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2007年5月18日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.432 Monday Edition
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▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第432回】
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部助教授
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□三ツ谷誠 :三菱UFJ証券 IRアドバイザリー部長
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□津田栄 :経済評論家
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:814への回答ありがとうございました。大分と熊本の県境付近にある、隠れ
家的な温泉リゾートにいます。部屋にはそれぞれに露天風呂があり、本棟にはレスト
ランとスパがあって、食事はかなりのレベルの日本料理で、サービスの質もほぼ完璧
です。九州一帯には、このような「オーベルジュ」が相当数できているのだと聞きま
した。さて、金曜版の春さんのハーグからのレポートは、フレンチ・オープンについ
て書かれていました。わたしはWOWOWでテレビ観戦しましたが、現役選手たちの
試合の合間に、48歳になったジョン・マッケンローのダブルスが放映されました。
マッケンローは、スウェーデン選手のヤーリード(47歳)と組み、対戦相手は6
0歳になったルーマニアのイリ・ナスターゼとエクアドルの元ビッグーサーバーのア
ンドレア・ゴメス(47歳)でした。マッケンローのプレイを見ていて、テニストー
ナメントを追って旅していたころを思い出し、懐かしい気持ちになりました。考えて
みればもう20年以上前のことです。
ローラン・ギャロで、ジョン・マッケンローはいまだにある種のオーラを発してい
ました。ファンだったわたしだけがそう感じたのかも知れませんが、現役時代の彼の
どこが好きだったのか、48歳になったマッケンローを見てわかった気がしました。
それは、「過剰な真剣さ」とでもいうべきもので、「そこまでやらなくても」とか
「そこまで言わなくても」とか「そこまで徹底しなくても」とか、往々にしてそう
いったニュアンスで語られる「精神の在りよう」です。
絶対に妥協を許さない、ときには偏執的だと感じられるほどの集中力、よく言えば、
厳密性と完璧への希求というようなことになります。「自分は完璧なプレーをするた
めに極限まで集中している、だから同様に審判も集中して欲しい、ジャッジのミスは
許されない」というのが、マッケンローが「悪童」と呼ばれたおもな要因だと思いま
す。
48歳のマッケンローは、もともと薄かった髪がさらに薄くなり、白いものも混
じっていましたが、そのプレーも、漂わせている雰囲気も本当に魅力的でした。
「過剰な真剣さ」を失ってしまうと、アスリートのパフォーマンスから切実さが失
われるのだと痛感しました。そしてそれはアスリートだけに言えることではないの
だと思います。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第432回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:815
年金問題がまたややこしいことになっています。「宙に浮いている」年金件数が
「5000万件」とか、ものすごい数字が上がっていますが、どうすればこのような
巨大な「入力ミス」が発生するのか、わたしにはわかりません。年金を巡る問題の、
現状について、考えの糸口となるようなヒントをお聞かせいただければと思います。
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====
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
社会保険庁の年金事務に関する杜撰さは、文字通り目を覆うばかりです。今後、さ
らに不明な記録の件数は増えるといわれているようです。我々は今まで、こんな無責
任な人たちに大切な年金の事務を任せていたかと思うと、本当に情けなくなります。
