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2007年5月21日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.428 Monday Edition
▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第428回】
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部准教授
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□津田栄 :経済評論家
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:810への回答ありがとうございました。わたしの風邪は長引いています。み
なさんもくれぐれもご自愛ください。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第427回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:811
納税者が、税金の一部を自らの出身地に支払うことができる「ふるさと納税」制度
が、来月まとめられる「骨太の方針」に盛り込まれるということです。
<http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2007051103710.html>
この問題をどう考えればいいのでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
ふるさと納税の仕組みは、基本的に、都市に住む納税者が、納税額の一部を子ども
の頃に過ごしたふるさとに移転することを決めることが出来る制度です。この制度で
は、納税者それぞれの意思を確認して、納税額を分ける仕組みが必要になります。ま
た、税金の行き先と行政サービスを提供してくれるとことが別れることになるため、
納税―受益の直接的な関係が崩れることになります。こうしたことに対して批判の声
も多いようです。
この制度が導入されると、人口の多い都市部から、地方の自治体に税金の一部が移
転するわけですから、都市部の自治体からは反対の意見が多くなると考えられます。
既に、東京都の石原知事は、ナンセンスと一喝したと報道されています。
私は個人的に、この制度に賛同します。お金という資源を、官僚や役人の手をなる
べく通さず、国民の意思を反映する格好で配分する方が有効だと考えるからです。も
ちろん、今回の納税制度の導入によっても、最終的な歳出は依然、役人の手に委ねら
れるわけですから、問題点が全て解決されると思っているわけではありません。た
だ、税金を徴収する人の裁量ではなく、納税者の意思によって、税金が移転されるの
はそれなりの意味はあると考えます。
今回の提言が、参院選を前にした、地方への所得移転というメリット提供の意味が
あることは理解しています。また、納税者の意思を反映させる手続きが、税収の減額
を余儀なくさせる都市部の反対を押しきるのに有効だという思惑も分かります。
さらに、この制度が導入されると最大の問題に遭遇する東京都を説得するのに、ふ
るさとというコンセプトが適当な理由付けになるという背景もあるのでしょう。しか
し、そうしたこと全てを勘案しても、なお、私たちの意思で、税金の一部が使われる
場所を特定できることに意義を見出します。
今まで、都市部と地方の経済格差を埋める方法の一つとして公共投資がありました。
公共投資の場合には、主に国が集めた税金を財源として、地方に工事代金を配分する
仕組みでした。ただ、その配分のプロセスで、官僚や役人などの関与が多かったと思
います。そこでは、必ずと言ってよいほど、談合や収賄などが発生します。それは昔
から、何も変わりません。たぶん、どれだけ厳重な罰則規定を設けても、そうした不
効率を防ぐことは出来ないでしょう。
収賄や談合、役人の天下りなどを防ぐためには、官僚や役人に、お金という資源配
分に関与させないことが最も早道だと思います。そのためには、国民の意思に基づい
て、資源配分を行える仕組みを作ることが重要です。それは寄付のような格好でも良
いかもしれません。個人が寄付を行うということは、自分の意思に基づいて、お金と
いう資源を特定の組織等に移転することです。それに伴って、納税額の減少というメ
リットを享受することができます。こうした資源配分のメカニズムの中には、原則と
して役人等は関与していません。
米国などでは、個人が多額の寄付を行ったという報道をよく目にします。彼等が寄
付をする背景には、税金対策としての効用もあるといわれていますが、それでも、多
くの場合、政府などの関与無く、寄付は慈善事業などに使われています。そうした資
