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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070417/122981/
7年前、ドットコムの熱狂の最盛期にソフトバンクの株式時価総額はほぼ2000億ドルに達し、アジアで最も企業価値の高い会社になりかけた。その6年前に上場したばかりの元ソフトウエア販売会社としては、なかなかのものである。
ソフトバンクは当時、米国と日本でインターネット企業に投資し、巨大で無秩序な企業群を傘下に置く会社に成長していた。同社株の38%を所有する創業社長の孫正義は、長者番付世界一の地位をビル・ゲイツから奪いそうな勢いに見えた。日本の若い起業家にとって「孫さん」は、日本の堅苦しい企業風土への反逆者以上の存在だった。彼は新時代の救世主だったのである。
時代は移り変わる。早い時期にヤフーに投資した孫氏の判断は大成功だった。しかし、今もソフトバンクは価値ある日本のインターネットポータル最大手ヤフージャパンの支配株主ではあるが、同社のその他投資先の大半は無価値なものだった。
ヘッジファンドと個人投資家・・・投資スタンスが著しく違う
かつて1万9800円の最高値をつけたソフトバンク株は現在、3000円(25ドル)以下で売買されている。外国のヘッジファンドは、同社の莫大な債務と複雑な事業形態を考慮すると、これでもまだ株価は過大評価されていると考えており、ソフトバンク株を借りて空売りをかけている。先々、値下がりしたところで安値で買い戻す狙いだ。
ヘッジファンドと日本の個人投資家の対比は、これ以上ないほど著しい。孫氏は個人投資家のヒーローであり、個人投資家のおかげでソフトバンクは今なお株式市場で最も売買される銘柄だ。ソフトバンクに関して批判的なリポートを書いた何人かのアナリストは、怒った株主から身を守るためにボディガードに頼らなければならなかった。
バブル崩壊後、ソフトバンクは少なくとも2度、事業を再構築している。最初は固定電話及びブロードバンド会社として、そしてこの計画が輝きを失うと、携帯電話運営会社として事業を再構築した。
ソフトバンクが日本で苦戦していたボーダフォンの携帯電話網を買収したのは1年前のこと。ソフトバンクにブランド名を変えた携帯電話事業は日本の3大携帯電話会社の中で最も小さいが、全体で1億人強の携帯利用者のうち1600万人を顧客として抱えている。ソフトバンクはようやく、かなりの規模と相当数の顧客基盤を持つ事業を手に入れたわけだ。
なぜ、あれだけの大金を払ったのか疑問が
ソフトバンクが1兆8000億円で獲得した事業は悲惨な状態にあった。ボーダフォンが日本の携帯電話市場――第3世代(3G)サービスの先駆者で、世界屈指の洗練された市場――を読み違えたためだ。ボーダフォンは規模の経済を利用しようと、欧州で販売している不細工な3G端末を日本の消費者にも売ろうとしてしまった。事態をさらに悪化させたのは、ボーダフォンが日本の3Gネットワークに十分な投資をせず、利用可能地域が限定されてしまったことだ。
ソフトバンクは買収後すぐにボーダフォンの固定資産の評価額を大幅に引き下げ、なぜ最初にあれだけの大金を支払ったのかという疑問を呼んだ。それにもひるまず新経営陣は、事態を打開しようと新規投資を始めた。利用可能地域を広げるため、同社は今年3月までに基地局を2万5000から4万6000に増やすと約束。また昨秋以降、30種の新型端末を発売してきた。
昨秋、法改正によって、利用者は携帯電話会社を変更しても元の携帯番号を使えるようになった。これに対応してソフトバンクは、他のソフトバンク利用者への無料通話を含む一連の割引パッケージを提供した。また、端末を分割払いできる選択肢を顧客に与えた。欧州と違って日本の携帯電話会社は端末に助成金をつけないため、これは特に魅力的な新機軸だった。日本最大の携帯電話会社NTTドコモの経営陣も、業界はこの販売促進策に虚を突かれたと認めている。
流れは悪い方へ
こうした施策がソフトバンクの利益になっているかどうかは、また別の問題である。こうした戦術は、顧客が頻繁に携帯電話会社を変更する「乗り換え率」の高い市場で最もうまく機能する。だがこれまでのところ、利用者の乗り換え率は5%に満たない。欧州の乗り換え率と比べると微々たる数字だ。
その原因の1つは、日本では携帯電話を使ったメール使用が非常に多いのに、携帯電話のメールアドレスは乗り換えの際に引き継げないことだ。そして、日本の携帯電話会社はそれぞれ独自規格を持っており、顧客は乗り換えると新しい端末を買わなければならないという事情もある。
ソフトバンクはどうにか、ボーダフォン時代の顧客減少傾向を食い止めることに成功した。だが、それには代償があった。契約者が増える以上の速さで契約者1人当たりの収入が減りつつあるのだ。これは業界第2位のKDDIを除いてすべての運営会社を悩ませている問題で、いずれは全体的な売り上げ減少を意味する。
そう考えると、ソフトバンクが携帯電話事業の収益改善を報告しているのは驚くべきことである。例えばボーダフォン時代に3.2%だった利益率は、昨夏、新経営陣が就いてから2カ月で3倍以上の11.7%に高まった。その後、利益率は多少低下したものの、この躍進はソフトバンクの攻撃的な会計手法に対する懸念を呼び覚ました。
最新のイノベーションは、ソフトバンクの分割払いによる端末販売に絡んでいるようだ。アナリストらの推測によれば、端末代金は最大2年間にわたって分割で入ってくるのに、ソフトバンクは端末販売による収入を全額最初に一括計上している。ソフトバンクは事実上、リース業を立ち上げたということだ。
これは長期的には同社のキャッシュフローに影響しないものの、帳簿上、短期的に営業利益を膨らまし得る。ソフトバンクが数週間後に発表する2006年度の決算報告で、この問題がより明確になるかもしれない。
ソフトバンクはその前の会計年度に長年にわたる営業損失に終止符を打ち、以降、四半期ごとに営業利益を増やしてきた。実際、過去7・四半期でソフトバンクは合計2600億円の営業利益を上げた。だがこれは債務返済に使われるキャッシュであり、ソフトバンクは多大の債務を抱えている。
直近の計算で同社の純負債は2兆4000億円あり、自己資本の8倍強に上る。キャッシュの多くは、ソフトバンクのブロードバンド、固定電話、携帯電話事業への投資につぎ込まれている(ソフトバンクが昨年約束し、3月の期限までにまだ完成していない基地局建設を含む)。その結果、同社のフリーキャッシュフロー(減価償却や設備投資を差し引いた純収入)は同じ期間に800億円の赤字になったと推定される。
言い換えると、ソフトバンクは依然キャッシュを垂れ流し続けているということで、新規増資か借り入れ、あるいは資産売却で出血を止めなければならない。1994年の上場以来、ソフトバンクの価値破壊力は驚異的だ。総合すると、同社は投資家から総額3兆2000億円以上受け取り、そのうち2兆8000億円を営業損失、投資損失及び設備投資に費やしてきた。
ソフトバンクという孫氏のマシンは、片方からキャッシュを吸い込む力で際立っている。だが、反対側から微々たるカネしか吐き出さない点でも際立っているのである。