ただ、こうした杜撰な事務は、短期的な要因によって発生したものではありません。
長年に亘る社会保険庁の無責任なスタンスが、今回、表面化したのだと重います。
先ず、何故、このようなひどい状況になったのかを整理します。公的年金に関する
保険料の支払い記録などは、元々、手書きで行われていたようです。1980年代に
入って、コンピューターの発達によって、記録はオンラインで管理するようになりま
した。手書きからコンピューター管理に移行するときには、当然、手書きの記録は、
コンピューターのシステムに、人の手を使って入力されたのだと思います。
コンピューターへの入力は人が行うわけですから、間違えることはあるでしょう。
また、手書きの記録の一部が間違っていたり、必要事項の記載が漏れていることなど
もあったと考えられます。年金記録の移行時には、そうしたことを十分に配慮して、
記録をチェックし、入力不能な分については追跡調査をすることが必要になるはずで
す。
また、1997年、基礎年金番号制度が導入され、一人が持つ国民年金や厚生年金
などの記録が、番号によって一元管理される仕組みになりました。この仕組みは、と
ても便利なように見えますが、一人の被保険者に対し、名前と生年月日と性別などの
基礎的な属性によって、一つの番号を付与するわけですから、膨大な量の記録を一つ
の番号で名寄せすることになります。それは、見かけほど容易なことではないでしょ
う。
そのシステム移行作業にも大きな手間と労力が掛かったと思います。一般的に、過
去の記録を新しいシステムに移す場合には、殆ど例外なく様々な問題が発生します。
それは、大手銀行がシステム統合を行う場合、多くのトラブルが発生したことを見て
も明らかです。そうしたトラブルをすべて解決することは、気の遠くなるような労力
が必要になります。
ところが、社会保険庁は、必要なチェック機能を果たさなかったのでしょう。おそ
らく、オンラインシステムへの移行、基礎年金番号の導入などの時点で行うべき
チェックを、怠ってきたのだと思います。そうした態度は無責任と糾弾されるべきで
す。
こうした社会保険庁の無責任な態度の原因は、基本的には、“お役所”“お役人”
の体質と、それをチェックできない行政の問題だと考えます。役人の多くは、自分の
在籍期間中に問題が表面化せず時が過ぎることを望みます。自分の在籍期間が過ぎれ
ば、後は、関係組織に天下りして、悠々自適に生活を送りながら給与をもらい、さら
に天下りを繰り返して多額の退職金をもらうスタイルが定着していたからです。
そのような状況下では、たとえ何か問題があることを認識していても、じっとして、
その問題を隠蔽することが、“お役人”にとって有効な対処方法になるのでしょう。
しかも、役人を管理する立場にいる行政サイドは、そのような問題が存在することす
ら分からない、いわゆる“素人”のケースが多いでしょう。“素人”が順番で役所に
来るわけですから、そのような人たちの目を盗むことくらいは容易なことだったと思
います。そうした状況が長年続き、今回のようなことが表面化したと考えられます。
こうした事態の発生を防ぐためには、経済原理を導入することが必要だと思います。
今までのように役人や行政当局の機能を期待することは、大きな効果を生まないで
しょう。役所や役人の体質を短期間に変えることは、事実上、不可能です。改革とい
う美辞麗句がつけられていても、彼らの本質的な考え方を変えることは出来ません。
それは、過去の役所に関わる様々な例を見ても明らかです。これ以上、できないこと
を期待することは意味がないと思います。
それよりも、経済原理を導入して、一定の条件の下で民間企業に、こうした事務を
行わせてみたらどうでしょう。しっかりした監査を行い、契約条件を満たす事務が行
われていなければ、契約の条件に基づいて違約金=ペナルティを科します。民間の企
業は、ペナルティを払うことを避けるために、しっかりした仕組みを作ろうと努力す
るはずです。それは、役人の問題隠蔽気質よりも、はるかに優れた特性です。その特
性を使うのは、有効な選択肢の一つだと思います。
日本は、昔から役人天国という指摘がありました。役人は、外からは見えないよう
に情報を処理することが出来るため、どうしても、何か不都合なことが在ると、それ
を隠してしまうことになりがちです。そうした体質は、公の制度や仕組みを変革する
ときには、大きな障害になることが多いと思います。民間企業から役所に出向してい
る友人は、「役人の賢さは凄い」と感嘆していました。難しい問題です。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学准助教授