源配分のメカニズムを、日本でももっと盛んにすることは必要だと思います。
官に頼らないシステムを作ることは、社会全体の効率性の向上にも寄与すると思い
ます。少子高齢化が進み、経済が安定成長期に入っているわが国では、随意契約など
の仕組みで役人と癒着した特定の業者への所得移転を許容できる余地は少なくなって
います。早く、無駄の少ない資源配分のメカニズムを作り上げることが必要です。ふ
るさと納税制度が、その一歩になって欲しいと思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
ふるさと納税制度は、住民税の一部を居住地以外の出身地に回すことにより、地方
の税収不足を解消しようというアイディアのようです。自民党の参院戦一人区対策の
ために、菅総務大臣や中川幹事長を中心に提唱されていると報道されています。5月
12日の日本経済新聞によると、1割をふるさと納税にまわした場合、最大1兆2千
億円が移動することになるとしています。識者やマスコミの間では、税は地方自治体
のサービスの対価であるとの考え方から、サービスをうける前提なしに税を支払う制
度を認めると、この受益者負担の原則を崩すことになるという立場から、あまり評判
がよろしくないようです。
メディアではあまり指摘されていないようですが、税金を払った場合、地方政治へ
の参政権が与えられて当然(「代表なくして課税なし」というのは民主政治の古典)
ですが、これをどう扱うつもりでしょうか。逆に言えば、もし都市住民が地方の税金
を負担すればその意向は無視できず、都市住民の意向に沿った地方自治対運営がなさ
れることになるのでしょうか。
自分のことを考えてみると、わたしは東京に生まれ横浜で育ち、学生時代は大阪、
就職は東京で、今は千葉の東京寄りに住んでいますので、典型的な都会人間というこ
とになります。子供のころ、何回か父に郷里の紀州に連れて行ってもらいましたの
で、紀州がふるさとということになるかもしれません。人口減に悩む老人ばかりの町
ですが、海と山がきれいで、淡い愛着はあります。しかし、暮らしたことはありませ
んから、地域の問題点も分かりませんし、暮らす人々の気持ちもわかりません。自治
体のサービスも受けようもありませんから、ふるさと納税をするとしたら、慈善団体
にたいする寄付のように、ふるさとという抽象的なものにたいする善意の寄付のよう
なものになるでしょう。善意とは言っても、もし税金を回すとしたら、地方の政治や
行政に口を出したくなるのは当然です。
以上のように割り切ってしまえば、ふるさと納税にたいして、選挙対策や地方の税
収不足対策を超えた意味合いを見出せます。ひとつは、「ふるさと」という公共財に
たいする税ということになります。
都会で暮らす人間にとって、自らの便利なシティライフの一方、「ふるさと」とい
うのは、一種の自然環境保護の防波堤のような役割を担っています。この立場から
は、地域住民は、自然環境の大切さを都会で暮らす人間のようには理解していません。
地域人と都市人の利害は、ここで対立しますので、都市人も税の負担を求められるか
らには、地域人だけに貴重な公共財の管理を任せるのは、こころもとありません。た
とえば、戦後の経済発展で、日本の原風景ともいえる、海岸の干潟や白浜青松といっ
た風景は消えうせました。生活道路を作り、産業立地をおこないこれらの公共財は消
えていったわけですが、これらは地域に住む住民の意思だけで処分されるべきもので
はなかったと思われます。ここに、環境を守ると言う意味で、都市人の支払う税と意
思が活かされる余地があると思います。
都市人に負担を求めるのなら、地方政治に意見が反映されるような仕組みが必要で
あり、それが制度的に担保されるのであれば、今回の提案は真面目で前向きでのもの
と考えられるかもしれません。そうでないのなら、今回の「ふるさと納税」は、ただ
の思いつきに過ぎないのではないでしょうか。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部准教授
「ふるさと納税」の議論が出てきたことは、日本の納税者に「納税者意識」を芽生え
させる意味で、画期的だと思います。納税地を選択できるようにするという案が出て
きたことで、その賛否も含めて、自らの納税の意義を考えるようになっていると思い
ます。これまで日本の納税者は、納税について自発的に考えることがあまりなかった
わけですが、これを契機に色々と納税者として考え、税制のあり方について政治に訴
えることができるようになれば、今後の日本の政策論議にとってもよいことだと思い
ます。
ただ、そうしたよい性質があるとは思いますが、導入の動機が不純だと思います。
ふるさと納税によって実現しようとする政策目的は、別の政策手段でよりうまく達成
可能である、という意味では、そのあり方についてもっと精査する必要があると考え
ます。
