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http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20070326/121720/
「貧乏人は高い金利で金を借り、一方運用は低金利の定期預金。金持ちは低い金利で金を借り、一方運用は高利回りのヘッジファンド。だから貧富の差は開く一方だ。世の中アンフェアにできている」というのは、ある1人の韓国人移民の男が、かつて私に言ったことだ。
彼はなけなしの貯金で株を買い、また目いっぱいの借金をして家を買い、少しでも値上がりすると買い替え、住宅投機に張る賭け金を大きくしていった。実に5年の間に3回家を買い換えた。
「貧乏人は高い金利で金を借り」というのは、日本の消費者金融含めて、恐らく世界中で真実だろう。収入が低ければ、預金額が小口のために銀行預金はほとんど金利が付かないし、大口預金者には免除される口座維持手数料などが課される。
こうした処遇に遭う状況から抜け出すために、せめて家を持ちたいし、家の値上がりで一財産作りたいと思うのは、極めて分かりやすい心理だ。しかし、もう一方で、貧乏人が高い金利の金を借りれば、買った資産が余程の値上がりをしない限り、やがて支払えなくなり、自らの首を絞めることになるというのもまた真実である。
焦げ付きで大手金融機関も倒産の危機
現在、米国ではサブプライムと呼ばれる低所得で信用力の低い層を対象にした住宅ローンの焦げ付き問題が大きな経済問題、かつ社会問題となっている。その背景には、少しでも資産を増やして優遇措置を得たいという庶民感情、「頭金不要」「当初の支払い額は小額」といった甘言で釣るノンバンク金融業者、世界的な過剰流動性の存在、そしてノンバンクゆえの消費者保護や金融機関規制の盲点の発生――などがある。
サブプライムが全米の住宅ローンに占める比率は残高で15%、件数では小口なので恐らくその倍の比率になると言われている。また焦げ付き率は金融機関によって異なるが、大手業者で3割近くになっていると報じられている。
焦げ付きが多く発生したのは、住宅ブームの中で、一部のノンバンクがほとんど審査もせずに貸し出しを増やしたためだ。最初の何年かは金利が特に低く固定されている方式や頭金なしで購入金額全額を貸し付ける方式など、借り手の心をひく仕組みを作り、返済に無理がある人にまでドンドン貸し付けた。
中には借り手を欺くような、丁寧に言えば説明義務を果たしていないものも報道されている。例えば、65歳のおばあさんには3万6000ドルを貸し付け、返済期間は15年というローンを組ませた。おばあさんには「毎月300ドル強支払えばいいです」と融資担当者は言う。当然、おばあさんは15年後の 80歳には完済になると思う。ところがこのローンは、80歳になっても実は元本分の返済が済まないという代物だった。
65歳のおばあさんに貸し付けたローンは80歳でも完済せず
このおばあさんは返済途中で、そのことに気づき、ローンの支払いを拒否すると、家を取り上げられた。さすがにこの件は裁判所に持ち込まれ、元々おばあさんが80歳になった時点で、返済できるわけがないことを知りながら貸し付けた「貸し手責任」を問われ、おばあさんには損害賠償として1万4000ドルが支払われたという。
これらのローンが組まれる前提は「買った家(貸し付けた家)が値上がり続ければ、すべての問題は問題ではなくなる」というものだった。サブプライムが伸び始めた当初、住宅価格が値上がりを続けたので、前提通りに物事が進んだ。ところが世の中、そんなに甘くない。住宅価格の騰勢は止まり、多くの地域で値下がりし始めた。
その一方、最初の3年など一定の特別低金利期間が終了し、金利が短期金利に連動し、返済額が上がる時期を迎えた契約者が出始めた。中には返済額が倍になる人も出た。そんなに多額を返済できないと家を売って完済しようにも、不動産は下落しているので売るに売れない。またローンを組み直すリファイナンスもできない。
返済できない人が増え、焦げ付きが増え、今度はサブプライム金融機関の経営が低迷し、彼らに転貸資金を貸し付けていた金融機関が一斉に資金を引き上げ始めた。既に24社以上が潰れ、公開しているような大手も続々倒産に直面している。
