★阿修羅♪ > 国家破産50 > 186.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
【FRBウオッチ】「利下げカード」はなお机上に、住宅・製造業が鍵
4月16日(ブルームバーグ):米連邦公開市場委員会(FOMC)は3月21日の会合後に発表した声明で「金融引き締めへの傾斜」を示すガイダンス(指針)を削除した後、4月11日に公表した会合議事録で「追加利上げの可能性」を引き続き認識していると表明した。FOMCメンバーが相次いでインフレ警戒姿勢を強調していることもあり、「引き締め傾斜」ガイダンスの削除でいったん強まった利下げ観測は後退している。
しかし、巨大なFOMCの楕円形テーブルの上には「利下げカード」もしっかりと残されている。そもそも、声明からの「引き締め傾斜」ガイダンスの削除には利下げへの自由度を確保する狙いがあった。そして、声明から外した「引き締め傾斜」を議事録で再度、表明するという一見すると、ちぐはぐな行動は現時点で「利下げカード」を市場に織り込ませる意図がないことを示している。それどころか、その存在を見えなくする方が得策とFOMCは判断しているのだろう。
FOMCにとって現時点での最優先課題は声明に明記された「インフレリスク」の解消である。「利下げカード」を市場参加者に示し、市場金利が低下してしまっては台無しだ。
想定以上の景気減速
バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は3月28日の議会証言で、「インフレと景気下振れの二つのリスクが高まった」と言明した。二つのリスクが高まった場合、FOMCがインフレ抑制を最優先するのは定石である。これは、インフレがいったん高進すると、将来、大幅利上げという多大な犠牲を強いられるからにほかならない。
一方、過剰消費体質と、その表裏にある過剰債務体質の米国では利下げは強力な威力を発揮する。景気下振れはインフレよりも治療が楽なのである。しかも、利下げは意外性があったほうがより効果が高まる。
3月のFOMC声明は、サブプライム住宅ローンの急速な悪化と、予想外の企業設備投資の減速に直面して、「利下げカード」を確保しておく必要に迫られたものだ。もちろん、現状では、「インフレが支配的なリスク要因」(バーナンキ議長)であり、「利下げカード」をすぐ切る考えはない。
3月声明では、「利下げカード」を確保するために、「引き締め傾斜」ガイダンスを外したものだ。一方、1月声明まで盛り込んでいた「引き締め傾斜」ガイダンスは景気が予想以上に減速するなかで、とても行使できるものではない。現状ではタカ派の仮面にほかならない。しかし、タカ派の仮面をきっちりと装着しながら、その下に利下げカードを忍び込ませることも難しい。
市場の信認で「利下げカード」秘匿に成功
そこで、声明で「引き締め」ガイダンスを削除。いったんタカ派の仮面を緩めてからから、その下に「利下げカード」を入れたわけだ。すでに述べたように、FOMCメンバーは「利下げカード」を切る意向は現時点ではない。それどころか、これを秘匿しておく必要がある。こうしてFOMC議事録で、「追加引き締めの可能性がある」という1月までの声明ガイダンスの認識を再度、表明。タカ派の仮面を調整しながら、その下に「利下げカード」を忍び込ませたわけだ。
議事録での追加利上げ姿勢表明に加えて、複数のFOMCメンバーによるインフレ抑制への強い決意表明により、タカ派の仮面も真実味を増し、「利下げカード」は秘匿された。さすがに、市場から高い信認を得ているFOMCだ。この荒業にもかかわらず、市場での利下げ観測は素直に後退した。
FOMC声明の「引き締め傾斜」ガイダンスは2005年12月から開始され、微修正が加えられながら、今年1月まで継続されてきた。ただし、実際に引き締めガイダンスの役割を果たしたのは、昨年6月までだった。8月以降は住宅市場の急速な減速に伴い、利上げの確率は急速に低下した。しかし、市場に利下げ観測が広がると、市場金利が低下し、インフレ抑制効果が減退する。ここに至り、引き締めガイダンスはFOMCが強いインフレ警戒態勢をとっていることを示すタカ派の仮面に変貌する。
