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http://www.uekusa-tri.co.jp/column/index.html
米国経済の失速懸念は後退している。他方、米国のインフレは抑制されており、「インフレなき成長の持続」というソフトランディング・シナリオが実現しつつある。米国経済のソフトランディング期待から米国株価が上昇を続けている。NYダウは6月1日に13,668ドルの市場最高値を記録した(終値ベース)。現状で景気失速回避とインフレ抑制の理想的な展開への期待が強まっているが、景気堅調観測がFRBのインフレ警戒的な政策スタンスの持続と長期金利の緩やかな上昇をもたらしており、3月以来の米国株価急上昇に対する警戒感も徐々に強まっていることから、6月は株価の小幅調整に注意が必要である。
日本企業の株価水準は株式益利回りから考えて著しく割安な状況に置かれている。10年国債の利回りが約2%であるのに対して、株式益利回りは5%水準に位置している。株価には潜在的に大幅な上昇余地が存在する。日本経済の先行き、日銀による金利引上げ、米国や中国市場での株価下落、為替市場の急激な変動などがリスクファクターであり、一進一退の株価推移が予想されるが、中期的には株価上昇の余地は大きいと考えられる。
5月14日および5月28日付本コラムで中国市場の株価調整懸念について指摘した。グリーンスパンFRB前議長は5月23日に、「中国株にはいずれ劇的収縮が起きる」と発言した。先週来、上海株式市場での株価調整が表面化した。昨年11月以来、上海株式市場の株価指数は2倍以上の上昇を示した。急激な株価上昇の反動としての株価下落の可能性は高く、引き続き警戒が必要である。
米国では5月31日(木)に2007年1−3月期GDP改定値が発表された。前期比年率実質GDP成長率は速報値の1.3%から0.6%に下方修正された。米国経済の減速が確認されたが、事前の市場予想に近い数値であり、過去のデータと見なされて市場の反応は薄かった。
同日発表されたシカゴ購買部協会指数は市場予想の54.0を大幅に上回る61.7を記録した。雇用、生産、新規受注で高水準の数値が記録された。6月1日(金)に発表された5月雇用統計では非農業部門の雇用者が15.7万人増加した。市場予想は13万人だった。また、5月の個人所得は前月比0.1%の減少、個人消費支出は0.5%増加した。5月ISM製造業景気指数は55.0と4月の54.7から上昇した。経済の現状を示す経済指標は米国経済が底堅く推移していることを示した。
6月1日(金)に発表されたコアPCE価格指数は市場予想の前月比+0.2%を下回る+0.1%上昇となった。経済活動が堅調である一方で、物価は安定的に推移していることが確認された。しかしながら、景気失速懸念が大幅に後退して、米国の早期金利引下げ観測は消失し、米国長期金利が強含む推移を示している。先週発表されたFOMC(米国連邦公開市場委員会)議事録でも、米国経済の先行きに対する金融政策当局の楽観的な見通しが示された。
日本では5月29日(火)に4月失業率が発表された。1998年3月以来の低水準となる3.8%に低下した。同日発表の4月全世帯消費支出は前年比実質1.1%増加となり、4ヵ月連続の増加となった。30日(水)発表の4月鉱工業生産指数は前月比0.1%減少と2ヵ月連続の減少を示した。しかし、5月予測指数は前月比1.8%上昇、6月予測指数は前月比1.4%上昇の見通しとなった。
2007年前半に生産活動が横ばい推移に転じ、先行き景気減速観測が広がっているが、現段階では景気失速懸念の強まりは観測されていない。2007年度企業収益についての企業の業績見通しが発表され、増益率の大幅鈍化傾向が示されているが、企業が慎重な業績見通しを発表する傾向を強めていることが影響していると考えられる。
中国市場では昨年11月以降の株価上昇が急激であったため、その反動が表面化しやすい状況にある。株価調整の期間と程度に依存するが、中国市場の調整が世界的に波及するリスクは限定的であると考えられる。中国市場の動向を注視する必要はあるが、過剰な警戒は不要と思われる。
今週、米国では5日(火)に5月ISM製造業景気指数、7日(木)に5月チェーンストア売上、8日(金)に4月貿易収支が発表される。また、FRB関係者の発言機会として、5日(火)にバーナンキFRB議長が国債通貨会議のパネルに出席し、6日(水)にラッカー・リッチモンド連銀総裁、ホーニグ・カンザスシティー連銀総裁の講演が予定されている。また、6日(水)から8日(金)まで、ドイツのハイリゲンダムでG8サミットが開催される。
日本では4日(月)に1−3月期法人企業統計、6日(水)に4月景気動向指数、8日(金)に4月機械受注が発表される。設備投資動向を見極めるうえで、法人企業統計、機会受注が注目される。日本の長期金利が年初来の高水準に上昇しており、米国長期金利、国内長期金利の推移に関心が寄せられる。
米国経済を中心に世界経済はインフレなき成長を持続する方向に推移しており、中期的に見れば楽観視できる状況にある。しかし、目先は景気堅調観測の強まりに伴う米国長期金利上昇が米国株価の小幅調整をもたらすリスクに配慮が求められる。日本の株式市場は株価水準の割安感から堅調な推移が見込まれるが、米国市場、中国株式市場からの影響に留意するべきである。
為替市場では米国経済堅調観測からドル堅調の地合いが継続している。当面、状況に大きな変化は予想されない。次の焦点は日銀の追加利上げがいつ実施されるかである。日本経済の底堅さが確認され、消費者物価上昇率がプラスに転じることが明確になれば、日銀は追加の金利引き上げに動くと予想される。追加利上げのタイミングは8月以降と考えられるが、日銀の利上げ観測が浮上すれば、為替市場では急激なポジション修正が発生して急激な円高が生じることも予想される。
国内政治状況は7月22日の参議院選挙に向けて、与野党対立が一段と激しさを増しつつある。5000万件の年金データ不明問題は参議院選挙の大きな争点としてクローズアップされている。政府の責任は重大である。与党は選挙への影響を最優先して、拙速な立法対応を進めているが、民主主義のルールを無視した政治的利害のみを優先する行動に有権者は厳しい眼を向けると考えられる。
緑資源機構問題に象徴される「政治とカネ」の問題に対する有権者の疑惑も強まっている。公務員の天下り問題に対応する公務員制度改革についての法律が成立する可能性は低下しているが、法案は天下りを制度的に保証するもので、天下りの全面廃止とは程遠い内容である。
社会保険庁の制度改革も国が責任を負う公的年金の責任を不明確にする一方、年金機構に関係する天下りを野放しにする内容を含んでおり、本末転倒である。7月参議院選挙で与党が過半数割れに追い込まれるのかが焦点であるが、過半数割れとなれば政治に強い緊張感が生まれることになる。政治状況の刷新を求める視点からは野党の積極的な行動、発言が強く求められている。
2007年6月4日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