納税地を選択できるようにするぐらいなら、税金の使途を選択できるようにした方
がよいと思いますが、「ふるさと」=納税地にこだわるところを見ると、この導入
は、税収の地域格差是正の手段に使うことは明らかです。
しかし、税収の格差是正は、地方法人2税(法人住民税、事業税)に手をつけずに
解消できるはずはなく、それを「ふるさと納税」で対応しても、格差是正はうまく実
現できません。さらにいえば、私はJMMの過去の回答でも既に述べていますが、真
に格差を是正したいなら、産業単位や地域単位ではなく、個人単位で是正するのが筋
です。つまり、地方税制や地方交付税や、農業補助金や公共事業補助金ではなく、社
会保障や個人所得税制などで個人単位で格差是正をすべきで、それを適切に行っても
なお残る「格差」があれば、それは「差異」として積極的に認めてよいものでしょう。
それに、今住んでいない地域に納められた税金が、有意義に使われるのかどうか、
どのように納税者はモニターするのでしょうか。「ふるさと納税」の案は、ふるさと
に納税した後無駄遣いされない、ということが大前提となっていますが、実際はそう
ではないわけです。納税地を選んでも、その先でその使途が何になるかは、(自分が
住んでいない)自治体の勝手、ということになります。極端に言えば、今は住んでい
ないが自分が生まれ育った「ふるさと」に納税しても、そのお金が誰も使わないよう
な道路をつくるのに使われて、納税者は嬉しいと思うでしょうか。こうしたことは、
世論としては、一度やってみなければ実感がわかない次元のことかもしれませんが、
思考実験的に考えると容易に思いつきそうなことです。
納税地を選ぶ労力を割くぐらいなら、納税者に使途を選ばせる方がよほど無駄遣い
が減らせます。納税者が納税額の一部についてその使途を選択するアイディアに「納
税者投票」があります。「ふるさと納税」の議論に端を発して、「納税者投票」の導
入に話が動くなら、この議論は、日本の将来にとってとても為になる議論だと思うの
で、今は大いに議論してよいと思います。
慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
<http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
結論から言うと、「ふるさと納税」は、止めた方がいいと思います。
税金に関する価値判断は、大まかにいって、次の三つの基準で考えるといいと思い
ます。
(1)税金は、少なければ、少ないほど、望ましい。無しで済むなら、それが一番で
ある。
(2)税金は、何らかの納得的な基準の下に、「公平」であることが望ましい。
(3)税金は、徴税のコストが小さい方が望ましい。
先ず、「ふるさと納税」は、納税者が支払う税額が同じなので、少なくとも(1)
を改善しません。
次に、「ふるさと納税」は、ふるさとに税金を回したいと思う納税者の気分に依存
する税金の移転制度ですが、その税額の移転自体は、何らかの便益の対価として公平
なものでもなければ、税金を負担できる経済力に関して公平なものとも思えません。
また、ふるさと納税による税金の移転が多かった地域と、それが相対的に少なかっ
た地域との、相対的な程度の差については、これを、中央政府と地方自治体との税金
の移転額を計算する際に、調整するのでしょうか。調整しないのだとすれば、現在の
中央と地方の税金の移転に関する算定方式がおかしいのでしょうし、調整するのだと
すると、「ふるさと納税」をすること自体が、形式的な意味しか持たなくなります。
あるいは、後者の場合、ふるさとの自治体に、必要以上の支出の財源を与える、無駄
遣い奨励的な財源になる可能性があります。
もちろん、徴税額の合計は同じで、非常に細かな単位で多くの件数の税金を移転す
る手間が掛かり、当然、余計な事務コストが掛かります。
つまり、「ふるさと納税」は、税金のあり方を何一つ改善しません。それでは、な
ぜ「ふるさと納税」が導入されようとしているのでしょうか。
先ず、税金を受け取る可能性のある地方にあっては、自治体の財源が増えるのでは
ないか、という期待が生じるのでしょう。これは、政治的には、与党が地方の「票を
買う」ことにつながります。逆に、所得が外部に移転する地域にあっては、選挙の票
に対してマイナスの効果になりますが、いわゆる「一票の格差」の効果を考えると、
この税金の移転は、与党の「票買い」にとって、差し引きプラスでしょう。
また、税金を「ふるさと」に送った納税者は、実は自分の居住地域の財源を減らし
ているにもかかわらず、推察するに、「ふるさと」に寄付をしたようないい気分と共
に、「納税額は同じでも、普通ならまるごと取られていた税金の一部を、自分の判断
で取れなくしてやった」というような、税金に対するささやかな復讐気分を味わうこ
とが出来るのでしょう。「ふるさと納税」は、選挙の集票マーケティングの観点で
は、よく考えた、小賢しい人気取り政策だと言えるのかも知れません。
