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http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20070514/124742/
米国の実質GDP(国内総生産)成長率は、2007年第1四半期に前期比年率1.3%増となり、2006年第4四半期の同2.5%増から大きく下がった。成長率の鈍化で「このまま景気が後退局面(リセッション)に入る」「もう寿命だ」という論調は根強い。
一方で、FOMC(米連邦公開市場委員会)は、5月9日の会合後に発表した声明文で、「経済成長は今年最初に減速」としつつ、「それでも、これから数四半期にわたって適度なペースで拡大していく」と表現した。まだ寿命は来ていない、というわけだ。
好景気は終わるのか、続くのか?
その答えを探るために、過去の米国の景気循環に焦点を当ててみたい。
NBER(全米経済研究所)が発表している米国の景気循環日付が、景気の寿命を測る基準となっている。現在の景気拡大は、2001年11月からスタートし、5年半拡大が続いている。
ちなみに、それ以前の2回の景気拡大局面を比べると、1980年代の景気拡大は7年8カ月(1982年11月〜90年7月)、1990年代の景気拡大は10年(1991年3月〜20001年3月)も続いている。仮に、今回の拡大局面がここで寿命を迎えてしまうと、かなり「短命」ということになる。
ここに、現在の景気が寿命を迎えるかどうかのヒントがある。
1980年代、90年代の「長寿」だった景気拡大局面を見ると、その間に不調の波があることが分かる。80年代の拡大局面では、86〜87年、90年代では94〜95年に、「ミッド・サイクル・スローダウン」と呼ばれる「中だるみ現象」が発生している。
私は、現在の景気減速が、この中だるみ現象だと考える。2つのポイントで分析すると、寿命に至っていない理由が見えてくる。
1つめのポイントは、経済全体の需給の推移である。経済全体の需給は、需要を示す実際のGDPと供給を示す潜在GDPの差を表す「GDPギャップ」で測る。後退から拡大へと移行した直後は、通常、GDPギャップはマイナス、つまり、需要不足の状態になっている。その後、景気拡大が進むにつれ、需要が拡大し、景気拡大期の後半には、GDPギャップはプラス、つまり需要超過となる。この教科書的な理解に従えば、需要超過によってインフレが発生し、金利が上昇していくことから、結果的には景気にブレーキが掛かり、景気拡大局面は寿命を迎える。
では、現在の米国が需要超過で、景気が過熱しているだろうか。2001年11月の拡大局面がスタートした時は、やはり大幅な需要不足で始まった。その後、教科書通りに2003年以降はGDPギャップが縮小している。
しかし、現在のところGDPギャップはゼロ近辺に達したばかりなのだ。1980年代後半や1990年代末のような需要超過の状況には至っていない。それどころか、過去2回の長寿景気を見れば、GDPギャップがゼロ近辺に達したあたりで、中だるみ現象が発生しているのだ。まさに、現在の状況は、「中だるみ」の時期にさしかかった可能性を示している。
もう1つ、見逃せないポイントは、GDPの内訳に当たる需要項目の動きである。過去の長寿景気がリセッション入りする局面では、消費と在庫に大きな変化が表れた。
まず個人消費が急減速し、その結果、売れ残りが出てきて、在庫が積み上がる。1990年第2四半期、2000年第2四半期には、そうした特長が顕著に表れた。GDP成長率の算出においては、在庫が積み上がれば、経済成長の数字を押し上げることになる。だが、その後に失速する予兆とも言える。企業は過剰な在庫を調整するため、生産や投資がしぼむことから、成長の下押し要因になるわけだ。消費減退と在庫調整が重なって、経済成長率は大きく引き下げられてしまう。
そもそも、現在、個人消費の急減速という状況は見当たらない。従って、売れ残り発生による在庫の積み上がりも軽微である。確かに、ここに来て自動車メーカーや住宅関連産業を中心に在庫調整の動きが見られたが、過去のリセッション入りの時期に比べると、その規模は小さく、期間も短い。
そして、最近の経済指標からは、在庫調整の動きが既に終わりつつあることを予感させる。景気の転換点を読むうえで重要な指標となる米サプライマネジメント協会(ISM)製造業・非製造業指数が、4月にいずれも上昇している。また、企業の在庫・売り上げ統計(3月分)を確認すると、在庫・販売比率が低下している。仕入れや生産を落として在庫を減らすのではなく、売り上げの改善によって在庫が減少しているのだ。これは、需要の回復を示唆している。
とはいえ、第1四半期の1.3%成長は、「低すぎる」という見方があるだろう。さらに言えば、もう少し下方修正される可能性すらある。
ここで注意したいのは、この減速は、外需(輸出−輸入)の数字が大きく下振れしたことが大きな要因であるということだ。2006年第4四半期は、外需が1.6%増と成長率にプラスに効いたが、この第1四半期は0.5%減とマイナス要因になっている。月次の輸出入の数値が大きく振れることで、こうした歪みが生じている。
この影響を除くとどうなるのか。国内総需要で見ると、2006年第4四半期は前期比年率2.0%増、そして2007年第1四半期は同2.1%増となる。つまり、ほぼ同じペースを維持している。米国経済は内需主導と言われるが、その観点から見ると、実質GDP成長率の変化が伝えるほど、景気は落ち込んでいないのである。
吉本 元(よしもと・はじめ)
米国野村證券シニアエコノミスト