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2007年5月7日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.426 Monday Edition
▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第426回】
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□津田栄 :経済評論家
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:808への回答ありがとうございました。「効率と公平」に関しては国民的な
議論が必要で、また日本だけではなく先進国が共通して抱える問題だと思います。中
国旅行が終わり帰国準備をしているところですが、最後の訪問地の上海では、日中経
済協会およびJETROの仲介で上海大学と上海外国語大学の日本語科の学生たちと
交歓会を持ちました。上海という土地柄もあるのでしょうが、学生たちは非常に洗練
されているという印象を持ちました。
日本語を学ぶ動機を質問したのですが、「日本企業への就職などに有利」という実
質的な動機ではなく、「漫画やアニメやTVドラマなどの影響で日本に興味を持っ
た」というような文化的な動機のほうが強いようです。「日本語習得は経済的に有
利」というのは10年前の状況だと明言した学生もいました。また、今や日本を象徴
するのは製造業ではなく、漫画やアニメやポップスやTVゲームやTVドラマなどの
コンテンツソフトだという認識が大都会の一部の若い中国人の間では常識になりつつ
あるという意見もありました。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第425回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:809
上海の友人たちの間では「株式投資」がブームになっているような印象を受けまし
た。中国経済は、今後も現在のような「勢い」を持続できるのでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
中国経済の行方については、様々な見方があります。一般的には、「2008年の
北京オリンピックや2010年の上海万博などのイベントがあるため、2010年ま
では持つだろう」という見方が多いようです。こうした見方は、何か“こじつけ”の
ようで、あまり説得力を感じません。
現在の中国経済の状況を見ると、確かに多くの問題を抱えていますが、政策当局が
どうすることも出来ないほど、問題は悪化していないと思います。中国という国のダ
イナミズムを考えると、今後もこうした状況が続くと思います。短期的あるいは循環
的な景気の変動はあるものの、2010年代の半ば以降まで、高成長を続けるのでは
ないかと考えています。
中国経済の基礎的要因=ファンダメンタルズを簡単に整理します。中国経済は、現
在、10%を越える高成長を達成しており、それは、今から40年前のわが国の高度
成長期のような状況です。主な特徴を挙げるとすれば、1、高い貯蓄率 2、投資主
導型経済 3、高い輸出依存度の三つの要因が頭に浮かびます。この特徴も、ある意
味では、1960年代以降のわが国と共通点があります。
国民の高い貯蓄率によって資本の蓄積が進み、それがGDPの約40%を占める投
資に向かっています。国内の資金と海外からの直接投資によって、多くの企業は、積
極的な設備投資を行い、資本装備は飛躍的に向上します。国民のダイナミズムがそう
した動きに加わり、工業化の進展を後押ししているようです。企業にも着実に技術が
蓄積され、企業の競争力は顕著に上昇しています。
賃金水準が相対的に低いことも、中国経済を支える大きな要因の一つです。資本装
備が進み、技術の移転や蓄積が進展するに伴い、安価な労働力を使って行われる生産
活動には、強い競争力があります。その結果、輸出は数量、金額ともに大きく拡大し
ており、経済全体が大きく拡大する原動力の一つと考えられます。中国は、既に“世
界の工場”としての地位を確立しているといえるでしょう。
一方、中国経済は大きな問題も抱えています。元々、共産主義国家であるため、金
融などの市場メカニズムが未成熟です。中国の国有銀行が、多額の資金を融資してい
る国営企業の多くは業績悪化に苦しんでいるといわれており、多額の不良債権が発生
していると見られます(正確な不良債権額などは不明です)。高成長を達成している
時期は、不良債権問題は顕在化する可能性は低いでしょうが、一旦成長が鈍化すると、
不良債権問題が一度に表面化することも考えられます。
また、輸出依存度が高いことも気になります。現在、人民元が過小評価されている
