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JMM [Japan Mail Media] 経団連の影響力が弱まっている印象があります。みなさんはどう思われますか
http://www.asyura2.com/07/hasan50/msg/666.html
投稿者 愚民党 日時 2007 年 6 月 06 日 00:30:16: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2007年6月4日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.430 Monday Edition
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第430回】

   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 IRアドバイザリー部長
   □津田栄   :経済評論家

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:812への回答ありがとうございました。このところ風邪のことばかり書いて
いた気がします。まだ予断は許しませんが、だいぶ落ち着いてきました。医者に相談
してもどうせ風邪と診断され薬を出されて、栄養のあるものを食べて寝てなさいと言
われるだけだからと病院にも行かず、床に伏せるほどの熱でもないので、ボーッとし
た頭で原稿を書いていました。からだと頭が重くて、まったくやる気気が起こらない
のですが、小説だけは書くことできました。あと、フラフラしながら犬の散歩だけは
行っていました。

 微熱が続いている間、ビジネスマンはこの程度の不調だったら当然出勤するのだろ
うな、と思いました。いつまでも寝ていられる作家という職業をありがたいと感じま
したが、ある事実に気づいて、どうもそう単純ではないかも知れないと思い直しまし
た。微熱でふさぎ込んでいるときに、「カンブリア宮殿」のスタッフミーティングや
収録があると、呪いの言葉を吐きたくなるほど面倒くさいのですが、気心が知れたス
タッフと馬鹿話をしているうちに、いつの間にかとげとげしい精神状態が若干改善さ
れるのです。

 仕事のスタッフや友人たちは、特別な励ましの言葉などなくても自然に精神的に良
い作用を与えてくれるのだと思いました。もちろんそれで調子に乗ってはしゃいだり
酒を飲み過ぎたり寝不足になったりすると、あっという間に体調は奈落の底に落ちて
翌日死ぬほど後悔するわけですが、とにかく「他人の力」というものを実感しました。
ですから、一人で時間を自由に使える作家のほうが風邪には対処しやすいとは一概に
言えないなと思ったわけです。

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 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第429回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:813
 この1年、キヤノンの御手洗氏が会長になって以来だと思うのですが、経団連の影
響力が弱まっている印象があります。みなさんはどう思われますか。

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====
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 編集長がお感じの通り、日本経団連の影響力は御手洗氏の会長就任以来、弱まって
いるように思います。理由は、複数考えられます。

 最大の理由は、御手洗氏が会長を務めておられることが不適当だからではないかと
考えます。一昨年から昨年にかけて、御手洗氏が会長を務めるキヤノンで、「偽装請
負」と呼ばれる、違法な労働者の使い方が大規模に見つかり、しかも、同社は、これ
を早急に解消することができませんでした。労務問題は経営の根幹であり、また、企
業の経営者が社会と接し、社会に影響を与える、主要な場面でもあって、こうした問
題で、明らかな違法行為を行っていたことの経営責任が、日本経団連の会長その人に
ある、ということでは、日本経団連自体が尊敬されませんし、影響力が低下するのも
当然です。

 日本経団連が、企業の社会的役割と法令遵守を重視する組織なのであれば、御手洗
氏は、会長に選任されるよりも、降格なり、除名なり、何らかの処分を受けるほうが
ずっと自然です。御手洗会長の発言は、前任の奥田氏と比較するといかにも軽く、か
つ企業経営者の利益の立場を露骨に語っているような印象があり、凡そ「徳」を感じ
ません。

 奥田氏と御手洗氏の比較という点では、出身企業が、今や世界一の自動車メーカー
との声もあるトヨタと、業績は優良ではあっても、規模も経済全体への影響力もトヨ
タにはかなりの遅れをとるキヤノン、という差もあるでしょう。また、個人的な力量
という点でも、小泉政権に大いに頼りにされていた奥田氏と、国会でキヤノンの偽装
請負問題が取り上げられるなど、むしろ政権のお荷物になっている御手洗氏では、大
差と言うべきでしょう。

 また、世間の雰囲気として、「改革」や「デフレ脱却」がキャッチフレーズで企業
の収益が成長することに対して世間が好意的であった奥田時代と、「格差」や「下流
(社会)」といった言葉が流行し、企業の利益が末端の労働者まで行き渡らず、労働
分配率の低下が問題視されるようになった御手洗時代では、世間の風向きも、日本経
団連に対して、ネガティブな方向に変わっているというべきでしょう。

