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風に吹かれて:働きたくない=國枝すみれ
私の住むアパートの従業員リカルドさんが引退し、母国グアテマラに帰るというので、すしとビールでねぎらった。28年間、午前2時に起床して清掃車のゴミ回収をチェック。部屋の電灯が切れた時も、暖房機が壊れた時も、時間外なのにすぐ直してくれた。アパート設備に精通し、仕事に誇りを持っていた。
米国人だと、こうはいかない。何を頼んでもすんなりいかず、支局のインターネット回線の設置に2週間、ケーブルテレビ回線は約1カ月かかった。米国の一般労働者のインフレ修正後の収入の伸びはこの5年間、年1%以下なのに、トップ5%の大金持ちは年2.5%増。05年のCEO(最高経営責任者)の収入は労働者の369倍。93年は131倍だったから、格差は広がるばかりだ。汗水垂らして働くことがばかばかしくなったのかもしれない。
カリフォルニアやフロリダには働かない壮年の米国人もたくさんいる。職業を聞くと、たいていコンサルタントと名乗る。起業した会社を売って巨額の金を手にいれた人々だ。オハイオ州内の就職説明会でも、暗い顔をした失業者に交じって「金には困ってないんだけど」と言う男性がいた。彼も会社を売り、引退しても困らないだけの金を手にした。「会社は自分の人生、従業員は半分家族」と考えがちな日本の中小企業経営者と違い、米国人は高値がつけばあっさりと売る。男性は新しい経営者に、クビにした方がよい従業員のリストまで渡していた。
男性は「家で一日中ぶらぶらしているわけにはいかない。働かないと、子供の教育に悪い」と、職探しに来たのだった。確かに今の米国で、子供に勤勉の徳を教えることは難しい。働くことより金を持っていることに価値が置かれ、労せずに大金を稼ぐとスマート(頭がいい)と評価される。親の資産で食いつなぎ、定職に就かない若者も多い。
ハワイ州マウイ島で、休暇中らしい50代の女性が話し込んでいた。娘が結婚して赤ちゃんを産んだ。「娘も婿も仕事がある。どちらが赤ん坊の面倒を見るかでもめているの」。米国には産休や育児休業制度がないから、一方が仕事を辞めるか、託児所を利用するしかない。大変だよね、と耳をそばだてたら、女性が言った。「2人とも働きたくない、っていうの」(ロサンゼルス支局)
毎日新聞 2007年8月13日 12時40分