状況下では、輸出を振興することは容易だと思いますが、人民元の過小評価をいつま
でも続けるわけには行かなくなるでしょう。今後、欧米諸国から、あるいはWTO
(世界貿易機関)などからの批判が高まることは避けられないはずです。人民元の切
り上げを行うと、その分だけ、中国からの輸出にはブレーキが掛かることが予想され
ます。その他、エネルギーなど天然資源の確保や公害などの問題も、今後、一段と深
刻化することでしょう。
中国政府が1970年代後半から採った人口抑制策=一人っ子政策の効果が、これ
から徐々に顕在化することも考える必要があるでしょう。この政策によって、人口構
成が歪むことが予想されます。それは、労働力人口の変化などのパスを通して、経済
活動に影響を与えるはずです。
こうした要因を総合すると、中国経済は当面、高成長を続けることが考えられます。
むしろ、国内の沿岸部と農村部の経済的な格差や、それに対する不満を和らげ、現在
の政治体制を維持するためにも、高成長を続けることが必要といえるかもしれません。
ただ、中国が抱えている経済的な問題は大きく、どこかの時点で成長率が低下するよ
うだと、その問題点が一度に表面化するのではないでしょうか。
もし、不良債権や少子高齢化の問題をきっかけにして経済成長が鈍化すると、蓄積
した不満が発散し、政治体制が揺らぐ可能性は否定できないと思います。それが現実
味を帯びてくるようだと、中国経済の好循環が止まり、高成長を続けることは難しく
なります。現在、多くの人が、米国の後の覇権国は中国と考えていますが、その道の
りはかなり遠いという印象を持っています。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 津田栄 :経済評論家
中国では、上海を中心にマンション建設が急増し、完成前に完売する勢いで、今や
北京にまで広がって過熱気味といわれます。また、現地の証券会社に市民が口座開設
に殺到し、株価に一喜一憂する姿が見られています。最近、中国の知人と話をした時、
一般大衆にまで株式投資が広がっていて、株式投信がスーパーの前で、商品のごとく
売られていていると言って強い懸念を持っていました。どこか日本の80年代後半の
バブル時代に似ていなくもありません。
さて、過去の歴史を振り返れば、いつの時代でも、一国が永遠に繁栄し続けること
はありませんでした。栄華を続けたローマ帝国、中国の漢や唐、清、また近代ではイ
ギリスでも然りです。現在のアメリカもそうでしょう。今、中国経済が上り調子であ
ることは誰も否定しません。いずれ、アメリカにとって代わるのではと言われます
(そうなるか分かりません)が、たとえそうだとしてもこのまま勢いが今後も続くと
は思えません。
中国経済は、トウ小平氏が進めた改革開放政策、経済特区を基点に90年代後半か
ら急速に外資の導入で成長を遂げてきました。もちろん、冷戦終結後の世界経済では、
市場経済のグローバル化や技術革新が浸透し、それも中国経済にとってプラスとなり
ました。ただし、あくまでも共産党政府の管理下におかれた社会主義市場経済であっ
て、全くの資本主義経済ではありません。
そうした中国経済の特徴は、外資による輸出主導の経済成長であるということです。
最近は、設備投資や個人消費など内需の伸びが見られますが、まだ外需が中心といえ
ます。そうした中で、獲得した外貨を投資に振り向けるとともに、国民も急激に伸び
た収入を、一部を個人消費・投資に振り向けますが、多くを将来の社会保障制度が不
十分なこともあって貯蓄に回し、それが回りまわって投資に向かっています。つまり、
外需と投資の二本立ての経済といえます。
しかし、これまでの先進国のような成長過程で見られる国民全体が豊かになって中
産所得者層を形成していく姿は見られません。もちろん、富裕層は数千万人、日本の
10倍以上ともいわれますが、それも、トウ小平氏が説いた先富論(先に豊かになれ
る人から豊かになれ)を利用して党幹部・官僚、ごく一部の企業家などに富が集中し
ているのみで、大半の国民(農民・労働者)には本来その後に流れてくるはずの富は
届いていないといわれています。
そもそも、中国経済の原動力となっている外資は、中国の安い労働力を求めて進出
してきているのであり、その魅力がなくなれば撤退することになり、また国内の投資
も安い労働を利用して輸出を図っていることから同じ状況になると見られ、この中国
の成長モデルは成り立たなくなります。もちろん、全体的に国民の収入が増え、個人
消費などを中心とした内需主導型の経済に切り替えることができれば、こうした外資
や国内投資の問題はうまく解決ができるかもしれません。
つまり、中国経済の成長モデルは、技術革新のもと市場経済のグローバル化のなか
で、これまでのように低所得者層を引き上げて中間所得者層を形成することをせず、
