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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070712/129731/
6月26日、クレディ・スイスの代替投資部門の幹部らは顧客に1通のメールを送った。同社の運用ポートフォリオは「サブプライムローン*1に最小限しか投資しておらず、先に破綻しかけたベアー・スターンズ傘下の2つのヘッジファンドには一切、直接投資していない」と投資家を安心させるものだ。
その頃、ほかの投資家はサブプライムローン債権だらけのヘッジファンドから資金を引き揚げようとしていた。カナダの銀行CIBCはサブプライムローン債権を大量に保有していると噂され、仏BNPパリバはベアー傘下のヘッジファンドへの投資について、顧客からの問い合わせの対応に追われた。
米ウォール街(証券業界)は今、サブプライムローン問題の波及を食い止めようと必死。ヘッジファンドの苦境で、世界最大規模の金融機関が突如、危険なゲームに追い込まれたのだ。
へッジファンド苦境で激震
ゲームの展開は3つある。サブプライムローン市場及び社債市場全体が急激に崩壊する。両方、あるいは一方の市場が数カ月かけてゆっくり崩壊する。状況が正常化するのに伴い忘れ去られるような一時的な混乱に終わる――。
今のところ悲劇は避けられているが、各方面からプレッシャーがかかる。今後、ウォール街の銀行家やヘッジファンドの運用責任者、格付け機関が下す判断次第で、ゲームの行方が左右される。誰かが不穏な動きを見せただけで一気に相打ちとなり、壊滅的な共倒れを招きかねない。
当初、サブプライム問題はベアー1社の問題だと見られた。同社傘下の2つのファンドが傾いた時、出血を止めるために16億ドル融資したのは当のベアーだった。同社株は1日で3.2%も下落。米証券取引委員会(SEC)の調査を受けることになったのもベアーで、SECは84年の歴史を持つ老舗証券の初期調査に乗り出した。
普段ならベアーの苦境を見てライバルは涙したりしない。しかし今、ウォール街の大半は同じ問題債権にどっぷり浸かっている。住宅ローンブームの絶頂期に証券化された債権が今になってベアーなどに襲いかかっているのだ。
昨年ウォール街は合計5500億ドルものCDO(債務担保証券)を組成した。CDOは複雑な債券で、しばしばサブプライムローン債権が担保となっている。サブプライムローン債権は好況時は利回りが高いが、今のように市場が揺らぐと危険になる。「これはベアー1社の問題ではない」と米ドレクセル大学のジョセフ・メイソン助教授は言う。
CDOは流動性が低いため、市場が荒れている時は特に厄介なものになる。CDOは売るのが難しいだけでなく、価値を評価するのも難しい。これまでの会計基準では、企業はCDOを買った時の値段と同程度に評価してこられたが、市場で新しい値段がついたら、評価替えを余儀なくされる。
ウォール街を悩ます悪夢は、一時160億ドルも運用していたベアー傘下の2つのヘッジファンドが債権者によって清算される可能性だ。問題債権が大量に売りに出されると、ウォール街は保有資産を本当の価格で評価せざるを得なくなる。「こうした金融商品の価値のなさを認めたがる人はいない」と資産運用会社ユーロ・パシフィック・キャピタルのピーター・シフ社長は言う。
実際、SECのクリストファー・コックス委員長は6月26日の議会公聴会で、当局はベアー以外にサブプライム市場とCDO価格の問題を巡って十数件の調査に着手したことを明らかにした。
ベアーの持ち高が仮に額面1ドル当たり60セントで競売にかけられ、他社がそれに見合う価格で自社の持ち高を評価替えしたら、損失が一気に広がる。企業はできる限りカネに換えようと保有しているCDOを叩き売るだろう。となれば、急激な崩壊が起きる。
メリルリンチやゴールドマン・サックスなど、ベアー傘下のファンドに当初融資した大手銀行がファンドの清算を急がないのはこのためだ。ファンドが清算されれば、全員が被害を被る。
もう1つ、CDO所有者を脅かすのがムーディーズ・インベスターズ・サービスやスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)などの信用格付け機関だ。格付け機関がCDOを格下げすれば、所有者はそれに従って評価替えを迫られ、やはり悲劇のシナリオが起きる。
現時点では、そうした事態には至っていない。ムーディーズでグローバルなCDO格付けを統括するノエル・キルノン氏は、「CDOを監視する綿密なプロセスがあり、担保資産の劣化は我々の予想を超えるものではない」と言う。
LBOや社債市場に冷や水?
ワイルドカードは、年金基金や大学基金、外国政府などの機関投資家の動きだ。彼らが投資先ヘッジファンドに不安を募らせたら、カネを引き揚げる可能性がある。もし機関投資家が一斉に逃げ出せば、ヘッジファンドはCDO売却を余儀なくされ、負のスパイラルの引き金を引くかもしれない。
住宅市場そのものにも脅威が潜んでいる。米フォアクロージャー・ドット・コムによれば、アリゾナ州マリコパ郡*2では、住宅が1日50軒以上差し押さえられている。最近家を買った人が資産価値の低下と返済金の高さについていけず、1年前より差し押さえが60%も増えているのだ。差し押さえのペースが速まれば、CDOの担保である住宅ローンの問題が一段と明白になり、CDOの格下げリスクが高まる。
CDOの混乱がほかの事業に与えるリスクも大きい。既にベアーの問題は、LBO(レバレッジド・バイアウト)ブームを支え、銀行を潤してきた2つの市場、ジャンク債とレバレッジドローンに波及しつつあるとの懸念が高まっている。
レバレッジドローンの指数は6月下旬の2週間で2%下落。ジャンク債も下落している。S&Pの融資市場調査部門LCDのスティーブン・ミラー氏によれば、あるLBO案件の資金調達でジャンク債を売れず、投資銀行がLBOの元手として“つなぎ融資”を行わざるを得ない事態が2年ぶりに発生したという。
買収予定案件を巡っては、LBO企業が資金調達の条件を見直し、利回りを高くしたり、手厚い保護策を用意したりしている。「市場では冷めた見方が広がりつつある」とミラー氏は言う。
危機はまだ起きていない。リーマン・ブラザーズのアナリスト、ロジャー・フリーマン氏は6月26日付の投資家向けメモで、この問題は「ベアーの利益に大きな影響を与えない」と書いた。S&PのLCDも、ベアーを巡る混乱があっても、LBOのペースは鈍るだけで止まりはしないと予想している。
今後のウォール街の戦略は、火消しを急ぎ、現状維持を図ることだ。「彼らは極力時間を買おうとしている」。ヘッジファンド、バレストラ・キャピタルの創業者、ジェームズ・メルチャー氏は言う。「上位12行が手を組んで市場を下支えし、時間をかけて相場を調整していけば、ゲームはうまくいく」。
だが市場崩壊の可能性は関係者の頭を離れない。6月26日、UBSのアナリストらは電話会議を開き、ベアーの状況を議論した。「今、感染を探る動きが広がっている」とUBSのダグラス・ルーカス氏。「遠くはオーストラリアの関係者とも話し合った」。今、関係者全員が誰が瞬きするのか注視している。
*1=信用度の低い個人向けの高金利型住宅ローン。最近の住宅市場の冷え込みで、返済不能に陥る人が急増している
*2=フェニックスなどがある同郡は、住宅ブームの過熱ぶりが全米でも際立っていた地域
Matthew Goldstein, David Henry, and Mara Der Hovanesian
(BusinessWeek,(C) 2007 Jul.9&16,McGraw-Hill,Inc.)