ただ、声明のガイダンスは金融政策の手足を縛る。このため、3月のFOMCにかけて、想定以上に景気下振れリスクが高まる中で、声明の引き締め傾斜へのガイダンスの維持が不可能になった面もある。
三つのリスクシナリオ
声明で「引き締め傾斜」ガイダンスを削除した3週間後。3月のFOMC議事録で追加引き締めの可能性を示唆したのは、唐突なガイダンス削除の意図を糊塗するための単なるジェスチャーにすぎない。住宅市場の不振と企業設備投資の想定外の低迷を前に、FOMCが少なくとも短期的に利上げに踏み切ることなどとても想定できないからだ。
「利下げカード」はこうして温存されたが、これもあくまでもサブシナリオに過ぎない。メーンシナリオは、現行フェデラルファンド(FF)金利5.25%の下での、景気ソフトランディング(軟着陸)達成である。
FOMCは年末にかけて緩やかに景気が回復すると予想している。ただし、成長率はなお潜在成長率を若干下回る程度にとどまるため、自然治癒効果によりインフレが抑制されるというのがメーンシナリオである。商務省が16日に発表した3月の小売売上高は0.7%増加と堅調を持続した。
2月も速報の0.1%減から0.5%増へと、上方修正されており、第1四半期の個人消費は想定を上回る勢いを示している。ナショナル・シティー(クリーブランド)のチーフエコノミスト、リチャード・デカーザー氏は、「個人消費は長期にわたり製造業の不振を下支えする方向にある」と述べた。
FOMCのメーンシナリオ達成に向けて明るい要素が加わった形だ。一方、このメーンシナリオ達成へのリスクはインフレ、景気下振れ両方向にある。この二つのリスクへの対応を迫られた場合、上下いずれに方向にも政策金利を変化させる可能性があるというのが、3月のFOMC声明の意味するところである。
製造業の低迷は想定以上
当然のことながらメーンシナリオ実現の蓋然性(がいぜんせい)が最も高いとFOMCは見ている。今後、景気下振れリスクだけが高まる場合は、利下げによる対応が比較的容易に実施されよう。そのための、道筋は3月声明で切り開かれている。
FRB調査統計局スタッフが3月20,21両日のFOMCに提出した経済予測(グリーンブック)は「最近の石油価格の上昇と株安、さらにサブプライム住宅ローンの問題が年内、実体経済の足を引っ張る見込みだ」としている。グリーンブックはこうした圧迫要因にもかかわらず、住宅建設のマイナス寄与分が縮小するため、潜在成長率を若干下回る程度の緩やかな成長へと回復する」と予想している。
このメーンシナリオに対する景気下振れリスクは3月のFOMCにかけて高まった。これは製造業の想定以上の低迷が主因である。企業設備投資の先行指標となる航空機を除く非国防資本財(コア資本財)受注額は2月に前月比2.4減少した。これは1月の同6.2%減に続く、大幅マイナス。2月の水準は前年同月を1.9%下回っている。
米供給管理協会(ISM)が今月2日発表した3月の製造業景況指数(季節調整済み)は50.9と前月の52.3から低下。景気の拡大と縮小の境目を示す 50は上回ったものの、ほぼ横ばい圏にとどまっている。同景況指数は昨年11 月に49.9と50を割り込んだ後、12月51.4、1月49.3と50を挟んだ水準で推移。2月には52.3に回復していたが、3月に再度水準を下げた。同指数が今後50を割り込み、さらに48を下回ってくると、「利下げカード」の現実味が増すことになる。
住宅もなお楽観を許さず
FOMCは、これから住宅建設投資のマイナス幅が縮小してくると見ている。しかし、これもサブプライム住宅ローン問題をきっかけに悲観的な報道が増えてきたため、楽観を許さない。全米ホームビルダー協会(NAHB)が16日発表した4月の米住宅市場指数は33と、前月の36から低下した。同指数で50を下回る数値は住宅建設業者の多くが現況を軟調とみていることを示す。