 日本経団連の影響力は、過去1年、確かに低下しているように見えますが、日本経
団連のような組織の影響力が大きいことがいいことだとも思えません。企業は、個々
の企業が、環境に適応し、成長の可能性を追求し、競争すべきであって、企業の、し
かも実質的には、経営者集団の利益のために、日本経団連のような寄り合いを作っ
て、影響力を行使するということは、適切とは思えません。私は、過去にJMMでも
書いたことがありますが、トヨタの経営者であり多大な影響力があった奥田氏が、日
経連と経団連を合併させるのではなく、財界団体などという余計なものを廃止する、
という形で動いてくれれば良かったのに、と今でも残念です。

 百歩譲って、当時は、日本経済の状況が悪かったので、企業が力を発揮できるよう
に「日本経団連」が日本の経済にとってプラスの役割を果たせる可能性があったと考
えるとしても、企業の業績も、銀行システムも立ち直った現在、日本経団連には、も
う果たすべき役割が残っていないように思いますし、現在の「場違い」と言うしかな
い御手洗会長の存在は、そのことを、よく象徴しているのではないでしょうか。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 経団連という、大手企業の発言媒体としての機能を考えるとき、二つのことが直ぐ
に頭に浮かびます。一つは、会長職を務める人の個性の問題です。前任のトヨタ自動
車会長・奥田氏と、現在のキヤノン会長・御手洗氏とはかなり違った印象があります。
トヨタもキヤノンも、現在、わが国を代表する大手製造業で、共に海外部門を中心に
好調な業績をあげています。

 しかし、政治に対する距離という意味では、トヨタとキヤノンには違いがあるよう
に思います。トヨタは、自動車業界が米国など多くの先進国の企業と競合する分野に
なるため、政治との接点は多く、国政段階の政治家とも相応の関係を持っていたと考
えます。また、奥田氏自身、経団連の会長に就任する前から、様々な機会で政治との
関わりが報じられていました。

 一方、キヤノンは、精密機械という、あまり政治との距離が近くない分野に属して
いることもあり、御手洗会長自身も今まで、政治との関わりが発生する機会はそれほ
ど多くは無かったと思います。その意味では、経団連の会長という個人ベースのポイ
ントで、奥田氏から御手洗氏へのバトンが移った時点で、やや政治に関する影響力の
影が薄くなったという印象は免れないかもしれません。

 それは、ホワイトカラーエクゼンプション導入の法案が先送りされたことや、法人
税減税に関する提案が自民党の税調で厳しく批判されたケースを見ても理解できると
ころでしょう。御手洗氏自身、こうしたケースに対して、事前の根回しや国民に対す
る説明が不足したことを認める発言を行っているようです。これも、経団連の影響力
が低下したことを表す事象であると考えます。

 もうひとつ、経団連の影響力という点に関して考えるべきポイントは、国と企業と
の関係だと思います。最近まで、企業は国というコンセプトの中に納まる存在でした。
ところが、現在、経済がグローバル化して、国境という物理的な壁の意味が大きく低
下しています。そうなると、企業と国の関係は、必然的に変質することになるでしょ
う。

 トヨタもキヤノンも、7割以上の収益を、日本の外で稼ぎ出すグローバル型企業で
す。グローバル型企業にとって、その意見を代表して国という行政機関に対して具申
する機能は、今後、むしろ重要性が増すのではないかと思います。グローバル型企業
の経済活動は、国をまたいで世界的な広がりを持つことになりますが、その一方、納
税や社会保障費負担などの制度は、当該企業が属する社会=国によって規定されるか
らです。

 どれほど優秀な人材や技術力を持って、高い収益力を維持していたとしても、国が
規定する経済環境によって企業の実力が変化する可能性があると考えます。社会保障
費用や納税などの点について、ライバル企業と比較して劣後する環境下で経済活動を
行うことは、グローバル企業にとって、大きなマイナスになるからです。そうした条
件は、厳しい競争を行っている企業にとって大切な経済環境の一つになるはずです。

 今後、経済のグローバル化が一段と進み、多くの大手企業がグローバル型の組織体
系に変身することが予想されます。そうした状況下では、有力企業は、国という物理
的な枠組みを超えた存在になるはずですから、その発言力や政治に対する影響力は次
第に高まっていくでしょう。経団連という大手企業の代表組織が、現在、仮にそう
なっていないとしても、これから、自分たちの意見具申の機会を増やすことになると
思います。

