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http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20070724/130570/
現在は世界中で過剰流動性が広がり、この状況が続く限りは資産価格が上がり続けると期待できる――
これは、最近よく耳にする意見である。しかし、ここで言う「流動性」は、何を意味しているのだろうか。そしてその流動性が、株式や不動産価格のさらなる上昇を支えると期待する合理的な理由が本当にあるのだろうか。
流動資産とは、簡単に換金でき、別の資産購入に用いられるという点で、現金に似た資産である。近頃はあちこちで流動資産が余っており、これが株や土地、美術品などへの投資で競り勝つために用いられている、という考え方のようだ。
もともと「過剰流動性」とは、世界各国の中央銀行が金融緩和を過度に進めたため、モノは少ないのにカネばかり余るということを意味していた。それならば、カネ余りが起きれば、洋服代も散髪代もすべての価格が上昇するはずだ。1971年、米連邦準備理事会(FRB)のアーサー・バーンズ議長(当時)が、「米国は過剰流動性の状態にある」と述べた時に意味していたのはまさにこの状態だ。当時の関心事は、インフレーションだった。
この過剰流動性という言葉は、最近では、多くの中央銀行が金融引き締め政策を取っていた2005年に使われ始めた。米国ではFRBが大幅な利上げを実施していた。2005年以降、世界の中央銀行はインフレ退治に向けて、大きな責任を持ちながら政策を断行してきた。実際、IMF(国際通貨基金)によれば2005年以降、世界の消費者物価指数は全体として低下した。2007年には上昇に転じたが、わずかなものである。
従って、過剰流動性という言葉が2005年に頻繁に使われ始めた理由については困惑を禁じ得ない。もしかしたら、金融引き締め策に長期金利がほとんど反応しないことに関係していたのかもしれない。利上げが行われても長期金利が上がらなければ、何らかの説明が欲しくなる。「流動性」はこの現象を説明するのにまさに聞こえがいい言葉だ。
しかし、これもデータの裏づけがない。
IMFの世界貯蓄率調査によると、1970年代初め以降、貯蓄率はほぼ一貫して下降傾向を維持し、2002年から上昇に転じてはいるが、それでも30年間の最高水準をかなり下回っている。確かに、新興市場や産油国の貯蓄率は1970年以降上昇しており、特にここ数年の伸びは著しい。だが、これも先進国の貯蓄率低下によって相殺されている。
また別の解釈がある。
過剰流動性の状態とは単に、低金利を意味しているに過ぎないというものだ。だが2003年以降、世界の金利は上昇している。2003年には過剰流動性など言う者はほとんどいなかった。この表現は、金利の低下ではなく、上昇と平行して使用が増えてきたのである。
一方、リスクを管理する方法が変わったため、リスクプレミアムが減っているという考え方もある。金融市場の高度化によって、リスクはかつてないほどに細分化され、分散化されている。事実、リスクを細分化し、許容度に応じて様々なリスクレベルの商品を設定する債務担保証券市場は、資産価格が上がり続ける地合いでリスク分散の役割をフルに果たしている。しかし、これは実は特定の商品のリスク管理についての話であり、「流動性」自体の話ではない。
しかし、もしそれが「過剰流動性」という言葉の意味するところだとすれば、現在広くこの言葉が用いられているのは、単に既に所有している資産の価値が高いことの反映に過ぎない。となると、「バブル」とほぼ同義語とさえ言えるだろう。
バブルという言葉が前回流行したのは、1987年10月19日の株式市場大暴落、いわゆる「ブラックマンデー」の直前だった。この日の下げ幅は史上最大だった。
大暴落の理由は複雑だが、1週間後に私が行ったアンケート調査から分かったのは、結局は、投資家が市場の水準を信用していなかったということである。結果、市場から素早く退出できる戦略に興味が集まることになった。当時人気だったのは、平均株価先物の売りポジションを売るか、平均株価のプット(売り)オプションを買うことで市場リスクをヘッジする「ポートフォリオ・インシュランス」の手法だ。
過剰流動性という言葉がその後頻繁に使われたのは、1999年と2000年の株式相場がピークに達する直前のことだ。従って、この言葉は、何か具体的に指摘できるものを映すのではなく、市場にバブルが起こっているという全体的なムードと、それぞれのレベルでの自信の欠如を反映して使われるようだ。
この解釈に基づくと、この語の流行は心配の種ということになる。つまり、突然の価格下落につながりかねない市場心理を指しているかもしれないのだ。
(ロバート・シラー=米エール大学教授)
Robert Shiller, copyright Project Syndicate