同指数は昨年9月に30でボトムを形成。2月には39まで回復していたが、サブプライム問題の広がりとともに、3月36、4月33と低下してきた。住宅市場が想定以上に悪化し、さらに製造業を圧迫するようになれば、FOMCの緊張感も高まることになる。
一方、物価について、FOMCメンバーの大半は、現在のインフレ水準が「適正水準」を上回っているが、これ以上利上げを実施しなくても落ち着きを取り戻すとみている。これがメーンシナリオだ。
インフレリスクが現状程度にとどまり、景気リスクがさらに悪化した場合は、景気の一段の減速により、インフレリスクが軽減されることから、利下げによる対応も比較的容易だ。しかも、利下げは米国経済にすぐ効果を発揮する。さらに、重要なことは利下げに反対する政治的圧力は存在しないということだ。
最悪のリスクシナリオ
しかし、インフレリスクが高まり、その一方で景気下振れリスクが継続している場合、利上げは容易でない。来年には大統領選挙を控え、政治的な配慮も迫られかねない。最悪のリスクシナリオはインフレと景気下振れリスクが継続して高まるスタグフレーションリスクだろう。
これはインフレ高進、景気下振れの二つのサブシナリオに対するさらなるリスクシナリオと言える。FOMCは景気のソフトランディングを想定するメーンシナリオと、それに対してインフレが改善されないリスクと、景気が想定以上に下振れする2つのサブシナリオを設定している。
さらに、これら2つのサブシナリオに対するリスクとしてスタグフレーションシナリオがある。FOMCが現在、この第3のスタグフレーションリスクを想定しているわけではないが、その確率はゼロではない。
スタグフレーションの前兆か
バーナンキ議長は3月28日の議会証言で、同月のFOMC声明について、「声明は実体経済とインフレの二つの側面を表現している。そして、われわれはこの二つの側面でリスクが拡大していると感じている。つまり、声明で記述した通り、生産見通しはやや弱くなったが、同時にインフレ環境は若干リスクが高まった。従って、FOMCの二つの目標はやや大きなリスクに直面している」と、景気と物価の両方のリスクが高まったと明言した。
つまり、インフレと景気の両サイドにリスクが高まっているわけである。この傾向が続けば、スタグフレーションを指向することになる。米国ではこのところガソリン価格と食品価格の上げ足が速まっている。いずれもFOMCが重視するコア価格指数には含まれないが、消費者のインフレ期待に跳ね返る。
4月のミシガン大学消費者マインド指数では、1年先の物価予想が3.3%上昇と、前月までの3%上昇から上放れしてきた。さらに、物価の上昇は家計を直撃し、米経済を牽引している個人消費を圧迫することになる。エネルギー・食品価格の上昇はスタグフレーションリスクの前兆と言えよう。
試される新旧議長
FOMCメンバーがインフレリスクを強調するのは、利上げが困難なため口先介入により回避しようとする努力の現われでもある。実弾によるインフレ抑制努力は昨年6月のFF金利5.25%で終了したと認識しているのだろう。
景気実態が悪化する中で、利上げの選択肢は事実上すでに閉ざされているからだ。グリーンスパン議長による慎重なペースの緩やかな利上げが適切だったのか。あるいは、バーナンキ議長が昨年8月で利上げを停止したことで、十分だったのか。その答えは年内にも判明するだろう。
記事に関する記者へ の問い合わせ先: ワシントン 山広恒夫 Tsuneo Yamahiro tyamahiro@bloomberg.net 記事に関するエディタ ーへの問い合わせ先: 東京 大久保義人 Yoshito Okubo yokubo1@bloomberg.net
更新日時 : 2007/04/17 06:58 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/commentary.html