 それを象徴する現象が、小泉政権時代に経済財政諮問会議に有力な財界人が入った
り、政府系組織の民営化のプロセスの中で、民間企業の経営者が重要な役割を担った
ことが考えられます。これから、そうしたケースが一段と増えると予想します。

  信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 小泉首相と奥田会長の組み合わせの頃の経団連の政策提言も、現在の安倍首相と御
手洗会長の組み合わせでの政策提言も、どちらも規制緩和、小さな政府と企業の競争
力強化などを説くもので、新自由主義と言われる系列の分かりやすいもので、あまり
変化したとは思えません。経団連の政治的な立ち位置は、前任者までは自民党と民主
党の二大政党を前提としていましたが、御手洗会長になり完全に安倍政権を支える立
場を鮮明にしているという違いがあろうかと思われます。

 御手洗氏は重厚長大型産業出身の重鎮会長と違い、主に消費者向の精密電機を扱う
キヤノンから経団連会長になった当初から、政治力に不安があると言われていました。
そこで、もともと安倍首相と個人的にも近い御手洗氏は、自民党と言うよりは安倍政
権に密着する姿勢を示しました。

 安倍総理のベトナムと中東への2回の外遊に同行し、経済外交に努めるとともに、
法人減税やホワイトカラーエグゼンプションの導入を主張したのは記憶に新しいとこ
ろです。このあたりまでは、企業活動の自由と効率性を主張する新自由主義の改革路
線を踏襲する動きですが、憲法改正や愛国教育の必要性を説くなどのパターナリズム
的な部分は、安倍政権との一体ぶりをアピールする意味があったのでしょうか。

 小泉−奥田のコンビの時はデフレ期でもありましたから、新自由主義に基づく改革
路線は国民的なコンセンサスでもありました。小さな政府を実現し、企業のリストラ
を急ぎ、収益力をつけることが、景気回復への処方箋でした。この路線は、郵政民営
化と自民党の総選挙の大勝で政治的な勝利の頂点を極めることになります。

 これらの政策が成果を収めたかどうかは明確ではありませんが、安倍−御手洗コン
ビに移り、景気回復がある程度達成されると、今度は国民的な関心の軸足がこれまで
の新自由主義の効率と改革から、分配の公平の方に移動してしまったように思われま
す。

 そのような潮目の微妙な変化のなかで、経団連が矢面に立った法人税の減税や、ホ
ワイトカラーエグゼンプションは、自民党からも見捨てられることになりました。参
議院選挙が気になる自民党は、経団連からの様々な秋波にも関わらず、新自由主義的
政策を全面的にサポートしきることはできず、距離をおく姿勢をしめしました。

 結局、経団連の政策提言が影響力を失ったように見えるのは、世間の関心が、改革
や効率化一辺倒ではなくなったことに求められます。加えて、財界の則をこえて憲法
改正や愛国教育にまで踏み込んで政権に擦り寄ったのにもかかわらず自民党に袖にさ
れ、ちょっと格好悪いといったところでしょうか。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 日本経団連の影響力が弱まっているとの印象はありません。御手洗会長をはじめ、
経団連はよくやられていると思います。御手洗会長はキヤノンの米国生活が長く、ホ
ワイトカラー・エグゼンプション導入提案の際などに、米国流のストレートな発言が
誤解を招いた面がありましたが、安倍首相の外交に同行に、日本企業の海外事業開拓
に尽力するなど、成果があったと思います。

 御手洗経団連が5月23日に2年目に入った際に、マスコミでは批判的な記事が多
かったようです。朝日新聞は「三兎を追うのは無理がある」との社説を掲載し、国全
体の公益、産業界の利益、個々の企業の社益の3つを同時に実現するのは難事業と指
摘し、社業以外の分野では成果があがっていないと述べました。毎日新聞も、政策提
言で根回し不足が目立ち、経団連と与党の関係がギクシャクしたと指摘しました。作
家の堺屋太一氏はエコノミスト誌で、御手洗会長は国家の大局を示していない、世界
文明の変化に関する説明が弱いと指摘しました。

