたものだ」。
また、米キャピタル・マーケット・リスク・アドバイザーズの社長で、シティバンク(C)のデリバティブグループで共同責任者を務めたレスリー・ラール氏はこう言う。「良い時は永遠には続かない。このところ、クレジットスプレッドは歴史的な低水準にあった。しかし、そういう時期は終わろうとしている」。
アメリカン・ホームの破綻は、住宅ローン市場が引き続き重大な脅威であることを示している。同社の顧客は概して信用履歴に問題がなかった。住宅ローン問題は、もはや高リスクのサブプライム層だけの話ではなくなっているのだ。
今年から来年にかけて、多数の変動金利型住宅ローンの金利が引き上げられるだろう。毎月の支払額が多くなって信用履歴に問題のない借り手も返済が滞るようになる。そして、新たなローン焦げ付きにつながる恐れがある。
こうしたすべての要因により金融業界はさらに苦しむことになる。そして株式市場全体にも波及していく。米投資顧問会社クリストファーソン・ロブ・アンド・カンパニーのマネージング・ディレクター、ブラッドリー・ゴールディング氏は警鐘を鳴らす。
「株式市場は、状況の深刻さに気づいていない」
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