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第31回(2007年5月30日)
定率減税が6月に全廃、これが消費低迷の一因になっている
(高木勝)
6月から、個人住民税の定率減税が廃止となる。税源移譲に伴う個人住民税の増額も6月から始まる(関連記事)。この1月から5月まで、税金の負担は減ったかのように見えた。しかし、それは錯覚だ。6月から、負担増が目に見えて分かるようになる。
景気は回復基調にあると言われる。主要企業の業績は好調だ。しかし、ビジネスパーソンに、「生活が豊かになった」という実感はない。このような状況下で、定率減税の廃止という実質増税を進めることは、消費に、そして今後の経済成長にどのような影響を及ぼすのか? 明治大学の高木勝教授に聞いた。
1999年に、当時の小渕恵三政権が個人消費を浮揚するため、恒久的措置として定率減税を実施した。
定率減税は税額を一定割合で削減する方式。納税額が多い高額所得者ほど減税額が多くなるため、減税の上限額を設定するのが一般的だ。
定額減税が景気浮揚、下支えに貢献した
小渕政権が採用した定率減税は、所得税で20%(最高25万円)、住民税で15%(最高4万円)の各減税であり、減税額の上限は年間合計29万円。トータルの減税規模は3兆3000億円に達した。
同政権の積極的な財政政策によって、減税実施後は耐久消費財の出荷が上向き、消費者態度指数や小売業販売額などにも改善の兆候がみられた。また、景気全体を見ても、1999年1月に底入れし、2000年11月まで回復が続いた。その後はITバブルの崩壊を受けて、景気は後退局面に入ったが、定率減税の継続実施が景気を下支える役割を果たした。
以上のように、定率減税の実施は個人消費の浮揚に大きく貢献し、景気の回復にも予想以上の効果を発揮したとみられる。
http://headlines.yahoo.co.jp/column/bp/detail/20070530-00000000-nkbp-bus_all.html
小泉政権は定率減税を段階的に廃止
だが、小泉純一郎政権になると、景気の回復と財政再建の必要性などから、定率減税廃止論が強まることになった。まず、2005年度税制改正によって、定率減税の半減を決定。所得税は2006年1月から10%の減税(最高12.5万円)、地方税は同年6月以降、7.5%の減税(最高2万円)となった。結局、それまでと比較すると、1兆6500億円の増税を実施したことになる。
そして、政府・与党は畳み掛けるように、さらなる増税へ走った。2006年度税制改正で、定率減税の残り半分をも廃止することを決めた。これは、まさに定率減税の全廃にほかならず、事態を1998年以前に戻すことを意味する。所得税の定率減税は2007年1月から全廃され、個人住民税(地方税)の定率減税も、いよいよ本年6月1日から廃止となる。ビジネスパーソンの給与明細において、地方税がさらに増加してしまうわけだ。なお、追加の増税額は所得税、地方税合計で1兆6500億円である。
定率減税全廃には反対、景気回復は個人には波及していない
定率減税の全廃に対しては、各界から強力な反対論が生じた。民主党など野党は、ビジネスパーソン狙い打ちの増税であり、とても容認できないと主張。また、小渕首相は定率減税を恒久的な減税と位置づけたはずであり、一時的減税ではなかったはず、といった反対論も強かった。
筆者も定率減税全廃には強く反対してきた。景気は確かに回復過程に入っているが、輸出と設備投資主導の回復であり、個人消費支出はいぜん伸び悩んでいるというのが、主たる反対の根拠であった。その後の景気推移を見ると、企業部門の好調さが個人部門になかなか波及せず、ビジネスパーソンにとっては、“実感なき景気回復”、“回復の手応えゼロ”の様相となっている。
また、上記のように、高額所得者の減税額には上限があったため、定率減税廃止の影響はそれほど大きくない。だが、中低所得者層にとっては負担が予想以上に大きくなっている点に注意する必要がある。
http://headlines.yahoo.co.jp/column/bp/detail/20070530-00000001-nkbp-bus_all.html
個人所得は依然として増えていない
今次の景気回復は2002年2月から始まり、昨年末時点で回復期間は59か月となり、これまで最長であった「いざなぎ景気」(1965年11月から1970年7月までの57か月)を追い越した。いわゆる“いざなぎ超え”の実現である。この間の動きを振り返ると、企業部門は3つの過剰(債務、設備、雇用)を解消し、企業体質の大幅な改善を果した。加えて、好調な世界経済と円安を背景に、わが国の輸出は大きく伸長し、主要企業の業績は5期連続の増益、4期連続の過去最高益更新となった。