 批判的意見の背景には、日本が欧米になり切るのは良くないとの考えがあるようで
す。私は5月に3週間ほど海外投資家を訪問しましたが、日本特殊論が再び出ている
ようでした。日本だけが最近、大型のM&Aが起きていない、日本だけが未だにデフ
レなどの事実があるためです。日本企業は海外企業の買収を増やしていますが、日本
企業が海外企業に買収されるのは良くないとの雰囲気がまだあるようです。日本は世
界でも最も平等度が高い国だと思いますが、少し格差が開いただけで、格差是正の合
唱が起きています。5月31日以降、日本株も急反発しましたが、世界同時株高の流
れに日本だけが乗り遅れていました。

 日本では婉曲な表現が好まれる傾向があり、御手洗会長も日本的な表現をされた方
が批判を受けにくかったのかもしれませんが、御手洗経団連への評価は、グローバリ
ゼーションを受け入れるのかどうかに依存すると思います。キヤノンは海外売上比率
が8割、株主の5割が外国人という日本を代表するグローバル企業です。御手洗会長
は「財界」6月12日号のインタビューで、安倍首相との同行外交に積極的なことに
関して、「政治と経済の連携は世界的には当たり前である。今はグローバリゼーショ
ンの世の中になってきて、資源確保や環境問題だけでなく、世界の投資の自由化、物
流、どれ1つとってみても1国だけの自己完結型で解決はできない」、「日本は内向
き志向が強すぎる。どうしても世界の中の日本、世界はつながっているんだという発
想が弱い。これでは世界から取り残される」と述べられました。

 私も海外留学2年&海外駐在3年の経験を経て、米国系証券会社に勤務する身とし
て、御手洗会長の考えに基本的に賛成です。しかし、私の両親のように地方でグロー
バリゼーションとは無縁の生活をしている人にとっては、日本の農業を国際競争に晒
しても、オーストラリアなどとFTA/EPA(自由貿易協定/経済連携協定)を締
結すべきといわれれば、反対する人が多いでしょう。今年は自民党にとって難しい戦
いが予想される参院選を控えているため、グローバリゼーションに反対が出易い時期
かもしれません。

 最近、海外に行くたびに、日本のプレゼンスが低下し、中国やインドに対する注目
が高まっていると感じます。政府は5月に発表した「アジアゲートウェイ戦略」の中
で、「アジアで日本が唯一の巨人である時代は終わったとの認識の下に、日本社会を
さらにオープンにし、アジア経済の活力を取り込む必要がある」としましたが、正し
い戦略と思います。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 三ツ谷誠  :三菱UFJ証券 IRアドバイザリー部長

「鉄のトライアングルの腐食」

 ホームページからの情報を整理すれば、経団連は、1946年、商工大臣の要請を
受け、戦後経済の再生を目指して、統制経済体制の中で重要な役割を果たした日本経
済連盟会など経済四団体が統合してできた組織で、政・官・財の鉄のトライアングル
(笑)を構成する財を代表する機関として、戦後統制経済(笑)の中核を成してきま
した。

 その経団連が往年の力を急速に失ってきているとすれば、それは実はカウンターバ
ランスという意味でも、官僚機構や政治そのものが日本国家を牽引する力を急速に失
いつつあることを反映しているのだ、と考えてみることも必要だと思います。

 対抗する力、対峙する力というものは作用反作用の法則に従い、対抗するもの、対
峙するものの力に合わせて増減するものなので、組織された官、組織された政と対峙
する財の砦、経団連の衰微は、そのまま組織された官、組織された政の衰微を実は映
している可能性があります。

 そう考えれば、例えば官僚養成機構として明治維新以後営々と機能してきた東京大
学法学部の卒業生の就職状況が、官僚機構から外資系金融機関などに移っているとい
うような雑誌記事や、高度経済成長からバブル絶頂期まで我が国に君臨した自民党、
なかんずく田中派の衰退もまた、合わせ鏡のように経団連の衰退と歩調を合わせてい
るのではないかと思います。

 と言う意味では、2002年に経団連が日経連と統合し日本経団連として再出発し
ていたことは何かを象徴しているように思われます。政・官・財の鉄のトライアング
ルで国家独占資本主義(笑)的に、或いは統制された社会主義的な色合いを持った国
家資本主義として展開されてきた戦後日本社会から、新しいグローバル化された社会
における企業社会の模索が実は始められていたと、この再出発を捉えることも「あ
り」かも知れません。しかし、その新しい時代では、企業が連携する意味合いは(少
なくとも「国内」という縛りで連携する意味合いは)、薄れているということなのだ
と思います。