順当な成長過程を一気に飛ばして、世界の工場となって急激な成長をとげることを目
指したものであるといえます。それは、共産党政府が市場経済をコントロールできる
ことが大きく影響しているのかもしれません。
こうした状況を踏まえると、中間所得者を形成しないままの経済成長をとげる今の
中国の問題は、日本をはるかに超える個人間の貧富の差、富が集中する都市部と貧困
にあえぐ農村部との間の貧富の差、沿海地域と内陸部との間の貧富の差という問題が
国民の不平等感につながってきていることです。将来これを是正しなければ、社会不
安につながる恐れがあり、成長にブレーキがかかる可能性があります。
もちろん、今後、世界経済が、特に世界経済の牽引役となっているアメリカ経済が
鈍化するようなことになれば、中国経済に思わぬ悪影響を与えるかもしれません。
また、成長を急いだこともあり、共産党政権下にある経済でもあって、情報開示が
十分になされていないために経済実態が不透明であり、そのことにより抱えているの
でないかと疑われる金融機関の膨大な不良債権問題は、今後、経済の状況によっては
顕在化し、経済成長を鈍化させるかもしれません。あるいは、安い労働力とは別に国
際競争力を優位にしていたもう一つの安い人民元問題も、今後アメリカを中心に人民
元切り上げ圧力を受ければ、この優位性を失い、輸出が鈍化して、高い経済成長を持
続できなくなる恐れがあります。
もう一つ、中国特有の経済的ファンダメンタルズで問題になるのは、人口の高齢化
です。70年代から始まった一人っ子政策の影響が今後顕在化するといわれ、その高
齢化のスピードは日本以上とされているため、今後、こうした面での経済への悪影響
は考えなければならないように思います。まして老後の年金などでは十分に保障され
ていないため、さらなる経済の不安要因になりえます。
今株式投資が国民に広がっているのは、こうした中国経済への持続的な成長に期待
し、その恩恵を受けたいと貯蓄を株式に回している面があるのかもしれません。ある
いは、低賃金では生活向上が図れないために、なけなしの資金を使って一攫千金を
狙っての投資かもしれませんが、今後の経済成長におけるリスクを考えると、こうし
た流れは危惧せざるを得ないかもしれません。もし資金の流入が途絶え、株式の大幅
下落となれば経済への新たな不安要素になりえましょう。
現在の中国経済は、07年1−3月期の実質GDP成長率で11.1%を遂げ、今
年も10%台の成長が期待されるています。また、08年の北京オリンピック、10
年の上海万博まで成長が続くといわれています。しかし、それは、依然安い労働力、
安い人民元をもとに、大多数の低所得者層を抱えて貧富の差を拡大させながら達成し
てきた外需主導型成長から、内需拡大につながるかどうかにかかっています。
したがって、こうした貧富の差を解消しなければ、国民の不満が成長のブレーキを
踏むかもしれません。それは中国経済が世界経済に大きなウェイトを占めるように
なっただけに、世界経済のリスクともいえます。しかしながら、この問題を解決する
には、共産党政権下では、身内に相当の血を流さなければならないため、難しい問題
といえましょう。
経済評論家:津田栄
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
現在の中国の経済発展は、日本の昭和の経済発展と似ていて、それを経験したこと
のある世代の日本人には、好悪にかかわらず様々な感興を引き起こします。日本では、
映画にしてもアニメにせよ、「昭和レトロ」がひとつの文化的なコンセプトとして確
立していますが、中国のかかえる様々な状況をみれば、昭和に日本が直面した問題が
懐かしく思い出されます。
先ほど、テレビをつけていたら、中国にオープンしたディズニーや日本アニメの
キャラクターを模倣した遊園地がとりあげられていて、中国の知的著作権の侵害が盛
んにやりだまに挙げられていました。これは、日本の60年代や70年代の輸出ドラ
イブとそれに続く消費の時代に、日本企業が内外のライバルからマネシタ電気とかコ
ピーキャットとかいわれて揶揄された時代のことを思い起こさせます。
日本の昭和との類推が合っているとすれば、中国社会の中間層の厚みが増し国内の
消費市場が充実することにより国民一人当たり所得の拡大を背景とする健全な経済発
展段階に入ったと見るべきでしょう。まえにも書きました、この中間層が発達してい
くかどうかが、昭和との類推が成り立つかどうかの鍵になります。このような中国の
経済発展を制約する可能性のある要因として、いくつかの問題が挙げられています。
一番の根本的な懸念は政治体制にかかわるものです。共産党が権力を維持した開発
独裁の体制が、政治的自由や経済的効率性の点で、どこまで成熟した資本主義経済と
矛盾しない形で両立するかという問題です。政治体制の変化が起こるとしたら、どこ
までドラスティックなものになるかで、経済活動は大きく影響を受ける可能性があり