だが、景気回復のメリットは個人部門になかなか波及せず、個人消費支出はいまだ伸び悩みの状況にある。
個人消費が低迷している第1の要因は、個人所得に大きな改善が見られない点である。企業業績は過去最高を更新中だが、企業は国際競争力の強化を理由に、人件費抑制のスタンスをいぜんとして維持している。
1人当たりの現金給与総額は、2005年が前年比0.6%増、2006年が同0.3%増にとどまっており、2007年に入ると前年同月比で再びマイナスに転じている。同様の傾向は、実質賃金や、定期給与の推移にも見られる。
一方、雇用情勢は、有効求人倍率が上向く反面、完全失業率が低下するなど、一定の改善傾向が見られる。政府も月例経済報告で、「雇用情勢は厳しさが残るものの、改善に広がりがみられる」(2007年5月)としている。
雇用情勢は総じてみると依然として良好だが、ここにきて、有効求人倍率や新規求人数、常用雇用指数などに、息切れ現象が生じていることは気掛かり材料だ。
http://headlines.yahoo.co.jp/column/bp/detail/20070530-00000002-nkbp-bus_all.html
個人負担は増大、2年間で2兆円の個人消費が失われる
低迷している第2の要因は、定率減税の全廃を中心とする国民負担の増大である。
定率減税3.3兆円は、上記のように全廃となった。減税のうち約6割が個人消費に向かっていたとすれば、減税廃止によって個人消費は約2兆円、0.7%程度減少することになる。2年間で0.7%減という数字は、今日の経済情勢を考えると、予想以上に大きなマイナスと言わざるを得ない。政府や与党、日銀は自らが当事者、ないし関係者であるため、定率減税廃止の影響には一切言及しないが、同廃止が個人消費低迷の大きな要因になっていることは確実だ。
また、定率減税の全廃に加え、最近では、配偶者特別控除の打ち切り、酒・タバコ増税、厚生年金保険、国民年金保険、健康保険、介護保険の各保険料アップが図られており、国民の税・保険料負担は増大の一途をたどっている。
消費マインドは少しも明るくならない
第3の低迷要因は、消費者の心理が少しも明るくならない点である。最近の消費者態度指数や、平均消費性向(総務省・家計調査ベース)の動きを見ると、弱含みから緩やかな低下傾向を示している。消費者心理は一向に上向かない状況にある。マインドを暗くしている理由としては、年金や医療、介護などへの将来不安、昨今の所得伸び悩み、そして定率減税全廃などがある。消費者心理が改善しないと、個人消費支出に多くを求めることはそもそもできなくなる。
http://headlines.yahoo.co.jp/column/bp/detail/20070530-00000003-nkbp-bus_all.html
定率減税の復活を、消費税率を引き上げる状況にはない
わが国の景気は2007年1月以降、変調の兆しを見せている。景気動向指数の先行系列は5か月連続、また、一致系列は3か月連続で各々50%割れを記録した。
また、日銀「短観」を見ると、本年に入り企業の業況感に陰りが生じている。企業の生産活動や機械受注にも変調の兆候が見られる。本年1〜3月期の実質設備投資(GDPベース)も、前月比0.9%のマイナスだ。
事態がこのまま続くと、景気が後退局面へ向かう可能性もなしとしない状況にある。このため、個人部門にとっても、以下のような政策・経営対応が不可欠になるのではないか。
第1は、定率減税の復活である。個人消費が伸び悩み、消費者マインドも改善しない今日、政府・与党はこれまでの動きを謙虚に振り返り、定率減税の再現、1999年当時へのリターンを検討すべきであろう。また、今秋以降、消費税の税率引き上げ問題が浮上する見込みだが、増税しうる環境にはないことは確かである。
第2に、企業は、従業員に対するメリット還元をもっと強力に進める必要がある。企業は国際競争力の向上を金科玉条にするが、賃上げやボーナスアップで内需を高めないと、企業の国内売上高が結局は落ち込むという点にもっと注目すべきである。また、非正規労働者から正規労働者へのシフトは、長い目でみると、企業経営の発展、安定化に多大な貢献をするはずである。
高木 勝(たかぎ・まさる)
1969年 慶應義塾大学経済学部卒業
1969年 富士銀行入行
1988年 富士総合研究所経済調査部長
1993年 研究主幹
1997年 理事就任
1998年 明治大学政治経済学部教授・経済評論家となり現在に至る。
http://headlines.yahoo.co.jp/column/bp/detail/20070530-00000004-nkbp-bus_all.html