今般の年金記録問題は、これまで我が国の国民が、統一した「番号」で管理される
ことを(政治的な総意としては)拒絶し続けてきたツケといえるでしょう。住民基本
台帳番号も然り、(結局は真の意味で統一した番号になっていなかったことが今般判
明した)基礎年金番号も然り、アメリカの社会保険番号(SSN)のようには機能し
ていません。そして、納税者番号は未だ導入ができていません。
今般発覚したことは、統一した「番号」がないために、これまでの年金保険料納付
記録が散逸する羽目になったことです。確かに、初期の手書きの時期に不正確に記録
されていたとか、コンピュータ導入時に誤入力があったとか、信じられないようなお
粗末な社会保険庁の仕事ぶりには開いた口がふさがりません。しかし、それも、統一
した「番号」があってそれにより納付記録が管理されていたならば、今日までこうし
た事態が放置されてしまう結果にはならなかったと考えます。早い時期(例えば19
60年代)に統一した「番号」を導入していたならば、そしてその番号を年金だけで
なく健康保険や納税や住民票の管理などにも統一的に使っていたならば、たとえ年金
制度が一元化されていない(国民年金、厚生年金、共済年金)としても、ある個人が
転職を頻繁に繰り返しても、手続きの都度統一した「番号」の提示を求めれば、毎回
ではないにしても、2回に1度や3回に1度でも「番号」を通じてその都度の状況を
確認する機会に恵まれたはずです。そして、自分の名前や性別が間違って記録されて
いるといった初歩的なミスはいつかは発覚していたはずです。その「番号」が年金以
外の場で用いられていたならば、なおさらです。社会保険庁よりも厳格に本人確認や
過去の記録を求める納税、転入転出の届出、健康保険証取得、さらには(アメリカの
ように)銀行口座開設、といった場面でも、その「番号」を用いていたならば、社会
保険庁でミスがあっても、そのミスに気がつく局面がいつかは訪れたはずです。国税
庁や銀行などが、社会保険庁が犯したミスのようなことを放任できるはずはないので、
「番号」によって管理された個人の基本情報に誤りがあれば、少なくともそれに気が
つくか、場合によってはその誤りを修正することもありえたと思われます。そして、
ミスに気がつく場面に直面すれば、それ以前に納付した年金保険料が正しく記録され
ているか疑義も生じたでしょうから、(ミスを税務署や銀行で気がついたとしても)
社会保険事務所等に赴くなどして納付記録を確認することができたかもしれません。
しかし、我が国の国民は、それを(政治的な総意としては)拒絶し続けてきました。
(英語の privacy の意味と異なる意味で用いられている日本語の)「プライバシー」
を守ることを理由に、統一した「番号」を拒絶しましたが、結局守られたのは、脱税
者や意図的に保険料納付を拒否する者のわがままな「プライバシー」や、年金保険料
納付の記録漏れが起きていたという事実の「秘密」だったわけで、国民全体で見れば
悲劇としかいいようがありません。
年金で用いられる基礎年金番号は、納税や転入転出の届出や銀行口座開設の場面で
用いられないものとされてきました。だからこそ、社会保険庁がミスを犯せば、それ
が他の機関によって正されることなく、放置されてしまったわけです。同一の個人で
も、年金番号を2つ以上付されていたケースもあるようですが、それも統一した「番
号」がなかったがゆえに起った事態です。
今般の年金記録問題を契機に、我が国にも、悪用を防ぐ仕組みを内包した形で統一
した「番号」を導入することが必要です。政府は、(日本版の)社会保障番号の導入
を検討し始めているようですが、導入に向けた本格的な議論を期待したいところです。
アメリカのように社会保障分野だけに限らず、社会的に広く用いることのできるよう
な「番号」として導入するべきです。それと合わせて、国民に不信感を与えないよう
にする説得も必要でしょう。統一した「番号」から、国家による個人情報の一元管理
と惹起する向きもありますが、それは被害妄想です(「番号」を管理する機関が国民
から高い信頼を得られるよう努力することは当然必要です)。情報管理のシステムを
工夫することで、悪用を防ぎながら情報提供・管理の利便性を図ることが可能です。
重要なことは、脱税などの犯罪を犯そうとする者の「プライバシー」を認めることな
く、善良な国民の個人情報を真に必要なときにだけ活用できるようにすることです。
統一した「番号」が使えないがゆえに、年金記録の散逸はもちろんのこと、金融機関
等での口座の名寄せができずに、高額の金融所得稼得者の脱税を放置したり、偽名の