ます。残念ながらこの問題は中国独自の問題で、我々には参考になる事例も解決策も
持ち得ないでしょう。
共産党に関わる社会的制度の不備の問題の他に、良く上げられる論点としては、1)
都市と農村の格差の問題、2)環境問題、3)資源の制約の問題などがあります。
都市と農村の格差の問題は、日本の戦後の問題と重なります。日本の場合、集団就
職や出稼ぎで農村から都市への人口移動が行われ、それ自体深刻な社会問題を引き起
こしましたが、結果的には産業転換に必要な人口移動をもたらす上で必要な所得格差
であったと言えましょう。移動した層が都市の中間層になることで、問題は小さなも
のになっていきました。発生した不公平の問題を緩和するために、地方交付税の制度
や補助金を使った移転支出を行い、また社会保障制度を充実させることで対処しまし
た。
環境問題に関しても、日本は水俣や四日市の公害病など深刻なものをすでに経験済
みです。いくつかの公害裁判の判決により、責任が明確になり保障がなされるととも
に防止のための法律が整備されました。汚染防止のための技術開発が進み、防止技術
を誇るところまでいたっています。資源問題では、2回の石油ショックを経て、省資
源技術を確立したといわれています。技術に関しては、中国が買うことで利用は可能
であることになります。
これらの問題の解決にあたっては、日本の経験が生きることでしょう。しかし、中
国の人口はアメリカの約4倍、日本の約10倍ですので、この規模の経済が今後資源
を消費し生産を拡大することによって豊かになっていくとに関しては、おののきを禁
じざるを得ません。この規模に関しては、日本の個々の経験が役に立たない前人未到
の領域であることは確かです。ただ、市場経済は資源の価格が短期に何倍にもなるよ
うな事態も乗り切ってきたので、中国が市場経済の参加者である限りにおいて、その
ことをもって成長の限界を持ち出すのは正しくないように思います。
中国経済が、今後も「勢い」を維持できるかどうかについては、内部要因を列挙す
ると否定的になりますが、昭和の経験との類推からは十分可能なことであるように思
われます。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
今年1−3月期の中国の実質経済成長率は11.1%という高い伸びとなりました。
成長のパターンは相変わらず輸出・固定資産投資主導型となっています。特に最近の
貿易黒字の増加スピードは異常なほどで、1−3月期は464億ドルの黒字と前年同
期の2倍となっています。固定資産投資の伸びは単月では昨年12月に13.8%と
減速していたのですが、この3月には26.8%へ再び加速、1−3月全体でも25
.3%の高い伸びを見せています。今年の中国全国人民代表大会(全人代)で温家宝
首相が今年の経済成長目標を8%に設定すると報告しましたが、現実はそれよりはる
かに高い経済成長が進行中というわけです。
今年3月に中国に行ってきたのですが、現地のエコノミストと話をしますと、一様
に中国の高い経済成長は今後も続くとの見方を示しています。1つは中国が世界の組
立工場の役割をますます果たすようになってきているからです。先進国が中国への直
接投資を進め、より多くの新設工場が稼動して、出来上がった製品が世界に輸出され
るわけです。これはまだ当分続くと見るべきでしょう。もう1つは中国国内のインフ
ラ投資の増大です。沿海部の都市開発もすごいのですが、中国政府は都市部と地方と
の格差縮小を政策課題の1つに掲げていますので、地方、内陸部への道路、電気、水
道等々の生活インフラ整備プロジェクトは今後、一段と増加していくでしょう。地場
銀行によりますと、インフラ需要は無尽蔵にあり、実際、この半年で10万件を超え
るインフラプロジェクトがスタートしたそうです。2008年は北京オリンピック、
そして2010年は上海万博というビッグイベントも控えており、中国の高成長はし
ばらく続くと予想されます。
2月に上海株式市場の急落が引き金となって、グローバルな株価急落が起きました
が、それは一時的な下げにとどまり、いまや再び上海株式市場は記録的な活況を見せ
ています。上海株価指数は数年前から昨年の半ばまでは、ほぼ横ばいのレンジ相場
だったのですが、昨年2000を超えてから上昇スピードが加速して、あっという間
に3000を突破しました。現地の人に聞くと、一応、3000を超えたら利食いと
いうのが、合言葉だったようで、意外と上手く売り逃げした人が多かったようです。
ただ、保有株式を売却して、現金化しても、資金の運用先が限られる中国では海外資
産に投資はできず、国内不動産か宝石類しか持って行き場がないのも現実です。よっ
て、いったん、逃げたマネーもまた株式市場に戻ってくるしかないようです。大幅な
貿易黒字と直接投資投資から外貨準備が急増し、マネーサプライも急増し続けていま