現金問屋の買い叩きに投資銀行が参戦
担保を行使されて取り上げられた家は、市場で叩き売られ、それが一層の住宅価格破壊を呼ぶ。住宅の動きが止まると、開発会社、資材供給会社、不動産ブローカー、弁護士、火災保険、家具商など関連業界で働く人々の収入低下を招く。一層消費が低迷する。住宅ブームが起こした経済への波及効果は大きかったが、その逆さまの波及効果も大きい。前FRB(米連邦準備委員会)議長のアラン・グリーンスパン氏が本年後半に米国景気が低迷するという懸念を表明した 1つの理由もここにある。
住宅ブームの中で、返済力以上の買い物をした人々を、自業自得と責めることは簡単である。しかし、次のことを考えてみよう。
こうした庶民は毎月あと100ドルかそこらの支払いができないために、延滞する。延滞すると遅延金利が跳ね上がる。ますます払えない。数カ月で数千ドルも遅延すると、せっかく買った家を取り上げられる。では、焦げ付いたローンや取り上げられた家はどこに行くのか。
現状では各地域の中小業者(現金問屋)が破綻しそうな金融機関から審査もせずに二束三文でまとめて買い、購入価格にさやを乗せて売り出しているという。元本10万ドルのローンを2万〜3万ドルに買い叩き即金で支払う。それは当然、儲けが見込めるから。不動産が値下がっているとはいえ、7万ドルかそこらで転売することが可能だからだ。つまり数万ドルの儲けとなる。
また最近では大手のヘッジファンドや投資銀行がこの現金問屋業に目をつけ、参入することを発表した。かつて商業用不動産ローンのバルクセールで巨額の収益を上げたように、今回も間違いなく大きな収益を上げるだろう。
しかしここには、商業用不動産のケースとは異なる深刻な社会問題が隠れていると思う。地域の現金問屋にしろ、ヘッジファンドや投資銀行にしろ、冒頭の韓国人移民が語ったように大金持ちがさらに大金持ちになり、その一方で、毎月わずかあと100ドルを支払えない人が、家を失い、場合によってはホームレスになる。
貧乏人の不幸で儲ける金持ちたちを許す社会の歪み
これらの人々の中には、家族がイラクやアフガニスタンに現在出征しているか、または負傷して帰ってきた人なども含まれている。実際に私が通っているジムのインストラクターの黒人青年は、母親と祖母のために、通勤に2時間かかるペンシルベニアに家を建てた。
青年の母親は軍人で、現在ドイツに駐留しているが、いつイラクに移動するのか分からないという。彼の収入は決して高くない。それでなくても日々の生活に不安や心配を抱えている中で、かすかな希望として手に入れた家を失う事態になれば、厭世観や刹那主義的な生き方をはびこらせてしまうのではないかと私は心配する
こうした青年が家を失う時、それを背伸びしたための自業自得と言うことはとてもできない。私は米国に長く住んでいるが、社会の底辺に生きる人々の不満が鬱積し爆発し、ロサンゼルスやマンハッタンの対岸にあるニューアークなどの都市で大暴動が起こることを見てきた。それと同じような暴動が今回の一件で発生するかもしれないと懸念される。
というのは、金持ちがより金持ちとなり、しかもその金持ちはさらに貧乏人の不幸につけこんで儲けるという事態が何の恥じらいもなく認められるような雰囲気が今の米国にははびこっている。
ただでさえ、貧乏人の子供は高校を出ると、大学に行くお金を貯めるために職業軍人に志願し、一方金持ちの子は戦争には行かないで済むという不公平感も顕在している。黒人の下院議員の中にはこの不公平感の是正のため、徴兵制の復活を提唱している人もいる。
ここ最近、米国資本主義は極めて間違った「強欲資本主義」に走っていると思う。政治家たちも、それを止めるようには十分に機能していない。もっとも、サブプライム問題が引き起こす問題は経済的にも社会的にも大きい。既に次期大統領選挙戦が始まっていることもあり、さすがに米国議会の一部は、監督の強化や救済策を打ち出すよう動き始めたが、遅きに失した感もある。
問題が発生してから対応策を施す点では米国も他の国も同じだが、米国には社会的弱者をあまりに軽視し過ぎたツケを払わされる時が、やがて来ると思えてならない。