税金に対する関心を高めるといった理由で、「ふるさと納税」を評価する向きもあ
るようですが、税金とは、本来、もっと合理的な判断の下で考えるべき問題ではない
でしょうか。たとえば、別の地方に税源を渡しても問題のない地域があるなら、もと
もとは、その分を減税するのが正しい道でしょう(上記の(1)!)。また、個人の
善意の発揮を尊重するという意味では、寄付に関する税制をもっと整備することに注
力すべきです。対象を「ふるさと(の自治体)」に限定した、使途を限ることの出来
ない寄付の税額控除、という制度は何とも奇妙です。
「下らないし、情けないから、止めてくれ!」というのが、一納税者としての、率
直な意見です。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
<http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>
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■ 津田栄 :経済評論家
「ふるさと納税」は、ここにきて新しく出てきたように見えますが、もともと大前研
一の一新塾で議論し、政治家に政策提言した内容
(http://members.jcom.home.ne.jp/dosyu/index.html)が出発点であったような気
がします。当時は、導入されるかもしれない道州制のもとに、地域のことを地域で決
める主体的な生き方として何が問題かという視点で検討され、その際に税制や財政の
問題にスポットを当て、その解決策として打ち出されたのがこの政策提言であったと
思います。
もちろん、現在の法・税制・自治制度のもとでは、これについて、税制や自治の観
点から、議論の余地は大いにあると思います。ただ、当時、道州制を実現する際に起
きる地域の格差と自立の問題に対して、どうやって緩和・是正するかという解決手段
として考えられたアイデアであったと記憶しています。つまり、地域が道州制として
分権独立し、課税権が国から道州に移転するなかで、過渡期間で起きうる一極集中に
よる地域格差などの問題に対する解決手法が「ふるさと納税」であったと思います。
ただし、それはあくまで所得税という国税を前提としています。
その趣旨は、個人が就労し、所得税を納めるまでになったのは、その自分を教育や
コミュニティによる保護などで育ててくれた「ふるさと」のおかげであり、そこへの
恩返しと言う意味で稼いだ所得に対する税金の一部を納めるということでした。もち
ろん、道州制が実現しても、産業が都市部に集中し、働き口が都市部にしかないため
に人が集中し、さらに地域の格差が拡大する状況があること、そうした地方の支出の
もとで教育を受けて育った労働者が集中して発展していく都市部は地方から間接的に
利益をもたらされているという意識が前提になっていたように思います。
ただ、それをいつまでも続けていくのがいいのかどうかは議論のあるところです。
個人的には、移行期間を設けて、道州間である程度格差が縮小した時点でこうした税
制を縮小・廃止することが、地域の自立という観点では必要だと思います。その際、
一新塾の提案にあるように、地域の財務の独立採算制を導入し、自己責任で地域社会
の構築を図っていくべきだと考えます。そして、地域の魅力を作り、地域の人が自分
の地域を愛して地域にとどまり、産業を興し、発展させていくことが求められます。
そうなれば、こうしたふるさと納税もいらなくなるはずです。
それを実現するためには、国にあり方を変えることが必要です。以前からも言って
いますように、今の日本の構造問題の根源は、官僚を中心とした中央集権体制にあり
ます。すべてを中央の官僚で決めるシステムは、地域の特性を理解せず、公共事業を
通じて一律同じものを作って無駄を生み出し、そこに裁量権があるがために、既得権
益を維持しようと天下りや官製談合、政・業との癒着など不公正が行なわれ、さらに
は地域間の格差に見られるような不公平を生みだす原因となっています。
それを支えているのが、中央に税金を集めて、国庫補助金や地方交付税の形で官僚
の裁量権により地方に再分配する税制・財政システムです。もはや、地方の隅々の行
政の手足の上げ下げまで仕切る国のあり方では時代に合わなくなってきています。そ
して、それを改めて、外交や国防、通貨など国でしか扱えない機能を国に残して、残
りの機能を地域に移転し、地域の独自性を尊重するような国家システムに変更しない
限り、こうした構造問題は解決しないように思います。
そのためには、税制においても、国による課税をほとんど地域に移転して地域の課
税自主権を認め、地域から税金の一部を国へ納める、現行とは全く逆のシステムにす
ることが必要ではないかと思います。そして、地域にも自立と自己責任を求めるなら