す。過剰流動性という基本条件が変わらないのでは、株式市場も活況を続けるしかな
いというのが、論理的帰結ではないでしょうか。
それでは中国の経済成長に問題はないのかというと、そうでは有りません。それは
環境破壊という成長制約要因が拡大してきているからです。やはり、今年の全人代で
温家宝首相は活動の重点分野の1つとして省エネ・環境保護を掲げました。実際に中
国を旅してみますと、水と空気の悪さを実感します。河川の自浄能力をはるかに超え
る工場排水の垂れ流しにより、各地で河川が細ってきているという話を耳にします。
工場を作っても工場用水が確保されなければ、工場は稼動できません。水が生産のボ
トルネックとなるのです。また、工場からの排気ガスによる空気の汚染も深刻です。
最近は香港までもその被害を多く被っています。深センや華南地区に工場が林立し、
その排気ガスが香港を覆うまでになってきているのです。外資系の従業員の中には家
族を本国に帰したり、シンガポールへの転勤を願い出ている人も多いという話を聞き
ます。東北三省には個人的には行ってたことがないのですが、「もっとひどい」と言
う人もいます。
よって、この環境破壊をどこかで阻止しなければ、長期的には中国の高成長はス
トップせざるを得ないと考える人が、最近、特に多くなったように感じられます。4
月に日中韓の政治家、財界人、有識者からなる「日中韓賢人会議」が東京で開催され
ましたが、そこでも環境は重要議題の1つであり、日中韓による環境技術の共同研究
開発で合意しました。今後、各国の政府に具体的提言をしていくようです。日本は世
界でもトップレベルの環境技術立国です。この面で中国の環境破壊のスピードを緩和
できれば、それは中国の成長持続、そしてグローバルな成長持続に貢献することにな
るでしょう。環境は地球規模の問題ですから、ことは、中国だけの問題ではないとい
うことでしょう。
伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
「今後」というときにどのくらいの期間を想定するかが問題ではありますが、今後数
年程度にわたって、中国が一桁台後半から場合によっては10%を超える経済成長を
続ける、という意味でなら、「勢い」が続く公算が大きいのではないでしょうか。
そもそも将来を予測するということが難しいことですし、この種の問題は、ものの
見ようによって、同じ要因がプラスにもマイナスにも見えます。中国に関しても、同
じ一般全国紙であっても、親中色の濃いA新聞を読むと中国の発展を好意的に伝えら
れていますし、反中色の強いB紙を読むと中国の政治・経済両面の歪みが強調されて
いてこのまま順調に発展することなどないような気になります。後で理由を述べます
が、今回の私は、たまたま中国経済のポジティブな面に目が向いた、ということなの
だろうと思いますので、あらかじめお断りしておきます。
少し先の中国を考えるという意味で参考になりそうな資料に、中国の国家発展改革
委員会が第11次5カ年計画(2006年〜2010年)のために、国内外の専門家
に「中国の経済・社会の持続的発展に影響をおよぼす危機的要素、危機的分野、危機
をもたらす脅威の程度」についてアンケートを取った結果をまとめた、中国が直面す
る十大課題というべき問題のリストがあります(関志雄『中国経済のジレンマ』ちく
ま新書、を参考にしています)。
リストアップされた中国の十大危機は、順に以下のようなものです(括弧内の要約
は山崎)。1)雇用問題(失業者が多い)、2)三農(農業・農民・農村)問題(農
業の停滞と農民の農村離れ)、3)金融問題(金融機関の管理能力の欠如)、4)貧
富の格差(社会不安定化の可能性)、5)生態系と資源問題(環境問題、水不足な
ど)、6)台湾問題、7)グローバル化の問題(WTOなどの中国社会への影響)、
8)国内統治の危機に関する問題(党・官僚の腐敗など)、9)信用問題(企業と個
人の信用度が低く、金融リスクが大きい)、10)エイズと公共衛生の問題(HIV
感染者は将来3千万人の予測も)。
雇用に関しては、労働需給が逼迫しているなら成長の制約になりますが、現状では、
失業者が多いということは、今後も低廉かつ豊富な労働力を使えるということであり、
これはむしろ成長の持続要因です。農業の生産性停滞と農民の農村離れは、かつての
日本でもあったことですが、これも、工業、あるいは都市部への労働力供給を意味す
ることなので、社会的な不安定化などの可能性はあるとしても、これ自体が経済成長
の大きな制約要因になるとは思えません。
信用の問題を含む金融問題は、株式・不動産などの投機的なブームの最終局面で、
巨額の不良債権が顕在化して金融機関が倒産し、一時的に信用収縮が起こり、経済成
長が止まる可能性は絶対に無いとは言えません。また、現在流入している外国資本、
