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「経済コラムマガジン07/4/16(478号)
・構造改革派の正体
・構造改革派と変動相場制
古典派経済学と自由主義経済の信奉者と思われている構造改革派が、今日世界に広がる国際的カルテルに対して全く批難的な発言をしないことを先週号でお話した。もっぱらこの構造改革派と呼ばれる人々の攻撃対象は、元々競争的な業界である。小さく弱い業者が多数存在し、互いに激しく価格競争を行っているところである。このような業界が共倒れを回避するため競争制限的な動きをすると、とたんに構造改革派の攻撃の的になる。
小さく弱く多数存在すると言えば、労働力を提供する個人もそうである。構造改革派は、個人をもっと競争させれば、世の中がうまく行くと主張する。狂信的な構造改革派は、医者を始め全ての専門職も派遣社員にせよと主張している。まるで世界中のあらゆるものが古典派経済学のために存在しているかのような錯覚を持っている。ところが彼等は国際的な巨大資本には、まるで「御主人様」と思っているのか何一つ文句を言わない。それどころか「法人税を減税しろとか、税金を安くしないと企業は他の国に行ってしまう」と巨大資本に「ごま」をする。
話はちょっと変わるが、昨年の11月にシカゴ学派の重鎮であったミルトン・フリードマン氏が逝った。フリードマン氏は構造改革派にとってはある意味で教祖である。彼はマネタリストと呼ばれ、経済への政府の介入を徹底して否定した。またレーガンやサッチャーの経済政策の理論的バックポーンと言われた。さらに最近日本で話題になっている「教育バウチャー制度」の発案者でもある。
ところで筆者が重要と考えるフリードマンの提案は、為替の変動相場制である。貿易収支の不均衡を是正するために、為替の変動相場制の採用をフリードマンは主張した。これは古典派経済学の信奉者らしい提案の一つである。世界中の通貨が米ドルにペッグしていた固定相場制が、米国の慢性的な貿易赤字で立ち行かなくなった時代にこの提案がなされた。
筆者も、貿易収支不均衡の是正に為替の変動が役立つことを認める。それぞれの国の経済状況が異なり、経済の動向も違うとしたなら、為替だけを固定しておくことに無理がある。もっとも為替が変動すれば、国際的な取引をする者に為替リスクが生じる。しかし為替変動に対しては先物を利用することによって、このリスクはある程度回避することができる。
ところが近年、為替の変動による貿易収支を均衡させる機能が低下している。原因は主に二つあり、一つは国際間の資本の移動が活発になっていることである。日本のように常に大きな貿易黒字を続けても、資本の流出が大きいため、なかなか円が高くならない。日本からの資本の流出の原因は、日本政府の経済政策が間違っている(資本が国内で活用されない政策を続けている)からと筆者は考えるが、これについてはここではこれ以上触れない。
為替(変動)の均衡機能低下のもう一つの原因は、政府(中央銀行)の為替介入である。日本も大きな為替介入を行ったことがあるが、何と言っても中国の為替介入が大問題である。中国は人民元を異常な安さに維持することによって、毎年巨額の貿易黒字を稼いでいる。とうとう中国の外貨準備高は、日本を抜いて世界一になったほどである。
ところが中国は一向にこのような為替介入を止める気配がない。国際的に人民元が安いことが問題になると、ほんの少しだけ人民元高を演出し、これを誤魔化している。しかし不思議なことにこのような中国の為替操作に対して、構造改革派は頑に沈黙を守っている。構造改革派と目される人々の中で、この中国の為替政策を痛烈に批難しているのはエコノミストの中前忠氏くらいのものである。
・構造改革派と完全情報
構造改革派の教典である古典派経済学の教科書では、価格が自由に動くことが極めて重要な前提条件になっている。この場合の価格とは、単に物の価格だけでなく、資金の価格である金利であったり、労働の価格である賃金である。さらに前段で取上げた為替も通貨間の価格ということになる。そして価格が適正に動く条件の一つが市場が「完全競争」であるということになる。
古典派経済学のもう一つの重要な前提条件は「完全情報」である。人が合理的に行動するには、誰もが正しい情報を持っていることになっている。例えば物の価値についての正しい情報が行き渡っていなければ、市場では適正な価格で物の取引がなされないことになる。労働者についても同じことが言える(一人一人の能力や働き具合について正しい情報が行き渡っていなければ適正な賃金は決まらない)。
ところで完全情報という前提条件が一番問題になるのは金融の世界である。特に金融の世界では、情報に非対称性があることはよく知られている(市場は完全情報にほど遠い)。金融の世界で一番利益を得るのは、一番正しい情報を持つものである。したがって人々は、正しい情報を得ようと必死になる。
例えば株式市場においては、正しい情報を持つ者が常に利益を得る(たしかに完全に正しい情報を得ることは難しいので、より正しい情報を持つ者が勝利者となるという言い方ぐらいが適当かもしれない)。情報の非対称性で一番問題になるのがインサイダー情報である。しかし一応、インサイダー情報による株式の売買は法律で禁じられている。
金融機関はインサイダー情報ではなく、通常は主に企業の公開情報を使い、色々な分析を行っている。金融機関はこれによって得られた情報やデータを使って株式の売買を行っている。しかしこれが全てとはとても思われない。
グレーゾーンの情報というものがある。インサイダー情報とまでは言わないが、金融機関としての立場で知りうる情報が数多くある。インサイダー情報ではないが、一般の投資家が知り得ない情報を金融機関は沢山持っているのである。
また金融機関自体が企業に関する情報を発信するケースがある。例えば投資先としての企業の格付を金融機関(主に証券会社)が勝手に行っている。そしてこの格付の変更が公表されると、対象となった企業の株価は通常変動する。時には暴騰したり暴落する。投資家も証券会社の格付の変更が株価の変動に繋がることをよく知っており、格付の変更に注目している。しかしこの格付変更の情報を発信する立場の証券会社がこれを使って株式の売買を行えば、常に利益を得たり損失を回避することができる。
このように金融市場においては、金融機関は情報の点で圧倒的に優位な立場にいる。特に日本においては、情報の非対称性を使って外資系の証券会社やファンドは大きな利益をあげている。このことは05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
http://adpweb.com/eco/eco381.html
で客観的な数字を用いて説明した通りである。ところがこのように完全情報からかけ離れた金融市場の現状を構造改革派は一切批難しない。
先々週号で「構造改革派は、古典派経済理論を真理と捉えるに止まらず、古典派経済学のメカニズムが機能するような経済構造を実現しようという、社会改革運動の実践者」と定義した。しかし「完全競争」や「完全情報」に関する構造改革派の態度を見ていると、彼等はとても牧歌的な古典派経済学の信奉者とは思われない(例外は中前忠氏くらいのものである)。
日本に来ている外資系金融機関の顧問になっているエコノミストがかなりいることが、ライブドア事件で明るみになった。日頃構造改革派的発言をするエコノミスト達である。また構造改革派は、国際的な大企業の再編や中国に進出している大手企業に好意的な発言をする。
このように構造改革派は、とても古典派経済学と自由主義経済の信奉者とは思えない存在である。むしろ筆者は、構造改革派の正体は国際的カルテル企業と外資系金融機関の「ポチ」と見ている。そう言えば構造改革派と目される自民党の若手国会議員が外資系金融機関が主催するセミナーに出席し、嬉々としてパーティーに参加している様子を伝える記事を見たことがある。 」
http://adpweb.com/eco/eco478.html