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今週の内外株式市場は、一進一退の推移が予想される。先週の米国株式市場では、予想を上回る経済指標の発表が経済の先行き安心感を生み、株価が一段の上昇を演じた。NYダウは18日(金)に13,556ドルまで上昇し、史上最高値を更新した。インフレ懸念が後退する一方で景気失速の懸念も後退していることが背景である。
日本では、17日(木)に2007年1-3月期GDP速報値が発表された。前期比年率実質2.4%成長を記録した。9期連続のプラス成長になった。景気失速の懸念は後退したが、設備投資の減速傾向が示され、先行き見通しには翳りが生じている。
18日(金)、中国人民銀行が人民元の米ドルに対する変動幅拡大や利上げを発表し、中国株式市場への影響が懸念されている。米国経済のソフトランディング、日本経済の成長持続、中国市場の動向などに注意を払う必要があり、内外の株式市場は膠着状態を続ける公算が高い。
先週、米国では15日(火)に消費者物価指数、16日(水)に4月住宅着工件数、住宅着工許可件数、4月鉱工業生産指数が発表された。4月消費者物価指数は、前月比+0.4%、前年比+2.6%、コア指数が前月比+0.2%、前年比+2.3%の上昇となった。4月住宅着工件数は年率152.8万戸、前月比+2.5%、前年比-16.1%、住宅着工許可件数は年率142.9万戸、前月比-8.9%、前年比-28.1%となった。4月鉱工業生産指数は前月比+0.7%、前年比+1.9%増加を示した。また、18日(金)に発表された5月ミシガン大学消費者信頼感指数は88.7と市場の予想に反して4月の87.1から上昇した。
物価はコア指数の前月比上昇率が+0.2%上昇とインフレ警戒感を生じさせない数値となり、住宅着工、鉱工業生産、消費者信頼感指数が景気拡大持続を示唆する内容となり、先行き楽観から株価上昇が後押しされた。
しかし、住宅着工許可件数は前月比でも8.9%、前年比では28.1%も減少した。着工許可は住宅着工よりも先行指標としての意味が強く、米国経済が住宅投資減少、個人消費減退から失速する懸念を現段階では払拭しきれない。
バーナンキFRB議長は17日(木)の講演で、高金利型の住宅ローンであるサブプライムローンについて、延滞や物件の差し押さえがまだ増えるとの見通しを明らかにした。米国経済減速の原因が住宅市場の冷え込みにあることも強調した。
米国経済がインフレを回避して成長を持続する「ソフトランディング」を実現する可能性は依然として高く、このことが株価上昇の基本背景であるが、住宅投資減少−個人消費減少の経路から景気失速に陥るリスクについては、念頭に入れておく必要がある。ソフトランディングの可能性を確かめながら、株価は押し目を作りながら堅調なトレンドを形成してゆく可能性が高い。ただし、2月末以降の株価上昇ピッチが非常に早いため、6月から7月にかけてスピードに対する調整が入る可能性を念頭に入れておきたい。
日本の2007年1−3月期GDPは実質GDP成長率が前期比+0.6%、前期比年率+2.4%になった。事前の市場予想+2.6%に近い数値の発表となった。個人消費が実質で前期比0.9%増加して成長率を0.5%押し上げた。また、輸出マイナス輸入の純輸出が成長率を0.4%押し上げた。個人消費と純輸出が成長率を0.9%押し上げ、他の重要項目が成長率を0.3%押し下げて、成長率が0.6%になった。
経済成長は持続しているが、これまで景気を牽引してきた設備投資の増勢に翳りが生じ始めている。15日(火)に発表された3月機械受注統計でも設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需の受注額が前月比で4.5%の減少を示した。1-3月期の機械受注も前期比-0.7%と2四半期ぶりの減少を示した。
3月の景気動向指数では、先行指数が5カ月連続の50%割れ、一致指数が3ヵ月連続の50%割れとなった。1-3月期は個人消費が堅調でプラス成長が実現したが、1-3月期の個人消費堅調は暖冬の影響でレジャー支出などが拡大したことなどが影響している。個人消費の最大の決定要因である所得環境は大幅には改善していない。また、輸出の好調が日本経済を牽引したが、中国や米国の景気の先行きについては不透明な部分も存在している。
今週、米国では24日(木)に4月耐久財受注、4月新築1戸建て住宅販売、25日(金)に4月中古住宅販売が発表される。また、22日(火)から23日(水)までワシントンDCで米中戦略経済対話が開催され、バーナンキFRB議長も出席する。インフレ懸念後退、景気失速懸念後退、成長持続の「ソフトランディング・シナリオ」が順調に実現してゆくか、市場は関心を払い続けることになる。株式市場のリズムとして、6-7月にかけての株価調整の可能性に留意が必要と思われる。
今週、国内では重要経済統計の発表が乏しい。23日(水)に3月全産業活動指数、24日(木)に4月貿易収支、25日(金)に5月東京、4月全国の消費者物価指数が発表される。生鮮食品を除く消費者物価指数は前年比-0.1~-0.2%の小幅マイナスが続くと予想されている。マイナス数値が発表されれば、日銀による早期の金利再引上げ観測は後退することになると考えられる。
また、2007年3月期の企業決算の発表がピークを迎える。主要銀行の決算発表が予定されている。21日(月)に三井住友ファイナンシャルグループ、22日(火)にみずほファイナンシャルグループ、23日(水)に三菱UFJファイナンシャルグループが発表を予定している。企業は業績見通しを保守的に発表する傾向を強めており、慎重な業績見通しが株価上昇を抑制している面も否定できない。
また、国内新興企業市場の株価下落傾向が持続しており、個人投資家の損失が拡大し、株式市場の需給を悪化させている面にも留意が必要である。日本企業の株価は利回りから見て非常に割安な状況に置かれており、株価が下落する局面では低PERの企業を中心に、長期投資の妙味が非常に大きい。
6-7月にかけて、米国株式市場でスピード調整が入り、日本の株式市場も連動して下落する局面があれば、低PERの優良企業を中心に長期投資を始動させることを検討するべきと思われる。
為替市場では、米国での金利引下げの可能性が生じ、日本銀行による追加利上げの可能性が浮上するまでの間、ドル堅調の地合いが継続する可能性が高い。当面は現在の地合いが持続しそうである。ただし、局面が変化すると急激なポポジション修正から急激な円高・ドル安が発生しやすい。この点を念頭に入れておく必要がある。
内外市場の長期金利はインフレ懸念と金融政策当局の金利政策に反応する状況が続いている。インフレ懸念が後退して、当局の利上げが見込まれない局面では長期金利の安定した推移が見込まれる。当面、長期金利は安定的に推移しそうである。
2007年5月21日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