或いは人民元相場への当局の介入による国内マネーサプライの拡大といった要因が、
弱化ないし、逆流する可能性が無いとは言えず、金融的な要因は、確かに一つのリス
クだろうと思われます。しかし、実物的な生産が上手く行く状況があれば、金融の
ショックは、あっても一時的なものでしょうし、また、政府の対策によってショック
を和らげることも可能です。10年単位では、リスクに対処しながら、成長を続ける
可能性が相当程度(半分以上)あると見ていいのではないでしょうか。
貧富の格差は、その固定化が目立ってくると、経済・社会が停滞しますが、現状で
は、「富」が「貧」を雇用するという形で経済成長をもたらす構造要因の一つになっ
ているのでしょうし、今後、都市に流入した労働者が中流階級を形成する過程では、
国内の需要も拡大するでしょう。また、環境問題は大きな問題にあることは間違いあ
りませんが、かつての日本が公害問題を克服しつつ成長したように、そのコストが大
きくなったときには対策が講じられる形で、経済成長を決定的に阻害する要因にはな
らないように思えます(但し、悲惨な事例が幾つも起こりそうですし、日本にも影響
が及ぶ可能性がありますが)。
台湾や、政治体制の問題については、不測の事態があり得ますが、たとえば現在の
表面上は社会主義で、実態は資本主義の体制が経済成長への期待から継続するでしょ
うし、将来的には、中国は、軍事に加えて経済的にも圧倒的に大きな存在になるで
しょうから、中国が合州国的な体制になって台湾が米国に於ける州のような形で併合
されるような状況も考えられるのではないでしょうか。
さて、中国経済に対して、今回、個人的にポジティブな印象を持った理由は、たま
たま別の目的で読んでいたジャック・ウェルチ『ウィニング勝利の経営』(斉藤聖美
訳、日本経済新聞社。原書は2004年刊)に、GEのCEOを退任してから世界を
講演旅行したジャック・ウェルチが「中国との競争に勝つにはどうしたらよいか」と
いう聴衆の質問に答えたパートを読んだからでした。資本主義的競争の申し子のよう
なウェルチ氏は、勤勉な労働力、勤労を是とする労働観、高度の教育を受けた人の急
増といった要因を買って、中国経済の将来に基本的にポジティブですが、次のフレー
ズが最も印象に残りました。「発展し始めた頃の日本と違い、中国の巨大な市場は直
接投資に比較的オープンだ」と彼は指摘していて、中国に単独進出して、自社の製品
を中国市場で売りつつ、自国市場向けの製品供給まで発展できれば最高だ、と述べて
います。
中国というと、どうしても社会主義体制や強烈なプライドを伴ったナショナリズム
など、経済発展には向かない要素に目が向きますが、表面的な面子を重んじるので、
こうしたものを表立って捨てることはないとしても、裏というか、現実の生活にあっ
ては、上から下まで貪欲でプラグマティックな国民が多数いて、既に再び鎖国的にな
ることは不可能な勢いで世界経済とつながっているので、中国の経済発展は当面の勢
いをしばらく維持できるのではないか、という印象を持っています。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
<http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:809への回答ありがとうございました。中国から戻って風邪を引き、その後
の「カンブリア宮殿」の収録のあとで、本当に久しぶりに発熱しました。ちょうど定
宿にいるときだったのですが、休日の深夜にも関わらず、1人のベルマンが「冷えピ
タ」を持ってきてくれて助かりました。全身が辛かったのですが、額と目のあたりが
涼しくて気持ちが良くて、長方形の小さな冷却シートが、「親切」の象徴のように思
えました。
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Q:810
先週日本航空が業績予想を黒字から赤字に修正しました。全日空と日本航空、わた
しはどちらもよく利用しますが、乗客数にそれほどの差があるような印象はありませ
ん。利益を出している全日空と、赤字の日本航空は、経営面で、どこに差があるので
しょうか。
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村上龍
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JMM [Japan Mail Media] No.426 Monday Edition
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】 <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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