 また、トヨタ自動車が余りに巨大な存在(年間1兆円ずつ膨れ上がるキャッ
シュ!)であるため見えにくかったものが、トヨタ自動車と比べればまだ想像の範囲
に収まる企業活動を展開しているキヤノンの御手洗氏に会長が変わった瞬間、経団連
の本当の背丈が見えてきているという側面もあると思います。奥田氏の発言が取り上
げられ易かったのは、経団連の会長である以上に、トヨタ自動車の最高権力者として
の奥田氏をマスコミが見ていたからということです。

 キヤノンも勿論巨大ですが、産業の裾野の広がりから言えば、トヨタ自動車の我が
国経済に対する貢献は計り知れないものがあって、財を代表する顔として、トヨタの
絶対性は他の追随を許さない感覚があります。とすれば、奥田氏の発言は、経団連会
長としての発言として以上に、トヨタの代表としての発言として捉えられていたので
はないでしょうか。

 また、本質的な議論で言えば、トヨタ自動車の外国人持ち株比率が、ほぼ東証上場
企業平均に近い26.4%(会社四季報春号に依拠)なのに対し、キヤノンのそれは
46.9%(会社四季報春号に依拠)であり、経団連が日本経済の設計者としての性
格を持つ団体であるならば、キヤノンはその顔には相応しくない、という理解もあり
えるでしょう。逆にだからこそ2002年に生まれ変わった日本経団連の顔として相
応しいということではあるでしょうが。

 とすると御手洗氏の会長就任以降、経団連の存在感が希薄になっていて、活動自体
は奥田会長時代と変わらない活動がなされていたとすれば、活動や発言を伝えるメ
ディアの側が、相変わらず政・官・財の鉄のトライアングル(笑)という手垢まみれ
の構図に従って記事を書き続けているために、活動の様子が表に現れないという可能
性もまた、検証する必要が出てくるということでしょう。

                 三菱UFJ証券 IRアドバイザリー部長:三ツ谷誠

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 日本経団連の影響力は、確かに弱まっているような印象があります。それは、日本
経団連そのものが、大きく変化していく政治経済社会の流れに遅れているからではな
いかと思います。しかしながら、だからといって日本社会への発言力などを失っては
いません。もう一度、政治経済社会の流れを見極め、その半歩先の産業界からの日本
の未来像・あり方を提言し、リードしていけば、それほど気にするほどではありませ
ん。

 そもそも、日本経団連は、正式名称が日本経済団体連合会といい、02年5月に経
団連と日経連が統合して発足した総合経済団体であり、代表的な大企業や経済団体を
中心に構成されています。そして、初代会長が奥田碩元トヨタ会長でした。奥田前会
長が就任した02年当時は、古い経済構造により日本が苦境に陥っていて、構造改革
の必要性が叫ばれ、民主導の経済回復が求められていました。そこで、構造改革を訴
えて前年登場した小泉前政権を財界から支えるために、日本経団連が誕生し、世界的
企業として日本産業界のトップとなっていたトヨタ自動車の奥田氏が会長に就任して
財界からの政策提言を行なってきました。

 当時としては、国民は、企業が生き残れば最終的に経済の回復につながり、それが
従業員などの所得に波及して、国民及び国全体がその恩恵を受け、再び明るい将来が
来るのではないかという期待を持って、負担を我慢した経緯があります。そして、現
在、アメリカ、中国や東南アジア、ヨーロッパなど世界的な経済的拡大のなかで、輸
出企業を中心に企業業績が回復、史上最高益を確保する企業も出てきて、日本経済の
回復が整ってきているかの状況になってきています。(ただ、まだ大企業中心の回復
にとどまっていて、国民全体には回復感が得られていません。)

 その間、規制の緩和や減価償却減税など大企業にとってプラスとなった面がある一
方で、リストラなどの解雇や給与カットなどによる従業員の負担、契約社員や派遣社
員、パート・アルバイトなどの非正規社員採用による低賃金雇用へのシフト、定率減
税廃止や社会保障費カット、中小企業の選択とコスト削減要求、地方からの撤退など
の国民負担の増加がありました。それでも、国民は未来の回復のための我慢と考えて
いたと思います。