口座で犯罪を助長したりすることの社会的な損失は非常に大きいと考えます。
慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
<http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
近年、社会保険庁は「不祥事のデパート」と揶揄されるほど不祥事が相次ぎ、年金
不払い問題が7月の参院選の最大の争点になりました。社会保険庁の不祥事には、国
民年金保険料の不正免除、年金積立金管理運用独立行政法人の裏金、個人情報の盗み
見事件、職員の怠慢勤務などがありましたが、今回の不祥事はとりわけ大きいようで
す。公務員だけでは改革できないということで、2004年7月に損保ジャパン副社
長だった村瀬清司氏が社会保険庁長官に就任されましたが、今回、年金記録の大規模
な喪失事件が発覚しました。
公的年金制度は経済や人口情勢の変化にあわせて、5年に1度大規模な改革が行わ
れることになっています。前回2004年改革で、保険料の毎年引き上げや給付水準
の引き下げなどが決められました。今国会では、2010年に社会保険庁を廃止して、
非公務員型の「日本年金機構」を創設する社会保険庁改革案、厚生年金と共済年金を
統一する年金一元化法案、パート労働者の厚生年金の適用拡大法案などが審議されま
した。
消費税引き上げ議論につながる基礎年金の国庫負担割合の引き上げ、確定拠出年金
の拠出限度額の引き上げ、社会保障制度の導入などが、来年にかけての課題となりま
す。現在は参院選前で増税は禁句的な状況になっていますが、参院選挙後には消費税
の引き上げが議論されるでしょう。米国で発達した確定拠出年金の国内残高は約3兆
円と、確定給付年金の約30分の1に過ぎません。日本の確定拠出年金は、制度的な
改善余地が多くあります。
源泉徴収されるサラリーマンの所得税や事業主に納税義務が課せられた消費税と異
なり、徴収方式の年金保険料、NHK受信料、学校給食費は不払いが多く、真面目に
払う人と払わない人の不公平が大きく感じられます。徴収コストも大きいため、受益
者負担の観点から保険料と税金は別との議論は昔からありますが、全て税方式にして
しまうのも一考かもしれません。
少子高齢化に伴う年金制度の改革は引き続き大きなテーマです。現在の年金制度は、
出生率(1人の女性が生涯に産む子供数)1.39を基準に設計されています。景気
回復を背景に、2006年の出生率が6年ぶりに上昇に転じて、1.32になったと
いう明るいニュースがありましたが、それでも年金計算の前提を下回っており、将来
的に年金給付切り下げや保険料引き上げの必要が出るでしょう。
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人が、別の観点で注目されまし
た。年金積立金管理運用独立行政法人の2006年末の運用資産は、市場運用分81
.9兆円と財投債29.6兆円合計の総資産が111.5兆円と世界最大の年金基金
になっています。年金積立金管理運用独立行政法人の今年度4−12月の市場運用分
の総合収益率は3.6%でしたが、経営評論家の大前研一氏は「お上に年金の運用能
力なし」と批判しました。公的年金の運用の巧拙により、将来の年金受給は変動しま
すので、年金運用は極めて重要な問題です。
6月13日付けのブルームバーグは、年金積立金管理運用独立行政法人が年内をめ
どに、現在は実施していない小型株への投資に踏み切る計画と報じました。投資対象
は、ジャスダックや東証マザーズに上場している株式を含む形で、投資額は最大で1
千億円程度といいます。中小型株への投資額は大きくはありませんが、このニュース
は底入れしつつあった中小型株の反発に寄与しました。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 三ツ谷誠 :三菱UFJ証券 IRアドバイザリー部長
「本社の怠慢を許さない営業」
炙り出される実態は全く目も当てられないというものだと思いますが、寧ろなぜこ
のようなお粗末さが許されたのか、を考えることの方が重要であるように感じます。
納税意識の醸成を阻むものが、源泉徴収制度であると良く指摘されますが、本件に
おいてもその弊は如実に顕れていると感じます。普通のサラリーマンにとってみれば、
年金も税金と同じく、自動的に毎月の給料から天引きされているので、支払っている
という実感は希薄です。
逆にこれがセブンイレブンであれ、郵便局であれ、「支払い」という行為を伴うも
のであれば、支払った額の総額が幾らになっているかについて、やはり相当に自覚的
