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1988年12月24日 消費税法が成立 『広く薄く』税の新たな柱【東京新聞】
2007年1月30日 紙面から
「小学一年生の息子が百円玉一枚握りしめて鉛筆を買いに行ったのですが、商店主に『三円足りない』と断られ、泣きながら帰宅しました」−。
およそ十八年前、買い物をするのに表示価格だけではモノが買えなくなった日が生まれた。商品やサービスが一斉に3%値上げされた感覚にとらわれた“消費税スタートの日”。東京新聞の読者から届いた「小学生の悲劇」をはじめ、列島各地で消費税導入に伴う喜怒哀楽のドラマが起こった。一円玉の確保に追われるスーパーと小銭の煩わしさに憤る消費者。「弱い者いじめだ」と消費税分の受け取り拒否を貫く“人情商店”や逆に便乗値上げに走る“悪徳商店”も。家電など高額品では導入前に駆け込み消費が起こり、導入後には反動減…。
一九八八年十二月二十四日。クリスマスイブに成立した消費税法は、“火の車”状態のニッポン財政に年間七兆円程度(税率が3%から5%に引き上げ後は十二兆−十三兆円)もの安定収入を約束するプレゼントとなった半面、国民には低収入層ほど重税となる“矛盾に満ちた贈り物”であった。
戦後、日本の税制を方向付けた「シャウプ勧告」以来、わが国は所得税など直接税中心主義できた。そうした直接税偏重の傾向は年々強まり、国際的にみてもいびつさが際立っていたのは確か。国民が「広く、薄く」負担する間接税の本格導入は「近代国家の税制として必要だ」というのが大蔵省(現・財務省)主税局の考えであり、また安定財源を確保できる新たな基幹税の実現は悲願でもあった。
「竹下政権は初めから税制改革内閣だった」−。“幻の消費税”といわれた中曽根政権の売上税構想から竹下政権の消費税実現までを、大蔵省主税局長として陰で支えた水野勝(74)は、こう言って遠くを見上げた。
竹下登が、中曽根康弘の後を継いで首相になったのは八七年十一月。消費税法が成立するのは、その、わずか一年後。国民の猛反発を招きながらも消費税が短期間で実現したのは、同じ間接税である売上税法案に尽力した中曽根の“遺産”があってのことだった。
中曽根は自民党総裁任期が残りわずかとなった八六年六月に衆参同日選に打って出て、衆院で三百議席を獲得する大勝。勢いに乗って翌八七年二月、通常国会に売上税法案を提出したが、選挙前に「大型間接税はやらない」と明言したことが響き、同法案は廃案となった。しかし、中曽根は世論に間接税の必要性を提起するとともに、次期政権に多数議席という遺産を残し、実現の下地を敷いた。
水野は、売上税が日の目を見なかった理由として「時間のなさ」を挙げる。売上税自体は、逆進性に配慮して食料品を非課税とするなど現在の消費税より評価する声もある。しかし、白紙状態から法案とりまとめに使った期間は、同日選から年末までのわずか五カ月間。「自民党の部会などに根回しする時間的余裕もなかった」
これに対し、大型間接税の導入を宿命づけられていたともいえる竹下は、政権発足からすぐに準備に動いた。自民党の各派閥に働きかけて理解を求め、業界団体にも説明を続けた。「竹下流の根回しが効果を発揮した」と水野。中曽根を見ていた竹下は、それだけ手間と時間をかけた。
中曽根と竹下。中曽根は総裁任期の一年延長を手にし、長期政権として国民の記憶に名を残した。竹下は短命政権に終わったが、大型間接税を実現したとして歴史に名を残したのである。
そして現首相の安倍晋三。政権にとって消費税改革を含む税制改正議論は避けて通れない課題であり、中曽根、竹下両政権ともそれぞれ類似した点がある。
中曽根政権との類似点は選挙対応である。安倍政権は参院選(中曽根政権では衆参同日選)までは消費税(売上税)論議を封印し、その後に議論する考え。中曽根はそこで「大型間接税はやらない」と発言し、後の行動を縛った。安倍政権も参院選勝利のため、必要以上の発言をすればフリーハンドを失う可能性はある。
竹下政権との類似点は、発足当初から間接税改革が政権の重要課題として挙がっていることだ。さらに、税収が好調なことも共通点だ。バブル景気で税収に恵まれた竹下政権は、所得税減税などとセットで二兆六千億円の減税という“アメ”を示しながら消費税を導入した。安倍が社会保障財源を賄うため消費税引き上げが不可避になった場合には、竹下同様、環境としては悪くない。
しかし、水野は「税は極めて政治的な仕組みだ。純粋に行政的な議論だけでは方向付けできない」とも指摘する。消費税を導入後の選挙で党税調幹部が軒並み落選したことを覚えているだけに、怖いテーマだというのである。
間接税誕生から今日の消費税引き上げ問題を通じた教訓は何か。水野は「消費税改革をやるならやるとはっきり打ち出すのも一つ。将来にツケを残さないということで国民には基本的に理解されるかとも思う」と強調する。
経済が好調で税収が伸びている現在。「消費税を上げなくても、財政再建の目標は達成できるのではないか」との声も聞かれる。安倍はどう動くのだろうか。(金森篤史)=文中敬称略
<プレーバック> 当初税率3%、97年から5%に
消費税導入の足がかりとなったのは、中曽根政権が1987年2月に国会提出した「売上税法案」だった。しかし、中曽根首相が前年夏の衆参同日選直前に「大型間接税はやらない」と発言していたことなどから、野党などの反発を招き、結局、審議されないまま廃案となった。
後を受けた竹下政権は88年7月に消費税法案を国会提出。野党側は国会でリクルート事件を追及したが、消費税法は同年12月24日、成立。翌89年4月から税率3%で実施され、97年4月に5%に引き上げられた。
国税収入に占める消費税の割合は約20%で、所得税、法人税と並ぶ基幹税。消費税は1%あたり約2・5兆円の税収が見込まれるため、例えば税率を2%上げると約5兆円の増収が確保できる。
他の先進国にも、日本の消費税に相当する付加価値税があり、税率はフランスの19・6%など15%−25%の国が多い。ただ、ほとんどの国で食料品など生活必需品は税率が大幅に軽減されている。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/anohi/CK2007061502124493.html