 しかし、奥田前会長の後を継いだ御手洗氏が打ち出した政策は、さらに法人税の大
胆な減税とその財源としての消費税の大幅アップ、日本版ホワイトカラーエグゼンプ
ション(いわゆる「残業代ゼロ」)などを打ち出し、企業にとって一段の利益のみを
要求しているかのような内容となっています。しかも、ここ数年の従業員の所得は減
少しているにもかかわらず、経営陣の所得はデフレ以前の水準を回復し、さらには史
上最高を得ているのではとも言われています。

 もちろん、大企業の正社員の所得は回復してボーナスも史上最高といわれています
が、一方で中小企業の業績は、大企業ほど回復しているわけではなく、従業員の所得
が伸び悩んでいるとも言われています。一方で、大企業は、金融機関などからの優遇
措置を得て発展してきている一方、中小・零細企業は、そうした優遇措置が得られ
ず、経営的にも苦しい状況が大きく変化しているとはいえません。こうした個人間、
企業間の格差だけではありません。そのことが地方の産業の衰退となって、大都市が
集中する東京などの都市部と地方の格差にもつながっています。

 そのなかで、御手洗日本経団連の政策は、日本経済の調和の取れた発展、構造改革
により起きている経済格差の緩和・解消の道筋、その先にある大企業が得てきた利益
の国民への還元のヴィジョンを示していないことから、これまで我慢してきた国民の
目には、自分たちの都合だけを考える企業のエゴ、それも大企業のエゴのように映っ
ています。だからこそ、日本経団連の法人税減税や日本版ホワイトカラーエグゼンプ
ション導入などの政策提言に、国民が反発し、それを敏感に感じて政治が乗らなかっ
たのではないかと思います。しかも、偽装請負問題を指摘されたキャノンの会長が御
手洗氏自身であることも、日本経団連自身の雇用問題、格差問題に対する解決能力が
問われています。そうした状況から影響力が低下しているように見えているのではな
いでしょうか。

 これまで、御手洗氏は、政界とのパイプが細いとか、説明が不十分だったとか言わ
れていますが、それは瑣末的な問題と言えましょう。問題の本質は、その財界が発す
る提言や意見の中身です。日本経団連は、自らの「使命は『民主導・民自立型の経済
社会』の実現に向け、企業の付加価値創造力の向上、その活動を支える個人や地域の
活力の向上を促し、わが国経済ならびに世界経済の発展を促進することにある」と掲
げているように、企業の本来の社会的公器としての役目を自覚し、政治とは一定の距
離を置いて、個人と地域とともに発展していくような政策や意見を述べ、凛然とした
行動することが求められているといえます。

 そして、奥田前会長の時は、経済における非常事態の状況での影響力でしたし、ま
た既得権益を排除し、強いリーダーシップを持って構造改革を推進しようとして、民
の代表である日本経団連の発言を容認してきた小泉首相の庇護もあった特別なものと
いえましょう。しかし、御手洗日本経団連は、そうした状況にはありません。今後
は、構造改革を一段と進めていく上で、自ら得てきた利益を国民へ還元し、これまで
の構造改革により噴出してきた経済格差、雇用の問題を解決するための政策を提言
し、行動を起こすことが求められています。

 そうした政治経済社会の流れを見極め、社会的な公益を視野に、企業の社会的な責
任を自覚して、しかも大企業としての日本経済、そして世界経済の発展に寄与するよ
うな姿勢を示すことができれば、これまで以上に国民の信頼を得て、日本経団連の影
響力は強まるのではないでしょうか。御手洗氏が、そこで、そうしたリーダーシップ
を取れれば、「御手洗氏になって日本経団連の影響力が・・」とは言われず前任者を
越えることも可能なのではないでしょうか。

                             津田栄:経済評論家

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:813への回答ありがとうございました。この何週か、このエッセイで体調不
良について書いているので、「身体はだいじょうぶですか?」と会う人会う人が心配
して声をかけてくれて、何か自分が本当に病人みたいに思えてきました。チェックす
るところはチェックして、あまり気にしないようにしようと思います。

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Q:814
 派遣や契約社員に代表される雇用の多様化により、「労働力」が「商品」になった
という指摘を、最近よく目にします。ワーキングプアや格差の問題は、今後の選挙の
争点の一つになりそうです。民主党は、最低賃金の全国平均を時給1000円程度と
するなどを骨子とした、格差是正緊急措置法案を国会に提出したようです。最低賃金
時給1000円、というのは現実的な政策なのでしょうか。

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                                   村上龍

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JMM [Japan Mail Media]                 No.430 Monday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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