になるし、自覚的になれば、その運用についても、それらを統括する機関の働きにつ
いても相応の監視の目を光らせることでしょう。
また、徴税コストの問題はありますが、逆に徴税がコストのかかる大変な作業にな
ればなるほど、預かった税の有効活用について、機関の内部に強い監視の目が育つこ
とでしょう。外部ではなく、組織内部にそのような監視機構を持つ意味は重いと思い
ます。例えば通常の民間企業の場合、営業の存在が本社機構の肥大化を防ぐ機能を持
つことでしょう。汗水たらし靴をすり減らし、ノルマに喘ぎ、精神をすり減らして数
字と取り組む営業からすれば、怠惰な勤務態度で効率性の悪い事務系の業務をこなす
本社社員など唾棄すべき存在に映る筈だからです。
その意味では、ショック療法として社会保険庁の職員に年金の集金をさせる、とい
うのは「あり」だと思います。そうすれば、苦労して集金した年金の記録を消失させ
る本部機構など集金の現場が許す筈がありません。
我が国における源泉徴収制度は太平洋戦争に伴う徴兵で徴税コストの軽減化が課題
となった際、導入された制度と古い記憶をしておりますが、公務員を文字通り公僕と
して教育し直すには、この制度について議論してみるのも一つの方向だと考えます。
年金も年金と称される事実上の税金であると考えれば尚更その議論は「あり」だと思
います。
三菱UFJ証券 IRアドバイザリー部長:三ツ谷誠
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
6/14の日本経済新聞によると、社会保険庁がサンプルとして取り出した309
0件の年金記録のうち、コンピューターと原簿との違いが発見されたのは、当初の発
表のように4件ではなく193件にのぼるとのことです。単純な入力ミスと考えれば、
ミスの量自体は特に驚くべきことではないと思います。我々がワープロで文書を打つ
ことを想像すると、当初のタイプミスの量はそんなものだろうと納得します。数字が
発表のたびに大きくなるのは、不良債権問題の時を思い出させますが、むしろ、当初
発表のようにミスが4件しかなかったと言われるほう怪しい気がします。
コンピューターへのデータ入力作業は、人間とコンピューターの協業システムのな
かでも、もっとも人間のミスによって品質が左右されやすいものです。人間の作業の
特徴は、そのことを認識した上で、自分でミスを修復するところにあります。193
件というミスも、人間による入力である以上避け得ないものですが、本来あるべき修
復プロセスがないまま放置されたということは、社会保険庁の人間とコンピューター
によるシステムの範囲をこえて、政府と厚生労働省以下の年金行政自体の構造的欠陥
が現れたのだと判断せざるを得ません。
社会保険庁はミスを修正する機会を、意図してか意図せずしてか放棄した責任があ
ります。この業務のやり方を熟知して、欠陥を正すための提言を出せたはずの組織
が、このミスを温存することしか出来なかった事態を目の当たりにして無力感が漂い
ますが、考えてみればこのような組織は日本の至るところにあります。ここは、社会
保険庁だけを血祭りにあげたい衝動を抑えて、年金行政の効率性を見据えた判断が必
要な場面だと思います。
社会保険庁内の非効率性や組織的欠陥が問題で、入力レベルのミスの問題であった
ならば話は簡単です。日本のお家芸であるエンジニアリング技術を応用した品質管理
ノウハウで対応可能です。職員の能力不足ややる気の不足であれば、トップや組織を
変え、人員の増強、インセンティブを工夫することで解決が可能でしょう。全組織を
あげた、トヨタ式のTQC運動といったものが処方箋となることでしょう。そして、
これが現在のとりあえずの政府自民党の改革案だと思われます。
しかし、これまでに明らかになったことは、ミスが過去の数多くの複雑な年金制度
をつなぎ合わせる過程で、加入者本人を同定する上で発生してたということです。こ
ういった多くの制度での加入記録をつなぎ合わせる上でのキーが、年金手帳の基礎年
金番号と氏名、生年月日だけであり、それぞれの制度や社会保険庁の入力で、単純ミ
スが起こったときそれを修復するための方策が、制度上担保されていないことが明ら
かになってしまいました。
複数の年金制度に制度変更が加わり、理解をするのも大変なのに加えて、加入記録
の管理に大変なコストがかかるというのは、これまでも指摘され散々議論されてきた
問題です。その解決のために、社会保障番号と納税者番号の導入の必要性が叫ばれて
いました。
政府も泥縄ではありますが、6/12に発表された経済財政諮問委員会の骨太の方
針2007の原案に、納税者番号と社会保障番号の本格検討を謳っています。これら