ば、また地域格差を緩和するための自助努力を期待するならば、課税を含めた地域主
権を認めるべきであり、それが地域の柔軟性を生み出し、国の活力につながるもとに
なると見ています。その意味で、ふるさと税制は、その地域の自立に向けた過渡的手
段として見るといいように思います。
しかしながら、今回議論されている「ふるさと納税」は、そうした国の将来ビジョ
ンが描かれないまま、現行の中央集権制度のなかでなされています。内容的には、上
記と同じように、ふるさとへの還元ということで導入を検討されていますが、それが
国税ではなく住民税を念頭においていますから、それでは、地方は導入に賛成する一
方、都市部は反対するという各地域のエゴが出てきます。その点で、この国庫補助金
や地方交付税に替わるものとして考えられたふるさと納税は、名前は同じでも中身は
違う、全く別物といえましょう。
よって、これでは、行政サービスに見合った対価としての税という受益者負担の原
則は崩れてしまい、地方税の取り合いの中で地方間抗争の道具になるだけです。これ
は、国にとって全く傷みも痒みもない税制変更であり、もし実現したとしても、依然
として地方への国庫補助金や地方交付税などの官僚の裁量権など既得権益に手をつけ
ず、非効率と不公正・不平等などによる構造問題を生み出す中央集権体制は維持され
ることになります。むしろ、手続き的に煩雑さが伴い、これを理由に補助金や地方交
付税のカットになっては、官僚の既得権益強化につながり、格差是正よりは拡大にな
るというデメリットしか残らないかもしれません。
今回話題になったふるさと納税は、ビジョンのない全く異質なものであり、問題が
多いために今後議論が錯綜するのではないかと思います。もし導入するのであれば、
住民税ですから、納税先としてのふるさとである地域の行政への監視と関与は担保さ
れていないとおかしなことになります。また、ふるさと納税ではなく寄付みたいなも
のであるとするならば、寄付制度を促進するような制度改革をして、ふるさとだけで
なくいろいろな所に寄付できるようにし、その分を税額控除できるようにして、官僚
による税金配分権を排除するようにするべきでしょう。
したがって、現行の状況の中でのふるさと納税は、国税の中で考える事項であっ
て、住民税で考えるべき問題ではないように思います。今議論されているふるさと納
税は、地方分権による国及び地方の行財政構造の改革には結びつかず、都市部で住み
働かざるを得ず、自分のふるさとを気にしている地方出身者と地方を喜ばそうとして
いるだけに見えます。そして、今回は、地方と中央との関係など国のあり方の将来ビ
ジョンを示さず、小手先の格差是正対策と言われたり、また当初あまり関心を持たな
かったのに、ここにきて持ち出したのは、地方における与党支持率の伸び悩みからの
参議院議員選挙対策ではないかと見られたりしても仕方がありません。その点で、個
人的に、現時点での問題がクリアできないままでは、この住民税の中でのふるさと納
税は、賛成できません。
津田栄:経済評論家
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
まず、この問題の背景から整理して見たいと思います。現在、国を挙げて取り組ま
れている財政の健全化、そして、そのための行政の効率化推進のためには、地方分権
が避けて取れない過程として認識しされています。当然ながら、単に行政執行におけ
る地方分権を進めるだけで行政の効率化が進む保証はなく、その財源も地方の裁量と
責任に応じて負担されることによって、その効率化のインセンティブが発生すること
になります。
こうした地方の行財政改革を進める戦略として、前小泉政権において提唱されたの
が「三位一体の改革」です。「三位一体の改革」とは、地方の行財政改革に伴う中央
政府と地方自治体の利害関係の存在を前提として、(1)国庫補助負担金の改革、
(2)国から地方への税源移譲、(3)地方交付税の見直し、の三つの改革を敢えて
同時に進めることで、その対立を抑え込もうという企図だと理解されます。
まず、国庫補助負担金とは、国が使途を指定して地方自治体に資金を提供するもの
です。地方財政の歳入に占める割合は10数%程度ですが、公共事業など裁量的な使
途に回るものが多く、国が地方自治体をコントロールする影響力の裏付けとなってい
ます。端的に言えば、地方選出の国会議員の地元への利益誘導の源泉でもあります。
そこで、地方自治体としては、(1)国庫補助負担金を改革(減額)し、代わりに
(2)国から地方へ税源を移譲することで地方自治体の裁量の幅を広げ、地元住民主
体の行政を進められるよう要求する立場となります。
これに対して、地方交付税は地域間での税収格差を埋めるため国税の一定割合を地
方に交付するもので、原則として使途は地方自治体の裁量に任されています。当然、
地方自治体としては必要かつ正当な財源であると主張するものです。しかし国から見
