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□日興買収の陰にちらつく茶番のシナリオ/森永卓郎
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第76回
日興買収の陰にちらつく茶番のシナリオ
不正会計処理が指摘されていた日興コーディアルグループ(以下、日興)を、米金融大手のシティグループ(以下、シティ)が買収することになった。シティは3月14日、翌15日から日興に対するTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。1株あたり1700円である。
だが、この買収劇については、どうも腑に落ちないことが多すぎるのだ。
そうした疑問点を説明する前に、ここまでの流れを簡単に追ってみよう。
もともと日興證券は、1998年、業績不振や総会屋への利益供与事件に伴う経営危機を招き、シティと包括提携して、20%超の資本を受け入れたという経緯がある。そんななか、2006年12月に、過去の決算で利益を水増したことが発覚。金融庁から5億円の課徴金納付命令を受けた。これを受けて東京証券取引所(以下、東証)は12月18日付で、日興株を「監理ポスト」に割り当てたのである。やがて、新聞やテレビなどのメディアでは、日興の上場廃止は確実という情報が流れる。
事態が急転するのは、3月になってからだ。2007年3月6日に日興とシティは共同で記者会見を開き、シティが1株あたり1350円でTOBを実施。日興を子会社化することで合意したと発表する。
そして、驚いたのは3月12日、東証の発表である。上場廃止は確実だと誰もが思っていたのに対して、東証の西室泰三社長は日興の上場を維持し、監理ポスト割り当てを解除すると発表したのだ。上場維持が決定して、日興の株価は上昇。そこで、シティグループは改めて、1株あたり1700円に価格を引き上げてTOBをすると発表したわけである。
シティと東証が組んだ出来レースだった
まず、最大の疑問点は、日興の上場維持である。
東証は、日興が2月末に発表した有価証券報告書の訂正を受けて、上場廃止すべきかどうかの審査をしてきた。その結果を東証の西室社長は次のようにまとめている。
「利益の水増し率が30%程度で、西武と違って組織的でもなく、期間も限られている」。
だが、これほど人をバカにした説明はない。なぜなら、日興の内部調査によって、既に不正が「組織的」であったことが明らかになっているからだ。
そもそも、東証は調査を続けてきたと言うが、不正な会計処理があり、利益が不自然に動いていたというのはすぐに分かることではないのか。それを延々と発表を引き延ばしてきたのは不自然極まりない。
また、メディアに上場廃止の情報が流れたこともおかしい。世間では、メディアが裏を取らずに記事にしたとして、メディアを批判する論調が強いようだが本当だろうか。新聞記者だって、昨日今日仕事を始めた素人ばかりではない。なにかしらの確証があったからこそ記事にしたのだろう。わたしが思うに、おそらく東証の関係者からのリークがあったに違いない。
もう一つ解せないのは、日興のグループ企業であった、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほ)の動きである。当初、みずほは日興の買収に名乗りを上げていたにもかかわらず、最終的には手を下ろしてしまった。
考えれば考えるほど、今回の日興の問題は不自然なことだらけなのである。これは、どう理解したらよいのか。
わたしが思い悩んでいたときに、ある関係者から意外な話を聞いた。それによると、今回の件では、東証とシティが最初から組んでいたというのだ。そして、それに日興を加えた3者の出来レースだというのである。
上場を維持したのはシティのためを考えて
彼によると、上場廃止のうわさが流れたことも、結局は上場を維持したことも、最初からシナリオが出来ていたというのである。
まず、上場廃止のうわさについて考えてみよう。
もし、本当に日興の上場が廃止されたらどうなるか。これは、証券会社として取り返しのつかない失態である。上場していない証券会社など考えられないから、日興の当事者とすれば、生き残りのために救済合併をしてもらうしか方法は残されていない。
つまり、東証内部からリークされたであろう上場廃止のうわさは、日興に対して「身売りをするしか道はない」というプレッシャーだったというのである。ここで、日興は自力での再建をあきらめざるを得なくなる。
もし、ここで本当に上場が廃止されていたらどうなっていたか。おそらく、みずほが日興の合併に乗り出してきただろう。みずほとしては、日興が非上場であってもかまわない。グループ内部で、いくらでも資金調達の手段があるから、非上場企業のまま取り込んでも問題はないわけだ。
ところが、シティにとっては非上場の証券企業を合併してもウマみはない。なぜなら、シティは日本の証券市場においての地位はゼロに等しく、日本市場に乗り出すには、合併する証券会社は上場企業でないと困るのだ。
そこで、東証はどうしたかというと、シティのためになる結論を出した。それが、上場維持するという方針である。
しかも、上場廃止のうわさが流れ続けたことにより、日興の株価は昨年の高値2045円からかなり下がっていた。シティが当初、提示したTOB価格は1350円である。この後、上場維持に方針変更され、株価は上昇したが、シティが最終的に示したのは1700円。シティは、十分に安い値段で日興を手に入れたわけである。
確かに、こう考えればうまく説明がつく。シティが日興を子会社化することを前提としてシナリオを作り、みずほが手を出せないようにしたというわけだ。
こうしてまた優良会社が安値で外資の手にわたった
結局、この騒動でどこが一番得をしたのか。それは明白である。日本の大証券の一角を、1兆円あまりで手に入れたシティである。
日興の預かり資産は43兆円である。そのような優良会社が、1兆円あまりの安値で外資の手にわたってしまったのだ。なんともバカバカしい話ではないか。
それにしても解せないのは、みずほがこの事態に追い込まれていながら、何の対抗措置もとろうとしなかったことだ。それどころか、さっさと持ち株をすべてシティに売り飛ばして、TOBに応じて利益を確保するという。「高い金で買ってくれるならば売ってしまえ」というのだろうが、みずほにとって、日興は自分のグループ企業だったのではないか。
しかも、みずほといえば、第一勧銀、富士銀行、興銀という、日本を支える銀行であったはずだ。それが、安い金で大証券の一角を外資に売り払ったというのは、なんたる定見のなさ、なんたる正義感のなさか。
同じことは東証にも言える。おそらく、東証にとってシティは大きなお得意さんだから、今回のシナリオに乗ったのだろう。だが、その結果、日本の大証券の一角がいとも簡単に外資に買収されてしまったのである。
「貯蓄から投資へ」という流れのなかで証券会社の価値は、これまでになく高まっている。だが、4大証券のうち山一は既になく、日興も外資の手にわたってしまった。残るは野村と大和のみである。
規制緩和、構造改革というのが、結局は外資を太らすための政策だということを、これほど分かりやすく示してくれる例も少ないだろう。
そして何よりも不思議なのは、この茶番劇についてマスコミも評論家もまったく触れようとしないことだ。いったい日本はどうなってしまったのか。