の、早急な実現を図る契機となる騒動であったと思います。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
目下問題になっている「宙に浮いた年金記録5000万件」の問題解決と、このよ
うな問題を含めて、今後問題が起こりにくく且つフェアで合理的な年金制度を作る問
題とを分けて考える方がいいでしょう。前者については、国の責任を明確化すると共
に、なるべく低コストなトラブルシューティングの工夫が必要でしょうし、後者に関
しては、年金の根本的な原理を考えた上で、もっとシンプルかつ頑健な制度を構築す
ることが必要だと思います。
年金記録の問題については、既に起こしてしまった悪事であるものの未だ全貌が明
らかになっていないことと、社保庁を中心として国に責任のある問題であることの二
点がポイントでしょう。
たとえば、5000万件という数字は出てきていますが、これに伴って宙に浮いた
年金給付の額は幾らなのでしょうか。この額が把握もされず、推計も出来ないとする
と厚労省は問題を掌握できていないことになり、別の責任問題が発生しますが、どう
なっているのでしょうか。参議院選挙を前にして、まだ隠している「不都合な真実」
があるのだろうと推察できます。過去の社保庁の責任を問うと言っているのですか
ら、問題の解明のために、社保庁に第三者(警察・検察、或いは新たに組織された委
員会など)のチェックを入れることと、今後の問題解決への指揮を、現在の厚労省・
社保庁以外の人物に執らせることが必要です。これは、不祥事を起こした企業に、自
らの手で、不祥事の公表とトラブルシューティングを任せることが上手く行かないの
と同様のことであり、問題解決の基本の一つでしょう。
誤ったデータや、失われてしまった記録による被害への弁済(メディアは、被害の
「救済」という政府が偉そうな表現ではなく、「弁済」とか「弁償」と称すべきで
しょう)については、完全な補償があり得ないことはたぶん当事者には明らかなので
しょうが、「宙に浮いた」記録については、全ての記録に関して「申請主義」ではな
く政府側に対応の責任を取らせる(金融庁が生命保険会社に求めたように)ことと、
本人からの申請があって、今後政府が設けると言っている第三者委員会が承認したも
のに関しては、申請が誤りであることが立証できない限り、「疑わしきは払う」とい
う方向で解決することが必要でしょう。不正請求の詐欺が多発する可能性があります
が、これに対しては、公的年金問題に限って5年の時効を廃止するのですから、たと
えば「誤りの請求に対しては倍額の返還」、「意図的な不正請求に関しては請求額の
10倍の罰金と実刑の懲役」というくらいの厳罰を特別に設定して、納税者の利益を
守ることが必要でしょう。
ある年金関係者の言によると、「起こした問題が大きすぎて、落とし所がない」、
「解決のしようがない」とのことですが、問題は現実に起こってしまったので、大き
なコストを掛けてでも、解決せざるを得ないでしょう。
一方、年金でこのような問題が起こった背景には、年金制度が複雑過ぎる事と、た
とえば税金の徴収と年金保険料の徴収といった本質的に同じ作業(国民が支払いの義
務を持つお金の集金)が別々の組織で行われている「重複」の非効率があります。
現在の年金の機能を分解すると、(1)長生きのリスクへの保険、(2)老後に備
えた貯蓄(の税制優遇による奨励)、(3)集団での運用、(4)富の再分配、の四
つの機能に集約できます。各種の公的年金も、企業年金や確定拠出年金など民間の年
金も、これらの機能の幾つを組み合わせたものです。
最終的に制度をどのように設計するかは、たぶん一通りではありませんが、例えば
以下のようにするとスッキリ整理できます。
先ず、現在の基礎年金部分(俗に言う「一階部分」)は全額の財源を税金として
(何れの税金を増税しても、その分年金保険料を徴収しなくなるのでマクロ的には増
税にはなりません)(1)長生きリスクへの保険と(4)富の再分配に使えばいいで
しょう。生活保護(やむを得ざる貧困リスクへの保険)と統一的に運営すると、現在
起こっているような、国民年金と生活保護が不整合になるようなケースも起こらない
ように調整できます。税金を財源として基礎年金を運営すると、国民年金の未納問題
はなくなりますし、徴収コスト(社会保険庁職員の給料など)も大きく改善されるは
ずです。
現在、厚生年金や共済年金になっている「二階部分」に関しては、個人勘定で完全
に資産を積立てる方式に移行するといいでしょう。現在の債務を個人単位で国が認識