れば、歳入の一定割合が自動的に支出に回ることで歳出の裁量を狭め、財政再建の取
り組みにおける障害になっているとの認識があります。
従って、国としては、(2)国から地方への税源移譲によって、(3)地方交付税
の見直し(減額)を図りたい、という立場にあります。同時に、地方交付税の配分に
国の裁量を持ち込み、地方への影響力を確保したいとの思惑もあります。
以上が、三位一体の改革における国=中央政府と地方自治体の利害関係の大枠にな
りますが、このような中央政府と地方自治体の利害関係の存在を前提として、三つの
改革を同時に進める上では、強力なリーダーシップの存在が必要と成ります。強固な
「トリニタリアン」であった前首相から現首相へ政権移譲後、こうしたリーダーシッ
プの不在から改革の停滞も指摘されています。
地方自治体を通じて国民の生活に密着した行政サービスの多くが国からの委託事業
として提供されています。特に、その中でも教育については、住民の関心も高く、地
域毎に独自の取り組みを求める声も強まっています。そのため地方自治体の間では、
義務教育費国庫負担金などは廃止し、かわりに税源移譲を要求する意向がある一方
で、税源移譲の結果、約3兆円に上るとされる個人住民税所得割の地方団体間での税
収格差について不安の声も上がっています。
そこで、こうした個人住民税の一部を特定財源化し、客観的な指標に基づき各地方
団体に帰属させることなどの提案も、一部の地方自治体の代表者などから出されてい
ます。例えば、財源を教育予算として各地方の教職員数に応じて配分するなどの案も
挙がっていますが、これは結果的に生徒数の少ない地方部には相対的に手厚い(生徒
1人当たり)予算配分となることを意図しています。
このような地方からの提案の背景には、特に就業年齢者の県外流出の多い地方など
で、投資としての教育費の負担と就業後の税収を通じた投資収益の回収の不均衡に対
して不満が強いことがあります。
今回の「ふるさと納税」についても、こうした地方団体からの要請とする見方もあ
りますが、そもそも地方団体が求めているのは、第一に税源委譲であり、必要な場合
における地方団体間での適切な再配分です。むしろ地方団体から提案されている「ふ
るさと納税」などの案については、政府がイニシアティブを発揮して国と地方の間、
さらに地方間での適切な税源の配分ができないのであれば、「個人の善意と良識に任
せてしまったほうがよいのではないか」との痛烈な皮肉以外の何物でもないように思
われます。
こうした案に政府・与党が喰い付いて来たのであれば、地方自治体の代表者として
は、「自分たちの求めているものは、そんなものではない。」と突き放して嘲笑する
くらいの態度でよかったのではないでしょうか。「ふるさと納税」の導入で収入増が
見込まれる(どれ程のものかは分かりませんが)地方自治体の代表者などが同案を評
価する発言などをしているのを見ますと、各団体の利害関係上の立場はあれ、見識の
なさに失望の念を禁じえません。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:811への回答ありがとうございました。風邪はしつこくて、まだ完全には治
っていません。熱っぽい最悪の体調でヘロヘロになりながら「カンブリア宮殿」の収
録を終え、その足で映画『パッチギ! LOVE &PEACE』を見に行きました。前の『パッ
チギ!』はDVDで見たので、今回はどうしても映画館で見たいと思ったのです。微
熱がある状態で見たのですが、とても面白かったです。『半島を出よ』の取材で多く
の在日コリアンに会いましたが、彼らに共通する「熱さ」が、スクリーンにあふれて
いて、メッセージも明快で、照れのないストレートなものでした。多くの人に見ても
らいたい映画です。
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Q:812
東京都を始め、タクシー運賃の値上げが論議されています。値上げのおもな理由と
して、燃料費の高騰と、低賃金による乗務員の不足が挙げられています。タクシー運
賃の値上げは、経済合理性に則しているのでしょうか。
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村上龍
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JMM [Japan Mail Media] No.428 Monday Edition
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【発行部数】128,653部
【WEB】 <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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