してこの債務に対して付利すると、非市場性の国債を発行したのと同じ事です。こう
しなくても、現在只今、国が年金債務を踏み倒すことを考えているのでなければ、同
じ事なので、財政赤字は見かけ上膨らみますが(たぶん800兆円くらい)、それ
で、何かが変わるわけではありません。曖昧だったものが明確に認識されるだけで
す。所得に応じた保険料を徴収して個人勘定に積み立てるといいでしょう。
さらに、公務員の共済の職域加算及び民間の企業年金(恵まれた企業の場合)の加
算部分、あるいは、確定拠出年金で行われている「三階部分」については、確定拠出
年金型の、個人が運用指図ができる個人勘定で運営することが一案でしょう。公務員
の三階部分については、既裁定部分を切り離して運営することが決まっていますが、
新三階部分については、職域加算をいったん廃止して、新たに制度を作ることになっ
ています。この制度の内容はこれから決定されますが、これを確定拠出年金とする
と、民間と公務員の年金の条件の統一を図る「年金一元化」の趣旨を明確に実現でき
ますし、公務員と民間の間で転職が行われた場合でも、年金をそのまま持ち運びでき
る(「ポータビリティー」と呼ばれる性質です)ので、好都合です。
上記の整理では、二階部分と三階部分は、個人の勘定で管理されますが、加入者個
人が年金に継続的に関わることになるので、年金資産が「宙に浮く」ことは起こりに
くいでしょう。資本市場との関係で言うと、現在の公的年金の株式保有は、主に新た
な三階部分(確定拠出年金)に移すことができるでしょうから、株式の需給的に大き
な問題は起こらないように出来ますし(もともと大した問題ではありませんが)、国
(=年金制度)が民間企業の株式を持つという、グリーンスパン前FRB議長が米国
の年金に関して反対したような日本の歪んだ株式保有構造による企業統治の不全を解
決することにもつながります。
このように整理された新しい年金制度では、社会保険庁は不要ですし、信頼のおけ
ない厚生労働省を年金に関わらせる必要もありません。先般の(2004年の)年金
制度改訂の際に役所と与党が掲げた「100年安心な年金制度」が、こうすると、
やっと実現できます。
こうしたスッキリした状態に移行することは、何ら難しくはありませんが、現実に
は、既存の各組織や既得権を持った人が抵抗するでしょう。その場合、理想的な制度
との差(たとえば厚生労働省の役人が関わり、天下り先も確保するなどの、無駄が起
こる、というようなこと)がはっきりするでしょうから、これを正していくことが、
年金制度改善の道になるでしょう。
最後に一言付け加えますが、「年金問題を政争の具にしてはいけない」という言葉
で、年金問題を参議院選挙の投票決定にあたっての「争点」から外すことは大きな誤
りです。選挙で与党にプレッシャーが掛かる可能性があるのでなければ、政治が行政
の誤りを正すインセンティブがなくなります。現在の「宙に浮いた年金」その他の問
題に関して重大な批判を持つ有権者は、是非とも与党以外の政党に投票すべきでしょ
う。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
<http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>
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□ 津田栄 :経済評論家
今回の5000万件の年金記載漏れ事件は、その後も相次いで出てくる問題を見て
いると、社会保険庁が抱える問題の氷山の一角の様相を呈しています。しかも、その
結果、いくらの年金金額が消えたのか、その総額すら把握できず、また今後もどんな
問題が出てくるのかさえつかめず、その上、この問題の対応でコールセンターを設置
しても、事情をよく知らない派遣社員を雇って対応するという場当たり的な一時しの
ぎでかわそうとする状況では、社会保険庁は組織としての態をなしているとはいえま
せん。
つまり、社会保険庁は、問題点を見つけ、解決する能力において構造的欠陥を抱え
た組織であり、もはや存在しても無駄であるといえましょう。その構造的欠陥の根幹
は、申請主義という形で国民に年金サービスをしてやっているのだいう傲慢なお上意
識のもとで、自らの組織の目的と責任を自覚していないことにあります。また、情報
の公開を渋り、自分に都合の悪い情報を隠したり、曖昧な不正確な情報を出したりす
る体質もあります。したがって、こうした組織を民営化しても、組織の根幹部分を残
す限り、国民に応えることのできる年金組織にはなりえないでしょう。
また、民間の新組織に移転する社会保険庁所属の職員も、今回の問題の引き金とな
った台帳からコンピューターへの移行における入力作業で労働組合が行政と取り決め
た自分の都合を優先する覚書や、この問題に対するこれまでの対応を見ていると、ト
ップなど管理職はもちろん、組合である一般職員に至るまで、自分たちが責任を持っ
て国民の大事な年金資金を預かり、年金を支給するのだという国民へのサービスを行
なう当事者意識を持っているとは思えません。私は、過去にある部長が国民の年金を
「自分のお金だ」と怒鳴った現場を見ましたが、今も変わっていないようです。
したがって、社会保険庁の職員が、たとえ新設される民間組織に転籍したとしても、
その民間組織は社会保険庁と体質が何も変わらず、問題の解決にはならないといえま
す。結局、外形だけ変えても中身を替えなければ、このような問題は今後も起きえま
す。その意味で、実効性のある組織を目指すならば、中身である社会保険庁の職員は
総入れ替えするぐらいで考えるべきであり、むしろそれよりも、民間企業への委託で
行なった方がコストや効率性という点で優れていると思います。
もちろん、こうした組織的欠陥は、この社会保険庁だけが抱えているものではあり
ません。むしろ、国だけでなく地方も含めた行政官庁共通の欠陥といえます。それが、
あちこちで見られる談合であり、それを支えている天下りです。こうした組織には、
国民への行政サービスが自らの使命とし、責任を持つという考えがすっぽり抜け落ち、
自らの既得権益を守ることに汲々とする組織になっています。しかし、官だけではな
く、官を監督する政治においても、最近多くの企業が不祥事を起こしている民におい
ても、組織的な欠陥を抱えているという点で、どこか共通しているように感じます。
それは、組織として、規律を失って、自ら律し、行動を規定することができなくな
り、顧客の利益を省みず、自らの利益のみを追求して組織の拡大及び既得権益の維持
を優先することが目的となり、一方で自己の責任の自覚が希薄化し、問題を根本的に
解決しないまま、組織的に責任を曖昧にして一時的場当たり的な対応で生き残ろうと
することです。そして、この問題の奥に、お金という基準で考え、問題の根本的な追
求を避け、お上意識や「長い物には巻かれろ」式を容認して、他力依存の行動をとる
ことを是とする考えが、私たち日本社会全体にあるように思います。したがって、こ
うした状況を変えるには、表面的な制度や構造などの改革だけでなく、根本的に私た
ちの意識改革も求められているのではないかと思います。
経済評論家:津田栄
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:815への回答ありがとうございました。先週は九州に行っていましたが、隠
れ家的なリゾートというのは、大分県の玖珠郡にある「界ASO」というオーベルジ
ュです。日本ではまだオーベルジュという形のホテル・リゾートが一般的ではないの
で、どういう旅館・ホテルをオーベルジュと呼ぶのかは曖昧ですが、「界ASO」は
和風のオーベルジュと呼ぶにふさわしいリゾートでした。
まず料理がおいしいです。和食ですが、ありがちなつまらない「創作料理」ではあ
りません。シェフの自己主張が抑えられていて、素材のおいしさを素直に提供すると
いう料理の王道に沿ったもので、好感が持てました。部屋はすべて離れになっていて、
各部屋に露天風呂があり、また本棟には「スパ」があります。トリートメントはバリ
風で、技術は確かなものでした。
また従業員の接客態度も、充分に合格点をつけられるものです。本棟のバーでは、
九州の焼酎など地酒の他にモルトウイスキーやコニャックなどもそろっています。レ
ストランは、彼方に阿蘇の外輪山を眺望できます。わたしが訪れたときは快晴で、そ
の美しい景色に、最近の身体の不調を一瞬忘れました。宿泊費は決して安くありませ
んが、それだけの価値はあると思いました。
http://www.kairesort.jp/aso/concept.html
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Q:816
参院選の各党のマニュフェストには、「医療格差」への取り組みが盛り込まれるよ
うです。医師・看護師の不足、公立病院の閉鎖など医療における地域格差の解決には、
どのような考え方が必要なのでしょうか。
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村上龍
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